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身内が黒川氏の賭けマージャンを文春にリークした産経のお家事情
https://www.mag2.com/p/news/453039
2020.05.29 新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』 まぐまぐニュース
安倍政権が持てる力を総動員しゴリ押しするも、トップに据えるはずだった黒川弘務氏の「賭けマージャン報道」で脆くも潰えた検察庁法改正案。なぜ検察のナンバー2は、違法である賭けマージャンに手を出し続けたのでしょうか。そしてその情報のリークは、誰のどんな思惑によりなされたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、改めて賭けマージャン報道を振り返りつつ黒川氏の心情の読み取りを試みるとともに、法改正断念後に見せた安倍首相の姿勢の変化を批判的に記しています
検事総長になり損ね、訓告どまりで“手切れ金”をもらう男の心境
検事総長になるにこしたことはない。でも俺は63歳で退官し、弁護士をやるつもりだった。そこに何の不足もなかったのだ。あのまま辞めておけば、こんなことには…。
賭けマージャンを週刊文春に報じられ辞任した東京高検検事長、黒川弘務氏は今、そんな心境ではないだろうか。
もう辞めるしかないと腹をくくれたのは、自らが起こした不祥事の発覚ゆえだった。
コロナ禍の混乱に乗じて安倍官邸がむりやり通そうとした検察庁法改正案のためでも、定年延長で黒川氏が悪玉と見られたためでもない。賭けマージャンというバクチ行為を検察ナンバー2が、緊急事態のさなかに新聞記者らとやっていたことを週刊誌にすっぱ抜かれたからである。
自分を見込んで定年延長までしてくれた官邸の思し召しはありがたいが、国会で検察庁法違反だと大問題になり、いたたまれない気持は募るばかり。いっそのこと、自ら身を退ければ、どれだけすっきりするだろう。そんなぐずついた思いから束の間でも解放されたのが、マージャンに興じる時間だったのかもしれない。
筆者はマージャンをやらないのだが、1,000点あたり100円で計算する「テンピン」という、雀荘ではごく平均的なレートの賭けマージャンをしていたらしく、黒川氏にしてみれば、さほどの罪の意識はなかったのだろう。マージャンの面子は検察ナンバー2と、報道記者だ。一緒に渡れば怖いものなどない、と錯覚しやすいのもこの組み合わせだ。
一部の報道によると、黒川氏は無類のマージャン好きらしい。司法記者クラブに今の時代、雀卓が置かれているとは思わないが、筆者が現役の記者だったはるか昔の記者クラブは、マージャンや花札をしながら“事件待ち”をする記者や役所幹部たちの賭博場のような観があった。
古参の記者たちとも長らく付き合ってきたであろう63歳の黒川氏は、クラブの面々にマージャンの誘いをかけていたといわれる。
同期の検察OBらが口々に語るところでは、黒川氏は検察官としては珍しく人当たりがよく、ユーモアもある。その東京高検検事長から誘われて断る記者はよほど変わり種だ。指揮監督下にある東京地検特捜部から上がった報告のかけらでもいいから、ニオイをかぎたいのが記者のサガだろう。
黒川氏のマージャンのお相手をしたのは、朝日新聞社員、産経新聞記者二人だそうである。朝日新聞の調査によると、4人の付き合いは5年前に始まり、直近3年間は月2〜3回の頻度で賭けマージャンをしていたという。5年前といえば、黒川氏が法務省の大臣官房長のころだ。
産経、朝日と社は違っても、記者クラブ仲間のつながりは強く、法務・検察官僚は口が堅い半面、いったん仲が良くなると記者との絆が一生続くケースも多い。
文春が確認したのは5月1日と13日。一人住まいの産経新聞記者宅で午後7時30分ごろから午前2時くらいまで、マージャン卓を囲んでいたらしい。
警視庁や司法担当の記者は夜回りでハイヤーを使う。おそらく、マージャンが終わった後、黒川氏とともにマンション近くに待機させていたハイヤーに乗り込み、黒川氏を自宅まで送ったのだろう。
このマンションに住むのは司法記者クラブ所属の産経新聞記者とみられる。もう一人は最近まで司法記者クラブキャップの産経記者、朝日社員は元司法記者のようだ。
月2〜3回も長時間をともに過ごすというのだから、黒川氏にとっては、よほど気の許せるメンバーに違いない。少しでも警戒心があったら、そんなことはできないはずだ。
検察庁法に反する自分の定年延長が国会で問題になり、その事後的なつじつま合わせに安倍内閣が急ごしらえした検察庁法改正案に若干の後ろめたさを感じつつ、それでも検事総長になれるやもしれぬという高揚感に包まれていたであろう。そんな黒川氏にとって、メディア側の人間がそばにいて、いつも通りに麻雀牌を並べていることは、いくばくかの安心材料だったかもしれない。
