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※2020年9月1日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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※文字起こし
安倍首相が2度目の政権ブン投げを発表した辞任会見からわずか4日。ポスト安倍を選ぶ自民党総裁選の趨勢は決しつつある。自民党総務会は1日、9月8日告示、14日の両院議員総会で投開票とする日程を決定。7年8カ月にわたって安倍政権を支えてきた菅官房長官の選出がのっけから確実視される情勢だ。国家を私物化し、この国の形を変えたアベ政治の共犯者が次期首相の座を手にしようとしているのである。
菅の動きは素早かった。アベ辞任会見の翌日、二階幹事長に出馬意思を伝達。総裁選の形式を一任され、党員・党友投票の省略を早々に打ち出した二階が「頑張ってほしい」と応じたとの情報が流れると、党内は騒然となった。二階派(47人)が31日の幹部会合でスガ支持を正式決定すると、総選挙の時期や消費増税などをめぐって反目し合ってきた麻生副総理は会長を務める麻生派(54人)にスガ推しを指示。安倍の出身派閥で最大勢力の細田派(98人)もアベ路線の継承を条件にスガ支持でまとまり、竹下派(54人)や石原派(11人)もスガ支援で動いている。
急転直下の合従連衡。情勢が一気に固まったのは主流派の位置を占め、権力の甘い汁を吸い続けたい思惑からだ。総裁選は国会議員票394票と都道府県連代表票141票の計535票で争われる。ヘタな陣営に与して惨敗の憂き目に遭えば、新政権下で冷や飯食いが待っている。それでスガ支持に回る派閥票や、取り巻き連中による30人規模の無派閥グループ票を合算しただけで過半数に膨らんでいるのである。派閥談合、勝ち馬に雪崩。菅圧勝の流れには、おぞましさしかない。
切り崩される石破、置き去りの岸田
政治評論家の森田実氏は言う。
「〈木に縁りて魚を求む〉という孟子の言葉があります。武力で天下統一を企んだ斉の宣王に説いたもので、方法を間違えれば目的は達成できないという意味です。安倍政権がようやく退陣し、新自由主義路線によって格差が拡大し、階級化が進む日本社会を大転換するチャンスがやってきた。にもかかわらず、自民党はアベ路線の継続というトンデモナイ議論で盛り上がり、国民が望む方向の真逆に向かおうとしている。アベ政治の正体は不誠実政治、ウソを重ねて国民をだます道徳心のかけらもない政治です。有力候補に挙げられる菅官房長官、石破元幹事長、岸田政調会長の中では石破元幹事長はある程度の変革が期待できますが、自民党執行部は彼の強みである地方基盤を生かせないよう画策し、総裁選からシャットアウトしようとしている。いま立て直さなければ、日本は本当に潰れてしまいますよ」
次期首相候補を問う世論調査でトップを独走してきた石破元幹事長はポスト安倍争いに絡むどころか、出馬できるかどうかさえ怪しくなるほど追い込まれた。立候補には推薦人20人を集める必要があるが、もともと石破派(19人)は小所帯の上、菅―二階陣営によるモーレツな切り崩しにあっている。
一方、情けないを通り越して切ないのが岸田政調会長だ。安倍からの禅譲が公然と語られ、長らく本命視されてきたのに、フタを開けてみれば孤立無援状態。都道府県連票を総取りする奇跡が起きても、岸田派(47人)だけでは勝負にならない。
アベ辞任会見の翌日から派閥幹部行脚をしているが、時すでに遅し。31日は頼みの綱の安倍と面会して「お力添えをお願いします」とすがりついたものの、言質は得られなかったという。
「政治空白」の最中、安倍は敵基地攻撃を具体化 |
