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鶴岡八幡宮の神社本庁離脱で懸念され始めた伊勢神宮「式年遷宮」の危機/現代ビジネス
島田 裕巳 によるストーリ
https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E9%B6%B4%E5%B2%A1%E5%85%AB%E5%B9%A1%E5%AE%AE%E3%81%AE%E7%A5%9E%E7%A4%BE%E6%9C%AC%E5%BA%81%E9%9B%A2%E8%84%B1%E3%81%A7%E6%87%B8%E5%BF%B5%E3%81%95%E3%82%8C%E5%A7%8B%E3%82%81%E3%81%9F%E4%BC%8A%E5%8B%A2%E7%A5%9E%E5%AE%AE-%E5%BC%8F%E5%B9%B4%E9%81%B7%E5%AE%AE-%E3%81%AE%E5%8D%B1%E6%A9%9F/ar-BB1keY8V?ocid=msedgdhp&pc=U531&cvid=b0de5d206f334961b4f0c23d2229ca77&ei=16
著名神社離脱が続く恐れ
鎌倉の名所、鶴岡八幡宮が神社本庁を離脱するということがニュースになった。鶴岡八幡宮の側はその理由を明らかにしていないが、そこにここ数年続いてきた神社本庁における内紛がかかわっていることは間違いない。
この出来事は、これから述べていくように、神社界にとって重大で深刻な事態を招き兼ねないのである。
神社本庁という名称からは、公的な機関であるかのように感じられるかもしれないが、民間の一宗教法人である。宗教法人には包括法人と被包括法人の二つの種類があり、神社本庁は包括法人になる。全国にある8万社近くの神社が被包括法人として神社本庁に加盟している。仏教宗派で言えば、神社本庁が本山で、各神社は末寺にあたる。
内紛は、2015年に神社本庁が職員の宿舎を売却したことにはじまる。その売却にかんして、神社本庁の上層部と業者が癒着していることを内部告発した幹部職員がいた。神社本庁はそうした職員に解雇などの処分を下した。
処分された職員は裁判に訴え、この裁判では神社本庁側が敗れた。となれば、神社本庁の上層部は責任をとらなければならないはずなのだが、田中恆清総長は、その上に立つ鷹司尚武統理の勧告にもかかわらず辞職しなかった。そこで鷹司統理は新たな総長を指名したのだが、田中総長はそれに従わず、これも裁判になった。裁判では、まだ地裁段階だが、田中総長の側が勝訴している。
神社本庁傘下には、田中総長の退任を求める人間たちが現れ、2022年には「花菖蒲ノ會」という組織を立ち上げた。同会によれば、これに賛同する神主や総代の数は2000人近くに達しているという。神社本庁傘下の神社の神主の総数は2万1000人をわずかに超える程度なので、およそ10分の1が現在の神社本庁の体制に異議を申し立てたことになる。
実は花菖蒲ノ會の10名の「呼びかけ世話人」のなかに鶴岡八幡宮の宮司も含まれていた。ということは、鶴岡八幡宮が神社本庁を離脱するのは、内紛が原因であることになる。花菖蒲ノ會は、神社本庁内部で改革をめざすものだが、鶴岡八幡宮はそれをあきらめたということかもしれない。
呼びかけ世話人には、熱田神宮、東京大神宮、北海道神宮、多賀大社、出雲大社といった著名な神社の関係者が名を列ねている。こうした神社は今後どうするのか。それが注目されるが、花菖蒲ノ會に賛同した神社が今後、次々と神社本庁から離脱することも考えられる。
神社本庁は重大な岐路に立たされている。
「神宮大麻」って何
鶴岡八幡宮が神社本庁を離脱したからといって、被包括法人から単立法人に変わるだけで、神社の活動に影響が出るわけではない。離脱する前と離脱した後で、参拝者が変化に気づくことはないかもしれない。
しかし、一つ重大な変化が起きる。というか、すでに鶴岡八幡宮では変化が起きている。
それは、「神宮大麻」が頒布されなくなることである。神宮大麻とは、「天照皇大神宮」と記された伊勢神宮のお札のことである。
伊勢神宮に参拝すれば、神宮大麻を購入することができる。それは大きさによって三つの種類に分かれていて、もっとも一般的な神宮大麻は1000円である。それより大きい中大麻が1400円、さらにもっと大きい大大麻が2000円である。
神宮大麻は、神社本庁傘下の神社でも購入できる。それぞれの神社では、自らの祭神の神札とともに、神宮大麻を頒布している。神社本庁の傘下にはなくても、希望すれば、神宮大麻の頒布はできる。
鶴岡八幡宮でも、以前は神宮大麻の頒布を行っていた。ところが、今の時点ではまだ離脱が認められていないにもかかわらず、少なくともオンライン上で神宮大麻は頒布されていない。
この点はかなり重要である。というのも、神宮大麻の頒布は、神社本庁の成り立ちと深くかかわっているからである。
神宮大麻の歴史は室町時代にまで遡る。当初の段階では、頒布していたのは、「御師(おんし)」と呼ばれた人間たちであった。御師は、参拝者となる檀家を伊勢神宮に案内する役割を果たし、各地の檀家を回って神宮大麻と神宮暦を頒布した。
ところが、明治に時代が変わると、神道が「国家の宗祀」と位置づけられたため、民間の宗教家である御師の活動は停止させられた。御師に代わって神宮大麻の頒布を行うようになるのが、伊勢神宮の教化機関として誕生した神宮教院であった。その後、神宮教院は教派神道(神社神道以外の神道教団)の一つである神宮教となり、さらには神宮奉讃会へと発展した。
