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なぜ3人殺害でも死刑回避されたのか? 旧大口病院事件の判決読み解き
http://www.asyura2.com/20/reki5/msg/1267.html
投稿者 中川隆 日時 2021 年 11 月 11 日 05:49:12: 3bF/xW6Ehzs4I koaQ7Jey
 

(回答先: 100人に1人はサイコパス。私たちは人生のどこかで必ずサイコパスと出会う 投稿者 中川隆 日時 2020 年 12 月 20 日 19:00:05)

なぜ3人殺害でも死刑回避されたのか? 旧大口病院事件の判決読み解き
2021年11月10日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/141872

 横浜市の旧大口病院で患者3人を殺害したとして殺人罪などに問われた元看護師の久保木愛弓あゆみ被告(34)に、横浜地裁は9日、無期懲役を言い渡した。3人を殺害した被告の完全責任能力を認めた上で極刑を回避する司法判断は異例で、識者は「刑が減軽される心神耗弱状態に近い精神状態だったと判断したのではないか」と話す。(加藤益丈)

◆責任能力の程度は

 公判で久保木被告は起訴内容を認め、責任能力の程度が最大の争点となった。検察側は起訴前に行った精神鑑定を基に完全責任能力があったとして死刑を求めた一方、弁護側は起訴後に裁判所が行った別の精神科医による鑑定を基に、被告は心神耗弱であり無期懲役が相当と反論していた。

 家令和典裁判長は判決理由で「対人関係の対応力に難がある」「問題解決の視野が狭く自己中心的」などの点から「自閉スペクトラム症(ASD)の特性」があり、うつ状態でもあったとした。しかし、看護師の仕事をできており、うつ病とまでは言えず、統合失調症の特有の症状もなくその他の「精神障害はない」と認定した。

 自分が対応しなくても良い時間帯に被害者を死亡させるための犯行手段を選んでおり、善悪を判断する能力や行動を制御する能力は著しく減退していなかったと判断し、完全責任能力を認めた。


◆3人以上殺害は「原則死刑」だが…

 それでも、判決が、死刑ではなく、無期懲役を選んだのはなぜか—。

 死刑と無期懲役を分けるポイントについて、動機や殺害方法の残虐性など9項目を挙げた最高裁の「永山基準」がある。最高裁の司法研修所が2012年にまとめた研究報告によると、09年までの30年間に死刑か無期が確定した殺人・強盗殺人事件346件を分析し、「最も大きな要素は被害者数」と結論づけている。

 元東京高裁部総括判事の三好幹夫弁護士は「3人以上殺害された事件では特殊事情がなければ、死刑を原則に考える」と明かす。

 今回の特殊事情として三好弁護士が注目するのは、判決の「動機形成過程には、被告の努力ではいかんともし難い事情が色濃く影響しており、酌むべき事情と言える」という部分。被告の精神状態だ。


 判決は、被告はASDの特性から臨機応変な対応が苦手な中、採用時の説明と異なり延命措置をしなければならず、ストレスをため込み、うつ状態となったが、仕事を続けた結果、「視野狭窄きょうさく的心境に陥り、一時的な不安軽減を求めて患者を消し去る他ないという短絡的な発想に至り、犯行を繰り返した」と認定した。

 三好弁護士は、正当防衛の認定を例に挙げ、「認定するための要件は満たさなくても、正当防衛に近い事情があれば量刑判断の際に考慮することがある」と説明。「今回の犯行自体は計画的で緻密に行っており、完全責任能力は認められる。しかし、精神障害とは言えないとしても、心神耗弱に近い精神状態だったと判断し、死刑にしなければならないとまでは言えないと判断したのではないか」と話した。


 永山基準 1968年に起きた4人連続射殺事件の永山則夫元死刑囚(犯行当時19歳、97年執行)に対する83年の最高裁判決が示した死刑の適用基準。@犯行の罪質A動機B事件の態様、特に殺害方法の執拗しつよう性、残虐性C結果の重大性、特に被害者の数D遺族の被害感情E社会的影響F被告の年齢G前科H犯行後の情状—を考慮し、刑事責任が極めて重大で、犯罪予防などの観点からやむを得ない場合には、死刑の選択が許されるとした。
 

