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この話題を載せる度に気が滅入るんだが
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菅内閣になってはじめての臨時国会が10月26日に召集され2週間以上が経過した11日、衆議院農林水産委員会で種苗法改正案の趣旨説明がおこなわれ、12日午前9時から審議に入った。12日には日本の種子を守る会アドバイザー・NPO法人民間稲作研究所アドバイザーの印鑰智哉氏らが参考人招致され、質疑を受けた。時間は約二時間。この間マスメディアの国会報道はほとんどが日本学術会議問題に集中し、野党側の追及もこの問題に絞って時間を割いてきた陰で、種苗法改正案については審議らしい審議もせず次回17日の農林水産委で強行採決という情報も流れている。種苗法改正は農業者のみならず日本国民の食料安全保障にかかわる重大な問題であり、問題意識も高く、9日までに97の地方自治体から、種苗法改正案に反対を表明するか、慎重審議を求める意見書が提出されている。種苗法改正案は先の国会に提出されたが審議入りできずにいたもので、農業者をはじめ国民には内容の周知徹底はなされていない。国会では改正案の内容について国民や農業者が理解できるように十分な説明をおこない、農業者、国民の意見を聞いて採決する必要がある。種苗法改正案についてはあまりにも知らされていないのが現実であり、印鑰氏が参考人招致でのべた改正案の問題点について紹介する。
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これまで国内外の食の問題について研究してきた。その観点から今回の種苗法改正案が持つ問題について話したい。まず一つ目は政府・農水省はこの法改正の必要性を「日本の優良な品種の海外流出を避けるために、国内における自家増殖を規制しなければならない」といっている。これは逆にいえば、日本の国内の農家が国外に流出させている犯人だということになる。ではその根拠はあるのかだが、その確たる証拠は出ていない。海外での日本の品種の不正使用を止めるためには、海外での登録こそが解決策だと農水省自身がのべており、これはあまりにとってつけた説明といわざるを得ない。
二つ目に「自家増殖を止めないと、種苗企業が新品種をつくる意欲を失ってしまう」といっているが、このグラフを見て欲しい。1978年に現在の品種登録が始まって以来、新品種は毎年順調に伸びていた【グラフ@】。自家採種ができるにもかかわらず伸びている。自家増殖するから新品種が伸びないというのは説明にはなっていない。一方で、この10年間は止まってしまい伸び悩んでいる。この原因は何なのか。農家に自家増殖する余裕がなくなっていることがあると思う。
今回の法案でさらにおかしいのは、農家にどのような影響を与えるかについての説明の内容だ。農水省は「種苗法の対象となる登録品種は一割程度であり、それ以外の九割が自家増殖できる一般品種だ」と説明している。本当にそうなのか調べてみた。しかし、各都道府県が設定している産地品種銘柄に指定される銘柄を調べると半分以上が登録品種だ【グラフA】。稲を見ると「コシヒカリ」は一般品種なので多くの農家が生産しているが、それでも稲に占める登録品種の割合は33%である。農水省がいう1割というようなものではない。各県が力を入れている、例えば沖縄のサトウキビも、登録品種の割合が非常に高いと考えられる。「登録品種は一割しかない」という説明と現実はかなり違いがある。
そして登録品種に関しては、自家増殖を規制するのが世界基準であるかのような説明がされているが、世界ですべての登録品種の自家増殖を規制している国は存在しない。EUでも主食に関するものは基本的に例外に設定されている。自家増殖は認められており、許諾料は払わなければならないというのはあるが、穀類は92d、芋は185d未満の農家は許諾料の支払いは免除されている。この農家規模は15〜18fぐらいであり、日本の農家であればみんな許諾料免除になる。そのような例外が種苗法改正案には存在していない。これもおかしいと思う。アメリカの場合は、自家増殖が禁止されるのは特許がとられた作物のみであり、それ以外のものは基本的に自家増殖ができる法制度になっている(栄養繁殖のものは除く)。すべての登録品種に自家増殖を規制する法制というのは、世界で類を見ない。そういった法律をつくるのはどうなのか。
