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ファーウェイ完全排除へ…米中経済戦争は「全面戦争」になる これは「トランプの気まぐれ」ではない
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/69796
2020.01.22 野口 悠紀雄 早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 一橋大学名誉教授 現代ビジネス
米中経済戦争は、トランプ大統領の個人的判断によるのではなく、アメリカ政府全体、あるいはアメリカ国民の広範な合意を背景としている。だから、簡単に解決するものではない。ファーウェイなどのハイテク企業に対する取引規制が強化されている。
■解決にはほど遠い
米中間で、貿易交渉の第1段階合意がなされた。
この内容はつぎのようなものだ。
1.12月15日に予定していた中国製品1600億ドル相当に対する新たな関税(第4弾B)の発動を見送る。
2.中国製品1200億ドル相当に課している15%の追加関税(第4弾A)を半減する。
3.ただし、約2500億ドル相当に課している25%の追加関税は維持する。
これを見て、米中間の貿易不均衡が解消され、両国の関係は改善に向かうとの見方がある。
あるいは、11月のアメリカ大統領選に向けて景気を引上げる必要から、トランプ大統領が対立を緩和する動きに出るだろうとの見方もある。
しかし、そうはならないだろう。理由は2つある。
第1は、第1段階合意の主たる内容は、上で見たように、「12月に発動するとしていた第4弾のBを行なわない」というものに過ぎないだからだ。
ここで対象とされていたのは、スマートフォンや玩具などが中心であり、これに関税を掛けるとアメリカ国内の物価上昇をもたらす可能性があるため、もともと発動は難しいと考えられていた。
約2500億ドルに課している25%の高関税はそのままであることに注意が必要だ。これは、アメリカの中国からの輸入額(2018年で5390億ドル)の約半分になる。
■ファーウェイ「完全排除」への動き
第2の理由はより根源的なものだ。
それは、米中経済戦争は、以下に見るように、トランプ大統領の個人的判断によるではなく、アメリカ政府全体、あるいはアメリカ国民の広範な合意を背景としていることである。実際、米中経済摩擦は、関税以外でも生じている。
以下に、関税以外でどのような措置がとられてきたかを振り返ってみよう。
アメリカ商務省は、2018年4月、中国の通信機メーカー中興通訊(ZTE)がイランに違法に輸出していたとして、米企業との取引を7年間禁じる制裁を科した。これによって、ZTEは経営危機に陥った。
2018年8月に成立した国防権限法は、中国が軍の近代化や強引な投資を通じて、国際秩序を覆そうとしている」と指摘した。そして、アメリカの国防費を過去9年間で最大とすること、中国のリムパック(環太平洋合同軍事演習)への参加禁止、台湾への武器供与の推進などを盛り込んだ。
さらに、中国の大手通信機器メーカー・華為技術(ファーウェイ)とZTE、および監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)、海能達通信(ハイテラ)の5社から政府機関が製品を調達するのを、19年8月から禁じることとした。
この法案は、議会超党派の圧倒的多数で可決された。対中脅威問題はトランプ大統領の個人的な経済的関心の域を超えて、米支配層の共通認識となっているのだ。
議会の決定は、米商務省が6月にZTEに対する制裁を解除したことに不満で行なわれたとの見方もある。
トランプ大統領は、この規制を2019年8月13日に発効させた。
2020年8月以降は、5社の製品を使う外国政府や企業・団体もアメリカ政府と取引できなくなるとされている。
アメリカ商務省は、ファーウエイが制裁対象のイランとの金融取引に関わったとして、2019年5月に、輸出管理法に基づき、安保上懸念がある企業を列挙した「エンティティー・リスト(EL)」に追加した。
これは、「いくらファーウェイを叩いても、中国は2040年『世界一の大国』になる」で述べたとおりだ。
ELに載せられると、企業が製品や技術を同社に輸出するには商務省の許可が必要になり、原則却下される。違反した場合は罰金や米企業との取引禁止などの罰則が科される。
これは、米民間企業とファーウェイとの取引を事実上禁じる規制だ。
後で述べるように、ファーウェイは、5G関連の技術で世界をリードする存在になっている。ところが、5Gの通信インフラを中国メーカーが握れば、機器を通じて機密情報が漏えいする恐れが生じる。このために、ファーウェイは米中摩擦の焦点になっているのだ。