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コメント
1. 中川隆[-15384] koaQ7Jey 2021年11月11日 05:52:58 : N6zpS5ezAw : Uy9UNkFvUTlYZm8=[11] 報告
元看護師に無期懲役判決「娘の言うことを聞いていれば…」母親が悔やむ犯行3カ月前の説得 旧大口病院事件
2021年11月9日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/141538


 横浜市の旧大口病院(現横浜はじめ病院・休診中)で2016年9月、入院患者3人の点滴に消毒液を混入して中毒死させた事件で、殺人罪などに問われ、無期懲役の判決を言い渡された元看護師久保木愛弓あゆみ被告(34)。11回にわたった裁判では、被告が事件の3カ月前に看護師を辞めようと悩み、母親に相談したことが明らかにされた。なぜ被告は仕事を続け、事件を起こしたのかー。(デジタル編集部)


旧大口病院の点滴連続中毒死事件 起訴状によると、久保木被告は2016年9月15〜19日ごろ、いずれも入院患者の興津朝江さん=当時(78)=と西川惣蔵さん=同(88)、八巻信雄さん=同(88)=の点滴に消毒液を混入して同16〜20日ごろに殺害し、さらに殺害目的で同18〜19日ごろ、点滴袋5個に消毒液を入れたとされる。

◆「エプロン事件が怖い」
 2016年6月、母親は久保木被告から電話を受けた。「エプロンの事件があって、怖いから辞めようかな」

 この1カ月ほど前、母親は、久保木被告が勤務する大口病院で、看護師のエプロンが切られたり、ポーチに注射針が刺されたりするトラブルが相次いでいると聞かされていた。久保木被告から電話があることは珍しかった。
 「大口病院は怖いな。気味が悪いな」。こう感じていた母親は、病院を辞めること自体は賛成だった。ただとっさに考えて言った。「ボーナスをもらってから辞めれば」

 結局、久保木被告は大口病院を辞めず、そのまま仕事を続けた。「ボーナスをもらってすぐに辞めるのは気まずいと思ったのか」と母親は娘の胸中を推測し、こう振り返った。

 「今は愛弓のことを聞いて、辞めていればと申し訳なく思っている」


◆授業参観「母親に後で叱られる」

 久保木被告は1987年1月7日に生まれた。一家は両親と弟の4人暮らし。幼少期は水戸市で育ち、中学校で父親の転勤に伴い、神奈川県伊勢原市に引っ越した。母親によると、「学力は中の中、おとなしく目立たない子」だった。

 父親が久保木被告の小学校4−6年時に海外に単身赴任したり、思春期になって「男親なので」と子育てから手を引くようになったりしたため、子育ての中心は母親だった。

 父親は母親と娘の関係について「過干渉っていう感じだった。持ち物検査や小遣いのチェックが非常に厳しかった」と語った。

 事件後、久保木被告は面接した臨床心理士に「小学校の授業参観が嫌でしょうがなかった」と話した。日頃から「積極的になった方がいい」と母親によくしかられ、休み時間で1人でいるところを見られると、後で怒られてしまうためだ。
 臨床心理士は「目つきが悪い、愛想良くしなさいとか、表情の作り方でも母親の指導を受けていた。ありのままを母に受けいれてもらえなかった」と話し、そのことが久保木被告の自己肯定感の低い性格形成につながったのではと分析した。

 高校進学後に看護師の道を選んだのも母親の勧めだった。「愛弓が高校3年生のころは不景気で、就職がなく、手に職がつくと年をとっても役に立つ。看護師免許があるといいんじゃないかと。看護師は人の役に立つ仕事で収入がよく、愛弓はおだやかでこつこつやるタイプだからできると思った」


