http://www.asyura2.com/20/hasan134/msg/554.html
Tweet |
コロナ不況の景気対策が、日本の財政を悪化させない意外な理由
https://diamond.jp/articles/-/242244
2020.7.6 4:50 原田 泰:名古屋商科大学ビジネススクール教授 ダイヤモンド・オンライン
コロナ不況対策は、財政悪化を招くのか Photo:PIXTA
新型コロナウイルス感染症による景気の落ち込みから急回復させるべく、さまざまな財政支出が行われている。これについて、さらなる財政悪化を招くため、増税をセットにすべきだとの主張がなされている。しかし、これには根本的な問題があることを指摘しておきたい。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)
■景気対策と増税のセットは正しいか
新型コロナ感染症対策として、巨額の財政支出がなされている。これはただでさえ悪化している日本の財政状況をさらに悪化させ、国債の信用を危機に陥らせるもので、金利の急騰を招きかねない。したがって、現在、財政拡大を行うなら、必ずその支出増を後から増税でまかなうべきだという議論がある。
実際、2011年の東日本大震災に関しては、復興特別税として、所得税、住民税、法人税に上乗せし、10.5兆円の復興支出を賄うことが決められている。うち、所得税については、所得税の2.1%分の増税が2013年度から25年にわたって徴収されている。
しかし、この議論には3つの点で疑問がある。第1に、増税されると分かっているのなら、人々は将来の増税のために貯金し、支出をしなくなる。すなわち、近い将来増税すると言っては、肝心の景気刺激効果が薄れてしまう。第2は、景気対策で財政は悪化しない。悪化するのは不況のためだからである。第3は、支出に応じて増税するという議論は、かえって支出の中身を精査する議論を遠ざけてしまう危険性がある。
次ページから、この3つの論点を詳しく解説していきたい。
■1.増税を予想した人々は支出を拡大しない
「近い将来の増税を予想した人々は支出を拡大しないというのは極端だ。特に、今回のコロナ不況対策は、急に所得が減少してどうしようもなくなってしまった人々への援助なのだから、将来の増税に備えて貯蓄するなどということはあり得ない」
こう考える人が多いだろう。
だが少数であれ、将来の増税を意識して支出を拡大せず、貯蓄する人もいるはずだ。
わざわざ将来の増税をセットにして、景気刺激効果を削減する必要があるだろうか。もし景気刺激効果を小さくしたいなら、そもそも景気刺激対策の予算額を減らせばよいだけだ。これで財政赤字も減少し、目的を達することができる。
■2.景気対策で財政は悪化しない
これはやや複雑な議論をしないといけない。
景気対策で財政は悪化しないとは、次のような意味である。財政支出を拡大すると、GDP(国内総生産)は増えるはずである。昔のケインズ主義者は、財政支出を1兆円増やせばGDPは3兆円ぐらい増えると主張していた。財政支出額とそれによって増加するGDPの比を乗数というが、乗数は3だというわけである。
しかし、乗数が3もあると考えている経済学者やエコノミストは、現在はいないだろう。ただそれでも、乗数が1ぐらいと考えている経済学者、エコノミストは多い。内閣府経済社会総合研究所の分析によると、公共投資の乗数は1.14である(「短期日本経済マクロ計量モデル(2015年版)の構造と乗数分析」『経済分析第190号』内閣府経済社会総合研究所、2016年1月)。
現在(2018年度)、一般政府の債務残高は1,240兆円、名目GDPは548兆円である。乗数が1として、10兆円の国債を発行して政府支出を10兆円増やすと、政府債務残高もGDPも10兆円増える。
この時、政府債務残高の対GDP比はこうだ。
【国債を発行して政府支出を増やす前】
政府債務残高対GDP比=1240兆円÷548兆円=226%
【国債を発行して政府支出を10兆円増やした後】
政府債務残高対GDP比=(1240兆円+10兆円)÷(548兆円+10兆円)=224%
すなわち、景気刺激策によって政府債務残高対GDP比は低下する。
多くの読者はこの計算結果を信じないだろう。なぜなら、図に見るように、これまで政府債務残高は増加し、GDPは増加せず、政府債務残高の対GDP比は上昇してきたからである。
