コロナ後遺症の実態 退院後も疲労感や呼吸困難 2020年8月8日 回復後も発症前の生活をなかなか取り戻せない…そんなケースが数多く報告されて 新型コロナウイルスの感染者数が全世界で1600万人を突破するなか、このウイルスに感染・発症し、回復した患者の後遺症に関する情報も少しずつ蓄積されてきました。日本国内では、7月に入って、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症し、軽症で済んだ若い患者が、PCR検査が陰性となった後も体調不良に悩み、元の生活になかなか戻れないなど、この感染症の後遺症と考えられるケースが報道されています。 世界でも、新型コロナウイルス感染症の回復後の患者を苦しめるさまざまな症状について調べた論文が、次々と発表されています。それらをいくつか紹介していきましょう。 軽症患者の半数に、1カ月後も味覚や嗅覚の異常 まずは、回復後も続く味覚障害と嗅覚障害について調べたイタリアの論文[注1]です。嗅覚や味覚の異常は、新型コロナウイルス感染症の初期症状として多く報告されていますが、イタリア・パドヴァ大学の研究者らは、こうした症状が1カ月も持続する患者が少なくないことを明らかにしました。 対象となったのは、新型コロナウイルス感染症の発症時点で味覚障害または嗅覚障害があった113人の軽症患者です。これらの患者の経過を4週間後まで追跡したところ、55人(49%)は味覚障害・嗅覚障害の症状が消失していましたが、症状は改善したものの持続していた患者が46人(41%)、症状が継続または悪化していた患者が12人(11%)いました。これらの症状の持続は、新型コロナウイルスの感染の持続とは関係していませんでした。 入院した患者、退院しても約9割に何らかの症状が持続 やはりイタリアで行われた別の研究では、新型コロナウイルス感染症で入院治療を受け、2回のPCR検査で陰性が確認されて退院した患者143人がその後に経験した、さまざまな症状について報告しています[注2]。 143人の平均年齢は56.5歳、女性が37%でした。18人(13%)はICUに入院した患者で、77人(54%)が酸素療法を受けており、21人(15%)は非侵襲的な機械的人工換気(マスク式の人工呼吸器による換気)を、7人(5%)は侵襲的な機械的人工換気(気管チューブ、気管切開チューブなどを介した人工呼吸器による換気)を受けていました。入院期間の平均は13.5日でした。 発症から平均60.3日、退院からは36.1日の時点で、持続する症状の有無を調べたところ、症状がなかった人は18人(13%)にとどまり、残る125人(87%)には何らかの症状がありました。 持続していた症状として最も多かったのは疲労感(53%)で、続いて呼吸困難(43%)、関節痛(27%)、胸痛(22%)が多く報告されました。ほかには、せき、嗅覚異常、乾燥症、鼻炎、目の充血、味覚異常、頭痛、たん、食欲不振、咽頭痛、めまい、筋肉痛、下痢などが継続していました。症状の数が1つから2つだった人が46人(32%)、3つ以上あった人が79人(55%)で、QOL(生活の質)の低下は63人(44%)に認められました。 [注1]Boscolo-Rizzo P, et al. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. Published online Jul 2, 2020. [注2]Carfi A, et al. JAMA. Published online July 9, 2020. 米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)を率いるAnthony Fauci(アンソニー・ファウチ)氏は、7月9日に行われた国際エイズ学会の新型コロナウイルス感染症プレスカンファレンスで「新型コロナウイルス感染症を発症し、治療を受けた後で、かなりの人が筋痛性脳脊髄炎(以前は慢性疲労症候群と呼ばれていた)に似た症状を示し、疲労感が強く、頭にモヤがかかったような状態で、集中できない日々が続いて、発症前の生活をなかなか取り戻せない、という話を聞いている」と語っています[注3]。 退院3カ月後も7割のCT画像に異常 4人に1人は肺機能異常 新型コロナでは退院後も後遺症に悩まされる患者が多いことが分かってきました。(写真提供:NIAID) 新型コロナウイルスの後遺症は、こうした自覚症状だけにとどまりません。中国鄭州大学などの研究者たちは、新型コロナウイルス感染症にかかり、退院した55人(軽症4人、中等症47人、重症4人)の患者について、退院3カ月後の胸部CT画像や肺機能を調べました[注4]。 その結果、35人(64%)に、退院後3カ月の時点でも新型コロナウイルス感染に関連した症状が残っていました。また、39人(71%)の胸部CT画像にさまざまな程度の異常が認められ、肺機能の異常も14人(25%)に見られました。 厚労省や呼吸器学会も調査に乗り出す こうした情報に基づいて、日本の厚生労働省も7月10日、約2000人を対象に新型コロナウイルス感染症の後遺症についての調査を8月に開始すると発表しました。同省は、新型コロナウイルス感染症を発症し、退院後もさまざまな後遺症に悩む症例が医療現場から数多く報告されているものの、原因が明らかではないという事態を重視。重症者、軽症者からそれぞれ約1000人ずつ選んで、呼吸器の機能低下を中心に原因究明を進めることになっています。日本呼吸器学会も7月17日に、この問題に関する調査・研究を開始すると発表しました[注5]。 新型コロナウイルス感染症は2020年2月に感染症法上の指定感染症として定められたため、発症した人の医療費は、PCR検査の時点から公費で賄われます。