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※AERA 2020年5月25日号
安倍政権と黒川検事長の「蜜月」はここから始まった カギ握る「松山時代」と「小沢潰し」
https://news.yahoo.co.jp/articles/d2d122d6e9daa48136e49c10ecf29aa4e22d7f25
AERA dot. 5/19(火) 9:00配信 AERA 2020年5月25日号
ツイッター上では、俳優、歌手など多くの著名人を含む数百万人が「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグで反対の意思表示をした(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
「恣意的な人事が行われることはないことは断言したい」とする安倍首相。だが改正案の強行採決に異論を唱えた自民党の泉田裕彦議員は内閣委員会を外された (c)朝日新聞社
AERA 2020年5月25日号より
安倍政権が強引に定年を延長し、法改正までして検察トップに担ぐ黒川弘務氏。抗議の世論は、積み重なった数々の疑念が一気に噴き出したと言える。AERA 2020年5月25日号の記事を紹介する。
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「官邸の門番」の異名をとる黒川弘務・東京高等検察庁検事長。安倍政権が法解釈を変えてまで要職に就けようとする彼が中央政界と関わるきっかけとなったのは、2010年8月。愛媛の松山地方検察庁に検事正として赴任した時期だった。
検事正は捜査・公判など刑事事件の最終責任者であり、同時に捜査の実務を担う検察官や事務官の人事を掌握する地検のトップだ。また、地元の警察、経済界、メディア、政界とも密接な関係を持ち、地検の対外的な「顔」の役割も果たす。当時の黒川氏を知る地元経済界の一人はこう回想する。
「人当たりが良くて、決して肩で風を切って歩くようなタイプではない。人前で天下国家を熱く語ることもない。何事も表ではなく裏でまとめる物静かで優秀な調整役という印象でした」
松山という新天地で黒川氏が出会った人物が、愛媛1区を地盤とし、第1次安倍政権で官房長官を務めた塩崎恭久衆議院議員だ。黒川氏と、日銀出身で経済通の塩崎氏は意気投合。しかし、同年9月に発覚した大阪地検特捜部の前田恒彦検事による証拠改ざん事件のあおりを受け、黒川氏は就任2カ月で本庁の大臣官房に呼び戻される。
黒川氏は同事件を受けて法務大臣の私的諮問機関として設置された「検察の在り方検討会議」の事務局を担当。有能な「能吏」として実務をとり仕切った。政治との距離が近くなったのは、この大臣官房時代だという。
「大臣官房は法務省の予算や関連法案を通すために、政府との実務交渉を担う重要ポスト。その一方、政治から独立しているという検察の規範を、身をもって示さなくてはならない。そんな二律背反の世界において、黒川氏は得意のロビーイングと調整能力を武器に存在感を示しました」(法務省関係者)
当時の民主党政権において、最も政治と検察との間に緊張関係が走ったのは、小沢一郎元民主党代表の資金管理団体「陸山会」をめぐる事件だった。最終的に裁判では小沢氏本人は無罪で決着。この時、一部メディアで「小沢潰しの黒幕」と名指しされたのが黒川氏だった。
東京高裁で「小沢無罪」が確定した翌月、政権交代が起きる。こうして誕生した第2次安倍政権下で、再び「政治とカネ」をめぐる事件が立て続けに勃発。中でも、安倍首相の側近中の側近である甘利明元経済再生担当大臣に関わる疑惑は、政権の致命傷となる大事件に発展する可能性があった。容疑はあっせん利得処罰法違反。甘利大臣が、千葉県内の建設会社と都市再生機構(UR)の補償交渉を口利きした見返りに報酬を受け取ったとされる疑惑だ。前出の関係者はこう振り返る。