◆出会い系サイト利用「褒められるのがうれしくて」

 看護師になるため専門学校に進んだ久保木被告は、すぐに自分には不向きだと感じだという。「実習が苦手でした」

 学科の成績は中くらいで、30科目のうち、Cは3つでほかはA、Bだったが、実習は24科目のうちCが9科目あったという。
 それでも久保木被告は学校を辞めなかった。「学費を両親に出してもらっていたので、卒業しなければと思っていたのと、奨学金をいただいていて返済が必要だった」

 専門学校が実家から遠かったため、2年目から寮で暮らすようになり、2008年に横浜市内の病院に就職した。当初は、リハビリ業務を担当したが、なかなかうまくいかなかった。プライベートでは、出会い系サイトで男性に会ったりしたこともあった。「男性と会うと褒められるのがうれしくて」。久保木被告は事件後に接見した臨床心理士にこう説明した。

 それでも看護師の仕事は「大変でしたがやりがいがあるものでした」と感じていた。「退院した患者さんが病棟に来てくれることがあり、元気な姿を見るのがとてもうれしかった」。奨学金の返済も終わったが、そのまま仕事を続けた。

 だが、3年後に異動して急変患者の対応をするようになって、一変する。点滴の注射に手間取って、患者の家族から「早くしてよ。死んじゃうじゃない」と責められた。抑うつ症状があらわれ、14年4月から精神科に通い始めた。コンビニでおかしや食べ物を買い、食べたものを下剤を飲んで出す。睡眠剤の過剰摂取「オーバードーズ」もしていた。休職したものの、15年4月に退職した。

◆「発する言葉が私に突き刺さった」

 久保木被告は翌5月、終末期患者を多く受け入れていた大口病院に再就職した。「私の学歴や能力では一般の企業にとってもらえない」と感じていた。ネットで調べてみると、大口病院は蘇生措置をしない同意を事前に多くの患者から取っていることが分かり、自分が延命措置をしなくても良いと思った。

 ただ、働いてみると、想像と違っていた。夕方から翌朝まで勤務する夜勤が1カ月に8〜10回ほどあり、夜勤明けはベッドから出られない日があるほどくたくただった。心臓マッサージといった措置をする一方で、1日に何人もの患者が亡くなることもあった。「終末期なので亡くなるはずだったから、と割り切ることができませんでした」

 体力的にも精神的にも追い詰められていた16年4月、入院患者が急変して亡くなった。急変を発見したのは久保木被告だった。遺族からは「看護師に殺された」と責められた。説明は同僚が行い、被告だけが怒られたわけではなかったが、「発する言葉が、私に突き刺さる印象でした」と恐怖心を募らせた。

 久保木被告が、母親に打ち明けた看護師のエプロンが切られたり、ポーチに注射針が刺されたりするトラブルが起きたのは、ちょうどこの頃だった。


◆4つのトラブル「私です」
 裁判の被告人質問で、弁護人は久保木被告にこれらのトラブルをだれがやったかについて知っているか尋ねた。病院ではこのほか、患者のカルテが破られたり、印鑑が壊されたりするようなことも起きていた。

弁護人 エプロンは
被告 私です
弁護人 カルテは
被告 私です
弁護人 印鑑は
被告 私です
弁護人 ポーチに針を刺したのは
被告 私です

 これらのトラブルは久保木被告自身が行ったものだったと明かした。「エプロンの事件があって、怖いから辞めようかな」。16年6月にこう母親に伝えるための自作自演だったのか。

 久保木被告は法廷でカルテを破ったことについては「書き間違えてしまった」と理由を話した。だが、ほかについては「分かりません」と繰り返した。
 それから3カ月後の16年9月、久保木被告は入院患者3人の点滴袋に消毒液を入れて殺害したとされる。「自分の勤務時間外に患者が死亡すれば、患者の家族への対応を避けられる」という身勝手な理由だった。

 ただ被告は精神鑑定を行った医師に、これらの事件前にも「(消毒液の)混入により複数死亡させた」と説明したといい、もっと前から犯行が行われていた可能性がある。

 大口病院での事件は、3人目の八巻信雄さん=当時(88)=が殺害された際に、別の看護師が点滴が泡立っているのに気付き、消毒液の混入事件が発覚。報道もされるようになった。16年11月、実家に戻ってきた久保木被告に両親は「愛弓じゃないよね?」と尋ねた。久保木被告は首を振って「違う」と否定した。


