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ユニクロが目標にしたGAPが倒産危機…カジュアル志向加速で老舗アパレル破綻ラッシュ
https://biz-journal.jp/2020/07/post_166001.html
2020.07.05 06:00 文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師 Business Journal
GAPの店舗(「Wikipedia」より/Kakidai)
コロナ禍が決定打となり、インターネットへの適応が遅れていた世界中のアパレル企業の世代交代が急速に進んでいる。中国海関総署(日本の税関にあたる)によると、1月から3月の貿易統計では中国から日欧米への衣類輸出が前年同月比20〜30%減となっている。
世界の名門小売業の破綻が続き、アパレル産業の潮流が大きく変化している。米GAPの家賃不払い訴訟、バングラデシュ企業への大口発注キャンセル、米国で200年を超える歴史のあるブルックス・ブラザーズの破綻の可能性まで取り沙汰されている。東急プラザ銀座のアジア最大旗艦店をはじめ、国内主要都市で展開される英メンズブランド「ハケット・ロンドン」も日本撤退の噂が囁かれている。今回はそうした情報をもとに、アパレル業界の今後を探る。
■1.売上世界第4位アパレル企業GAPの今
著者は昨年出版した拙著『アパレルは死んだのか』(総合法令出版)で、GAPの問題点を指摘した。売上額ベースでユニクロに抜かれ世界3位から4位になっても、米国を代表するアパレル企業であり“アメリカンスタンダード”と呼ばれている。世界で最初にSPA(自社で生産から小売りまでのサプライチェーンを構築する業態)を実現した素晴らしい企業であり、ユニクロが目標として学んできた企業でもある。そんなGAPをめぐり、良くない報道が続いている。
米国の百貨店・アパレルの現状は非常に厳しい。昨年3月に新店をオープンしたばかりの、全米で43店舗を展開する高級百貨店ニーマン・マーカスが5月7日に連邦破産法を申請した。ただし、すでに清算されたバーニーズと違い、債権者との合意で事業継続は認められている。ニーマン・マーカスのハワイ店には日本語のホームページも開設され、日本人顧客も少なくない。15日にはゼネラルストアーを全米で約850店運営するJCペニーも破産法を申請。ニューヨークに旗艦店を置くメイシーズは、全店舗の約1割にあたる125店舗の閉鎖、従業員12万5000人の一時解雇を発表した。アパレル販売を主力とする小売関連企業で破綻ラッシュが起きている。
米国ではモータリゼーションによって各地にモール(ショッピングセンター)が開発され、衣料品を主とする百貨店や大型テナントが出店を競った。今や国民一人当たりの売場面積はダントツの世界1位で、明らかにオーバーストア状態である。
200年を超す歴史があり全米で約250店舗を展開するブルックス・ブラザーズにさえ、身売り・倒産予想の報道が出ている。GAPも例外ではなく、3月以降に北米の店舗を閉め8万人の従業員を一時解雇。北米に展開する約2400店の家賃支払いを中止すると発表。北米店舗の月額家賃の合計は1億1500万ドル(約125億円)となる。
4月23日、GAPのカトリーナ・オコンネルCFOは今後12カ月の事業継続に必要な資金が不足する恐れがあると警告し、起債による資金調達に加え、人員削減や設備投資先送りなどが必要になる可能性があるとした。また、バングラデシュの縫製品製造業・輸出業協会(BGMEA)によると、GAPの春夏物、秋物の約30億ドル(約3,230億円)分の発注がキャンセルか保留になっている。
米国最大の商業施設所有企業サイモン・プロパティは、3月から6月にかけて6590万ドルの家賃を支払わなかったとして、GAPを訴えた。サイモン・プロパティは三菱地所と日本初の大型プレミアムアウトレット施設を2000年7月に御殿場に開業した、米国最大の不動産会社のひとつである。GAPは主要店舗としてアウトレット施設の入口のベストプレイスに大きな面積を与えられている。これは、米国でも同じ条件である。
そしてGAPの20世紀のままの化石のようなMD政策、魅力のない商品力に改善は見られない。
■2.英国紳士を起源とする文化、スーツスタイルの崩壊
英国では1953年創業の生活雑貨ブランド、ローラ・アシュレイが3月に破綻。かわいい花柄で急成長したことで知られるキャス・キッドソンも英国内の全店舗を閉鎖し、2015年9月に設立された日本法人は65億円の負債で自己破産を申請した。世界的に洋服のカジュアル化がますますスピードを増して進んでいる。
英国の上流階級の服飾文化を原点とするメンズのスーツスタイルは、これまで世界中のビジネスマンの共通の服装であった。しかし国内でも団塊世代の引退、家庭の衣料出費の低下、政府主導のサマースタイル推奨等で、主要スーツ量販店の業績も縮小が続いている。世界中でもこの傾向は顕著であり、ビジネススーツを中心とするアパレル企業はこの解決策にさまざまな挑戦を続けている。
英国を代表するブランド、ハケット・ロンドンの動きをみてみよう。
1983年、英国ロンドン・チェルシーのキングスロードにジェレミー・ハケットが第1号店を創業したのがハケット・ロンドンの始まりだった。92年、アルフレッド・ダンヒル傘下で英国スタイルの象徴ブランドとして大きく飛躍した。90年代にはイングランドラグビーチームの公式スポンサーとなる。しかし、2005年にイギリスのジーンズ会社ペペジーンズに買収された。
13年、ハケット・ロンドンはサッカークラブ「チェルシーFC」のオフィシャルサプライヤーとなり、19年にラグビーチーム「ブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズ」の公式プレミアムウェアメーカーとなった。19年6月から21年7月までのツアー・南アフリカにおける3年間のパートナーシップを提携する。
現在、ハケット・ロンドンは世界で約185店舗を展開している。2008年4月に日本にもハケットジャパンが設立され、09年に丸の内にショップをオープン。16年3月には東急プラザ銀座にアジア最大の旗艦店をオープンさせている。伊勢丹メンズ館をはじめ国内有名百貨店や主要商業施設で展開されている。重衣料が中心であるハケット・ロンドンの日本撤退も取り沙汰されている。
過去、日本のアパレル市場は世界的にみて魅力的で有力な市場であった。しかし19年にアメリカンイーグルやフォーエバー21が撤退した。本国の事業主体がなくなれば、日本の事業主体は商品、資金ともに立ちいかなくなる。20年3月に破綻した米ディーン・アンド・デルーカのケースは、日本側出資者が破綻前に海外所有者の持ち株も買い取り、完全な日本企業として継続した特殊な成功例である。
■まとめ“Crisis brings opportunity.”
16年から始まったアパレルのローカル回帰現象がはっきりと強まっている。過去にグローバル展開で成功した企業の破綻、撤退が続く。世界でアパレル産業の総需要は伸びると予想されてきたが、コロナ禍で混乱が続く。安価な実用衣料と付加価値が高いラグジョアリーの二極化、スポーツ要素のカジュアル化が進むのは間違いないであろう。消費者の価値観と社会ニーズが、アパレル産業を新しい構造に大きく変えてくれるであろう。
(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)
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