2020年5月7日 「半自粛」のススメ 〜専門家会議は、感染抑止もできないし経済社会を大きく傷付ける「新しい生活様式」を即刻取り下げよ!〜 From 藤井聡@京都大学大学院教授 https://38news.jp/economy/15822 緊急事態宣言の延長にあわせて、専門家会議から「新しい生活様式」が提案されました。 https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/view/detail/detail_08.html この内容は、この提案をできるだけ「わかりやすく」纏めているNHKのサイト情報には、以下のように掲載されています。 ―――――――――――――――――――― 感染防止の3つの基本 @身体的距離の確保 Aマスクの着用 B手洗い 人との間隔はできるだけ2m(最低1m)空ける 遊びに行くなら屋内より屋外を選ぶ 会話をする際は可能な限り真正面を避ける 外出時、屋内にいるときや会話をするときは症状がなくてもマスクを着用 家に帰ったらまず手や顔を洗う できるだけすぐに着替える、シャワーを浴びる 手洗いは30秒程度かけて水と石けんで丁寧に洗う(手指消毒薬の使用も可) ※高齢者や持病のあるような重症化リスクの高い人と会う際には体調管理をより厳重にする ―――――――――――――――――――― もうこれだけでも項目数が多いですが、実は、これは単なる「序の口」で。その全文はこの何倍もの分量になります。全文は、文末の付録に掲載しますので、雰囲気だけでもご確認頂く趣旨で、文末をさっとご覧になってみてください。 ・・・いかがでしょうか? 当方はコレを見たとき、あまりの理不尽さに、激しい憤りを感じました。 これでは感染症の拡大は防げないからです。 しかもこれでは、私達の社会も経済も大きく傷付くからです。 以下、その理由を説明します。 第一に、項目が多すぎで、誰も守れない。 上に記載した「感染防止の3つの基本」だけでも補足事項が多すぎるし、付録に記載した項目も含めれば、その情報量文字通り「膨大な量」。これだけ全てを頭にたたきこめる国民はほぼいないでしょう。 当方は国民の行動変容を導く公共政策としてのコミュニケーションの研究を20年以上続けていますが(例えば、こちらをご参照くださいhttps://www.amazon.co.jp/dp/4888488134)、その視点から言って、これは文字通り、最悪です。 なぜなら、情報が多く、内容が「ややこし」ければ結局、国民に伝わらず、行動変容を誘発できず、感染症拡大が防げなくなってしまうからです。 第二に、感染防止のために最も重要な諸事項が書かれていない。 これだけ大量の事項が書かれているのだから、これを全て真面目に覚え、従っていれば感染も防げ、重症者数・死者数も減らせられるのかと思いきや・・・驚くべき事に、とりわけ重要なことがいくつも抜け落ちているのです。 中でも特に大切なのが、 1)(外出中には)目鼻口、特に「鼻の穴」を触らない なのですが、この一点が、全く書かれていません。 いくら手を洗っても、手を洗った後に、テーブルやドアノブを触ってウイルスが手に付くかも知れず、その手で鼻の穴に指でもいれてしまったらウイルスが鼻の粘膜に練り込まれてしまいます。 逆に言えば、一切手を洗わなくたって、その手で目鼻口を触らなければ、感染はしないのです。それくらい、「目鼻口を触らない」という一点は大事なのに、それが書かれていないのは、極めて深刻な問題です。 そして、具体的な行動として、 2)(当面の間は)通常スタイルの宴会・カラオケは自粛 ということも書かれていない。 コロナの感染拡大は、おおよそ、宴会やパーティ、カラオケで起こっているのですから、ここを直接自粛、あるいは、禁止するように呼びかけることが最も効果的です。 (もちろん、「お一人様飲酒・お一人様カラオケ」その限りではありません) 「大皿は避けて料理は個々に/対面ではなく横並びで座ろう/料理に集中 おしゃべりは控えめに」とも書かれているので、それはそれでいいとは言えますが、こう言うよりも「宴会・カラオケは自粛」と言った方が圧倒的にわかりやすい筈です。 無論、自粛すべきはあくまでも「通常スタイル」の宴会やカラオケが自粛なだけで、「できるだけ声を小さくして、距離をとって」あるいは「食事は黙ってさっと食べて、飲むときはマスクをしてコップを口に付けるときだけマスクを一瞬外しながら飲む」等なら、ある程度収束してくれば構わないと思いますが、「自粛から解除」する「出口」では宴会・カラオケ自粛というキーワードは、感染防止上極めて効果的です。 