◆「信じていたのに…」母親は娘を平手打ちした
 1年半ほど経った18年6月30日、自宅にいた母親の携帯電話が鳴った。かけてきたのは久保木被告だった。「実は私、事件に関わっています」。母親はこの日警察から大口病院の事件で事情聴取を受けることは聞いていた。だが「愛弓が犯人であると、愛弓自身が話したことは、信じられませんでした。以前聞いた時には否定していたので」

 驚いた母親が「1人でやったの?」と聞くと、久保木被告は「そうだ」と答えた。

 話しているうちに、すぐに電話の相手は警察官に代わった。警察官から「逮捕まで時間がある。ホテルを用意するので近くで見守ってほしい」と言われ、久保木被告と会うことになった。部屋に入ってきた久保木被告のほほを母親は平手打ちし、そして抱き締めながら言った。「なんでこんなことをしたの、信じていたのに」。久保木被告は答えることなく、ただ泣いていた。

 その日は二段ベッドの上で父親が、下で母親と久保木被告が一緒に寝た。母親は「なぜこんなことをしたの」と尋ねた。

 久保木被告は、最初の病院で「急変した患者の家族から強い言葉を言われて怖い思いをした」と言い、大口病院でも同じような経験をしたと話した。「急変の患者には関わりたくない、遺族から強い言葉で言われたくない。自分に当たらないようにするために事件を起こした」と動機を語った。

 母親が「つらかったでしょ、こんな事件を起こす前に辞めれば良かったのに」と言うと、久保木被告は「そうだよね」というような表情を見せたという。
 
 翌7月1日朝、ホテルの部屋を出て行く久保木被告は、両親に神妙な表情を浮かべて言った。「お世話になりました。全て話してきます」


◆死んで償いたい
 一連の裁判で、父親は法廷に出廷した。母親は姿を見せず、供述調書が法廷で読み上げられた。父親は逮捕後は遠方にいるため、面会は1年に1回ほど。母親と一緒に来ることもあったが、2020年9月に最後に会った時は父親だけだったという。

 父親は面会時の様子について「顔を合わせると、涙が出てしまう」と話した。事件後には両親が被告のために貯めた結婚資金300万円と、被告の貯金300万円を遺族への賠償金として準備したとも明かした。だが、遺族の処罰感情は強く、1遺族に事件で来日したアメリカに住む親族の交通費として200万円を受け取ってもらった以外は、受け取りを拒否されている。

 弁護人は、被告人質問で久保木被告にこう尋ねている。
 
弁護人 「戻れるとしたら、いつに戻りたい」
被告 「大口病院に入職する前です」
弁護人 「どうすべきだった」
被告 「看護師をやめるべきだったと思います」


 久保木被告は、裁判の最終陳述で準備してきた紙を読み上げた。

 「裁判では遺族にお詫びできればと考え、お詫びの気持ちを伝えました。許してもらえないことをしたと思っています。死んで償いたいと思っています」
無期懲役判決に「はい」

 9日に行われた判決公判。家令和典裁判長は無期懲役の判決を言い渡した。久保木被告が法廷で自分に不利益な事情も素直に語ったことや、「死んで償いたい」と語ったことから「更生可能性も認められます」と判断した。

 「わかりましたか?」。家令裁判長が無期懲役の判決を言い渡した後にこう尋ねると、久保木被告は「はい」とはっきりした声で返事した。さらに裁判長は被告に向かい、「各犯行について慎重に検討しました。苦しい評議でしたが、無期懲役としました。生涯をかけて償ってほしいと思っています」と語りかけた。被告の表情は変わらなかった。

