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アメリカ大統領選挙、敗残のトランプを待ち構える訴訟の山 検察による刑事捜査も
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/11/post-94996.php
2020年11月13日(金)19時00分 ニューズウィーク
2017年1月の就任以来、ドナルド・トランプ大統領の周囲では、民事訴訟や刑事捜査が相次いできた。写真は5日、ホワイトハウスで会見を終えたトランプ氏(2020年 ロイター/Carlos Barria)
2017年1月の就任以来、ドナルド・トランプ大統領の周囲では、民事訴訟や刑事捜査が相次いできた。米国内の主要テレビネットワークによれば、7日に民主党ジョー・バイデン候補が大統領選に勝利したことで、トランプ氏が抱える司法面でのトラブルはいっそう深刻になる可能性が高い、と複数の元検察官が語っている。
トランプ氏が1月に退任すれば、米国法のもとで現職大統領に与えられている保護を失うことになるからだ。
退任に伴ってトランプ氏を悩ませると思われる訴訟及び刑事捜査をいくつか見ていこう。
■ニューヨーク州検察による捜査
ニューヨーク州法の執行に当たるマンハッタン地区検事長サイラス・バンス氏は、2年以上にわたり、トランプ氏及びトランプ・オーガナイゼーションに対する刑事捜査を進めてきた。
捜査は当初、トランプ氏の元弁護士で自称「揉み消し役」であるマイケル・コーエン氏が、2016年の大統領選の前に、トランプ氏と性的関係があったと称する2人の女性に支払ったとされる口止め料をめぐるものだった。大統領自身はそうした関係があったことを否定している。
だが民主党員のバンス氏は最近裁判所に提出した文書のなかで、現在では捜査の対象が広がっており、銀行取引・税務・保険関連の詐欺行為、事業記録の改竄が焦点になる可能性があると示唆している。
トランプ氏は、バンス氏の主張は政治的な動機による嫌がらせだとしている。
この事件が関心を集めたのは、バンス氏がトランプ氏の8年間にわたる納税申告書を入手しようとしたからだ。連邦最高裁は7月、納税申告書の非開示を求めるトランプ氏の訴えを退けた。同時に、大統領が在職中でも州による刑事捜査を免れるわけではないものの、バンス氏による召喚状に対して別の対抗措置は可能だとした。
法律専門家によれば、バンス氏は最終的にトランプ氏の財務記録を取得することに成功する可能性が高いという。
米司法省は、現職大統領を訴追することはできないと述べている。バンス氏は連邦検察官ではないため、この方針には縛られないものの、元ニューヨーク州検察官のハリー・サンディック氏によれば、この事件が合衆国憲法に抵触する懸念が残るため、バンス検察官はトランプ氏の訴追を躊躇している可能性があるという。
「トランプ氏が退任すれば、こうした懸念も消滅する」とサンディック氏は言う。
ブラウン大学のコーリー・ブレットシュナイダー教授(政治学)は、この捜査がトランプ氏にとって脅威となっていると話している。
「検察側が召喚状を発行し、連邦最高裁に至るまで、その有効性を認めさせたことは、この件が大統領に対する非常に深刻な刑事捜査であることを示している」とブレットシュナイダー教授は言う。
■司法省による捜査の可能性も
トランプ氏が、新たに就任する司法長官の指揮の下、司法省による刑事訴追に直面する可能性もある。
一部の法律専門家は、トランプ氏が連邦所得税の脱税容疑に問われる可能性があると話している。ニューヨーク・タイムズ紙はトランプ氏が2016年、2017年に納めた連邦所得税がわずか750ドル(約7万7600円)だったと報じている。
ドーシー&ウィットニー法律事務所に所属する弁護士で元連邦検察官のニック・エイカーマン氏は、「ニューヨーク・タイムズ紙の報道など、あらゆる種類の脱税の兆候が見られる」と話す。
