http://www.asyura2.com/20/senkyo272/msg/591.html
Tweet |
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72491
安倍政権の「火事場泥棒」ここにも…柴咲コウも怒った種苗法改正の闇
政府は何を狙っているのか?
小川 匡則
週刊現代記者
5月6日を期限としていた緊急事態宣言が5月いっぱいにまで延長され、コロナ禍は依然として収束の気配を見せない。そんな「国難」のどさくさに紛れてとんでもない法案が審議入りしようとしている。「種苗法改正」である。
先日、女優の柴咲コウさんがツイッターで種苗法改正を問題視する投稿をした<https://twitter.com/ko_shibasaki/status/1255805807716782080>ことも話題になった。その後、柴咲さんは「(法改正を)知らない人が多いことに危惧している」と綴った。問題の法案の中身とは。
●真の狙いは「自家増殖の禁止」
種苗法改正案は、実は3月3日に閣議決定されている。コロナ問題の対応に追われる中、なかなか審議入りできずにいたのだ。ところがここにきて、緊急事態宣言真っ只中にもかかわらず、今週にも審議入りする可能性が浮上しているという。
農水省は改正の主な理由について「国内優良品種の海外流出を防ぐため」としている。しかし、「法改正の本当の狙いは自家増殖の禁止だ」と語気を強めるのは、元農水大臣の山田正彦氏だ。
「自家増殖」とは、農家が収穫物の一部を次期作の種苗に用いることをいう。そうすることで、毎年新たに種子を購入することなく営農していけるのだ。
自家増殖が禁止されると、種子の使用に際して許諾料を支払うか、毎年新たに種子を購入する必要が生じる。そうなれば、農家経営を圧迫することは間違いない。その上、一部の大企業が種子の権利を握るようになり、種苗の値段が上がっていくことも懸念される。
「農水省はシャインマスカットの種子が海外に流出した例を挙げて、流出を防ぐためには種苗法の改正が必要だと主張しています。しかし、いくら国内法を変えたところで海外への流出を止めることはできません。そのためには、それぞれの国で品種登録をしていくことや、刑事告訴するなどの別の対応が必要です」(山田氏)
実際、2017年に農水省食料産業局知的財産課は文書で次のように記している。
「国際条約(UPOV条約)により育成者権は、国ごとに取得することが決められています。このため、海外で品種登録されていない場合は、その国で育成者権は主張できません」
「対策としては、種苗などの国外への持ち出しを物理的に防止することが困難である以上、海外において品種登録(育成者権の取得)を行うことが唯一の対策となっています」(農畜産業振興機構HPより)
つまり、シャインマスカットのような優良品種の海外流出を本気で防止したければ、今回の改正案は直接的な対策にはならないのだ。
山田氏はこう続ける。
「そもそも半年くらい前までは、農水省は種苗法改正案を『自家増殖の一律禁止』で取りまとめていました。ところが、私がそのことをネットで指摘したら大きな反響があり、農水省は慌てて『登録品種で許諾を受けていない自家増殖は禁止』などという文言に変えました。これは単なる批判逸らしで、狙いは当初から変わらず『自家増殖を禁止すること』なのです」
●「布石」は打たれていた
今回の改正案で、自家増殖がいきなり全面的に禁止されるわけではない。農水省は農産物の品種を「登録品種」と「一般品種」に区分し、「登録品種」に関しては「育種権者から許諾を得た場合に限り」自家増殖を認めるとしている。一見すると、多くの農業者には影響なく、それでいて育種者の権利を守れるようになるのではないか、とも見える。
それでも多くの農業関係者が「自家増殖禁止」を懸念するのは、これまでの「安倍農政」の経過を見てきたからである。
東京大学教授の鈴木宣弘氏は次のように指摘する。
「今回の種苗法改正は種子法廃止、農業競争力強化支援法との3点セットで考えるべきです」
2017年4月に「種子法の廃止」と、「農業競争力強化支援法の制定」が決まった。
種子法とは、コメや麦などの優良な種子を安定的に供給するために、都道府県に種子の増殖を義務付ける法律だった。この種子法を廃止するとともに農業競争力強化支援法を制定することで、「⺠間事業者の力も生かした種子の供給体制を構築し、多様な需要に応じた種子が供給される環境を整備することとした」(農水省)ということだった。
だが、農業競争力強化支援法の第8条4項にはこうある。
「種子その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給を促進するとともに、独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること」
なんと、国や地方自治体が開発してきた種苗を民間事業者に渡せ、と迫っているのだ。そして、驚くべきことにその「民間事業者」には「海外企業」も含まれるのである。
鈴木氏はこう話す。
「順番に見ていくと、政府の意図は明確です。種子法の廃止で公共の種子をやめさせて、農業競争力強化支援法で民間がその公共の種子をもらい、そして、種苗法の改正でその権利を強化する、という一連の流れです。
種苗法改正により、これまでよりもはるかに種子を登録することのビジネス的なインセンティブが強くなるため、登録品種は増えていくでしょう。そうなると、自家増殖できる種子はどんどん限られていきます」
●世界で進む「企業の農業支配」
世界の農業ビジネスは寡占の一途をたどっている。