2. 中川隆[-15362] koaQ7Jey 2021年11月11日 11:40:47 : N6zpS5ezAw : Uy9UNkFvUTlYZm8=[36] 報告
《大口病院点滴殺人》法廷中が仰天した“白衣の堕天使”死刑回避のワケは「出会い系依存、声優ライブ通い、母娘関係…」
「文春オンライン」特集班
https://bunshun.jp/articles/-/49947

《主文、被告人を無期懲役に処する》

 11月9日、横浜地裁で家令和典裁判長は“白衣の堕天使”に対してこう言い渡した。この判決に、現場では多くの司法記者が困惑したという。

「今回は“主文後回し”だったんです。主文には被告に対して下される刑罰が記されていて、通常の判決公判ではまず主文が読み上げられ、その後になぜその刑が下されるのかについての説明があります。ただ、重い刑罰が下されるときには、被告人が動揺してその後の話を聞けなくなってしまうからなどといった理由で、主文が後回しにされるんです。


 ですから主文後回しになった時点で、多くの裁判担当記者は死刑なんだと思ったはずです。そもそも検察からは死刑が求刑されていましたし、これまでの判例を考慮しても死刑判決が妥当です。だから《無期懲役》と聞いたときには慌ててしまい、判決を言い渡されたときの被告の様子を見逃してしまいましたよ……」(社会部司法記者)


 司法記者らを困惑させたのは、「大口病院点滴連続殺人事件」への判決だ。この事件については、文春オンラインもこれまで何度も報じてきた(#1、#2、#3、#4、#5)が、今一度事件の概要を振り返ってみよう。

48人死亡 戦後事件史に残る重大事件
 2016年7月以降、横浜市神奈川区の旧大口病院の終末期フロアで2カ月あまりの期間に、48人もの患者が相次いで亡くなった。犯人として捜査線上に浮かんだのが元看護師である久保木愛弓被告(34)だ。捜査は難航したが、亡くなった入院患者のうち男女3人の点滴に消毒液を混入して中毒死させたとして、事件発覚から1年9カ月後に逮捕された。


 久保木被告は警察の取り調べに対し、「20人くらいやった」と供述しており、戦後の事件史に残る重大事件として、世間の注目を集めた。そして今年10月1日から、久保木被告の裁判員裁判が複数回にわたって開かれた。

 争点になったのは、「久保木被告の責任能力の程度」についてだ。

 検察側は犯行当時の久保木被告について、《完全責任能力はあった》と主張。《軽度の自閉スペクトラム症でうつ病ではあったが、犯行への影響は遠因にすぎず、犯行の意思決定及び実行の過程に精神障害が及ぼした影響は極めて小さい》として、《死亡した患者の遺族の対応をしたくない》という《身勝手極まりない動機に酌量の余地はない》と死刑を求刑した。

 一方の、弁護側は別の医師の鑑定を根拠に、被告人は《心神耗弱》であったと反論。《犯行当時は自閉スペクトラム症ではなく、統合失調症に罹患しており、前駆期の症状が犯行に影響を与え、動機を達成する手段として、目的に不釣り合いな死という結果をもたらす、殺害という手段を選択した点に統合失調症の症状が強く影響していた》として、《無期懲役》を求めていた。


久保木被告に“歩み寄っていく”判決文
「判決は、まず量刑の説明から始まったのですが、それぞれの主張に対して、検察に軍配が上がったんです。裁判官は《犯行手段を選択し、自身の犯行が発覚しないように注意して各犯行に及んでおり、自身の行為が違法なものであることを認識しつつ、合理的に各犯行に及んでいる》として、《自閉スペクトラム症の特性がありうつ状態であったことを精神の障害とみるとしても被告人の行動制御能力が著しく減退はしていなかった》と説明しました。

 これを聞いた司法記者の中には、慌てて法廷を出て本社に電話をし、『想定通り死刑になりそうです』と報告した人もいたようです」(別の司法担当記者)

 しかしながら、判決文は久保木被告に歩み寄っていった。


 自閉スペクトラム症の特性のある久保木被告については、《複数のことが同時に処理できない》《対人関係等の対応力に難がある》など《看護師に求められる資質に恵まれていなかった》。これを自覚していた久保木被告は、事件の起こる前年6月、母親に仕事を辞める相談をしたが《ボーナスが出るまでは続けたほうがよいのではないか》とアドバイスされ、辞める決断ができなかった。