戦後、神社本庁は全国の神社を伊勢の下に置いた
太平洋戦争での敗戦によって、神社は国の管理から外され、その役割を果たしていた国の機関、神祇院も解散となった。そこで生まれたのが神社本庁で、包括法人として全国の神社をその傘下におくこととなったのである。
その際に、神社本庁は、神宮奉讃会の事業を引き継ぎ、神宮大麻の頒布を行うようになる。しかも、神社本庁は伊勢神宮を「本宗」と位置づけた。本宗は、中国語にはあるが、それまで日本語にはなかったことばである。
神社本庁は、本宗ということばについて、「(神社本庁という)教団の統合と信仰の共通を象徴して特別の敬意をあらはした名称である」と定義している。
要は、神社本庁は、伊勢神宮を神社界の頂点に位置づけたことになる。伊勢神宮の内宮では、皇祖神である天照大神が祀られているからで、全国には同様に天照大神を祀る神明社が存在している。
ただ、日本は八百万の神々の国であり、さまざまな神々が存在している。なかには、八幡神や稲荷神のように、『古事記』や『日本書紀』に登場しない神々もあり、さまざまな信仰の系列が併存する形になっている。
したがって、稲荷信仰の総本社である伏見稲荷大社の場合などは、当初の段階から神社本庁には加盟していなかった。
伊勢神宮を本宗として仰ぎ、傘下の各神社は神宮大麻を頒布する。その代金は、伊勢神宮におさめられる。伊勢神宮からは、神社本庁や都道府県の神社庁に、さらには末端の各神社に代金の半分が戻されることになっている。ただし、末端の神社にまで渡っているかどうかはよく分からない。私の知り合いの神社関係者は、自分たちのところには戻っていないと述べている。
それもこれも「式年遷宮」のため
神社本庁としては、伊勢神宮を信仰の中心に位置づけることで、神社全体の権威を高めることを目指してきた。神宮大麻を頒布するのも、伊勢神宮を経済的に支えるためだが、伊勢神宮においてもっとも重要な行事が、20年に1度の「式年遷宮」である。
式年遷宮においては、境内と境外にある社殿がすべて一新されるだけではなく、宇治橋も造り替えられ、それは神宝にも及ぶ。それは、素木の社殿がもたないからで、実際、遷宮が近づいてくると、茅葺きの屋根など相当に痛んでくる。
伊勢神宮の側は、神宮大麻の頒布から得られる金を貯え、それで式年遷宮を行うわけだが、それだけでは足りない。前回2013年の式年遷宮の際には、全体で550億円の費用がかかったが、伊勢神宮は事前に330億円を貯えていた。残りは、式年遷宮奉讃会による寄付でまかなわれた。
鶴岡八幡宮のように、神社本庁から離脱する神社が増えれば、神宮大麻を頒布する神社が減り、伊勢神宮の式年遷宮にも影響が出る可能性がある。
鶴岡八幡宮以前には、金刀比羅宮が離脱しているが、現在、金刀比羅宮でも神宮大麻は頒布されていない。
実は、神社本庁に隣接する明治神宮は、2004年に一旦神社本庁から離脱している。その後、2010年に復帰はしているものの、今でも神宮大麻の頒布は行っておらず、参拝者を驚かせたりしている。明治神宮の祭神が、天照大神につらなるとされる明治天皇夫妻であるにもかかわらずである。
一体、いくらかかるのか
次の式年遷宮は2033年に行われる。
問題は、その際にどれだけの費用がかかるかである。
前回は550億円だったわけだが、1993年は330億円だった。驚くのは、1973年に遡ると、60億円しかかかっていなかったことである。20年で5倍以上に増えたことになる。
さらに、1953年に遡ると、これは、戦争のため、4年延期されたものだった。明治以前の式年遷宮は朝廷や税金によって費用をまかなってきた。それが、明治になると、造神宮使庁が設けられ、日本の国家が費用を負担するようになった。1953年の式年遷宮は、はじめて民間の手によって行われたものである。
宇治橋は、破損が著しかったため、式年遷宮が本来予定されていた1949年に建て替えられていた。このときの式年遷宮にかかわった農業経済学者の東畑精一が書いているところでは、募金によって5億5000万円が集まったという。これが、費用のすべてかどうかは分からないが、戦前、国から支給されていた金で購入した用材が用いられたという。
それにしても、式年遷宮にかかる費用の高騰はすさまじい。このままだと、次に費用が1000億円を超えても不思議ではない。最近の建築費の高騰を考えれば、それは十分にあり得ることである。
伊勢神宮の危機
2033年の式年遷宮の準備はまだはじまっていないが、来年5月には用材を伐り出す山口祭が営まれる。資金を調達する式年遷宮奉讃会も組織されるはずだ。
しかし、神社本庁の内紛が続き、離脱する神社が増えていけば、式年遷宮の実施自体に大きな影響が出ることが懸念される。少なくとも、このままでは神社全体が一丸となって式年遷宮を支えることにはなりそうにない。
費用が足りないなら、今一般化したクラウドファウンディングでまかなえばいいではないかという声が上がるかもしれない。だが、これまでのクラウドファウンディングの最高額は、国立科学博物館の集めた9億円超である。式年遷宮の費用は桁が違う。
憲法の政教分離の原則がある以上、国や自治体が費用を出すわけにもいかない。
果たして次の式年遷宮はつつがなく行われるのだろうか。その保証はどこにもない。鶴岡八幡宮の神社本庁からの離脱が、式年遷宮をより困難なものにするかもしれないのである。
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