アメリカ政府は、中国企業を通じてアメリカの軍・政府、企業の情報が中国に漏洩するリスクを懸念して、中国メーカーの排除に乗り出したのだ。そして、各国に対して同調するよう働きかけている。
この動きにオーストラリアやニュージーランドも同調。イギリスの大手通信事業者であるBTも、ファーウェイ製品を基幹ネットワークに採用しない方針を表明した。
■ペンス演説がアメリカ人の考えを変えた
マイク・ペンス副大統領は、2018年10月4日にワシントンのハドソン研究所で行った対中政策に関する演説で、中国脅威論を鮮明に示した。
中国を「アメリカに挑戦する国」と決めつけ、「大統領とアメリカ人は後ろに引かない」と訴えた。
中国批判は、政治、経済から、安全保障問題、中国の人権弾圧や監視国家化のおそれまで及んだ。
そして、中国がアメリカの内政に干渉し、大統領を代えようとしているとした。
また、大学、シンクタンク、研究者に資金を提供し、中国共産党が危険で攻撃的であるとの考え方を彼らに持たせないよう努めているとした。
こうした動きをみると、政府も議会も中国の行動を深刻視し、もはや事態を黙認し続けることはできないと判断していることが分かる。かつての1980年代の日本との貿易摩擦とは、根本的に異なる性格のものだ。
「ニューヨーク・タイムズ」は、ペンス演説を、「新冷戦への号砲」と評した。
ペンスの演説は、アメリカ人の危機感を大きく高めたようだ。アメリカ在住の私の友人の話によると、小さなホームパーティの席でも「中国脅威論」が真剣に議論されているという。
これまでパックスアメリカーナを享受してきたアメリカ人が、「経済、金融、産業、軍事などの分野で、中国の後塵を拝することになるのではないか?」、「自分達の将来を脅かすのは中国ではないか?」と、自信を失いつつあるというのだ。
そして、アメリカの将来を真剣に心配しているという。
■ファーウェイCFOの逮捕
2018年12月には、カナダの捜査当局が、アメリカ政府の要請を受けて、ファーウェイの孟晩舟・副会長兼最高財務責任者を逮捕した。経済制裁を科しているイランに対して、違法に製品を輸出した疑いがあるためとされている。孟氏はファーウェイの取締役会副会長で、創業者任正非氏の娘。
ファーウェイの売り上げ規模はZTEの約5倍であり、CEO逮捕が中国に与えるダメージはきわめて大きい。
孟氏が逮捕された12月1日は、米中首脳会談の当日であった。この逮捕劇がアメリカの中国に対する圧力であることは明らかだ。
米司法省は1月28日、ファーウェイと孟氏を起訴した。
ここで、ファーウエイがいかなる会社であるかを見ておこう。
同社は、1987年に、通信機器を開発するベンダーとして、元中国人民解放軍所属の軍事技術関係者が集って設立された。従来から人民解放軍とのつながりが指摘されてきた。
2012年に売上高でエリクソンを超え、世界最大の通信機器ベンダーとなった。なお、上場はしていない。
最近では、スマートフォンや次世代通信規格5G関連の機器で躍進が目覚ましい。基地局ベンダーの売上高シェア(2018年)で、ファーウェイは、スウェーデンのエリクソンについで世界第2位になった。
全世界市場規模213億ドルのうち、エリクソンが29.0%、ファーウェイが26.0%、ノキアが23.4%のシェアを占めている。
■ファーウェイは生き延びられるか?
アメリカがファーウェイに課した禁輸措置によって、ファーウェイはグーグルから基本ソフト「アンドロイド」の提供を受けられなくなった。
ファーウェイは「新製品では、GMS(グーグルの主要アプリ)は使えない」とした。ただし、「自社開発したアプリストアで、動画などを利用できる」、「アンドロイドの利用は続ける」とした。
ファーウェイは、独自のアプリ開発プラットフォーム「HMS(Huawei Mobile Service)」を立ち上げ、Googleに依存せずにアプリを配信できる体制を強化している。
ただし、ファーウェイにとって最も重要なプラットフォームが「Android OS」と「GMS(Google Mobile Service)」であることは変わらない。
HMSは、米国からの制限が今後も解除されず、Googleサービスが一切使えなくなったときの備えと考えられているようだ。
なお、ファーウェイの端末事業が減速しているわけではない。2019年1〜3月期のスマートフォン世界市場において、ファーウェイはアップルを抜いて2四半期ぶり世界シェア2位に浮上したが、4〜6月には伸び悩み。しかし、12月期には再び好調、等と伝えられている。
制裁の影響がどうなるかは、まだ不透明だ。
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