 そのような中で、《一時的な不安(死亡した患者の遺族対応)軽減を求めて担当する患者を消し去るという短絡的な発想にいたり犯行を繰り返した》。《このような動機形成過程には被告人の努力ではいかんともしがたい事情が色濃く影響しており、被告人に酌むべき事情といえる》としたのだ。


“久保木寄り”の判決文に傍聴席は動揺
 判決文が久保木被告寄りになっていくにつれ、傍聴席にも動揺の空気が流れだした。そんななか、冒頭のように無期懲役の判決が下されたのだ。

「しかも裁判官は《被告人質問では償いの仕方がわからないと述べていた被告人が、最終陳述では「死んで償いたい」と述べ、前科前歴がなく更生の可能性も認められる》と指摘しました。だから《死刑を選択することには躊躇を感じざるを得ず、生涯をかけて自身の犯した罪の重さと向き合わせることにより、償いをさせるとともに、更生の道を歩ませるのが相当であると判断した》と。

 これではまるで、自分たちの裁判で久保木被告が更生への一歩を踏み出したからもう大丈夫、と言っているようです。正直、被告人質問から最終陳述のくだりは納得できません」(前出・社会部司法記者)

 この社会部司法記者は「争点となっていた完全責任能力を認められたのに、なぜ死刑にならなかったのでしょうか」と首を傾げる。


「“生きづらさ”を考慮しても死刑が妥当」
「死刑は一般的に2人以上を殺した上で、動機や被害者の遺族感情などさまざまな指標を元に判断します。最近では裁判員裁判の影響もあり、殺したのが1人でも死刑判決が出るケースも増えている印象です。

 久保木被告は判決で言われている通り、身勝手な動機で被害者に壮絶な死を強いたわけです。しかも本当の被害者は3人どころではないですからね。久保木被告のこれまでの“生きづらさ”を考慮しても、責任能力があると認定されれば、死刑が妥当であるように思います」

 これまでの公判を振り返ると、久保木被告の《対人関係等の対応力に難がある》とされる性質についての証言はいくつかあった。弁護側の情状証人として法廷に立った臨床心理士は、久保木被告の面談で聞き取った“孤独な少女時代”について証言している。

出会い系で男性と会って自尊心を満たした
 幼少期は母親に叱られることを恐れ、学生時代も仲のいい友人ができずに孤立していたという。看護師の専門学校に入ってからは、患者と上手くコミュニケーションが取れない、患者の状況に応じた観察記録が書けないなど、自閉症スペクトラムの性質ゆえの苦難があったようだ。

「病院に就職してからも現場で上手く対応できず、ストレスをためていたようです。それで寮の壁を蹴って穴をあけたりしていたと。印象的だったのは、出会い系サイトを利用していたことでしょうか。男性と会うと褒められるため、それで自尊心を満たしていたようです。ほかにも1人で声優のライブに行っていたこともあったようです。確かにそういったエピソードからは、久保木被告の孤独や困難が浮かび上がる面もあります。ただ、久保木被告が犯した罪を考えると、それで罪が軽くなるとは思えませんよ。

 無期懲役を言い渡された後、家令裁判長に『わかりましたか』と聞かれたときの久保木被告の『はい』という返事は、いつもボソボソ小さな声でしゃべる中でもっとも明るく、元気があったように感じたのは気のせいでしょうか……」(前出・社会部司法記者)

 想定外の極刑回避について、遺族も混乱している。亡くなった西川惣蔵さん(当時88)の遺族はこうコメントしている。

「3人を殺害したという事実や、完全な責任能力があることなどはすべて認められたのに、謝罪を述べたことや、公判の最後に死んで償うと述べたこと、被告人の経歴、性格などから無期懲役の選択がなされたという判断には納得がいきません」

 この事件に関してはまだ一審が終わったばかり。今後の展開に注目が集まる。

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