しかし、PCR検査で陰性になり、退院が認められた後にも持続している症状や、新たに現れた症状に対する治療を受ける場合、自己負担は免れません。 若いから感染しても軽く済むだろう、あるいは、治療費は国が出してくれるから感染しても大丈夫、などと考えることは危険です。後遺症のような症状が長く続けば、身体的・精神的な苦痛に加えて、医療機関に通う時間も医療費もかかります。発症前の生活に戻るまでに、何週間も、何カ月もかかるかもしれません。「新しい生活様式」の下、日常生活を営んでいくためには、また、少しでも元の状態に近づけるためには、1人1人が、引き続き油断せずに感染予防策を徹底していくことが欠かせません。 [注3]The Myalgic Encephalomyelitis Action Network. July 10, 2020. [注4]Zhao Y, et al. EClinicalMedicine. Published online July 14, 2020 [注5]日本呼吸器学会 COVID-19後遺症の実態調査・研究についてのお知らせ [日経Gooday2020年7月29日付記事を再構成] https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62225110T00C20A8000000/ コロナ後遺症の実態 退院後も疲労感や呼吸困難 2020年8月8日 回復後も発症前の生活をなかなか取り戻せない…そんなケースが数多く報告されています。(C)Aleksandr Davydov-123RF 日経Gooday(グッデイ) 新型コロナウイルスの感染者数が全世界で1600万人を突破するなか、このウイルスに感染・発症し、回復した患者の後遺症に関する情報も少しずつ蓄積されてきました。日本国内では、7月に入って、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症し、軽症で済んだ若い患者が、PCR検査が陰性となった後も体調不良に悩み、元の生活になかなか戻れないなど、この感染症の後遺症と考えられるケースが報道されています。 世界でも、新型コロナウイルス感染症の回復後の患者を苦しめるさまざまな症状について調べた論文が、次々と発表されています。それらをいくつか紹介していきましょう。 軽症患者の半数に、1カ月後も味覚や嗅覚の異常 まずは、回復後も続く味覚障害と嗅覚障害について調べたイタリアの論文[注1]です。嗅覚や味覚の異常は、新型コロナウイルス感染症の初期症状として多く報告されていますが、イタリア・パドヴァ大学の研究者らは、こうした症状が1カ月も持続する患者が少なくないことを明らかにしました。 対象となったのは、新型コロナウイルス感染症の発症時点で味覚障害または嗅覚障害があった113人の軽症患者です。これらの患者の経過を4週間後まで追跡したところ、55人(49%)は味覚障害・嗅覚障害の症状が消失していましたが、症状は改善したものの持続していた患者が46人(41%)、症状が継続または悪化していた患者が12人(11%)いました。これらの症状の持続は、新型コロナウイルスの感染の持続とは関係していませんでした。 入院した患者、退院しても約9割に何らかの症状が持続 やはりイタリアで行われた別の研究では、新型コロナウイルス感染症で入院治療を受け、2回のPCR検査で陰性が確認されて退院した患者143人がその後に経験した、さまざまな症状について報告しています[注2]。 143人の平均年齢は56.5歳、女性が37%でした。18人(13%)はICUに入院した患者で、77人(54%)が酸素療法を受けており、21人(15%)は非侵襲的な機械的人工換気(マスク式の人工呼吸器による換気)を、7人(5%)は侵襲的な機械的人工換気(気管チューブ、気管切開チューブなどを介した人工呼吸器による換気)を受けていました。入院期間の平均は13.5日でした。 発症から平均60.3日、退院からは36.1日の時点で、持続する症状の有無を調べたところ、症状がなかった人は18人(13%)にとどまり、残る125人(87%)には何らかの症状がありました。 持続していた症状として最も多かったのは疲労感(53%)で、続いて呼吸困難(43%)、関節痛(27%)、胸痛(22%)が多く報告されました。ほかには、せき、嗅覚異常、乾燥症、鼻炎、目の充血、味覚異常、頭痛、たん、食欲不振、咽頭痛、めまい、筋肉痛、下痢などが継続していました。症状の数が1つから2つだった人が46人(32%)、3つ以上あった人が79人(55%)で、QOL(生活の質)の低下は63人(44%)に認められました。 [注1]Boscolo-Rizzo P, et al. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. Published online Jul 2, 2020. [注2]Carfi A, et al. JAMA. Published online July 9, 2020. 米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)を率いるAnthony Fauci(アンソニー・ファウチ)氏は、7月9日に行われた国際エイズ学会の新型コロナウイルス感染症プレスカンファレンスで「新型コロナウイルス感染症を発症し、治療を受けた後で、かなりの人が筋痛性脳脊髄炎(以前は慢性疲労症候群と呼ばれていた)に似た症状を示し、疲労感が強く、頭にモヤがかかったような状態で、集中できない日々が続いて、発症前の生活をなかなか取り戻せない、という話を聞いている」と語っています[注3]。 