バイエル−モンサント(世界一有名なバイオ企業のモンサントを2018年に製薬メーカーのバイエルが買収)、デュポン、シンジェンタの3つの多国籍企業が、種子でも農薬でも世界シェアの50%以上を占めている。ごく一部の巨大企業が世界の食を支配しているのだ。彼らが日本の市場をも食い尽くそうと考えているのは、明らかではないだろうか。
そもそも農水省は「種苗法改正は優良品種の権利が海外に侵害されてしまうのを防ぐため」と説明している。しかし、それではなぜ「公的機関の作った優良品種」を、「海外も含めた民間事業者に渡せ」と迫るのか。
農水省が例に挙げたシャインマスカットは、農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)という公的機関の開発した種子である。明らかに矛盾した説明であり、種苗法改正の真意は何なのか、疑念は強まる。
農水省はなぜこのような農政改革を続けるのか。元農水省官僚でもある前出の鈴木氏は、農水省の事情をこう推察する。
「安倍政権になってから、農家のことよりもアメリカからの要求を優先して受け入れる姿勢が明確になり、それに抵抗した幹部はことごとく左遷されてしまった。そのため、官邸主導の決定には逆らえなくなっている」
●「早い者勝ち」になってしまう
今回の改正では、確かに自家増殖の禁止は限定的であり、それも「育成権者からの許諾」があれば認められる。そのため、農水省や一部国会議員からは「自家増殖が禁止されるわけではない」との主張も展開されている。
しかし、山田氏は「そもそも、種子というのは無数にあるのです。その細かな違いというのをどうやって識別するのか」と疑問を呈する。
実は、今回の種苗法改正には「育成者権を活用しやすくするための措置」として「種子の識別を行いやすくする制度」を導入することが含まれている。
元来、種子の違いを認定するのは「現物主義」であった。現物の種子を比べて、同じものかどうかを判定していたのである。それが改正案では「特性表を用いて、両者の特性が同一であるかを推定する制度を設け、侵害立証を行いやすくする」としているのだ。
それだけでなく、「育成者権が及ぶ品種か否かを農林水産大臣が判定する制度を設ける」ともしている。これならば、判定表という比較的簡素な方法を用いて、農水省の職員が種子の権利を侵害しているかどうかを机上で判定することになってしまう。
また、品種登録にはコストがかかることから、大企業が種子を牛耳る展開になりかねないという指摘もある。
「在来種であっても、品種登録されていなかったらその種子は自分のものではない。極端な話、種子企業が早い者勝ちで品種登録できてしまうということになる。そうなると、今は一般品種でも、気づいたら登録品種になっているということもあり得るわけです。こうした手法はグローバル種子企業が世界各国で展開してきた手口です」(前出・鈴木氏)
種子の問題に詳しいエコロジストの印鑰智哉氏もこう警鐘を鳴らす。
「新しく開発した品種がたまたま在来種と類似した特性を持っていれば、それを盾に権利の侵害を申し立てられることも出てくるでしょう。『在来種だから自家増殖しても大丈夫』と思っていたら、ある日突然訴えられるというケースも発生しかねません」
これでは、表向きは「自家増殖は禁止していない」としながらも、実質的には「自家増殖禁止の状況が生み出される」ということになってしまうのではないか。
●日本の農業の弱体化
前出の印鑰氏は「種苗法改正では自家増殖禁止のことばかりが注目されるが、本質的には日本の農業が弱体化していくことが何よりの問題です」と語る。
日本政府は様々な農産物の品種開発を進めて、海外に売り込んでいく構想を打ち出している。しかし、日本の農業の現実は逆行しているという。
「2007年には日本は年間1000件以上の品種を開発しており、世界でも2番目に多かった。しかし、そこから年々減少し、2017年には600件ほどにまで落ち込み、中国や韓国にも抜かれました。育種能力は年々下がっているのです。
農業の効率化、大規模化を進め、種の均質性を求めてきたために、種子を開発できる人が減っているのです。この状態で種苗法改正を行うと、一部の種苗会社だけが生き残り、それ以外は立ち行かなくなるでしょう」
コロナ禍のどさくさに種苗法が改正されてしまった場合、どうなるのか。未来の姿はすでに海外にある。
「アメリカやカナダなどでは、農家の事業売上は増加しましたが、農家自身の収入は減少しました。種苗や農薬などの経費が増えすぎて、不作などで売上が落ち込むと赤字になってしまうことすら珍しくなくなったのです」(印鑰氏)
また前出の山田氏は、日本が世界の潮流に逆行していると指摘する。
「各国では通称『反モンサント法』ができるなど、農家たちが権利を求めて立ち上がっています。それに耐えかねて、モンサントはバイエルに買収されたという経緯がある。そのモンサントが最後に一儲けできると考えたのが、アメリカの言いなりになる日本だということです。あまりにも情けない話です」
カナダ人ジャーナリストのナオミ・クラインは、大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革を「ショック・ドクトリン」と名付けた。コロナ禍でパニックとなっている最中に実施されようとしている、種子ビジネスへの市場原理主義の導入はまさに「ショック・ドクトリン」そのものである。
これだけの懸念が出ている重要法案である。混乱の中ではなく、落ち着いた環境で十分な審議時間を確保して議論を交わすべきだ。少なくとも今国会で審議入りすべき法案ではないのは明らかだ。
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK272掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK272掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。