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「貯金も底をついた…」外食業界・非正規・派遣で働く人々の悲鳴
https://diamond.jp/articles/-/242158
2020.7.17 5:30 ダイヤモンド編集部 山本興陽:記者
大量失業の恐怖シナリオが顕在化しつつある。苦境に立たされる外食業界、働く場所を奪われた非正規・派遣社員、安泰ではなくなった正社員――。特集『大失業時代の倒産危険度ランキング』(全29回)の#24では、労働者の“リアルな声”をお届けする。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)
「失業予備軍」が急増中
休業者は半年で237万人増加
「職を失い『貯金も底をついた』といった相談が相次いで、電話が鳴りやまない日もある。住む場所を追い出されて、ホームレスになる人も出てきた」
生活困窮者への支援を行う「ほっとプラス」の藤田孝典氏は、現状をこう説明する。
新型コロナウイルスの感染拡大が、人々の雇用や暮らしを脅かしている。総務省の労働力調査によれば、5月の失業者数は前年同月から33万人増加の198万人に達した。この増加幅は、リーマンショックの影響が出た2010年1月以来の高水準だ。
ただ、「失業者の増加が本格化するのは、これから」と労働組合やNPOの関係者は異口同音に危機感をあらわにする。背景にあるのは、休業者、いわば「失業予備軍」の急増だ。
「コロナ拡大直後の3、4月は、『休業手当を出してもらえない』という相談が多数だった。だが、日を追うごとに、解雇や雇い止めの相談が増えている。現在、休業者としてカウントされている人も、徐々に失業者に移行していくだろう」と、飲食店ユニオンの担当者は今後を見通す。
コロナ拡大前の19年12月の休業者数は186万人であったのに対し、20年5月の休業者数は423万人となり、約半年間で237万人も増加している。
飲食、宿泊業…雇用の受け皿が大打撃
失業と人手不足が併存する時代に突入
業種別に見ると、営業自粛や外出自粛で打撃を受けた「宿泊業、飲食サービス業」の休業者数が79万人(20年5月)で、19年12月と比べて7倍超となっている。
都内のあるホテル従業員は、「コロナ拡大前、宿泊者の90%超がインバウンドだったので、現在の稼働率は10%台で大赤字。これまで外部に依頼していた清掃業務をホテルスタッフ自ら行ったりして、何とか雇用を維持してもらっている。清掃業者やリネン業者は、東京オリンピック・パラリンピックを控える中、人手不足が叫ばれていたのに、急速な人余りとなって、ホテルに付随する業者も壊滅」と深刻さを訴える。
リーマンショック時、仕事を失う人が増えたのは製造業が中心で、飲食や宿泊業をはじめとしたサービス業が雇用の受け皿となった。今回のコロナショックでは、その受け皿が苦しんでいる状況。彼らの受け皿は果たしてあるのだろうか。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の小林真一郎氏は、「失業者の増加と人手不足が併存する時代が到来する」と予測する。人余りの業界から人手不足の業界への「労働力の大移動」は一向に進んでいない。「これまで職業訓練などに取り組んできたものの、スムーズにはいかなかった。この状況下で、人の流れをつくるのはなおさら難しい。(建設や介護など)人手不足の業界は人手不足のままになる」(小林氏)。
皮肉にも、20年1〜6月の「人手不足」関連倒産は253件で、集計を開始した13年以降、19年1〜6月に記録した190件を抜き去り過去最多を更新した(東京商工リサーチ調べ)。
埋まらない正規社員と非正規社員の格差
「9月危機」が迫っている
コロナ禍で、正規社員と非正規社員の雇用形態による“差別”もあらためて浮き彫りとなった。
JTBに派遣されているある社員は、「コロナ拡大でフロアの正社員は全員在宅勤務をしているのに、自分だけ一人出社させられた」と訴える。正規社員のテレワーク導入は、企業のイメージアップの思惑も絡んで進みやすいが、派遣社員の場合、派遣元との契約もあるため、コロナ禍にあっても労働環境の是正は進んでいない。
東京ユニオンの関口達矢副執行委員長は、「派遣社員がぜんそく持ちでコロナの重症化リスクがあるため、『在宅勤務をしたい』と頼んでも認められないと相談に来るケースもあった。コロナ禍でも来客や電話対応の人員は必要なため、わずかでも会社に人員を置いておきたい」と、派遣社員を出社させる企業の“本音”を説明する。
派遣社員をはじめとした非正規社員の契約解除が横行するのは「9月だ」と語るのは、労働相談カフェの横川高幸氏。
「企業と有期の雇用契約を結ぶ契約社員や、派遣会社から派遣される社員の契約期間は、6カ月というケースが多い。通常1カ月程度前に、契約解除の通告を行う必要がある。4月からの契約分は3月以前に結んでいたため、コロナ拡大以前に契約した企業も多い。だが、9月の更新のタイミングで解除が相次ぐだろう」と予測。非正規切りの“9月危機”が目前に迫っているのだ。
雇用調整助成金を申請したくない企業の思惑
「社会保険料」の壁がある
正規社員にも“新たな危機”が迫りつつある。
そもそも、事業主が労働者に対して休業させた分の補償として休業手当を支払えば、雇用調整助成金の申請ができ、事業主には支払った全額が振り込まれる仕組みがある。
にもかかわらず、事業者側が雇用調整助成金を申請せず、休業手当を払ってくれないとの声が相次いでいるのだ。
「雇用調整助成金の申請に当たり、勤務状況を提出する必要があるが、そもそも勤怠管理を行っていない企業は申請さえできない。勤怠管理を行っていたとしても書類が煩雑。中小企業の人事担当者は兼任も多いため、会社の担当者だけで作成するのは難易度が高い」と社会保険労務士の飯塚知世氏は裏側を明かす。
先行きが見えない中、一時的であっても現金の流出を避けたい経営陣の思惑もあるようだ。ある上場企業の役員は、「労働者に休業手当を払ってから、雇用調整助成金が入金されるまでしばらくタイムラグがある。仮に入金までに四半期決算を跨いでしまえば、監査法人からの印象も悪くなる。できれば払いたくない」と本音をこぼす。
ただ、雇用調整助成金を活用しても守れない雇用があるのも事実だ。休業扱いにしていても、雇用契約を維持している限り、社会保険料を払う必要はある。現状、保険料支払いの猶予制度は拡充されたが、免除ではない。「(社会保険料を払ってでも)雇用契約を維持するか、それとも切るか。事業者は2択を迫られている」と、日本大学経済学部の安藤至大教授は企業側の苦悩を代弁する。
生活保護が急増中
中流階級の地位も脅かす
こうした休業者や失業者の増加を背景に、生活保護の申請が急増している。厚生労働省によれば、4月の生活保護の申請件数は2万1486件。前年同月比で24.8%増加しており、12年に申請件数の統計を開始して以来、伸び率は過去最大を更新した。休業者や失業者の増加が続けば、生活保護の申請件数も増加の一途をたどると想定される。
「一度、生活保護を受給すると、抜け出すのはなかなか難しい」と、生活保護の支援者は明かす。
大失業時代の到来は、“中流階級”の地位も脅かすといえよう。
Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic:Daddy’s Home
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