退院3カ月後も7割のCT画像に異常 4人に1人は肺機能異常 新型コロナでは退院後も後遺症に悩まされる患者が多いことが分かってきました。(写真提供:NIAID) 新型コロナウイルスの後遺症は、こうした自覚症状だけにとどまりません。中国鄭州大学などの研究者たちは、新型コロナウイルス感染症にかかり、退院した55人(軽症4人、中等症47人、重症4人)の患者について、退院3カ月後の胸部CT画像や肺機能を調べました[注4]。 その結果、35人(64%)に、退院後3カ月の時点でも新型コロナウイルス感染に関連した症状が残っていました。また、39人(71%)の胸部CT画像にさまざまな程度の異常が認められ、肺機能の異常も14人(25%)に見られました。 厚労省や呼吸器学会も調査に乗り出す こうした情報に基づいて、日本の厚生労働省も7月10日、約2000人を対象に新型コロナウイルス感染症の後遺症についての調査を8月に開始すると発表しました。同省は、新型コロナウイルス感染症を発症し、退院後もさまざまな後遺症に悩む症例が医療現場から数多く報告されているものの、原因が明らかではないという事態を重視。重症者、軽症者からそれぞれ約1000人ずつ選んで、呼吸器の機能低下を中心に原因究明を進めることになっています。日本呼吸器学会も7月17日に、この問題に関する調査・研究を開始すると発表しました[注5]。 新型コロナウイルス感染症は2020年2月に感染症法上の指定感染症として定められたため、発症した人の医療費は、PCR検査の時点から公費で賄われます。しかし、PCR検査で陰性になり、退院が認められた後にも持続している症状や、新たに現れた症状に対する治療を受ける場合、自己負担は免れません。 若いから感染しても軽く済むだろう、あるいは、治療費は国が出してくれるから感染しても大丈夫、などと考えることは危険です。後遺症のような症状が長く続けば、身体的・精神的な苦痛に加えて、医療機関に通う時間も医療費もかかります。発症前の生活に戻るまでに、何週間も、何カ月もかかるかもしれません。「新しい生活様式」の下、日常生活を営んでいくためには、また、少しでも元の状態に近づけるためには、1人1人が、引き続き油断せずに感染予防策を徹底していくことが欠かせません。 [注3]The Myalgic Encephalomyelitis Action Network. July 10, 2020. [注4]Zhao Y, et al. EClinicalMedicine. Published online July 14, 2020 [注5]日本呼吸器学会 COVID-19後遺症の実態調査・研究についてのお知らせ [日経Gooday2020年7月29日付記事を再構成] https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62225110T00C20A8000000/ コロナ後遺症、24%に脱毛症状 東京都会議で報告 2021年2月4日 東京都は4日、新型コロナウイルスの感染状況を分析する「モニタリング会議」を開いた。専門家が後遺症に関する調査結果をまとめ、若年層を含む7割超の患者が嗅覚障害や脱毛などの症状を訴えていると報告した。 調査は2020年2〜6月、国立国際医療研究センター(新宿区)を退院した新型コロナ患者63人を対象に実施。約76%の48人が、何らかの後遺症があると答えた。20〜30代も18人中14人に上り、世代を問わず後遺症に苦しむ実態が判明した。
後遺症は長期化する傾向がみられ、全体の半数が発症から2カ月後も何らかの症状が残っていると回答した。4カ月後も後遺症があると答えた人も3割に上った。200日近くたっても症状が治まらないケースもあったという。 症状ではせきやだるさ、呼吸困難などが上位を占め、脱毛の症状も24%の患者にみられた。20代では嗅覚障害や味覚障害に悩む患者が目立った。 分析した専門家は「後遺症の原因は明確になっておらず、現段階で確立された治療法はない。何よりも感染しないことが最大の予防策だ」と指摘する。小池百合子知事は「若年層でも重症化することもある。春には卒業式や謝恩会などもあると思うが、感染拡大の温床になる可能性もあり、ステイホームをお願いしたい」と呼びかけた。 モニタリング会議の分析によると、都内の3日までの1週間の新規感染者は1日あたり683・6人で、前週(1015・1人)から減少。同様の減少率が1カ月続けば、1週間平均で1日あたり約138人まで減らすことができるとの試算も示された。 一方で重症化リスクの高い65歳以上の高齢者の割合は約25%に上り、1カ月前(約12%)から大幅に増えた。医療機関や高齢者施設などでのクラスターの多発が背景にあるとして、勤務する職員などの感染対策の重要性が指摘された。 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG045P60U1A200C2000000/ 新型コロナウイルスは脳神経細胞に感染するか 2021年2月5日 新型コロナウイルスは脳神経細胞に感染するのか? 感染が脳神経系に障害をもたらしたとみられる症例が世界で報告されており感染の可能性を探る研究が進んでいる。 新型コロナの脳への影響は早くから報告がある。新型コロナに感染して入院中の患者がせん妄を経験したとの報告があるほか、回復後に頭痛や著しい倦怠(けんたい)感、ブレインフォグ(脳の霧)と呼ばれる思考力の低下など脳神経に関わる障害が残ることがあることがわ... https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH312OH0R30C21A1000000/
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