昨年11月中旬。法務省の辻裕教事務次官は翌年2月に満63歳を迎える黒川氏について、検察庁法の定めの通り退官する人事案をもって官邸の意向を打診した。
黒川氏自身も当然、退官を予定し、弁護士として第2の人生をスタートする心づもりだった。しかし、官邸はその人事案に反対し、黒川氏を検事総長にするよう求めた。そこから、黒川氏の定年延長閣議決定、その後の検察庁法改正案提出へとつながっていく。
官邸が自分をそこまで買ってくれる。検察内部で異論があることは承知だが、いったんはあきらめた検事総長の夢がかなえられるかもしれない。黒川氏は一時的にせよ、喜びの絶頂を味わったはずだ。
ところが、世の中、そうは甘くない。検察内部からもOBら法曹関係者からもその閣議決定に疑問の声が上がり、国会で野党のターゲットになった。黒川氏は四面楚歌とも思える逆風に見舞われ、たじろぎながら、官邸と世間の動きをうかがうほかなかった。
法務官僚として、ときの政権に役に立つよう精いっぱいがんばってきただけのこと。それが黒川氏の思いかもしれない。しかし、官邸から見ると、その忠実さこそが魅力だ。
野党に対する彼の気の利いた立ち回り、安倍首相の盟友、甘利明氏への捜査を検察にあきらめさせた手腕など、そういうところが「余人をもって代えがたい」のであり、ゆめゆめ森法務大臣が定年延長の理由として語った「重大かつ複雑、困難な事件の捜査、公判に対応するため黒川氏の経験が不可欠」なのではない。
官邸の歪んだ期待がのしかかり、定年延長に対する批判が強まるなか、黒川氏は誰にも話せない複雑な心中をかかえ、自分に対して優しい“記者クラブ仲間”とのひとときに救いを求めていたのではないだろうか。
しかし、この賭けマージャンネタを週刊文春に売る者がいようとは夢にも思わなかっただろう。通報者は「産経関係者」だと、文春は書く。「産経関係者」とは誰なのか。司法記者クラブの別の産経記者とは考えにくい。裏切りはすぐにばれてしまうので、あとが面倒だ。
将来の検事総長と麻雀をやる仲なんだと、産経記者二人のどちらかが社内で言いふらし、それを聞いた誰かが“義憤”のようなものに駆られ、文春に持ち込んだと考えられるが、それにしても日時と場所まで知っていたわけだから、ごく限られた人間に絞られる。何かのテレビ番組で「産経の内部対立がからんでいる」と、あるコメンテーターが、利いた風なことを言っていたのも、そういう想像からだろう。
たしかに経営状態の悪い産経新聞は、大阪社会部育ちの飯塚浩彦氏が2017年6月、社長に就任して以来、極端に右に寄った論調を修正する動きがみられ、そのためか政治部長だった石橋文登氏が希望退職に応じて退社するなど、社内的にも平穏な状態とはいいがたい。だが、それと賭けマージャンは関係あるまい。
検事長たるもの、レートがどうであれ賭けマージャンは厳にご法度だ。だが、検察官や記者たちがこういうたぐいの遊興を好むのも、かなしいかな現実だし、なにより、この問題を、賭けマージャンに矮小化するべきではない。世間の目がそちらに向くほうが巨悪にとっては好都合であろう。
あくまで、安倍官邸が検察幹部の人事を思うがままにしようとしたことが問題の本質だ。うかうかしていると、黒川人事に代わる次の一手を繰り出してくるかもしれないのだ。
黒川氏は、不本意な辞め方になったが、自業自得であり、官邸のくびきを逃れ、かえって精神的には一区切りついた面もあろう。
だが、懲戒ではなく訓告どまりの処分による約6,000万円の退職金支給が、官邸のダーティーな部分を知った者に対するいわば“手切れ金”という含みがあるのだとしたら、生涯わりきれぬ思いがついてまわるかもしれない。
一方、黒川氏がスキャンダルでお役御免になるや、安倍首相は、余人をもって代えがたしの評価をあっさりポイ捨てし、甘い処分についても「検事総長が決めたこと」と知らんぷりを決め込んだ。
5月21日には「桜を見る会」前夜祭をめぐる公選法、政治資金規正法違反の疑惑で、全国の弁護士や法学者ら662人が安倍首相らを東京地検に刑事告発した。さて、総理の“犯罪”に、検察はどう向き合うのだろうか。
image by: っ / CC BY-SA
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記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。
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