そもそも4月上旬に「感染者数が大きく増加」していますが、これは3月に多くの組織で送別会や年度末会を行ったからという疑義が濃密に考えられるくらいなのです。 さらには、 3)高齢者・基礎疾患者・妊婦の保護 (高齢者等との同居者の方の配慮も不可欠) という一点が書かれていないのも、「医療崩壊」リスクの視点から言って、問題です。 もちろん、これについては、意見が分かれるところかと思いますが、事実として申し上げ増すと、高齢者の「死亡率」(≒「重症化率」)は、50才以下の非高齢層の50倍から100倍以上。したがって、高齢者の間で感染者が広まると、重症者病床が瞬く間に一杯になってしまうのです。 https://twitter.com/SF_SatoshiFujii/status/1254178810028675073?fbclid=IwAR0aBxo2DtNRA-a5Q7oqE8pxwXloBTH2Cwu0U_3AKcoi1ju0ZghcIrpTxcY したがって、医療崩壊、感染死急増を回避するという視点に立てば、 高齢者・基礎疾患者・妊婦の自粛の継続 を出口戦略の一つとして掲げておくことは重要です(ただし、そうするかどうかは、最終的には政治判断になりますが)。 この様に、あれだけ膨大な項目をかいておきながら、肝心の「目鼻口を触らない」「宴会の自粛」「高齢者等の保護」という項目が書かれていないのです。これは極めて深刻な問題です。 第三に、感染防止のために「無駄」なのに経済社会に「被害」を与える項目が多い。 この「新しい生活様式」では「身体的距離の確保」が「絶対条件」の一つの様に扱われています。 これに従う限り、電車やバスの混雑は絶対にダメ、ということになりますし、カウンターでの隣り合った飲食も絶対ダメ、ライブハウスなんてもってのほか、ということになります。だから、この条件を皆が守る限りにおいて、交通事業者も飲食店もライブハウスも、極めて深刻なダメージを受けることになります。 しかし、「身体的距離の確保」は、感染防止の視点から決して「必須」の項目ではありません。 電車やバスについて言えば、しっかり「換気」がなされ、かつ、乗客が皆黙っている、あるいは、マスクをしていれば、少々近接していても、飛沫感染や空気感染(エアロゾル感染)が起こる可能性はほとんどありません。 同様に飲食店・ライブハウスにおいても「会話禁止」「歓声禁止」と「換気」が徹底していれば、少々隣接していても、感染リスクはほとんどないのです。 そもそも、専門家会議も、当初は三密の「重なり」だけを避けるべしといっていたわけで、そうした当初の主張のままなら、「距離の確保」だけをことさら強調するのは、論理的整合性を欠く、不誠実な主張だと言うこともできるでしょう。 いずれにしても、交通事業者も飲食店も、工夫をすれば、「距離の確保」は必須ではなくなり、したがって、収益激減のリスクを回避することが可能なのに、専門家委員会提言では、それが「不可能」となってしまうのです。 これを「無駄」な提案と言わなければ、無駄な提案なるものは何も無いということになってしまう―――というくらいに、「無駄」な提言だと筆者は考えます。 さらには、食事について「大皿は避けて料理は個々に/対面ではなく横並びで座ろう/料理に集中 おしゃべりは控えめに」などと書かれていますが、こういう配慮は、「外食時」は、ということで十分だと思います。 夫婦同士や恋人同士の食事の時、ある程度は注意するとしても、他人と同じ水準で注意していては基本的な人間関係が壊れてしまいます。つまり、この提言は社会生活に対する配慮が不足しているのです。 ・・・ この様に、専門家会議の「新しい行動様式」には、 第一に、項目が多すぎで、誰も守れない。 第二に、感染防止のために最も重要な諸事項が書かれていない。 第三に、感染防止のために「無駄」なのに経済社会に「被害」を与える項目が多い。 といういずれをとっても深刻この上ない問題が三つもあるのです。 したがって、筆者は、この提案は即刻取り下げ、新たなものを再提案すべきだと考えます。 そして、筆者は、次のようなシンプルな「出口戦略」で十分だと考えます。 ―――――「半自粛」のススメ――――― 手洗い・マスク・咳エチケットはもちろんのこと・・・ ■基本方針 高齢者・基礎疾患者・妊婦の自粛の継続 (同居者・同僚の「移さない」配慮も不可欠) ■外出時の3つの注意点 @「飲み会」「カラオケ」等の自粛継続 (つまり、他者と飲食中の近接“発話”の自制) (ただし、政府補償が必須) A「鼻の穴」と「口」&目を徹底的に触らない B「換気」の徹底 ――――――――――――――――――― いかがでしょうか? この提案は、 1)シンプルで覚えやすいだけでなく、 2)感染防止効果、死者数拡大効果、医療崩壊リスク抑制効果のいずれも「高く」、かつ、 3)経済社会に対する被害も最小化できる という、専門化会議の提案よりも圧倒的に優越する提案だと考えています。 