農水省は「許諾料はとても安いから影響を与えない」と説明している。しかし許諾料に関する規定は、現在の種苗法改正案には書かれていない。どうなるかは性善説に委ねられている。独占が進んだら安いままであるとは限らない。今後、高くなっていくことを考えるとそもそも生産資材の低廉化を目的とした農業競争力強化法にも反する立法になるのではないか。
農業衰退させる政治で新品種作る人材が不足
これも強調したいことだが、日本の優秀な品種が海外に流出するということばかり強調されるが、今の世界状況もかなり変わっている。このデータはユポフ同盟(植物新品種保護同盟)のデータ【グラフB】だが、日本は20年前までは世界第二位の新品種をつくれる国だった。今は、世界の他の国がどんどん伸びて、日本だけが減少を続けている。「日本の優秀な品種が中国や韓国に……」といっていながら、新品種の開発力で中国には2009年に抜かれ、韓国にも2015年に抜かれた。2001年から2018年で日本の新品種の出願数は36%も減少している。これに対して韓国は2・8倍、中国は22・8倍に増えている。
日本だけなぜこんなに減ってしまうのか。その原因は何なのか。今の日本の国内市場についてスーパーを見ればわかると思う。安い海外の農産物があふれかえっている。これは農業を犠牲にして進められた自由貿易協定の結果だといわざるを得ない。そして離農者は増えるばかりだ。そうなると農村の衰退にともなって、新品種をつくるのに必要な人材、能力がある人たちが得がたくなってきている。
1998年までは地方自治体に対し種苗事業への安定財源が確保されていた。それが98年に地方交付税となってしまい、種苗事業への投資がおこなわれておらず、新品種の開発が非常に減ってしまっている。
外国産と競合を迫られる農家にとって、負担を増やす種苗法改正はさらなる離農者を増やす。すると種を買う人が減ってしまう。種をつくる側の人たちにとっても市場が小さくなるので逆効果になる。こうなると今後の日本の種苗事業にとって大きな問題をつくりだすのではないかと思う。
とくに強調したいのが、今、稲(コメ)の問題だ。今日本が唯一、種を自給できるのは稲しかない。コメは日本の食料保障の最後の砦だ。その砦を守ってきた外堀は種子法廃止(2018年)で埋まってしまった。それが今、さらに内堀が埋められつつあると危惧せざるを得ない。アメリカは大豆やトウモロコシは民間企業任せにしているが、主食である小麦は農家が自家採種している。そして公共機関がつくって安い種を提供している。この制度はいまだに続いている。かつては日本もそうだった。でも日本はその制度をやめようとしている。こんなことでは最後の砦がなくなってしまう。
公的種苗事業が衰退していき民間企業に委ねられた場合、これまで地域を支えてきた多様な品種がなくなってしまう可能性があるのではないか。種をとるかとらないかではない。買うか買わないかの問題ではない。種そのものがなくなってしまう可能性がある。
稲の多品種を供給する民間企業は存在していない。食は社会の基盤でもあり、それを失うことはこれは独立国としての体裁すら奪ってしまうことにつながりかねない。現在でも日本に登録される外国品種の法人の割合は激増している【グラフC】。「多くが花の品種だから大丈夫だ」というが、種苗法で公的種苗事業が衰退していけば、外国企業がコメにも入っていく可能性が十分ある。農水省は2015年に知財戦略2020を策定した。そのなかで、種苗の知的財産権が大きな柱に位置づけられた。知的財産権では種苗法の育成者権と、特許法の特許権の二つの形態がある。農水省は二つとも強化していく姿勢を示している。
外国企業が種苗を独占 食の多様性も失う
これは種苗法という枠をこえてしまう話だが、知的財産権を強化することがなにをもたらすのか。これに関しては十分注意が必要だと思う。ここに三つの小さなグラフがある【グラフD】。一番左のグラフだが、アメリカでも順調に増えているのは登録品種の方だ。特許の方はこの20年でほとんど増えていない。しかも真ん中のグラフを見ると、アメリカですら特許をとられた種を握っているのは、アメリカ企業ではなく外国企業が六割。アメリカすら六割。これを日本でやったらどうなるだろうか。つまり知的財産権を強化していくことによって、逆に外国企業に日本の種苗市場を握られる結果になりかねない。
