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携帯料金値下げに反抗したドコモ社長“更迭”の舞台裏…菅首相とNTT社長の怒り
https://biz-journal.jp/2020/10/post_183539.html
2020.10.06 18:00 文=松岡久蔵/ジャーナリスト Business Journal
NTTドコモ代々木ビル(「Wikipedia」より)
NTTドコモは9月29日、12月1日付で代表取締役社長を現在の吉沢和弘氏から副社長の井伊基之氏に交代する人事を発表した。親会社NTTの澤田純社長が、ドコモがKDDIとソフトバンクとの争いでかつての業界トップの座を追われ、収益率では携帯大手3社中最低という体たらくに陥る事態を招いた吉沢氏に不満を募らせたことによる「事実上の更迭」だ。代表権を失い平の取締役となる吉沢氏は、携帯料金引き下げを至上命題にする菅義偉首相と総務省の強硬姿勢に不満を隠さなかったことでも、菅首相の怒りを買っていた。
■会見で親会社社長からけなされる
「吉沢さん、ごめんね。ドコモはシェアこそ1位だけど収益は3番手だ」−―。
29日のオンライン会見で澤田社長は隣に座る吉沢社長の経営手腕に率直な疑問を呈した。澤田氏は複数回「吉沢さん、ごめんね」と断りながら、ドコモの状況についての不満を述べた。
吉沢氏は2016年に社長に就任して以来、今年春に発表された人事でも続投が決まり、「2期4年」の慣例を破る5年目を迎えていた。もともと今回次期社長に決定した井伊氏が6月の株主総会後にドコモ副社長に就任したことで、「今年開催されるはずだった東京五輪が終了した後の12月に社長交代する予定だった」(ドコモ関係者)。ただ、新型コロナで東京五輪が1年延期になったことで吉沢氏が花道を飾ることができなくなったばかりか、社長交代後は「特命担当取締役」という降格ポストに押し込められることになった。
■菅主導の法改正を批判
吉沢氏は岩手大学工学部を卒業後、1979年にNTTに入社した。ドコモ設立時から同社に在籍した「初のプロパー社長」で、一世を風靡した「ショルダーフォン」を開発したという、まさに携帯電話業界のパイオニアだ。2016年の社長就任時には人工知能(AI)分野やクラウド、IoTなど法人ビジネスを強化していく方針を打ち出した。
ただ、携帯電話市場が飽和するなかで、個人市場が頭打ちになったことで、営業収益の3分の2を占める携帯電話料金などを含む通信サービス部門が伸び悩む状況を打開できなかった。ただでさえ厳しい状況の中で、総務省が19年に打ち出した携帯料金引き下げを目的とした電気通信事業法の改正で、「最大4割下がる」料金プランを提示した結果、携帯通信事業の収益が大幅減となったことも、業績の足を引っ張った。
吉沢氏はこの法改正後も国内市場で利用者のキャリア間の乗り換えが進まなかった現状について、「法改正で端末代金と通信料金を分離したことが端末代の高騰を招き、新しくて性能のよい端末が目当てで乗り換える利用者の動きを鈍くしたと言ってはばからなかった」(前出のドコモ関係者)という。当然、このような姿勢は菅首相や総務省幹部から「そういう発言をする人間がトップでいること自体、許しがたい」(同省幹部)との反感を買うことにつながっていった。
澤田社長も9月29日の会見でこうした状況を見かね、昨年度の決算でドコモの収益性が他の大手2社に劣っていることを確認し、「今年4月には社長交代を打診した」(澤田氏)という。
■ドコモ口座問題で約1カ月謝罪せず
吉沢氏にとって、9月8日以降に発覚したドコモが運営するキャッシュレス決済サービス「ドコモ口座」の不正利用問題で、正式に謝罪するのがこの社長交代会見の9月29日と約1カ月後になったことも「危機対応力のなさを露呈した」(全国紙経済部記者)。
この問題が発生した大きな要因の一つに、ドコモが自社回線ユーザーを中心に顧客拡大を図る戦略をとったために他社連携が進まず、ソフトバンクやKDDIなどに遅れをとってきたことがある。焦ったドコモは昨年9月からメールアドレスのみで口座開設可能にして本人確認のセキュリティー強度を弱めた。ドコモは9月10日に丸山誠治副社長が謝罪しているが、「顧客情報保護という信頼の根幹に関わる問題の最高責任者にもかかわらず、担当副社長に謝罪を押し付けた」(前出の経済部記者)との批判は付きまとっており、吉沢氏の経営トップとしての資格が疑われていたことは否めない。
キャッシュレス決済サービスは菅首相が官房長官時代から主導してきた政策であり、普及のために9月から始まったマイナポイント事業の開始直後にドコモ口座問題が水を差した。「高い携帯料金で目を付けられていたところに、このドコモ口座問題で二重に菅首相の不興を買った」(政府関係者)のは間違いない。
今回のNTTによるドコモ完全子会社化により、吉沢氏は独立企業としてのドコモの誕生から「NTTグループの一部門化」までのすべてを見届けた「最後の社長」になる。今後はNTTの意を汲んだ経営幹部がドコモのかじ取りを担うことになるが、携帯料金引き下げは実現するにしても、一企業としての競争力が高まるかは甚だ疑問だ。親会社の顔色ばかりを窺い、消費者へのサービス還元がおろそかになりかねない。今回の歴史的な決断を下した澤田氏に一般消費者への配慮がどの程度あるか、刮目して見ねばなるまい。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)
●松岡 久蔵(まつおか きゅうぞう)
Kyuzo Matsuoka
ジャーナリスト
マスコミの経営問題や雇用、農林水産業など幅広い分野をカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや文春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。ツイッターアカウントは @kyuzo_matsuoka
ホームページはhttp://kyuzo-matsuoka.com/
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