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(回答先: 新自由主義の時代 投稿者 中川隆 日時 2020 年 8 月 14 日 09:43:10)
「AI社会」で中間層が消える? アメリカでは高学歴のワーキングプアが増加
週刊新潮 2020年10月8日号掲載
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/10120557/?all=1
2年前に76歳で亡くなったホーキング博士が晩年、繰り返し語っていたのがAIの脅威であることは、よく知られた話。
「我々はランプの魔神ジーニーを解き放ってしまった」
時に独特の表現で、人工知能の発達の速さと、それによってもたらされる社会の変容の大きさを憂えていた。科学者だからこそ、逆にテクノロジーの恐ろしさへの理解もより深かったのであろう。
が、好むと好まざるとにかかわらず、世界はその渦に巻き込まれて久しい。
そして、その流れに遅れに遅れた日本も、ようやく本腰を入れたと言えるのか。
この9月に発足した菅政権の看板政策「デジタル庁」の新設。デジタル化を官民一体になって進めんとしているのである。
「きっかけとなったのは、このコロナ騒動です」
と述べるのは、さる全国紙の政治部デスク。
「一律10万円給付の手続きで、中央省庁と地方自治体のシステムがうまく連携せず混乱し、給付が遅れ、不満が国民の間で高まりました。また、『3密』回避のため、ネットを介したリモートワークや授業が広まった」
こうした世相を受け、総裁選で菅総理は、デジタル庁の創設に言及。行政のデジタル化と、ポストコロナの時代に向けたデジタル施策を取ることを宣言したのである。
「総理就任後は、内閣府にデジタル改革担当大臣を設け、平井卓也・元IT担当相を指名。来年の通常国会に庁の設置法案を出す予定です。具体的な施策としては、マイナンバーカードの普及。現在、2割もない保有率を上げ、身分証明書や預貯金口座と紐づけ、役所に行かなくてもあらゆる手続きができるようにする。また、オンライン診療や遠隔教育の環境整備、更には、民間のデジタル化への支援なども行うことになります」(同)
世の風に敏感な政策に、国民も反応。日経新聞・テレビ東京の世論調査では、設置に賛成が実に78%、反対が9%という、圧倒的な支持を得たのである。
もちろん、行政の効率化は必須の課題であるし、未だ対面での確認や判子を必要とする手続きは、多くの人には無駄の極みかもしれない。
しかし、“平時”であれば、国民はこの動きをここまで支持していたか。
例えば、マイナンバーカードの普及ひとつをとっても、それを引き受ける行政のセキュリティー体制には、数カ月に1度はどこかの役所で情報流出が起きている有様で、常に疑念が突き付けられている。
そもそもこうした動きがあれば、真っ先に大反対するのは、朝日や毎日など、リベラル系のメディア。「国が国民を監視するのか」と批判しそうなものだが、“空気”を読んだのか、その動きも鈍い。
コロナ禍の混乱に煽られ、また、根底には、めくるめく「デジタル社会」への漠とした期待もあるかもしれない。
現在、我々の社会で広がる大規模な「デジタル化」……。それはコロナ禍で波のように押し寄せてきつつある。が、
「もちろんそれは大切で、今からアナログを死守しますと言っても無理な話。しかしその過程で何が失われ、どんな社会になるかも見極めなければなりません」
と言うのは、経営戦略コンサルタントの鈴木貴博氏である。
「行きつく先は、中間層がごっそり抜け、ものすごく稼ぐ人と貧しい人とがはっきりと分かれる“格差社会”。これまでの日本社会とは違いますが、その自覚が果たしてあるのか……」
弱肉強食型社会
どういうことか。
「デジタル先進国」といえば、アメリカ。アメリカで起きたことが20年後に起こるというのが日本であるが、彼の地で何が起きているかを、まずは認識しておこう。
「それは経済格差がどんどん広がる社会です」
とは、元通産官僚で、経済産業研究所のリサーチアソシエイト・岩本晃一氏。
「過去40年ほど、アメリカでは情報化投資によって、業務の一部が機械に置き換わっている。マサチューセッツ工科大学のデイビッド・オーター教授がそれを検証し、2015年、論文にしています」
教授は、アメリカにおけるひとつひとつのジョブに対してスキル度を算出し、縦軸に雇用の増減率、横軸にスキル度を取ってプロットした。すると、驚くべき結果が現れたという。
「はっきりとした傾向として、企業のオフィスワーカーなど、中スキルの職業の労働者がずっと減少を続けている。その一方、清掃員や建設作業員など、低スキルの労働者数が上昇し、その増加スピードも上がっている。そして、企業コンサルタントやデータエンジニアなど、高スキルの労働者は、増加しつつもそのスピードは減速していることがわかったのです」
今後、もっとも影響を被るのは、実は中スキルの労働者だ、というのである。
「ルーティン業務はロジックに基づいているので、どんなに難しい仕事であっても簡単にプログラミングできる。情報化投資が進むと、ルーティン化された頭脳労働が真っ先に機械に代替されていく。他方で、低スキルの労働の需要はあまり増えません。職を失った中スキル労働者は、自己投資が必要な高スキル層に移行することも難しく、低スキル労働者へと移行する。すると、需要が増えないのに供給だけは増えるため、低スキル労働者は更に安く買いたたかれる。他方、高スキル労働者は、技術進歩に伴って需要は増えるのに、供給は簡単には増えないので、賃金がますます上昇します」
具体的に言えば、
「こうして職を失うのは、日本では男性よりも女性、正規よりも非正規、総合職よりも一般職と見られています。例えば中堅大学を出て年収数百万円で働いている人がここに位置する。アメリカでは学歴のある人の、ワーキングプアが生まれているのです」