ただしエイカーマン氏は、あらゆる証拠を目にするまでは確実なことを知るのは不可能だとも警告している。
トランプ氏はニューヨーク・タイムズ紙の報道を否定しており、これまで数百万ドルもの税金を納めてきたが、減価償却や税額控除の恩恵も受けているとツイッターに投稿した。
こうした訴追については深刻な論議を呼ぶ可能性があり、司法省は、仮に刑事訴追に値する不正行為があるとしても、トランプ氏を訴追することが公益に反すると判断する可能性もある。
バイデン氏はこの疑惑について非常に慎重に対応しており、新政権下では司法省の判断に干渉しないと述べている。
前任者に対する刑事訴追について、バイデン氏は8月、ナショナル・パブリック・ラジオに「きわめて異常な事態であり、恐らく、何と言うべきか、民主主義にとって非常に良いことではないだろう」と語っている。
トランプ氏の弁護士にコメントを求めたが回答は得られなかった。
■ニューヨーク州による民事詐欺訴訟
民主党員であるニューヨーク州のレティシア・ジェームズ州司法長官は、トランプ氏とその一族が経営するトランプ・オーガナイゼーションに対する脱税捜査を進めている。
この捜査は、トランプ氏の弁護士だったコーエン氏が連邦議会に証言した内容がきっかけだ。コーエン氏は、トランプ氏が債務・保険のコストを抑制するために資産価値を吊り上げた後、不動産税を抑えるためにまた低く抑えたと述べた。トランプ・オーガナイゼーション側は、この事件は政治的な動機に基づいたものだと主張している。
この捜査は民事であり、罰金に繋がる可能性はあるが、収監されることはない。
ジェームズ長官はこれに関し1つないし複数の取引にトランプ氏の息子でトランプ・オーガナイゼーションの執行副社長を務めるエリック・トランプ氏同氏が密接に関与していたとみており、10月に事情聴取を行った。
■E・ジーン・キャロル氏による訴訟
雑誌「エル」の元記者であるE・ジーン・キャロル氏は、2019年にトランプ氏を名誉毀損で告訴している。1990年代にニューヨークの百貨店内でトランプ氏から性的暴行を受けたとするキャロル氏の主張をトランプ氏が否定し、著書の販売促進のために嘘をついていると非難したためだ。
8月、州裁判官は裁判の継続を認めた。これによってキャロル氏の弁護士は、現場の百貨店で彼女が着ていたとされる衣類と照合するため、トランプ氏のDNAサンプルを要求できることになる。
米司法省はこの事件の被告をトランプ氏ではなく連邦政府にしようと努力したが、マンハッタン連邦地方裁判所の連邦裁判官は、この措置を却下した。マンハッタン連邦地裁のルイス・カプラン判事は、キャロル氏に関するトランプ氏の発言は、大統領としての職務の範囲で行われたものではないと述べている。
しかし、バイデン政権下の司法省はトランプ氏をこの事件から切り離そうとする努力を放棄するだろう、とミシガン大学のバーバラ・マッケイド教授(法学)は予想する。
「根拠のない主張だと思われ、新政権下で司法省がそれを続けるとは考えにくい」と元連邦検察官の同教授は言う。
■サマー・ザーボス氏による訴訟
またトランプ氏は、サマー・ザーボス氏による訴訟も抱えている。2005年、トランプ氏が司会を務めるテレビのリアリティーショー番組「アプレンティス」に出演した人物だ。トランプ氏は、2007年に会った際に彼女にキスを強要しし、ホテルでわいせつな行為を仕掛けたという。
トランプ氏がザーボス氏を嘘つき呼ばわりしたため、彼女はトランプ氏を名誉毀損で告訴した。
トランプ氏は、自分は大統領なのでこの訴訟からは守られていると述べている。
この訴訟は保留となっている。ニューヨーク州の控訴裁判所は、「トランプ氏は在任中も訴訟に応じなければならない」とした2019年3月の決定を見直している。大統領の座を降りれば、トランプ氏の言い分ももはや通用しない。
(Makini Brice記者、Jan Wolfe記者、翻訳:エァクレーレン)
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