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【コロナ】経済苦の自殺者、感染の死亡者を上回る懸念…行動自粛、1年は継続との見方
https://biz-journal.jp/2020/04/post_153286.html
2020.04.21 19:30 文=横山渉/ジャーナリスト Business Journal
新型ウイルス肺炎が世界で流行 緊急事態宣言下の東京(写真:アフロ)
政府は7都府県に限定して発出していた「緊急事態宣言」を16日、全国に拡大した。国際政治学者の三浦瑠麗氏は6日、Twitterで「緊急事態宣言を、世論に押し切られて行う意味がいったいどこにあるのか」と投稿しているが、この緊急事態宣言の是非を冷静に分析しているメディアは非常に少ない。テレビに関しては皆無だ。ジャーナリストの青木理氏が7日放送の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)で、緊急事態宣言を「野党やメディアが『早くやれ!』となったのは健全じゃない」と言ったのが象徴的だ。
緊急事態宣言はとりあえず5月6日までだが、京都大学の山中伸弥教授は15日付京都新聞のインタビューでこう話している。
「1カ月だけの辛抱だと多くの人が思っている気がする。かなりの確率で1カ月では元通りにならないと確信を持って言える。継続して我慢していかないと駄目だ」
山中教授は感染者数の拡大が収まるシナリオは3つしかないという。
「1つは季節性インフルエンザのように気温などの理由でコロナウイルスが勢いをなくすこと。(中略)後は2つ。ほとんどの人が感染して集団免疫という状態になるか、ワクチンや治療薬ができることだ。ワクチンや治療薬は1年ではできないのではないか。最低1年は覚悟しないといけない」
要するに、緊急事態宣言に関係なく、最低1年は行動自粛を続けなければならないという意見だ。
多くの人が「自粛と補償はセット」だと言う。だとすれば、政府は1年以上も補助金やら給付金を出し続けて、国民すべてを養っていかなければならないことになる。そんなことは現実的に可能なのか。政府が今回配ろうとしている10万円は一時金程度にすぎない。
■集団免疫
そうすると、山中教授が示す解決策の2つ目、「集団免疫」を考えなければならない。ウイルスに一度感染すると、人間の体内に抗体がつくられて免疫ができ、その後はほとんど感染しなくなる。集団免疫とは、ある感染症に対して多くの人が免疫を持っていると、免疫を持たない人にも感染が及ばなくなるという考え方だ。1人の感染者が新たに感染させる人の数が平均1人未満になった時点で、集団免疫を獲得したということになる。感染が完全になくなるわけではないが、拡大を防げる。
イギリスのジョンソン首相は当初その作戦を取ろうとしたが、方針を転換して強力な社会封鎖を行った。ある意味で感染を許容するわけだから、集団免疫は政治的リスクが高い方策ではある。
日本でも、早い段階から過度な自粛に異論を唱え、集団免疫を獲得すべきと言っていた識者は何人もいる。実業家の堀江貴文氏は3月中旬、自身がプロデュースするイベントを中止しない理由について「自粛ムードを助長しないように行動してるだけ」と説明している。4月1日にtwitterで「集団免疫の獲得の方が早そうな気がする」とつぶやいている。
漫画家の小林よしのり氏は15日のブログに「結局、わしの予言通りに進んでいる。わしは『集団免疫』と『重症者のみに絞った医療で死亡者減らし』の2点に集中すべきと言ってきた」と書いている。そのうえで次のように持論を綴っている。
「インフルエンザ並みの1000万人に感染するという想定でいけば、クラスター潰しは無効になるし、感染経路も追えなくなる。当たり前だ。新型コロナウイルスの撲滅は絶対無理だから、最後は『集団免疫』で妥協するしかなくなるのだ」
前新潟県知事で医師でもある米山隆一氏は14日に「私も『過度の頑張り』ではなく『緊急事態宣言前程度の頑張り』で感染速度を十分制御できていたと思います」とツイートし、17日には日本経済崩壊に警鐘を鳴らすツイートをしている。
「『全国緊急事態宣言』の最大の問題点は『やめる基準が完全に見失われる』事です。何と感染者ゼロの岩手迄緊急事態宣言の対象に入っている以上、例えば『人口10万人当たり6人を下回ったら解除』ができません。日本全国から感染者が0人になるまで続ける事になりかねず、日本経済は完全に壊滅しかねません」
■失業率上昇で自殺者が出るという日本特有の事情
