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古賀茂明「原発はもういらない」
https://dot.asahi.com/wa/2021030800056.html
2021.3.9 07:00 古賀茂明 週刊朝日 2021年3月19日号
古賀茂明氏
福島第一原発(c)朝日新聞社
2011年3月11日の東日本大震災から10年。あらためて、原子力発電所存続の是非を問い直す機会にしたい。
原発で一番大事なことは、安全性だ。技術的安全性の問題と、管理運営する電力会社と規制をする政府が信頼できるかという二つの問題がある。私はいずれの観点から見ても原発はすぐに止めるべきだと考えている。
まず、安全性の視点から誰にでもわかる議論を紹介しよう。
関西電力大飯原発3・4号機の運転差し止め判決と同高浜原発3・4号機の再稼働差し止め仮処分決定を出した樋口英明元判事はこう述べる。(1)原発事故のもたらす被害は極めて甚大。(2)それ故に原発には高度の安全性が求められる。(3)地震大国日本において原発に高度の安全性があるということは、原発に高度の耐震性があるということに他ならない。(4)わが国の原発の耐震性は極めて低い。(5)よって、原発の運転は許されない(樋口英明『私が原発を止めた理由』<旬報社>)。(1)から(3)に異論は出ない。問題は(4)原発の耐震性だ。
2月13日に福島県沖で発生した地震の最大加速度は宮城県山元町の1432ガルだった。「ガル」は、地震の強さを測る単位で、原発の耐震設計基準に用いられる。10年前の東日本大震災の最大の揺れは2933ガル。21世紀に入って最大の揺れは、08年岩手・宮城内陸地震の4022ガルだ。18年北海道胆振東部地震や16年熊本地震は1700台である。21世紀の1千ガル以上の地震は18回。かなりの頻度だ。
原発の耐震設計基準はといえば、大飯原発が設計時に405ガル。後に856ガルまで大丈夫だとされたが、他の原発もおおむね1千以下だ。一方、三井ホームが売り物にする耐震基準は5115ガル、住友林業は3406ガルだ。民間で「地震に強い」と言うにはそのレベルが必要なのだ。
これについて、電力会社は、「原発の敷地に限って、それほど大きな地震は来ない」と言うが、根拠を聞くと、コンピューターによる計算だという。こんな話を信じるのはよほどのお人好しだけだ。
次に、電力会社と規制当局の信頼性の問題。福島第一原発の現場で活躍したエキスパート木村俊雄氏は、今から30年前、腐食した配管からの冷却用海水の漏出により、非常用ディーゼル発電機が水没し機能を失う事故を経験した。まさに10年前を彷彿とさせる事故だ。木村氏は「津波による事故の解析をすべき」と上司に進言したが、「津波の想定はタブーだ」と退けられた(木村俊雄『原発亡国論』<駒草出版>)。そのときに真剣に対応していれば、11年の事故は防げたかもしれない。最近、東電で大変な不祥事が続いたが、再稼働推進のために原子力規制庁がそれを隠蔽したこともわかった。電力会社と政府の隠蔽体質は30年経っても不変。木村氏の言葉を借りれば、原発の安全性は「眉唾物」なのだ。
だが、最近、地球温暖化対策のために原発を新増設しろと経済界が強く要求し、政府も秘かにそれを狙っている。しかし、彼らを信じてはいけない。
今こそ、樋口・木村両氏の話とともに、10年前を思い出すときだ。巨大津波、メルトダウン、水素爆発……。当時、私たちは、「原発はもういらない」と思った。今こそ、それを実行に移すときだ。
※週刊朝日 2021年3月19日号
■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)など
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