実際、アメリカの経済白書では「自動化は所得格差を拡大する」(16年)、日本の通商白書でも「先進国の経済格差拡大の主な要因は技術革新(IT投資)である」(17年)旨記されている。
日本でも既に似たような現象は起きていて、例えば、メガバンクでは近年、一般職の新卒採用を大規模に削減し、AI導入に伴うリストラを行っているのは周知の通り。
前出・鈴木氏が言う。
「デジタル・トランスフォーメーション(DX)が進み、現在、企業では大規模な組織やビジネスの変革が行われている。例えば、証券会社のトレーディングルームはAIが株を売買し、銀行でも、窓口の女性と判子を押す管理職だけがいて、その間で作業をしていた行員がごそっといなくなっているのです」
このままDXやAI化が進んでいくと、一番打撃を受けるのは、中スキルの労働者たち。これまで職業的な訓練を必要としていたホワイトカラーの事務作業が、デジタル化によって消滅していく……と分析する。
「これを『技術的失業』と言います。実はこれは新しくて古い問題で、18世紀に蒸気機関が発明されると、手作業で織物を作っていた職人たちが、織機や紡績機に職を奪われました」
と述べるのは、駒澤大学の井上智洋・准教授(経済学)。
「しかし、彼らは工場労働者として吸収された。人類の歴史では、新技術の導入が起こっても、既存産業が効率化されて需要が増えるか、新しい産業が生まれ、そちらへ労働者が移行することによって技術的失業は解消されてきたのです。でも、今IT化によって失業している人たちは、清掃員や介護スタッフといった、昔から存在するような仕事に移っていっている。新技術によって生まれた失業者がより起源の古い産業へと流れていく。言わば、労働移動の逆流が起きているのです」
そして、日本でもこれが進んでいくと、
「今までの労働市場は、中所得者層が厚く、低所得者層や高所得者層が薄い『つりがね型』の分布を描いていました。それがだんだんと、低所得者層が分厚く、中所得者層が薄い、そして、高所得者層は薄く長く伸びる『ロングテール型』になっていく。これは既に起きつつあることですが、更にどんどん加速していくでしょう」
やはり結論は、中間層の崩壊なのである。
もちろんこれはとりもなおさず、これまでの日本とは異質な社会の到来を意味する。従来は年功序列、終身雇用制に基づいた「一億総中流」と言われる分厚い中間層の存在が特徴的だったが、前出・鈴木氏によれば、
「今後、弱肉強食型の社会が生まれていく可能性は否めませんが、不安定な仕事ばかりが増えると、仕事に対して誇りややりがいを持つのが難しくなる。安定した雇用があって初めて、日々の仕事に打ち込める。低賃金で雇用も不安定になってしまえば、職業倫理も持ちにくい。真面目にコツコツやっている人が割を食う可能性のある社会です」
加えて、井上准教授も言う。
「これまでの日本の強みは労働者による『自発的秩序』にありました。企業には、上から指示を出さずとも、現場が勝手に役割を見出して、それに邁進してくれる集団的な力があった。しかし、これからの情報化社会ではむしろ個の力が求められる。“和を以て貴しとなす”に象徴されるようなかつての秩序は力を発揮しにくくなる」
確かにトヨタに代表されるように、多くの労働者が平均的に優秀な日本では、現場が自ら創意工夫し、問題解決の最適解を見つけ、最大の成果を目指す。これがアメリカのような雇用体系では、頂点にいる経営者の頭脳の下、労働者は何も考えず、ただ与えられた作業をこなす歯車になりがち。日本的な強みや美徳がぶっ壊されてしまうのである。
AI化が更に進めば、いずれ高スキル労働も機械に代わられ、「10〜20年後、49%の仕事が失われる」(野村総研など)との試算もある。ここまでくれば、格差の拡大に留まらない、想像を超えた世界が現れることだろう。
ショック・ドクトリン
付言すれば、今回のデジタル庁設置について、首相に助言したひとりは、あの竹中平蔵氏と言われている。首相は小泉政権時代、総務大臣を務めた竹中氏に副大臣として仕えた経験を持ち、以来、折に触れ、“指導”を仰いできたようだが、グローバリズムでハゲタカ外資を富ませた彼の名前が出てくると、何だかぐっと政策の脂っこさが増してくるというものだ。
「デジタル化で便利になることは良い。しかし、諸手を挙げて歓迎か、といえば、やはりどこかに“ひっかかり”を感じざるをえません」
と言うのは、九州大学大学院の施光恒(せてるひさ)教授(政治学)。
「情報が一元管理されるのは便利ですが、裏を返せば、それは中国のように、IT技術やAIを使って、国民を管理、統制するシステムと同質で、それを容認する空気を社会に広げかねない。しかし、このコロナ禍において、欧米などに比べ日本で感染が拡大しなかった要因は、そうした強権的な手法に頼らずとも、多くの国民が『自粛』を行ったことに見られるような、国民の自発的でゆるやかな紐帯(ちゅうたい)にあったのではないか。その良さに気付くべきです」
そして、その紐帯をもたらしているのは、連帯意識や協調行動を生む、「極端な格差」なき社会だという。
施教授が続ける。
「『ショック・ドクトリン』という言葉がある。社会的混乱を機に、新自由主義的な政策を政府が進めることを指しますが、コロナ禍に端を発した今回の『デジタル庁』の動きもそれに似た空気を感じますね。改革だ、グローバルスタンダードだと言われれば、それに従いたくもなるでしょう。しかし一歩引いてみて、日本の強みは何かと考えてみることが大切ではないでしょうか。コロナ騒動で学ぶところが多かったのは、むしろこちらの方なのでは」
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