7日の緊急事態宣言によって、経済活動の自粛が急加速した。飲食・サービス業を中心に、閉鎖・倒産している店もすでに多数出ており、失業者も増えている。
4月2日の日経ビジネス電子版で編集委員の山川龍雄氏は「日本では失業率が1ポイント悪化すると自殺者が1000人以上増える傾向がある。感染による死者を抑制できても、自殺者が急増すれば、新型コロナとの戦いに勝ったことにはならない」と書いている。
精神科医の和田秀樹氏は「1000人程度で済まないのではないか」ともっと悲観的だ。
「景気が比較的よいとされる昨年までのデータ(内閣府と警察庁調べ)の推移をみると、『経済・生活問題で自殺する人』は例年4000人前後おり、多い年には8000人以上になっている。中小企業はとくに、売上激減・景気低迷に加え、資金繰りの不安が強くなることで、経営者はうつ病となり、それが自殺の大きな要因になることは十分に考えられる。
やむを得ず従業員を解雇すれば、失業者が溢れて社会不安を引き起こす。その上、過度な自粛が続けば、家で飲酒せざるを得ないので、アルコール依存症が増えるだろうし、それも自殺の引き金になる可能性がある。人々の行動を規制するためのガイドラインを考える政府の専門家会議なのに、心理的悪影響を検討する心理学者や精神科医が入っていない。メンバー構成が偏っていて、総合的な対策が立てられない」
厚生労働省「令和元年版自殺対策白書」にある自殺者推移を見てみると、1997年から1998年にかけて、自殺者は2万4391人から3万2863人へと急増している。これはバブル崩壊後の拓銀や長銀、山一証券など大手金融機関が破綻した不況の時期と一致する。
日本で「経済や生活苦を理由とした自殺者の数」が最も多かったのは、2003年の8897人。この年は完全失業率が5.3%と近年ではもっとも高い水準だった。その後、失業率は低下して自殺者も減るが、08年に発生したリーマンショックで再び状況が悪化。09年の失業率は5.2%に跳ね上がり、経済や生活苦による自殺者も8377人へと急増した。その後、2012年12月に第二次安倍政権が発足してからは、アベノミクスの効果か否かはさておき、失業率も下がっていき、経済苦による自殺者も減り続けていった。(グラフ参照)
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■非正規雇用の増加も影響
精神科医で早稲田大学准教授の西多昌規氏の分析によれば、「日本は他のOECD諸国に比べて、自殺と失業率との相関が大きい。近年の自殺対策白書では、これまで注目されていた失業や就職失敗だけでなく、『事業不振』『生活苦』も自殺者増加と強い関連があるという結果が出ている」という。
教育社会学者の舞田敏彦氏も、失業率と男性の自殺率の関連は日本特有のものであるとし、「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス/4月8日号)では、失業率が1%上がると自殺率が4.2ポイント上がると指摘している。
「(日本の)男性人口を6000万人とすると、失業率1%アップで自殺者が2520人増える計算だ。2%アップで5000人、4%アップで1万人の自殺者が出る。寒気がするデータだが、コロナにより各地で雇い止めが起きていることを思うと、失業率2%(もしくは4%)上昇はあり得ないことではない」
今の日本において、失業率1%上昇はいとも簡単に起きうると考えたほうがよい。バブル経済崩壊前の1989年2月末の非正規雇用者数は817万人で全体の19.1%にすぎなかったが、リーマンショックのあった2008年2月には1765万人にまで増えた。これは全体の34.1%にもなる。そして、2019年9月には非正規雇用は全体の38.7%、2202万人にまで膨らんだ。こんな社会構造においては、解雇や雇い止めは簡単に行われるだろう。
「安倍首相は『悪夢のような……』と言っていたが、東日本大震災のとき、民主党政権は倒産防止のためのモラトリアム法などで、被災地や中小企業に手を差し伸べた。現政権よりずっと国民に寄り添う姿勢があった。安倍政権の経済対策は結局、金持ち優遇でしかない。このままでは中小企業の倒産が相次ぎ、自殺者が続出してもおかしくない。その数はコロナ感染による死者より、はるかに多くなりかねない」(和田氏)
緊急事態宣言による行動自粛で新型コロナの犠牲者を数百人救ったとしても、経済活動の自粛にはそれ以上の副作用があるかもしれない。
(文=横山渉/ジャーナリスト)
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