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ハウステンボス、澤田前会長の要請で詐欺集団に50億円提供、損失に…問われる経営責任
https://biz-journal.jp/2020/01/post_137967.html
2020.01.22 文=編集部 Business Journal
HIS・澤田秀雄会長兼社長グループ最高経営責任者(写真:ロイター/アフロ)
■創業者・澤田秀雄氏の長男・秀太氏が取締役に就く
格安旅行会社エイチ・アイ・エス(HIS)は1月29日、東京・新宿のヒルトン東京で定時株主総会を開催する。創業者である澤田秀雄会長兼社長グループ最高経営責任者(CEO)の長男、澤田秀太(ひでたか)氏が取締役に選任される。
秀太氏は1981年11月生まれの38歳。父親と同じように起業家の道を歩む。学習院大学卒業後の2005年4月、日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に入社。06年6月、父・秀雄氏が率いるモンゴル最大手・ハーン銀行を傘下にもつ金融会社、澤田ホールディングス(ジャスダック上場)の取締役に就き、傘下のエイチ・エス証券の取締役を兼務した。
2012年2月、オンライン旅行会社ベストワンドットコムを設立して社長に就任。クルージングツアーの取り扱いを開始した。実店舗は持たず、インターネット専業の業態だ。競合するJTBなど旅行大手と比べて価格競争力があるのが強み。7日間のクルーズ旅行で1人平均の料金は15万円程度。大手がターゲットに定める富裕層や高齢者ではなく、気軽にクルーズを楽しみたい30〜50代の現役世代のニーズを取り込む。世界の船会社の商品を取り扱い、船会社からの手数料が主な収益源だ。ベストワンドットコムは18年4月、東証マザーズに上場した。秀太氏は、「クルーズ旅行を一般的なものにするのが目標」で、「父からのアドバイスはほとんどない」と語った。クルーズブームの到来で、19年7月期の連結売上高は前期比37%増の21億7300万円と急成長。純利益は9%増の8400万円をあげた。
秀太氏は経営者としての経験を積み、実績をあげたことから、秀雄氏が築き上げた「澤田王国」の本丸であるHISの取締役に就く。秀雄氏の後継者としてのデビューである。
■ユニゾHD株売却益30億円の特別利益を計上
HISの19年10月期の連結決算は、売上高が前期比11%増の8085億円と過去最高だった。欧州向け海外旅行を中心に取扱高が伸びた。買収したカナダの旅行会社が連結対象となり、売上を押し上げた。営業利益は3%減の175億円。訪日外国人向け旅行は、中国人旅行客について現地の旅行会社との価格競争が激しくなり、利益率が低下した。
長崎県佐世保市の大型リゾート施設、ハウステンボスはチケットを実質値下げしたが、天候不順と訪日観光客の落ち込みで、入場者数は6%減の254万人に減少。ハウステンボスグループの売上高は8%減の280億円、営業利益は31%減の50億円だった。ホテル事業の売上高は5%増の126億円だが、開業費用を前倒して計上したため2億円の営業赤字(前の期は8億円の黒字)となった。
営業減益となったものの、純利益は11%増の122億円。特別利益としてユニゾホールディングス(HD)株式の売却益30億円などを計上したことによる。20年10月期は旅行業が伸び、売上高は前期比11%増の9000億円、営業利益も10%増の193億円を見込む。純利益は株式の売却益がなくなり10%減の110億円と減益を予想している。
■M資金まがいの50億円の詐欺被害
澤田秀雄氏は19年、社長に就任していたハウステンボスでM資金まがいの50億円の詐欺被害に遭った。18年2月、ハウステンボスで電子通貨(テンボスコイン)を企画した際、金(ゴールド)の調達を一手に引き受け、澤田氏に高く評価された金取引会社社長の石川雄太氏のもとに、こんな話が持ちかけられたことがきっかけだった。
「リクルート創業者の江副浩正氏が安定株主対策として預けた株が財務省に大量に保管されている。財務省とリクルートの承諾があれば、ワンロット50億円といった大口に限り、市価の1割引き程度で供給される」
瞬時に5億円の利益がもたらされるわけだ。およそ眉唾ものの話だが、よほどセールストークがうまかったのか、石川氏はワンロットの購入を決め、澤田氏に相談して資金提供を受けた。当然のことながら、リクルート株式が購入できるはずもなく、50億円は消えてしまった。石川氏は18年11月、58億3000万円の支払いを求めて、東京地裁に提訴。被告は、数々の詐欺事件への関与が取り沙汰される8人で現在公判中だ。
東証上場へ向けて準備を進めているハウステンボスにとって、詐欺被害の原資が、澤田氏の要請でハウステンボスから出ていたことはマイナスだ。澤田氏は19年3月1日、HIS株120万株を売却、約53億円を得て、ハウステンボスの債務の穴埋めとした。ハウステンボスは19年5月21日に臨時株主総会を開催し、澤田氏の社長退任を決議した。この時点で澤田氏は会長にとどまっていたが、19年12月20日に会長も退いた。退任にあたり、佐世保市はハウステンボスをV字回復させた澤田氏に佐世保市名誉市民の称号を贈った。
詐欺事件は公判中だが早晩、判決が下りる。全容が明らかになれば、澤田氏は詐欺師たちに手玉に取られた被害者とはいえ無傷では済まない。東証1部上場会社のトップとして経営責任が問われる。「それを見越して、長男の秀太氏を取締役にした」(関係者)との見方がある。
■ユニゾHDのTOBは不発
「国内と海外のホテル事業を強化し、トップ10入りしたい。そのために、ユニゾホールディングスと提携し、協業関係を深めたい」
19年7月10日、澤田会長はこう宣言。旧日本興業銀行系の不動産会社ユニゾHD株の保有比率を引き上げると発表した。HISはユニゾHDの株式4.79%を持っていた。TOB(株式公開買い付け)を実施し、発行済み株式の45%を上限とし、1株3100円で、総額427億円を投じて買い付けるとした。
HISは旅行業が主力だが、旅行サイト運営会社経由で予約する人が増えており、今後の成長が見込みにくくなっている。ハウステンボスのテーマパーク事業も伸び悩んでいる。そこで、ホテルなど収益源の多様化を進めてきた。ロボットが接客する「変なホテル」に加え、他のブランドを含めて積極的に出店。中期的に100棟に増やす計画を掲げている。
ユニゾHDは「ホテルユニゾ」や「ユニゾイン」などのブランドで関東や関西を中心に25棟を運営しており、インバウンド需要の拡大でホテル事業は順調。ユニゾHDはHISのTOBに反対を表明。ソフトバンクグループ傘下の米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループをホワイトナイト(友好的買収者)に招き、対抗TOBを実施した。TOB価格は4000円である。
HISのTOBは19年8月23日に締め切られたが、応募者がなく不成立に終わった。HISは、保有していたユニゾ株を売却し、ユニゾHDの争奪戦から撤退した。フォートレス・インベストメントのTOBも失敗に終わった。HISはユニゾHD株の売却益30億円を19年10月期に特別利益に計上した。争奪戦には敗れたが、それなりの見返りを手にした。HIS決算の皮肉である。
(文=編集部)
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