白昼堂々の密室談合の末、総裁選は完全な出来レースと化している。愚にもつかない政策の継続性、緊急性など御託を並べて、党員投票抜きのアベ亜流政権誕生を正当化している自民党派閥政治のアナクロと浅ましさ。そして、連中が振りかざす「コロナ禍に政治空白は許されない」とかいう大義名分に大マスコミも加担し、茶番劇が繰り広げられているのである。
二階は31日の与野党幹事長・書記局長会談でポスト安倍レースをめぐり、「政治空白を片時もつくってはならないとの思いで対応したい」と、もっともらしく話していたが、辞意を表明したとはいえ、安倍は病床に倒れたわけではない。辞任会見で「次の総理が任命されるまでの間、最後までしっかりとその責任を果たしてまいります」と明言していたし、稲田幹事長代行に「これから人事もあるし、国会もある。いろいろと乗り切るためには余力を残して辞任するのが一番だ」と話したといい、キングメーカーを狙うほど余裕もある。残り2週間の在任中に敵基地攻撃能力の方向性を決める意向で、NSC(国家安全保障会議)を開いて安全保障政策の新方針を取りまとめるつもりだという。敵基地攻撃能力保有は憲法に基づく防衛戦略の専守防衛の理念を逸脱する懸念があり、世論が反発している。それをドサクサ紛れに強行する厚顔無恥ぶりも健在だ。そうでなくても、「最強の官房長官」の異名を持ち、ポスト安倍最右翼に躍り出た菅が閣内に控えているではないか。
法大名誉教授の須藤春夫氏(メディア論)はこう言う。
「いまさら“政治空白”が聞いて呆れます。新型コロナウイルス対応の必要性から野党は通年国会を求めていたのに、安倍首相は6月中旬にさっさと通常国会を閉じ、閉会中審査にも全く出席せず、国会から逃げ回ってきた。メディアは政治空白が常態化していた事実を指摘し、世論が反映されやすい党員・党友投票の実施を求めるべきなのです。ところが、アベ政治の継続を狙う執行部に取り込まれ、新たな権力の宣伝機関を買って出てしまっている。自民党も大手メディアも世論とかけ離れ、政治不信、メディア不信は深刻化する一方です」
アベノミクスで借金膨張、国民窮乏
アベ政治を断ち切らなければ、この国をさいなむ悪夢が終わることはない。
金看板のアベノミクスで日本は借金漬けになり、国民生活は窮乏の一途だ。異次元緩和と巨額の財政出動の結果、国と地方の借金残高は3月末で1100兆円を超え、この7年余りで200兆円近くも膨らんだ。2020年に名目GDP600兆円達成を掲げたが、足元は就任前とほぼ横ばいの506兆円で、18年度以降はゼロ成長に沈み、コロナ禍に襲われた20年度は戦後最悪のマイナス成長に陥っている。トリクルダウンは起きず、実質賃金指数(2015年=100)は104・5(12年)から93・4(20年1〜6月)に低下。給料は上がらないのに、2度の消費増税で支出が増えたからだ。非正規労働者比率も35・2%から37・2%に増加し、エンゲル係数は23・5%から26・9%に上昇。一方で、アベ応援団の大企業は潤い、内部留保は470兆円に倍増した。
新型コロナ対応のデタラメは言うまでもない。PCR検査の実施件数はいまだG7最下位の体たらく。そして、感染拡大が再燃する中、「Go To トラベル」を見切り発車させ、国民とウイルス大移動の旗を振ったのは、ほかならぬ菅である。菅をトップに据えたアベ居抜き政権が現実になれば、国民不在のオトモダチ政治が延々と続くことになる。
新首相を選出する首班指名選挙の実施に向け、自民党は臨時国会を16日に召集する方針。16日に予定されていた立憲民主党と国民民主党による合流新党の結党大会は、そのあおりで日程変更を余儀なくされた。与野党幹事長・書記局長会談で立憲民主の福山幹事長が「ご配慮いただきたい」と要請したのに、自民党はガン無視。野党潰しに国政を利用する悪辣さである。安倍以上のおぞましい政治構造があらわになっているが、これほどまでに国民を愚弄した政権私物化を国民は許すのか。
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