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中国、国有企業“安全神話”崩壊…デフォルト多発、リーマンショック級金融危機の兆候
https://biz-journal.jp/2020/11/post_192199.html
2020.11.21 05:55 文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員 Business Journal
「Getty Images」より
中国の李克強首相は11月18日、共産党機関紙・人民日報への寄稿で「中国経済は今年プラス成長を確保し、経済規模が約1590兆円を超える見込みである。中国経済は急成長の段階から質の高い発展段階に入った」との見解を示した。世界がリセッションに陥り、新型コロナウイルス感染再拡大への対応を余儀なくされているなかで、自国の安定ぶりを強調し、国内経済に自信を示したが、これに呼応するかたちで中国人民元も対ドルで上昇、2年ぶりの高値を付けている。
順風満帆に見える中国経済だが、足元で「不都合な真実」が露呈し始めている。
中国人民元が対ドルで上昇している理由として長期金利の上昇が挙げられるが、中国の国債価格は下落傾向を強めている。中国の10年物国債価格は今年11月まで7カ月連続で下げており、この傾向は年内は続くと見込まれているが、その背景には国内の社債市場の動揺がある。
中国当局が景気回復を受けて金融政策の引き締めに転じようとするなかで、国内の銀行が、最近の相次ぐ社債デフォルトや「年末までの2カ月で約94.5兆円規模の流動性は不足する」という課題に直面していることから、最も流動性が高い国債を売って資金確保に動く可能性が高いとされているからである。
中国ではこのところ、国有企業が発行する社債がデフォルトする事案が相次いでいる。ドイツ自動車大手BMWの合弁会社の親会社である華晨汽車集団の社債が10月末に、国有石炭企業の永城煤電控股集団の社債が11月10日にデフォルトした。永城煤電控股集団の社債の場合、AAAの格付けを取得していたのにもかかわらず、発行後1カ月足らずで元本と利息の支払いができない状態となってしまった。
中国政府が力を入れている半導体分野でも、同様の問題が起きつつある。清華大学が出資する国有半導体メーカーである清華紫光集団の社債価格が11月に入り、格付け会社から「債務返済をめぐるリスクがある」と指摘されたことで急落した。「国有企業の社債には地方政府の暗黙の保証がついている」とみなされてきたことから、利回りに妙味を見出していた銀行などが積極的に購入してきたが、相次ぐデフォルトの発生でその信用が揺らぎ、社債の保有を減らす動きが強まっている。
■中国金融史上の不祥事
中国銀行保険監督管理委員会は、「国有企業は安全な投資先である」という神話が崩壊して社債市場全体に信用不安が広がっていることについてコメントを出していないが、中国人民銀行は11月16日、中期貸出制度(MLF)を通じて約12.7兆円という巨額の資金を市場に供給した。
昨年5月、内モンゴル自治区の地方銀行である包商銀行が、「深刻な信用リスク」があるとして人民銀行に接収された際にも短期の銀行間金利が高騰したが、人民銀行が巨額の資金を供給したことで、市場は安定を取り戻した。
しかし、今回の場合は「国有企業の予想外のデフォルトが再び起きるのではないか」との警戒が続いており、短期の銀行間金利が高止まりしたままである。国有企業のデフォルトは過去にも起きているが、最近のデフォルトは大手企業が多く、「懸念の払拭は容易ではない」との声が高まっている。人民銀行の資金供給は、包商銀行の問題を解決できても、AAA格付けの社債に対する信頼を取り戻すことはできないのである。
その包商銀行にも再び暗雲が立ちこめている。包商銀行は11月13日、同行が発行している劣後債の元本(約1028億円)の返済と未払いの利息(約93億円)の支払いを今後行わないことを発表した。中国金融史上初の不祥事である。
国有企業が発行するドル建て社債も大きく値下がりしている。支払いのための現金のドルを確保するためだろうか、中国の9月の米国債保有残高は4カ月連続で減少し、1兆620億ドルと2017年2月以来の低水準となっている。
■大手テクノロジー各社への監視強化
中国の金融当局は11月14日、国内金融システムへの悪影響を排除する観点から、大手テクノロジー各社を一段と厳しく監督することを明らかにした。当局は最近、オンライン融資の新たなルールや寡占的な慣行の排除を狙った規制を打ち出し、こうした企業の力を抑えようとしている。
史上最大規模の新規株式公開(3.7兆円)になると注目されていた中国の電子商取引最大手アリババグループの金融子会社であるアント・グループの上海と香港の両証券取引所での上場が、直前の11月3日に延期されたが、その決定を行ったのは習近平国家主席だったという(11月12日付ウォール・ストリート・ジャーナル)。
習氏が「上場中止」を決めたのは、アリババの創業者であり、中国最大の富豪でもある馬雲(ジャック・マー)氏が、中国の金融当局を批判する発言を行ったからだとされている。「中国の金融市場にシステミックリスクはないのか」という質問に対して、マー氏は「中国の金融市場にはシステムすらない」と挑発的な発言を行ったが、現下の情勢を鑑みると、当局の「上場中止」の狙いは、アント・グループのIPOを目当てに巨額の資金が社債市場から流出することを防ぐことだったのではないだろうか。
いずれにせよ、中国の金融市場はシステミックリスクという病にかかりつつある。この病が重症化し、長年にわたり続いてきた中国のバブルが崩壊すれば、「15年後に中国の1人当たりのGDPを先進国並みにする」とする習氏の夢が幻になるばかりか、リーマンショックをはるかに超える金融危機が勃発してしまうのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)
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