子どもを産み育てられる社会に 低所得で結婚も出産もできない現実… 世界人口の急増と裏腹な実態 2021年4月13日 https://www.chosyu-journal.jp/shakai/20774 日本社会が抱える問題のうち、もっとも深刻な問題といわれている人口減少・少子高齢化。なかでも若い世代の減少そのものである「少子化」によって、高齢人口と労働力人口のバランスが崩れ、税収、医療、介護、年金、労働など社会の存続にとって不可欠な制度が維持できないほどにまで落ち込み、消費の減退によって経済にも大きな打撃を与えている。出生数の減少、また、生まれてきた子どもたちの育っていく環境も、貧困、虐待、格差、自殺など、過酷なものになっている。こうしたなかで最近、自民党内から子どもに関する問題に一元的に対応する「子ども庁」設置の提言がなされ、今月1日、菅首相が党総裁の直属機関をつくり検討することを二階幹事長に指示するなど、次期選挙を見据えた動きが始まっている。今の子どもたちをとりまくさまざまな問題は、縦割り行政の解消を目玉にした「子ども庁」創設などで解決できるものなのか。日本社会の現状を、人口、とりわけ出生数の動きを中心に見てみた。
人口減少の真っただ中にある日本の人口は現在1億2548万人(3月1日現在の概算値)だが、今後も減り続け、2065年には総人口が9000万人を割り込み、高齢化率は38%台の水準になると推計されている。 人口減少の最大の要因となっている少子化だが、出生数の減少はすさまじく、1971(昭和46)年からの第二次ベビーブームを最後に右肩下がりとなっている。2005年には出生数を死亡数が上回り、初めての人口の自然減となったが、その後も出生数は減り続け、2016年には初めて100万人を割り込んだ。そのわずか3年後の2019年には90万人を割り込み、新型コロナを経た2021年は前年の妊娠届の減少状況から80万人を割り込むのではないかとの予測まで出始めている【グラフ@参照】。 また、一人の女性が生涯何人の子どもを産むのかを推計した合計特殊出生率は、2019(令和元)年で1・36となっている。人口を維持できる「人口置換水準」は2・07とされているが、日本はこれを1975(昭和50)年ごろから下回り続けている。日本で人口減少が始まったのは2008年だが、それ以前から40年以上にわたる出生数の低下によってもたらされた少子化、若年層の減少が高齢化社会をつくりだしてきた。そのことによって労働力不足に陥り、社会制度の維持が限界を迎えはじめた今ごろになって大騒ぎを始め、「高齢者の医療費が若い世代の保険料の負担増加につながっている」「元気で働く意欲のある高齢者が活躍できる社会」「女性が輝く社会」などの欺瞞で制度改悪をおこなおうとしているのが今の日本社会の現状となっている。 出生数低下の原因 若者と女性の貧困化 国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、夫婦の最終的な平均出生子ども数である「完結出生児数」は戦後一旦大きく減り、その後は1977年の2・19人から、2010年には2人を割り込んで1・96人となり、2015年は1・94人となっている。1977年の調査時と比較して、子どもを持たない夫婦もしくは子ども1人の夫婦が増加し、3人もしくは4人以上の子どもを持つ夫婦が減少したことによるものだ。晩婚化が進むなかで第一子出産時の母の平均年齢は、1980年代の26・4歳から2016年には30・7歳まで引き上がった。 子どもを産むことができる期間が短くなっていくことによって最終的な子ども数が少なくなるのは当然だが、それでも多くの夫婦が2人もしくはそれ以上の子どもを産み育てていることがわかる。しかし前記のとおり、出生率、合計特殊出生率がともに下がり続けていることの根源には、母親になる女性が減っていることがあげられる。 日本の場合、出産するほとんどが婚姻女性であることから、婚姻数と出生数は密接に関係しているが、近年、婚姻数、婚姻率(人口1000人あたりに占める割合)は下がり続けている。2018(平成30)年には婚姻数が60万組を割り込んで58万6481組となった。2019(令和元)年には「令和婚」の影響でわずかに増えたが、翌2020(令和2)年には再び下がる見込みとなっている。