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「山口3区が欲しい…」 林芳正の憂鬱
https://www.chosyu-journal.jp/column/18549
2020年9月24日 コラム狙撃兵 長周新聞
林芳正の衆院山口3区鞍替え報道がにわかに観測気球のように上がり、その後、本人がメディア取材に対して含みを持たせつつも、それを打ち消すような曖昧模糊とした対応をしている。本当は3区から出たくて出たくて仕方がないのだろうけど、自民党現職の河村建夫が73歳定年をこえているのに引いてくれないので、揺さぶっているようなのである。これが正々堂々とした選挙区争奪であれば思い切りもよかろうし、見る人によっては「林芳正も腹を括ったな」と思うのかも知れない。しかし、4区は安倍晋三がいるのであきらめて、いわば逃げていく形で隣の選挙区の横取りに出ている様を見ていると、部外者としては「発芽できない世襲政治家がなんだか土のなかで暴れているよ」などと思ってしまい、哀れさすら感じるのである。
山口県の選挙区は現在1〜4区まであるうち、1区から順に高村正大(高村正彦の息子)、岸信夫(安倍実弟)、河村建夫、安倍晋三がそれぞれ自民党代議士として選出されている。林芳正が生まれ育ち、ホームとする山口4区(下関、長門)では、中選挙区から小選挙区になる過程で、選挙区を安倍派に譲り、林派すなわち芳正の父である林義郎は比例区にまわって代議士ポストに収まってきた。今になって思うと、あの選挙区調整が芳正の二軍暮らしを決定付けたというか、万年参議院議員状態のはじまりだったように思う。一方の安倍晋三が中央政界で首相にまで上り詰めていったのとは対照的に、割り込む選挙区がないために衆議院議員になれず、気がつけば還暦を迎えようかという年齢にもなった。「そろそろ私にも衆院の選挙区を譲ってくれ」が心の底からの叫びなのであろう。それなのに、78歳にもなる河村建夫が3区にしがみついて譲ってくれない−−。
では、これは河村建夫が悪いのだろうか? 河村側から見てみると、これまた中央政界では73歳定年を超えた麻生太郎とか二階俊博とかの高齢議員が鎮座しているのに、「どうしてオレだけが引退しないといけないんだ」と思っていてもおかしくない。しかも、4区は安倍晋三がいるからといって、「河村ならいける」とみくびっている感じがしないでもないだろうし、選挙区に土足で乗り込まれて面白くないのは当然だろう。既に萩市浜崎にある河村事務所の目と鼻の先に林事務所をつくっているし、何年も前から林事務所の秘書たちの体制も3区重視となり、選挙区内の宇部では秘書が県議ポストを得たり、萩市長選も林派が勝ったりして、河村としてはどうにも押され気味。今度の萩市長選に実弟である田中文夫県議が出馬を表明し、さながら河村vs林の前哨戦かと思わせているのもそのためである。
それにしても、林芳正はどうして4区で挑もうとしないのだろうか。文関小学校、日新中学校、下関西高等学校と地元で育ち、東京生まれ東京育ちの安倍晋三と比べても遙かに地元の空気を吸い込んで育ったはずなのに、「安倍晋三がいるから」という理由で街を出て行く風にも見えて、林派の皆さんとしては少々寂しいというか、情けないものがあるのではなかろうか。職責を全うできないから首相を辞める者が、その後も代議士ポストにだけはしがみついて離さないというのであれば、まずは安倍晋三に対して「職責を全うできるわたしに4区を譲ってくれ」と渡り合うのが筋であろう。しがみついて離さないという意味では河村建夫も大差ないけれど、3区国盗りはどうも順序が違うというか、「安倍一族は2区で1議席抑えているんだから、せめて4区は林派に寄越せ」くらいいってもいいと思うのである。なぜそれがいえないのか? 意気地がないのだろうか? と率直に思う。安倍兄弟が2議席を握りしめているのが欲張り過ぎなのである。
目下、「無所属でも3区から出馬する」といっているとか、いっていないとかの情報が永田町界隈の記者たちのなかでも飛び交っているようで、世襲政治家による国盗り合戦が東京でも話題のようである。恐らく仕掛けている側がプレッシャーをかけるために意識的に流布しているのだろう。ただ、仮に萩市、美祢市、山陽小野田市、宇部市を地盤とする3区から林芳正が無所属で出馬して、河村建夫と野党候補の三つ巴になった場合、10万票台の自民党にたいして、過去の選挙では野党候補も4〜7万票台を叩き出してきた選挙区だけに、河村・林の共倒れだって起こる可能性を秘めている。そのようなリスクを冒して、戦犯覚悟でやる度胸を林芳正が持ち合わせているか? である。3区国盗りの末路について、自民党総裁選で貧乏くじを引かされた岸田文雄の姿が重なって見えるのは気のせいだろうか。
次になるのか、次の次になるのかはっきりしていないが、山口県は人口減少が著しいため、近い将来衆院の選挙区は3つに再編されるといわれている。そうなると必然的に幾人かの世襲政治家はイスを失い、淘汰されることになる。ますます国盗り合戦が激化しそうな気配で、その際はおおいにつぶし合ったらいいとも思う。そして、そんな見苦しい私物化争い、選挙区のオレのもの争いのなかから、役に立たない世襲政治家たちそのものや、あるいは地元にできあがったしがらみや利権の構造を有権者が叩きつぶしに行く契機になればいいと思う。そもそも選挙区は私物ではないのだ。
武蔵坊五郎
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