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空っぽの緊急事態宣言
https://www.chosyu-journal.jp/column/16430
2020年4月9日 コラム狙撃兵 長周新聞
ついに首相が緊急事態宣言を発し、首都圏や関西、福岡などの7都府県で外出や営業の自粛が呼び掛けられている。とはいえ、強制ではないことを理由に政府補償がなく、個人であれば収入が途絶えたら生きていけない人々は引き続き働くほかない。飲食店その他の事業経営者にとっても、あがったりの状態は宣言前も後も何ら変わらない。「大変だー! 大変だー!」の非常サイレンを鳴らしたはいいが、鳴らしただけとでもいおうか、現実に大変な思いをしている者が生きていくための、血液が循環するような温かい政策が乏しく、なにがどう効果を発揮するのかがまるで見えてこないのだ。
ここにきて発表した「事業規模108兆円の緊急経済対策」というのも、そのうち政府の財政支出は39兆円(新規国債発行額は16〜17兆円)とかで、国民に現金給付するのは6兆円なのだという。これは政府が108兆円を注ぎ込んで対策をとるというような代物ではなく、実質的には16〜17兆円の政府支出を呼び水にして「恐らく、これくらいの波及効果にはなるだろう」という大ざっぱな「事業の規模が108兆円」といっているに過ぎない。つまり、ホラでも何でも大きいことはいえるのである。経済効果は検証不能なので、仮に「事業規模200兆円」とぶち上げても罪には問われない。例の如く大言壮語の類いにほかならないのである。
そして肝心なのは、大きな数字をどんと打ち出した割に、その中身が見えてこないことだ。この間、あまりにも社会的混乱が広がっていることから、各種税金の納税延期や緊急融資(支援ではなくあくまで融資)などは動かしてきたが、現実の困難に対してあまりにもスピードがともなっておらず、また手続きや条件が煩雑で、支援にアクセスし難い状態が問題になってきた。こうしたお役所的な後手後手の対応がなお続くなら、社会全体はますます混乱に拍車がかかり、結果として感染症対策にも経済対策にもならないのではないかと思えてならない。
今のところ、国民への生活補償や支援策がないまま、一方的に自粛だけが要請されている。マスクの獲得からなにから、すべては自己責任に委ねられている状態だ。30万円支給といっても、その支援を受けられる人がどれだけいるというのだろうか。各国は矢継ぎ早に外出禁止令を出し、国民の暮らしに制限を加えるかわりに政府がカネを補償するという政策をとっているところも少なくない。これらはセットなのだ。それに対して、強制ではないことを理由に国民一人一人に真水としてのカネを出さない政策をとっているのが日本政府である。
税金を巻き上げるのはあれだけ得意なのに、今回のように社会が未曾有の危機に見舞われ、国民が四苦八苦しなければならない状況にさいして、現金支給だけは絶対にやらないと固く決意しているかのようでもある。消費税だけでも一人当りの年間支出は相当額にのぼるが、ピンチにさいして国民にその一部を還元することすら拒むという姿勢を貫いている。したがって、現金収入が途絶えたら困るし、安心して家の中にこもることもできない人々は満員電車に揺られて、今日も明日も働くしかないのだ。隠れコロナがいるかもしれない街に繰り出して−−。
国がカネを出すとは、すなわち国民の安心安全を補償して移動自粛につなげ、感染拡大を防ぐという“感染症対策”であり、単純に経済対策というだけの代物ではない。その安心を担保せずに自粛のみ強いるものだから、このようにちぐはぐで緊急事態宣言そのものも宙に浮いたような状態をよぎなくされるのである。
振り返ると、東京五輪の延期をめぐってモタモタしていた時期がもっとも犯罪的だと思う。患者数が増えないようにPCR検査の実施を限定的なものにし、初期の封じ込めに失敗したためにこれほどの感染拡大につながった。ダイヤモンド・プリンセス号の乗客を公共交通機関で帰したり、舐めてもいたのだろう。こうして、危機感もなくイベント趣味の願望を優先したおかげで、社会全体にとっての安心や安全が犠牲にされたのだ。
政府がやるべき仕事は一にも二にも国民の生命と安全を守ることであり、そのために税金を集め、社会の統治を委ねられている。それは重大な責任がともなうものだ。しかし現実には、国民の生命と安全が疫病によって脅かされているのに対して、五輪にうつつを抜かしていた鈍感な政治指導者が、今になって給食マスクみたいなものをつけて「大変だー!」のJアラートだけをかき鳴らしている−−。そして大言壮語する割には中身は空っぽ−−。そのような光景に見えて仕方がない。これはある種の人災でもある。
マスクはいつまでたっても店頭に並ばず、総合病院に勤務している知人の看護師曰く、月に4枚支給されるのみで、洗いながら使っているのだという。これでは衛生状態は守られず、本末転倒ではないかと逆に心配になるような話だ。コンビニに行くと、既に毛玉のようなものがそばだっているマスクをして、馴染みのベトナム人実習生○○○君がレジを打っていた。異国の地に働きに来て、彼も大変な目にあっているのだと思った…。手に入らないものだから、みんなが相当に毎日同じモノを使い込んでいるし、悪い意味であったり、汚い意味でのヴィンテージものが方々で出来上がっているのも事実だ。見かけはマスクをして防衛しているように見えて、逆に衛生上のリスクにさらされているのではないか…と、これもまた心配でならない。
あの給食マスク(アベノマスク)ではなく、新鮮な不織布の除菌マスクはいつになったら手に入るのか…。ノーガードの闘いが無謀である以上、せめてマスクくらいは早急に供給が始まらないものだろうか…と思う。
吉田充春
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