一方で高まっているのが生涯未婚率【グラフA参照】。国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、生涯未婚率(50歳になった時点で一度も結婚をしたことがない人の割合)は、2015年時点で男性23・37%、女性14・6%まで高まっている。 結婚できない、もしくはしない人々の増加の背景には、生き方や価値観と関わって時代の変化も反映しているものの、若い世代の低所得化が大きくかかわっている。非正規雇用が働く人々に占める割合は第二次安倍政権のもとでさらに拡大し、1980年代の1割から4割まで上昇した。行政の現場ですら非正規雇用が3分の1〜2分の1を占めるなど、本来であれば正規雇用でやってきたところを非正規雇用の労働力に頼っている。正社員の平均給与が503万円なのに対して非正規雇用の年収は175万円(2019年分)。これは未婚率にも大きく影響しており、30〜34歳の男性で見ると、正社員で結婚している人の割合が6割近いのに対して、非正規では派遣労働者で23・8%、パート・アルバイトでは17・1%など、その差は歴然としている。新型コロナ禍の需要低迷で真っ先に職を失ったのが非正規労働者だったが、いつ職を失うかもわからない不安定ななかで結婚・出産など考えることはできないのが現実だ。 また正社員であっても、生活を維持していくためには夫婦共働きでなければならない時代になっており、その子ども世代が高校を卒業し大学に進学するさいには奨学金を借りながら学ぶことが今や珍しくなくなっている。社会に巣立つと同時に数百万円の返済が始まることから、とくに都市部では20代のうちの結婚は考えられず、「結婚は30代になってから」という若者が多くいる。40年間にわたる少子化によって、ただでさえ少なくなっている若い世代が結婚し親になることができず、その結果、晩婚化や晩産化、少子化がさらに進んでいく。また子どもを産んだとしても所得が少ないことによる貧困化も著しく、夫婦間トラブルや虐待、離婚など、子どもを巻き込んだ悲劇にも繋がっていく。 若い母親たちのなかでは、生活のために出産後働きたくても保育園に預けることができず貯金を切り崩しながら生活していることが語られ、保育現場では子どもを受け入れたいが募集しても保育士が集まらないことが深刻さをともなって語られている。小学校にあがれば、放課後児童クラブの入所を希望しても入れないなど、社会構造の変化によって生じているニーズに制度が間に合っていない。加えて税収減による自治体の財政難から、これまでおこなってきたさまざまな住民サービスが削られる時代になっており、そのことが子どもを育てる世代にますます子育てのしにくさを押し付けているが、これもまた少子化の産物といえる。 まぎれもなく少子化をはじめとした子どもたちをめぐる問題は、市場原理主義に貫かれた社会構造によってもたらされた結果である。非正規労働者、女性、外国人、高齢者と、安い労働力を使って利益を増大させる大企業と、それが日本社会の未来にとってどのような影響をもたらすのかを考えぬまま放任してきた国によって、日本は労働力の再生産もままならない弱体国家となった。その原因を作ってきた側が結果だけに目を向けて「子ども庁」を創設して解決するものではない。 「子どもは宝」をうたうのであれば、誰もが安心して子どもを産み育てられる社会にすることが最優先課題であり、持続可能な日本社会をつくっていく唯一の道となっている。 資本主義体制の斜陽を反映 先進国ほど深刻な少子化 日本国内の少子化に歯止めがかからない一方で、世界的な人口の推移を見てみると、各地域で増え続けており、今後も増加し続けることが予測されている。国連が調査しまとめた最新の「世界人口推計2019年版」によると、地球人口は現在の77億人から2030年には約85億人に(10%増)、さらに2050年までに約97億人(26%増)に達する見込みとなっている。アフリカなどの発展途上国に比べ、先進国では出生率が低下している。そのなかでも高水準を維持している国のとりくみ、国による家庭への財政支出の割合と出生率との関連性などを見てみた。 世界的に人口は増加傾向だが、増加率は地域によって差がある。世界人口増を担っているのがサハラ以南のアフリカ地域の国々であり、この地域では2050年までに人口が倍増すると見られている。