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Go To トラベル東京解禁でも庶民は“お呼びでない”理由…高級旅館で贅沢できる富裕層向け?
https://biz-journal.jp/2020/09/post_182414.html
2020.09.30 11:10 文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト Business Journal
「gettyimages」より
東京に住む者としてはこれまで横目で見るしかなかった「Go To トラベル」のニュースだが、いよいよ都民も対象になるようだ。Go To トラベル事務局のサイトには「東京都を目的とする旅行と東京都に在住している方の旅行について、10月1日以降に開始する旅行より改めて本事業の支援対象とすることが決定いたしました」と発表されており、9月18日より予約受付が開始されている。
9月の4連休には間に合わなかったが、秋の行楽シーズンにギリギリ滑り込んだというところか。今後の感染状況によっては再び見直しもありとの但し書きはあるが、そうなれば東京以外の地域も等しく感染状況で判断されるべきだろうし、総選挙を見据えるこの状況で大都市圏の有権者を逆なでするようなことはしにくく、二度目の対象外しは難しいのではと推察している。
さて、10月以降さらに盛り上がりを見せると思われるGo To トラベルだが、いびつな状況が生まれているらしい。このキャンペーンは国内旅行を対象に宿泊・日帰り旅行代金の半額の補助(ただし半額のうち、7割は旅行代金の割引、3割は旅行先で使える地域共通クーポンとして付与される。※クーポンは10月より)が受けられ、1泊旅行の場合は上限が2万円とされている。
その上限いっぱいの恩恵を受けようという利用者心理の結果、より高額な宿泊施設に人気が集中しているらしい。単純に2万円の倍なら1泊4万円の宿を取ろうと考える人が多いわけだ。その際の宿代の割引額は1万4000円となり、4万円の宿が2万6000円で泊まれる。片や筆者は家族旅行でもビジネスホテルを利用するのが常で、高くても1室1万円までが目安のため、もしそれでGo Toを使うと、割引額は3500円だけだ。1万円の宿が6500円で泊まれるのは十分魅力的だが、そうは感じない人が多いのだろう。
4万円が2万6000円になるのと1万円が6500円になるのとを比べると、割引金額が大きい方がトクだと感じる心理のせいで、普段の旅行では1泊1万5000円の宿を選ぶような人でも、気前よく2万円以上を払ってしまう。それも仕方がないだろう。自粛疲れや海外旅行にも行けないストレスもあり、せっかく行くなら高額宿を、と人が流れるのもわからなくもない。
しかし、その結果、お手頃価格の宿がキャンペーンの恩恵からこぼれ落ちてしまっているという。政府はそうした宿向けに独自の支援策を検討しているとの報道もあったが、意地悪な見方をすれば、最初からこうなることを織り込み済みだったのではないか。
■高級宿に泊まれるお客こそ来てほしい?
Go To トラベルとは、新型コロナで打撃を受けた観光業を支援すべく、観光の需要喚起策として1.1兆円もの予算を充てた巨大事業だ。それが高級旅館に偏ってしまうとすれば不公平感はあるが、とはいえ、高い宿に泊まってタクシーで現地を観光して回り、食事もバイキングではなく地元産品の会席料理を注文してくれるような、懐に余裕のある層が来てくれた方が観光地としてはありがたいはずだ。
1泊6500円でビジネスホテルに泊まり、地元スーパーでビールとつまみを買って部屋で晩酌する筆者のような客に来られても、大した貢献にはならないからだ。しかも、2020東京五輪にどっとやってくるはずだったインバウンドを当て込んで、地方にも高級ホテルがどんどん建設された。ところが、その需要がきれいに蒸発してしまったのだから、その代わりに国内の裕福なお客様に来ていただき、なるべく空室を埋めないと、延期されたオリ・パラリンピックまで持ちこたえられないことだってあり得る。
都内の事情も似たようなものだ。東京がGo To トラベルを除外された期間に行われていた有名ホテルの都民限定プランを調べたが、宿泊の割引のほかにホテル内の飲食店で使える商品券がセットになっているプランが多かった。こちらもインバウンドが減り、接待需要も減った状況で苦しむ飲食店に宿泊客を送り込むことで、コロナ禍を乗り越えてほしいという考えがあったのではないだろうか。
「収入が減って旅行になんか行ってる余裕はないのに、何がGo Toだ、不公平だ」というお怒りも聞こえるが、そうではないのだ。こんなご時世でも使えるお金と時間がたっぷりあって、高級ホテルに何度も泊まれる人たちにこそ来てもらい、飲食や観光でどんどん消費してほしいというのが、このキャンペーンの正しい解釈だと思う。我々のような庶民はもとから期待されていなかったと思えば、少しはスッキリしはしまいか。
■観光業が雇用を支える地方ならではの事情
他にも「みんな苦しいのに、なぜ観光業だけが優遇されるのか」という声もある。その通りだと思うが、そこにも地方ならではの事情がある。有名観光地に行くとわかるが、大型観光ホテルが経済の中心であることが多い。
まずは雇用。コロナの影響でロボット接客・スマート接客も進むかもしれないが、現在のところ、ホテルほど多くの人間が働いている場はないだろう。宿泊客に対応するフロントや売店・食事処だけでなく、客室の掃除や布団の準備も人間が行っているし、調理場のスタッフもいる。また、そこに商品を納入する業者たちやバス・タクシーの需要も生んでくれる。観光が雇用を支えているだけに、そこに手厚くするのは理にかなっている。
歴史的にも、観光業はそうやって雇用を創出してきた。たとえば、大分の別府温泉を有名観光地に押し上げた実業家・油屋熊八は、明治時代に別府に旅館(現在はホテル)を創業し、さらに自動車会社(現在はバス会社)を設立した。別府といえば「地獄めぐり」が観光の目玉だが、まだ自家用車など持てない時代に地獄を回る遊覧バス路線を敷いて観光客を運んだのだ(ちなみに、日本初のバスガイドはこの遊覧バスに乗車し観光案内をした少女車掌と言われている)。
他にも、由布院温泉の開拓やゴルフ場開発なども手がけたという。このように、宿泊、飲食、娯楽、交通を新たに創出すれば広く雇用が生まれ、お金も回り出す。この昭和的な観光モデルはその後、陰りを見せたが、やはり今でも地方に行くと大型ホテルが経済の要であることに変わりない。Go Toキャンペーンでなるべく館内設備が整った大規模ホテルに泊まりたいという選択も、そう考えれば正しいわけだ。
改めて言おう。このキャンペーンの目的は、税金を使って我々庶民におトクに旅をしてもらうことではない。観光業を中心に据えた地方の雇用と経済を何とか維持するためだ。そう考えれば、お金持ちが何度も高級旅館に泊まって贅沢三昧してくれる姿をほほえましく見守るべきなのだろう。本音で言えば、ちょっと恨めしいが。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)
●松崎のり子(まつざき・のりこ)
消費経済ジャーナリスト。生活情報誌等の雑誌編集者として20年以上、マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い方にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。また、節約愛好家「激★やす子」のペンネームでも活躍中。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)。Facebookページ「消費経済リサーチルーム」
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