しかし、この図は、1997年から98年の金融危機、2001年のITバブルの崩壊、2008年のリーマンショックによる不況によって税収が減少し、名目GDPも縮小したから赤字が拡大したとも解釈できる。
不況になれば、財政赤字は増える。景気対策をしようがしまいが赤字は増える。景気対策は、この悪化した財政赤字の状況をわずかながら改善する効果があるが、その効果は小さいので、不況によって生じた財政悪化を覆すほどの効果はなかったと考えることもできる。
景気刺激策と関係なく、不況によって赤字が増えるのは自明である。
次に、乗数が1より小さいかどうかを考えよう。
■3.増税して赤字を埋めるなら財政支出のチェックが甘くなる
ショックに対応した財政支出は、本来は高い乗数を持つはずである。
コロナ感染症の治療費が100万円だとしよう。100万円かけて治った人が、後10年間働くとすれば、平均的な所得を500万円として5000万円稼げる。税と社会保険料で3割ぐらいを取っているので、いずれ1500万円の税・保険料収入を得ることができる。あえて増税する必要はない。医療には投資的な価値がある。
東日本大震災からの復興で、分断された道路の一部を直すことは、高い経済的価値がある。一部が壊れていることで、全線が機能しないのであるから、一部を直すことで全線が機能する。一部の工事の費用で全線を機能させるのであるから効果が高いはずである。
しかし、あえて効果の小さい対策や過大な支出を行えば、GDPを増加させる効果は小さくなる。マイナスになってしまう場合もあるだろう。
東日本大震災の復興対策費は過大で効果の低いものが多かった(これについては、原田泰『震災復興 欺瞞の構図』第1章、新潮新書、2012年、齊藤誠『震災復興の政治経済学 津波被災と原発危機の分離と交錯』第3章、日本評論社、2015年、参照)。一つ例を挙げれば、東日本大震災の対応として、政府は、山を切り崩して土を盛り上げ、高台をつくったが、そこは空き地だらけである。高台造成費用は、1戸当たり5000万円にもなるという(「オーバースペックの復興 1100億円で12mかさ上げる陸前高田」『月刊Wedge』 2015年5月号)。造成したときにはGDPは増えるかもしれないが、そこに人は戻らないのだから次の年の所得の成長率はマイナスになってしまう。
話を戻してコロナ対策予算で考えよう。
例えば、今話題の「政府Go Toキャンペーン事業」。これはコロナ終息後、旅行需要をV字回復させようとするものだ。しかし、終息しているかどうかなど、誰にも分からない。旅行需要が爆発的に回復すれば感染も爆発的に増加するかもしれない。感染が急増すれば、また自粛と接触禁止で旅行・外出関連需要は急減する。財政支出を増やすことによってGDPが減ってしまう可能性のある事業である。
むしろ、予算投入をやめて、旅行需要を緩やかに伸ばすことがコロナ対策ではないだろうか。需要を抑えたいのであれば、これまで通り旅行のような外出を遠慮していただくだけだ。需要を拡大してもよいのであれば、県をまたぐ旅行をさらに勧める。海外の状況が収まれば、海外観光客を歓迎する。これには、何ら予算措置を必要としない。
筆者は、財政学者の役割は、むしろ個別の政府支出をチェックすることではないかと考えている。そもそも、借金で何をするかを考えず、ただ借金が悪いと言っては、民間企業は発展しない。借金の使途が本当に投資的なものであるかを見極めることが企業経営の要諦で、トップに助言する財務担当役員の仕事でもある。財政学者が、借金の使途を議論せず、増税で財政赤字を埋めろと主張することは、むしろ個別の政府支出へのチェックが甘くなり、財政赤字、政府債務が拡大する一因ではないだろうか。
>>新型コロナウイルス特設ページはこちら
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民134掲示板 次へ 前へ
最新投稿・コメント全文リスト コメント投稿はメルマガで即時配信 スレ建て依頼スレ
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民134掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。