なぜそういう風に作ることができたのかというと、この提案は、京都大学レジリエンス実践ユニットのウイルス学や社会心理学、防災学の専門家らと議論を重ねた上で、可能な限り無駄を省きつつ、わかりやすさ覚えやすさ実施しやすさに配慮し、感染防止の点から最も効果的な項目に絞り込んだものだからです。 だから、この「半自粛のススメ」にそって、緊急事態を徐々に解除していけば、 高齢者等を保護して医療崩壊を回避しつつ、 食事(とりわけ飲み会等)に注意して「飛沫感染」を防ぎ、 目鼻口を触らないようにして「接触感染」を防ぎ、 換気を徹底することで「空気感染」(厳密にはエアロゾル感染)を防ぐ、 ということが、効率的、効果的に可能となるのです。 逆に言うなら、この3つさえ注意しておけば、接触機会を8割減なぞということをせずとも、「感染機会」を8割以上減らし、感染リスクを0に近づけることが可能となるのです。 政府、与党には是非、「専門化会議」の提案では無く、この京大レジリエンス実践ユニットの「半自粛のススメ」を採用いただきたいと思っています。 さもなければ、「専門化会議」の提案のままでは、感染は拡大し、経済も社会も傷付くことは避けられないと、心底危惧しています。 是非とも、国民の皆様からも、政府にご提案、ご推挙頂けると有り難く存じます。 何卒よろしくお願いします。 追申: 政府の専門化会議系の議論は、深刻な問題が様々にあります。下記も是非、ご一読ください。『北大西浦教授の「8割おじさん戦略」は、批判的に徹底検証されねばならない。』 https://foomii.com/00178/2020050112532166031 付録:専門化会議の「新しい行動様式」 https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/view/detail/detail_08.html 感染防止の3つの基本 @身体的距離の確保 Aマスクの着用 B手洗い 人との間隔はできるだけ2m(最低1m)空ける 遊びに行くなら屋内より屋外を選ぶ 会話をする際は可能な限り真正面を避ける 外出時、屋内にいるときや会話をするときは症状がなくてもマスクを着用 家に帰ったらまず手や顔を洗う できるだけすぐに着替える、シャワーを浴びる 手洗いは30秒程度かけて水と石けんで丁寧に洗う(手指消毒薬の使用も可) ※高齢者や持病のあるような重症化リスクの高い人と会う際には体調管理をより厳重にする 移動に関する感染対策 感染が流行している地域からの移動、感染が流行している地域への移動は控える 帰省や旅行はひかえめに 出張はやむを得ない場合に 発症したときのため誰とどこで会ったかをメモにする 地域の感染状況に注意する 日常生活 まめに手洗い 手指消毒 せきエチケットの徹底 こまめに換気 身体的距離の確保 3密の回避(密集 密接 密閉) 毎朝の体温測定 健康チェック 発熱またはかぜの症状がある場合は無理せず自宅で療養 生活場面ごとの例 買い物 通販も利用 1人または少人数ですいた時間に 電子決済の利用 計画を立てて素早く済ます サンプルなど展示品への接触は控えめに レジに並ぶときは前後にスペース 公共交通機関の利用 会話は控えめに 混んでいる時間帯は避けて 徒歩や自転車利用も併用する 食事 持ち帰りや出前 デリバリーも 屋外空間で気持ちよく 大皿は避けて料理は個々に 対面ではなく横並びで座ろう 料理に集中 おしゃべりは控えめに お酌 グラスやお猪口の回し飲みは避けて 娯楽 スポーツ等 公園はすいた時間や場所を選ぶ 筋トレやヨガは自宅で動画を活用 ジョギングは少人数で すれ違うときは距離をとるマナー 予約制を利用してゆったりと 狭い部屋での長居は無用 歌や応援は十分な距離かオンライン 冠婚葬祭などの親族行事 多人数での会食は避けて 発熱やかぜの症状がある場合は参加しない 働き方のスタイル テレワークやローテーション勤務 時差通勤でゆったりと オフィスは広々と 会議はオンライン 名刺交換はオンライン 対面での打ち合わせは換気とマスク https://38news.jp/economy/15822
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