「東京地検特捜部はUR側への強制捜査に乗り出したものの、結果的には甘利氏本人、口利き業者との交渉を担った秘書を含め、全員が不起訴。秘書と業者とのやりとりは全て録音されていて、甘利氏自身が大臣室で現金を受け取ったなどの証言まであった。なぜ、この絵に描いたような有罪事件を、特捜部は起訴できなかったのか。多くの法曹関係者が『できなかったのではなく、意図的にしなかったのでは』と勘ぐりました。そしてこの時、黒川氏が官邸側の防波堤の役割を果たしていたのでは、という疑惑が広まったのです」
「パソコンをドリルで破壊した」と話題になった小渕優子元経済産業大臣の政治資金をめぐる疑惑でも、起訴されたのは秘書だけ。「特捜の権威は地に堕ちた」と非難が殺到した。
検察の信頼を揺るがす事件が続いた直後、法務省内である人事が発表される。16年、黒川氏が、法務省の事務方トップである法務事務次官に就任したのだ。今話題になっている黒川氏の定年延長問題の源流は、この人事にあると前出の法務省関係者は証言する。
「法務事務次官は検事長を経て、検察のトップである検事総長になるには避けては通れないポストなのです。歴代の検事総長も同じ道をたどっています。実は、この人事を法務省にのませたのが首相の意をくんだ菅義偉官房長官、当時の官邸でした」
長期政権をもくろむ安倍政権は、政権との実務交渉を担っていた黒川氏の危機管理能力を非常に高く評価していた。政権は中央官庁の幹部人事を「内閣人事局」を通じて一元管理していたが、法務省人事だけは、官邸が直接介入をすることはなかった。また、検事総長の座を巡っては、法務省内での熾烈なポスト争奪戦もある。だが、黒川氏の人事は別で、事務次官から東京高検検事長、と着実に検事総長への階段を上っていった。
ただし、それを阻む唯一の壁が「定年」だった。検事総長の定年は65歳。検事長以下の定年は63歳と検察庁法で定められている。20年2月8日で満63歳となる黒川氏は、検事総長のポストに就く前に退官すると、省内の誰もが思っていたと検察関係者は語る。
「ところが誕生日の直前に、黒川氏だけを定年延長すると政府が言いだしたのです。しかも、その根拠が検察庁法ではなく、定年延長が可能な国家公務員法の規定を適用したと言うのですから2度、驚きました。検察官の定年に国家公務員法が適用されないことは、過去の政府の法解釈を見ても明らか。法務省内では自身の出世に関わることなので、この規定を知らない者は誰もいません。政府主導による全くの禁じ手です」
この露骨で前代未聞の人事を正当化するために、安倍政権はコロナ禍の非常事態であるにもかかわらず検察庁法改正案を国会に提出。しかも、国家公務員法改正案と束ねて、法務大臣の出席を必要としない内閣委員会での審議を画策した。これに対し立憲、国民、共産、社民など野党は徹底抗戦の構えだ。
背景にあるのはツイッターで広がった「#検察庁法改正案に抗議します」のうねりだ。多数の著名人を含む数百万人が抗議の意思表示をした。反対の声は与党内にも広がっている。
それでも政権が今国会での成立を急ぐのは、「モリ・カケ・桜」の不祥事に加え、進行中の河井克行前法務大臣への捜査を意識しているからではないか。5月14日、映像配信プロジェクト「Choose Life Project」主催の緊急記者会見で、立憲民主党の安住淳国対委員長は本誌の質問にこう答えた。
「結局、黒川氏を定年延長したこと自体に政治的なうさん臭さが漂っている。そこが一番の問題。野党はコロナ関連法案には協力すると伝えている。しかし、土井たか子さんじゃないけど、ダメなものはダメなんです」
15日午後、かつてロッキード事件の捜査に関わった元検事ら十数人が法務省に改正案反対の意見書を提出した。意見書はこう締めくくられている。
「正しいことが正しく行われる国家社会でなくてはならない。(中略)検察の組織を弱体化して、時の政権の意のままに動く組織に改変させようという動きであり、ロッキード世代として看過し得ないものである」
(編集部・中原一歩)
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