その他にもオーストラリアとニュージーランドを除くオセアニアで56%、北アフリカ・西アジアで46%、オーストラリアとニュージーランドで28%、中央・南アジア25%、ラテンアメリカ・カリブで18%、東・東南アジア3%、欧州・北米2%とそれぞれ増加の見込みとなっている(グラフB参照)。 2019年から2050年にかけ、最も大幅な人口増加が起きると見られるのは、予測される人口増が多い順にインド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア連合共和国、インドネシア、エジプト、米国となっており、この9カ国だけで全世界で予測される人口増の半分以上を占める。またインドは2027年頃、中国を抜いて世界で最も人口が多い国になると見られている。 経済発展には、農業から工業への産業構造の転換と中間所得層の増加が重要だが、アフリカにはまだこの転換を終えていない国々が多い。地方に住む多くのアフリカ人は農業に従事しており、家計維持のために大規模な家族が必要となる。もちろん幼くして死ぬ子どもの数が多いことも背景にある。このようにアフリカにとって「多産」には多くの意味があるが、根本にあるのは深刻な貧困だ。 だがここへ来てサハラ以南のアフリカ地域のほとんどの国、アジアやラテンアメリカ・カリブ地域の一部の国では人口増加は今後も続くが、出生率が低下傾向にあることから、15〜64歳までの「生産年齢人口」の割合が多くなる。そのためこれらの地域では「人口ボーナス」と呼ばれる著しい経済成長の見込みもあるとされている。 世界全体でも高齢化が進行 人口増加傾向があるなか世界人口全体で見ると高齢化が進んでおり、65歳以上の年齢層の拡大は最速となっている。2018年には全世界の65歳以上の人口が五歳未満の子どもの数を初めて上回った。現在世界人口の11人に1人(9%)が65歳以上だが、この割合は今後さらに増え、2050年までに6人に1人(16%)となる見込みだ。80歳以上の人口も2050年には現在の3倍にあたる4億2600万人へと増えることが予測されている。 65歳以上人口に対する15〜64歳の生産年齢人口の割合を示す「潜在扶養指数」は、全世界で低下を続けている。日本はこの率が世界でもっとも低い1・8となっている。また、欧州とカリブを中心とする29カ国では、すでに潜在扶養指数が3を下回っており、2050年までに、欧州・北米、東・東南アジアをはじめとする48カ国では、潜在扶養指数が2を下回ると見られている。これについて国連は資料のなかで「こうした低い数値は、高齢化が労働市場と経済実績に及ぼす潜在的な影響のほか、多くの国が高齢者向けの公的医療、年金および社会保障制度を構築、維持しようとする中で、今後数十年で直面することになる財政圧力を如実に示している」と指摘している。 先進国で軒並み出生率低下 各国の出生に関するデータとして、国の人口の増減に関連する指標となる合計特殊出生率についての各国の現状と推移を、内閣府が昨年7月に「少子化社会対策白書」のなかでまとめている。合計特殊出生率は、人口構成の偏りを排除し、一人の女性が一生に産む子どもの数の平均値である。医療技術や栄養状態が良好な現代先進国において、自然増と自然減との境目は、合計特殊出生率でおよそ2・07とされている。2018年時点で見ると先進国の中でも、アメリカ(1・73)、イギリス(1・7)、フランス(1・88)、スウェーデン(1・75)などは比較的高いものの2・0には届いていない。また日本(1・42)、ドイツ(1・57)、イタリア(1・29)などは低水準となっている。 合計特殊出生率が世界最低水準の韓国では昨年0・84と前年比0・8減。人口は5182万9000人となり、1年間で2万人の人口が減った。これは統計をとり始めて以降初めてのことで、政府予想よりも9年速く人口減少が始まっている。 日本では2019年に合計特殊出生率が1・36まで落ち込んでいる。国は合計特殊出生率を既婚・未婚を問わない国民の希望出生率である1・8まで引き上げることを目標と定めているが、現実は厳しい状態が続いている。 2010年以来、27の国と地域で人口が1%以上の減少を示している。この人口減の原因は低い出生率と、場所によっては高い移民流出率が挙げられる。