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「日本も3週間後、地獄を見る」まるで戦争…欧州に住む日本人の警告 「ロックダウン」中のイギリスから
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71456
2020.03.30 谷本 真由美 著述家 現代ビジネス
もう、楽しい毎日は戻ってこない
日本では先週末、ようやく東京都が外出自粛の呼びかけを行いました。しかし、海外在住の日本人は、このような日本の「ゆるい対策」にドン引きしている人が大半です。
現在、私が住んでいるイギリスを始めとする欧州では、空気は何とも重苦しく、「もうコロナ以前の世界は終わったのだ」という意識の人が大半です。
もう、あの平和で気楽な世界は戻ってこないのです。
我々は現在、世界中を舞台とした大戦争の最中にいます。
これはただの「感染爆発」ではありません。はっきりいって、第3次世界大戦です。煽っているわけではありません。大げさなわけでもありません。
これは残酷な事実です。我々はこのウイルスに試されているのです。
世界大戦はテロリストとの戦いでもなく、スカイネットとの戦いでもありませんでした。相手は理性も交渉も全く通用しないウイルスだったのです。よくできたSF 映画もパニック小説も吹き飛ばしてしまう現実です。
どうか日本の皆さん、この深刻さと恐ろしさに気が付いてください。 これはただの病気ではないのです。
震災の時は、揺れが収まれば生活を立て直すことが可能でした。 原発事故も、何とか最悪の状況を乗り越えることが可能でした。
しかしウイルスは違うのです。 ワクチンも治療薬もない現在、この感染爆発を抑えることはできません。
誰も止めることができないのです。
今の日本は「3週間前のイギリス」
日本の今の状況は、3週間前のイギリスと似ているように感じます。
イギリスでは、先々週まで人々はごく普通の生活を送っていました。
一部の注意深い人たちは、中国やイタリアの状況を気にしていたために、 手を洗う回数を増やしたり、パーティーや飲み会をキャンセルし始めました。
ところが多くの人は、「航空券が安くなっているからイタリアに遊びに行こう」とか、「春先のイベントはどうしようか」という話をごく普通にしていたのです。
子供の学校の行事だって、ごく普通に行われていました。
私の5歳になる子供は、同級生達とお城に遠足に行ってきたばかりでした。
普段と違うことといえば、その遠足に参加した子供の何名かが週末に激しい咳をするようになったこと、学校を欠席する子供が増え始めたことです。
しかし「よくある風邪を引いただけね」と言っている人が大半で、新型肺炎と結びつける人は誰もいなかったのです。
新型肺炎のことを気にしてパニック状態になっていたのは、イタリア人の親だけでした。この人は、親たちの間では「大げさな人」と扱われ、激怒した彼女が保護者用メーリングリストに投稿した内容は、「大変無礼だ」という風に扱われていたほどでした。彼女は、危機が迫っていることを多くの人に訴えたかっただけでした。
しかし当時は、誰もまともに取り合おうとしなかったのです。
家族にも「神経質すぎ」と笑われた
その親たちの中には現在、新型コロナウイルスの患者を受け入れている病棟で働いている医師もいました。つい2週間前までは、医師でさえマスクも何もつけずに、他の人と50cm以内の距離で大声で話していたのです。子供の誕生会やディスコパーティーを盛大にやる人達もいました。ディスコパーティーに子供を参加させなかった我が家は、「変わった家族」という扱いをされました。
イギリスでは、中国やイタリア、フランスで起きていることは全く他人事で、 「新型肺炎は東洋の変わった病気」という認識の人しかいなかったのです。
1月の初めから、個人的な興味で中国の状況をTwitter や動画で観察していた私は、なんとなく嫌な予感がしていました。
ですから、どこに行くのにも病院で使っている消毒ワイプを持参し、手を洗った後に消毒ジェルで手を消毒し、外食するときは椅子もテーブルも全てワイプで拭いていました。
もともとイギリスの飲食店の清掃は十分ではなく不潔なところが多いので、以前からそうしていたのですが、中国の状況を目にしてからは、さらに入念にやるようになりました。
そんな私を、イギリス人の夫や義母は「実に神経質だ」と半ば冗談半分に言い、笑っていたのです。
2月の半ばに子供とその友達と映画館に行った際にも、子供達に店から提供されたクレヨンやテーブル、椅子を全て消毒ワイプで拭き、参加者にも全員にワイプを配布して、触れるところを拭いてから食事をするように言いました。
私の鬼気迫る態度を、他の親たちは若干異様に感じたようでした。以前から変わった人だと思われているので、気にはしませんでしたが。
そもそも、イギリスだけでなく欧州では、食事をする前に手を洗う習慣がないのです。子供達にまで手を洗わせるような親は、中国人や日本人、韓国人、そして東南アジアの人々だけです。そんなことをする人達は「神経質でセコセコした、感じが悪い人間だ」と思われるのです。
首相スピーチに泣き出す人も
ところが、ボリス・ジョンソン首相の3月13日のスピーチにより、私が「神経質な東洋人」扱いされる時は、残念ながら終わりました。
あの瞬間、平和な日常生活は終わりを告げました。
一国の首相が、国民に向けて「あなたの家族にも犠牲者が出る」――つまり「もう我々はあなた達を守れません。弱い人は死にます」 と、はっきり述べたわけですから。
日本では、ボリスのスピーチについて「リーダーシップがあり、日本政府よりはっきりしている」と評価する人も多かったようですが、 イギリス人には泣き崩れる人が出ました。
イギリス人は「欧州の京都人」と言われるほどですから、何事も遠回しに述べるのです。「あなたの家族にも犠牲者が出る」というのは「あなたには死んでもらいます」という意味だったのです。
このスピーチの後、イギリス人は大変なパニックに陥りました。
普段は上流階級特有の慇懃無礼な態度で、ユーモアを交えて話すあのボリスが、 真っ青な顔で冷酷なスピーチをしたのです。
ボリスは、第二次世界大戦中の首相であったチャーチルを自身のロールモデルとしています。しかしロンドンが激しい空襲にさらされる中でさえ、チャーチルは国民を鼓舞するようなスピーチこそすれ、「死んでくれ」とは言いませんでした。
ドイツに包囲され絶体絶命の中、チャーチルが国民に対して述べたのは、
「we shall never surrender」(我々は絶対に降伏しない)
でした。
ところが、爆弾が降り注ぐわけでも、軍に包囲されているわけでもない今のイギリスで、ボリスからそうした威勢の良い言葉は一切出てきませんでした。
イートンを首席で卒業し、オクスフォード仕込みの古典ギリシャ語やラテン語の引用を多用するあのボリスが、レトリックも何もなく「死」について語った――つまり、もうこの国には何の選択肢も残されていない、ということだったのです。
冗談を言う気力もなくなった
いつもなら、厳しい局面でも冗談ばかり言って乗り越えるイギリス人たちの間からも、この日以来ジョークが消えました。
テレビでは、もうコロナ以外のことはやっていません。
普段は有名人の不倫情報や、隣の家の垣根を切りすぎて喧嘩になった、というような他愛もないネタばかりやっているワイドショーも、朝から晩まで深刻な議論しかしていないのです。もう誰一人、余裕も笑顔もありません。
そしてさらに衝撃的だったのが、チャールズ皇太子だけではなく、ボリスや保健相までもが感染してしまったことです。このニュースはイギリスのメディアでは淡々と伝えられました。
もう装飾する気力も、ジョークで切りかえす力もないのです。
この国の人達には。毎日トイレットペーパーの残りを計算しつつ、ワクチンと治療薬が登場することを祈ることだけしかできないのです。
(つづく)
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