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福島原発・汚染水、県議会「安全確認できた」…不適切な測定方法か、測定不能な測定器使用か
https://biz-journal.jp/2020/11/post_193326.html
2020.11.27 17:20 文=菅谷仁/編集部 Business Journal
福島第1原発に並ぶタンク群(ロイター/アフロ)
東京電力福島第1原発のタンクに溜まり続けることで、問題となっているトリチウムなどを含む汚染処理水。政府は10月末にも関係閣僚会議を開き、汚染処理水の海洋放出を決める方針だったが、地元の漁業団体の反発などで先送りとなった。
そんな渦中の11月10日、福島県議会避難地域復興・創生等対策特別委員会のメンバーが第1原発に訪問した。その際に、トリチウム水の線量を測定している風景を切り取った写真が物議を醸している。トリチウム水の線量を測定している風景を切り取った写真に関して複数の研究者から「これは誤った測定方法だ」「誤解を招く」との指摘が相次いでいる。
写真で県議らは空間線量などのγ(ガンマ)線を測定する機器を使っている。だが、処理水に含まれるトリチウムはβ(ベータ)線核種であり、この測定器ではもともと放射線量は計測されないからだ。
焦点となっている写真は、同県議会の渡辺康平(自由民主党県議会議員会、須賀川市)氏が25日、自身の公式アカウントに投稿した。以下、引用する。
11月10日、福島県議会避難地域復興・創生等対策特別委員会において、東京電力福島第一原発を視察した時の写真です。
— 渡辺康平(福島県議会議員) (@kohei_w1985) November 25, 2020
私達が測っているのは、トリチウムを含む処理水が入ったボトルです。放射線量が極めて微力のため薄いプラスチックボトルでも、放射線量に変化はありません。 pic.twitter.com/PHu3OfxYC8
「処理水の安全性について、その場にいた全県議が科学的に確認することが出来ました。写真は、処理水の安全性を確認した神山悦子県議(共産党)江花 圭司県議(自民党)です」(原文ママ、以下同)
「江花圭司県議が放射線数値を測る機器を持ち、渡部優生県議(県民連合)、瓜生信一郎県議(県民連合)が処理水ボトルを持っています」
「ちなみに、処理水ボトルの放射線量は、0.12マイクロシーベルト、対比する市販の家庭用ゲルマニウム温浴ボール1.38 マイクロシーベルトでした」
「ちなみに『処理水ボトルの水は飲めるのか?』と聞いたところ、東電の説明では『煮沸すれば飲める』とのことでした。煮沸の理由としては『元々は雨水や地下水であり、このまま飲むと雑菌でお腹を壊す』という説明を受けました。確かに、そりゃそうだ」
■汚染処理水(トリチウム水)とは何か?
福島第1原発原子炉内にある核燃料デブリの冷却には今なお、大量の水が必要だ。原子炉建屋やタービン建屋に降り注いだ雨水も、高濃度の放射性物質を含んでしまうため、そのまま敷地内や海に排出することはできない。そのためそれらの「汚染水」は多核種除去設備「ALPS(アルプス)」に通し、セシウムなど62種類の放射性物質を国の基準値以下に除去する。だがALPSをもってしても取り除くことができないのがトリチウムだ。
このトリチウムを多く含んだ水が、現在、第一原発敷地内に所せましと建設された「処理水タンク」で保存されている。すでに原発構内の敷地に余裕はなくなっており、廃炉作業の妨げにもなることから、政府は抜本的な解決策を模索。その結果、国内外の原発関連施設がこれまでもトリチウムを排出していること、福島の汚染処理水については国の放出基準を下回る濃度に薄めて放出することなどを踏まえ、海洋放出の是非を検討している。
実際問題として、廃炉現場に携わる政府関係者や東電関係者からは「今のような遅々として進まない廃炉作業の現状下で、再び東日本大震災のような大規模災害が発生し、大津波が襲来した場合、前回の原発事故に並ぶ破滅的な結果を招く可能性がある」「タンク増設のリソースを、廃炉に回し事故の元凶である燃料デブリの取り出しに注力しなければ、根本的な二次災害の不安払しょくにはならない」などとの声も聞かれる。処理水をどうするのかは、まさに廃炉の最前線にとって喫緊の課題なのだ。
■トリチウムはβ線核種
そうはいっても福島第1原発に貯蔵されているトリチウム水は原子力規制委員会が規制する放射性物質であり、正確な測定と誤りのない情報発信は必要なはずだ。
トリチウムはβ線核種だ。放射線にはα線、β線、γ線の3種類がある。一般的に電磁波であり極めて透過性の高いγ線は厚さ10センチの鉛板でなければ遮蔽するのが難しい。一方、α線は原子核なので紙1枚でも通過できない。β線は電子なのでプラスチック板で遮ることが可能だ。
つまり水面の線量を図るのならまだしも、β線を発しているトリチウム水を、県議会が測定しようとしたようにペットボトルの外側から正確に測定することは難しいのだ。
また、県議会メンバーが測定に利用しているアロカTCS-172シンチレーションサーベイメータは「高感度環境γ線測定器」でありβ線を測るのには適していない。
原子力規制庁東京電力福島第1原子力発電所事故対策室の担当者は次のように説明する。
「測定は基本的に東京電力が行っています。トリチウムは非常に微量な放射線を発しているため、いわゆる空間線量計では測定できないので、一貫して高精度の液体シンチレーション検出器を使用します。ご指摘の写真がどのようなものか把握していませんが、そうした測り方でトリチウムを正確に測定することは難しいと考えます」
■東電「ALPSでγ線核種が除去できていることを示す測定」
では、いったい誰がこのような測定をしようと考えたのか。そもそもこの線量計の持ち主は誰なのか。福島県関係者は次のように話す。
「1F(福島第一原発)の視察では、基本的に外部の測定器の持ち込みはできません。東電側が用意し、向こうの指示に従って実施したものだと思います」
同県議会事務局担当者も「当方からの持ち込みではなく、現地で借りたものです」と語る。
そのうえで、東電福島広報部にこの測定器は誰が用意したのか、こうした測定方法が適切だと考えているのかについて聞いたところ、次のような回答を得た。
「測定器は当方が当日貸し出したものです。ご指摘のように、この測定器はトリチウムのβ線を計測するのは適していません。当方としては、ALPSでセシウムなどのγ線核種がしっかり除去できているということをご理解いただくために、機器を貸し出させていただきました。今回の測定の趣旨は、トリチウム水が周囲に高いγ線を発しているということはなく、周囲のバックグランドと同じ程度の線量であることを示すためのもので、トリチウム水自体の線量を測定するものではないと考えております」
県議会、東電ともにトリチウム水の安全性を強調したかったのだろうが、このアピール方法では誤解や邪推を招く可能性が高いのではないだろうか。いずれにせよ科学的に正確な立証と誤解のない情報発信を重ねない限り、風評被害の払拭は難しいだろう。
(文=菅谷仁/編集部)
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