また、2019年から2050年にかけ、55の国と地域で人口が1%以上減少すると予測されているが、うち26の国と地域では、10%以上の人口減少が見られる可能性もある。 中国では、2019年から2050年にかけて人口が3140万人、2・2%減少すると予測されている。 日本でも人口減少は加速している。総務省が公表した昨年1月1日時点の住民基本台帳に基づく人口動態調査によると、日本の人口は約1億2714万人だった。日本人は前年から約50万5000人減少しており、1968年の現行調査開始以来、最大の減少数となり、初めて50万人超の減少となった。日本の人口は2009年から11年連続で減少している。その一方で、昨年の外国人は前年比約19万9500人増の約286万7000人と高い伸びを記録した。日本全体での外国人住民の割合は2・25%となった。 社会保障の充実度のちがい ヨーロッパ諸国でも人口減少のスピードが日本よりも速い国もあるが、現在の人口を維持または増加に転じると予測されている国もある。スイスでは2040年までに10・3%、スウェーデンでは9%、フランスでは3・5%とそれぞれ増加すると予測されている。フランス、スイス、ドイツなどでは2000年以降に合計特殊出生率が回復を見せており、高所得国の平均を上回っている。一方で日本の合計特殊出生率は極端に低くなっている。 合計特殊出生率が高い国は、国内総生産(GDP)に占める家族への社会保障支出が軒並み高いことが特徴となっている。(グラフ参照)いい換えると政府による国民への財政支出の割合が少ない国ほど子どもを産み育てられる環境から遠ざかっていることになる。 フランスの合計特殊出生率は1993年に1・66まで落ちこんだが、2006年に2・00に戻った。フランスのGDPに占める家族給付支出は北欧と並んで先進国トップクラスで、日本の倍以上となっている。フランスは19世紀後半から死亡率が出生率を上回る状況が見られるようになり、長期にわたって少子化対策・家族政策を講じており、欧州でもトップクラスの「少子化対策先進国」といわれている。例えば、児童手当制度が日本で創設されたのは1971年だが、フランスの家族手当は1932年にはすでに公的制度として導入されている。 また、フランスでは1946年から子どもの数が多いほど所得税の課税額が減る仕組みである「N分N乗方式」を導入している。他の先進国が子育て費用に関して「税額控除方式」を採用して課税単位を「個人」としたのに対し、フランスでは「家族」を課税単位とする。詳しい計算方法は割愛するが、子どもの数が多いほど世帯所得を割る「家族係数」の数が大きくなるため、家族全体の税額負担が軽くなる仕組みだ。 スウェーデンも人口増が見込まれる先進国の一つだ。同国では1970年代から家族政策を導入し、妊娠から出産までにかかる費用はすべて無料、保育サービスの自己負担の上限設置、義務教育から大学まで無料など、子どもを持つことによる経済的な負担が抑えられている。これらの社会福祉を国民の高い税負担でまかなっているが、地方議員の大部分が会社員や看護師、大学教員、農家など政治家とは別の本業を持った「兼業議員」であることなどから国民が積極的に地方自治に参加しやすい環境であること、経済格差は国の所得再配分や地方自治体による現物支給によって保障されていることなど、税の公平性が目に見えやすいことが高負担高福祉を助けていると見られている。 また、合計特殊出生率が高いフランスやスウェーデンでは婚外子や同棲の割合が高い。これはフランスのパクス(連帯市民協約)やスウェーデンのサムボ(同棲)などといった、法律婚や教会婚よりも関係の成立・解消の手続が簡略で、結婚に準じた法的保護を受けることができる制度があるためである。こうした背景から、総出生数に対する婚外子比率はフランスで59・7%、スウェーデンで54・9%など、0ECD平均の39・7%を大きく上回っている。 ちなみに日本の婚外子比率はわずか2・3%と極端に低い。宗教・民族の違いからカップル同士の法律婚の定義が異なり、事実婚などが多い海外に比べ、出産=結婚という流れが主流である日本では、未婚率の改善が出生率向上に直結しているといえる。 https://www.chosyu-journal.jp/shakai/20774
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