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南シナ海でやりたい放題の中国、ベトナムいじめが止まらない
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/post-94079.php
2020年7月31日(金)17時00分 ビル・ヘイトン(英王立国際問題研究所アソシエートフェロー) ニューズウィーク
中国海警局の船から放水を浴びるベトナムの船舶(2014年5月、ベトナム沖) VIETNAM COAST GUARD-AP/アフロ
<中国が本格化させる海洋資源開発つぶしでベトナムが莫大な補償金を負担させられている>
中国は、南シナ海に人工島を造成したり、軍事施設を建設するなどして、広大な海域の実効支配を進めてきた。沿岸国が進める海洋資源開発プロジェクトも、あの手この手で中止に追い込んできた。そのせいでベトナムは、莫大な補償金を支払う羽目にまで陥っている。
業界関係筋によると、国営石油最大手ペトロベトナムは中断していた資源開発プロジェクトの終了に伴い、事業パートナーであるスペインのエネルギー大手レプソルとアラブ首長国連邦(UAE)のムバダラ・デベロップメントに計10億ドルもの補償金を支払うことになったという。
中国による嫌がらせは現在も続いている。7月にも中国海警局の船が、ベトナム沖合の資源開発エリアで威嚇的な航行を繰り返していることが報告された。さらに米海軍と中国海軍がほぼ同時期に軍事演習を行うなど、南シナ海の緊張は高まる一方だ。
レプソルはかつて、ベトナム沖合のエネルギー開発で最大のプレーヤーで、13もの鉱区の開発権を持っていた。中国にほとんど権益を持たない同社は、中国政府の圧力を恐れることなくベトナム事業を進められるかに見えた。
しかし、その中でも最大のプロジェクト2件は、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)の東端に位置し、1947年に中国が引いた「領海線」である九段線に食い込んでいた。それを中国が黙って見ているはずはなかった。海南島沖に40隻もの海軍艇を集め、ベトナムに開発断念を迫ったのだ。
ペトロベトナムは2017年と18年、2件の開発プロジェクトの堀削を相次ぎ中止するようレプソルに要請した。中国からの強力な圧力を受け、ベトナムの最高指導部が下した政治的な決断だと、レプソル幹部は説明を受けたという。
その政治的決断は、ベトナムに大きな代償をもたらしたようだ。業界関係筋によると、ベトナムはレプソルとムバダラに、2つの鉱区の開発権8億ドルと、両社がプロジェクトに投資した2億ドルを補償することに合意したらしい。
レプソルの2019年の決算書には、ベトナムとアルジェリア、パプアニューギニアにおける開発プロジェクトの損失引当金として計7億8600万ユーロが積まれている。ベトナム事業のみの損失は記載されていないが、関係子会社3社の簿価は計5億8600万ユーロとされている。
■ロシアも脅しの標的に
今年6月、レプソルは2つの鉱区から正式に撤退する声明を発表した。「業績に大きな影響はない」との一文は、ベトナム政府から納得のいく補償が得られることになったと読み替えてよさそうだ。
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だが、ベトナム政府の負担はそれでは終わらないかもしれない。商都ホーチミンに近いブンタウ港近くには、石油掘削装置(リグ)が2カ月間放置されている。所有者の英ノーブルは、開発契約には「契約打ち切り料が定められている」というから、この事案でもベトナムは数百万ドルの補償を強いられそうだ。
このリグは、ロシア最大の石油会社ロスネフチの鉱区で使われるはずだった。レプソルの鉱区のすぐ北側で、やはり九段線に食い込んでいる。
この辺りはエネルギー資源が豊富なナムコンソン海盆と呼ばれ、ロスネフチは18年前から生産活動を続けてきた。さすがの中国も、ロスネフチの邪魔をしてロシア政府を敵に回したくないのだろうと、多くの専門家は考えてきた。
ところが今回、新たにもっと深い油井を掘って、生産活動を開始しようとしたところ、中国の示威行為が始まった。7月初旬にも中国海警局の船が近くを「挑発的に」航行していることが確認されている。今や中国は、ロシアを脅すことにさえ抵抗を感じなくなったようだ。
この海域には、日本企業が関わる開発計画もある。出光興産と国際石油開発帝石がペトロベトナムと組んで開発を進めるサオバン・ダイグエットガス田は、九段線をまたぐように位置する。
両社は既に探鉱・開発作業を終えているが、ガスの抽出施設はまだ設置されていない。出光は「2020年後半の生産開始を目指して、開発作業を進めて」いると言うだけで、プロジェクトの進捗状況について基本的に口を閉ざしている。これは帝石が抱えているトラブルも関係しているのかもしれない。
■アメリカは頼りになるか
同社は同ガス田に持つ権益をめぐり、シンガポールに拠点を置くジェイドストーン・エナジーから商事仲裁を申し立てられている。ジェイドストーン側は、4年前に帝石からこの鉱区の開発権を購入する契約を結んだのに、帝石側が一方的に取りやめを通告してきたと主張している。
帝石が突然翻意した背景には、日本政府の意向が働いているのではとの見方がある。ガス田の位置ゆえに、中国から何らかの脅しを受けたとき、関係企業を日本勢で固めておいたほうが対応しやすいとの考えがあるというのだ。
米政府が7月13日に南シナ海について声明を発表したのは、こうした事件が大きな理由となっている。この中でマイク・ポンペオ米国務長官は、中国が南シナ海のほぼ全域で海洋資源を支配しようと沿岸国を「いじめる」活動は「完全に違法」だと明言した。
この声明は、アメリカが、ベトナムをはじめとする南シナ海の海洋資源開発プロジェクトを中国の介入から守るという意思表示でもある。これに対して在ワシントン中国大使館は、「完全に不当」だと反発を強めている。
どうやらこの夏、南シナ海の資源開発をめぐる争いは、ますます熱くなりそうだ。
From thediplomat.com
<本誌2020年8月4日号掲載>
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