インドでは大きな問題が起きた。モンサント社にインドの種苗企業が買収された。もともとインドには質のいい綿の在来種があったのだが、それが使えなくなった。インドの生産農家は種子をモンサント系の種苗会社からしか買えなくなった。農家は高い種を買わなければならなくなり、多くの農家が債務まみれになって自殺者が30万人をこえた。インド政府はモンサント社のロイヤリティを切り下げた。このようなことを日本政府はできるだろうか。
そして看過できないのが種苗表示の問題だ。今回の法改正で、種苗の表示はゲノム編集された種苗かどうかは記載しなくてもよいことになっている。すると、普通の大豆の種だと思って買ったものが、実はゲノム編集されていたり、遺伝子操作されていたものであることを農家が知らないうちにまいていたということが起きかねない。EUやニュージーランドは、ゲノム編集は遺伝子組み換えとして規制するといっている。韓国や台湾もそれに追従するかもしれない。そうなると日本の食料は輸出できない。そうなりかねない。これをしっかりと表示することは不可欠だ。
これまでの種苗法は、新品種を育成した育成者権とそれを使う農家の権利をバランスさせることに大きなエネルギーを注いでつくられている。現行の種苗法をつくられた方のご努力に強い敬意を表せざるをえない。だが今回の種苗法改正案は、このバランスを壊してしまうもので、それは日本の農業にとって大きな問題を引き起こすのではないか。
自家増殖というのは農業の基幹技術であり、それを失うことは日本の農業にとって大きな制約になってしまうという懸念を持つ。この停滞している種苗育成をどうしていくべきか。そのカギは、育種家の農家、使う側の農家も含めて両者を底上げする政策が必要ではないか。このバランスを失わせることによって、日本にはアジア諸国に追いつけない状況が生まれてしまうのではないだろうか。
そして今、種苗の多様性が危うくなっている。多様性を失うことで、この地球の生態系はかつてない危機に瀕しているといわれている。これに対して国連FAOは、「ローカルで多様な食を守ることが今後の人類の生存に欠かせない」としている。そのためには、地方自治体でつくっている300品種、あるいは農家の方は1000品種ぐらい持っているといわれているこの多様な種を守ることの方が、むしろ大事なのではないか。種が民間企業の独占になっていけば、劇的に多様性は失われてしまう。これは日本の未来が失われるに等しいと思う。今必要なのは、このような在来種を守る方向ではないかと思う。
現にブラジル、韓国でもそういった方向が進んでいる。イタリアは生物多様性を守るために政府が地方自治体に権限を委譲して、自治体で在来種を守る政策が進んでいると聞く。こういった政策に学ぶ必要があるのではないか。
そして最後に、食料・農業植物遺伝資源条約においても、国連小農と農村に働く人びとの権利宣言(2018年)においても「農家は種を守ってきた貢献者」といっている。つまり登録品種であったとしても、「農家は種苗という本の共著者である」ということだ。そういった共著者の権利を一方的に奪う、世界に類例のない法改正はありえない。
残念ながら種苗法改正案に対して賛成、反対にかかわらず、ほとんどの農家の人たちに浸透していない。知らない人がほとんどだ。このような状態で審議が進んでしまうことはまずいと思う。地方公聴会も含めてしっかり慎重な論議が必要だと思う。そしてこの10年、世界は大きく変わり、さらに大きく変わりつつある。これを考えると、日本も大きく変わらなければいけない、今そういう時代にきている。そのためには古い考えでつくられている種苗法改正案ではなく、もう一度、今世界で動いている種苗の多様性を守り、地域の種苗を守る必要があると思う。今回の種苗法改正案は22年ぶりの歴史的な改正になる。おかしな説明で拙速な審議をしないようにお願いしたい。賢明な議論がおこなわれることを心から祈念してこちらの報告を終えたい。
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/19156
種苗法改定17日に委員会採決の動き 参考質疑で印鑰氏「世界に類例ない法改正」と指摘(長周新聞)
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