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2022年5月2日 11時30分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/175089
2015年から暫定政府と反政府武装組織フーシ派との間で内戦が続く中東のイエメン。内戦関連の死者は37万人を超え、うち7割が5歳以下とされる。「世界最悪の人道危機」と呼ばれるものの、国際社会の関心は薄く、飢えや病気が人々を追い詰める。国内避難民は街から街へと渡り歩き、若者は終わりの見えない戦闘に疲れ、国外に将来を見いだそうともがく。2月下旬、暫定政府が臨時首都とする南部アデンを訪れた。(アデンで、蜘手美鶴)
◆市街地に狙撃手が潜伏
海沿いの小高い丘にあるとりでからは、アデン市街が見渡せる。険しい山々に囲まれて家やビルが立ち並び、遠目でも爆撃で破壊された廃虚ビルがいくつも目につく。「街は今も壊れたままです。内戦が始まって以来、身近に『死』があることに慣れてしまった」。記者にとりでを案内した市幹部オスマン・ナセルさん(42)が顔をしかめた。 2015年3月下旬、フーシ派がアデンに攻め入り、追い込まれた暫定政府が隣国サウジアラビアに支援を要請。サウジ率いるアラブ連合軍が空爆を開始し、イエメンは長い内戦に突入した。市内を戦車が走り、フーシ派から街を守るため学生も銃を手に取った。市街地にはフーシ派の狙撃手が潜み、国際人権団体によると、少なくとも2000人が犠牲になった。 ナセルさんも自宅前でフーシ派に銃撃され、目の前で弟サーレハさん=当時(34)=を亡くした。「近くのホテルの窓から狙撃手2人がこっちを見ていた。住民のほとんどが親族や友人の誰かを失っている」。予算不足で現在も復興は進まず、壊れた建物は放置されたまま時間が止まっている。
◆避難民押し寄せ人口200万人増
南部最大の街アデンには、周辺地域から国内避難民が押し寄せている。内戦前は約100万人だった人口は、300万人にまで増加。市内には避難民キャンプが点在し、板や布をかぶせた粗末なバラックに故郷を追われた人たちが暮らしている。 海辺の空き地には、約40家族が身を寄せる。「この暮らしに疲れた。死ぬのが一番いいのかもしれない」。南西部タイズから逃れて来たアリ・アブドルサラムさん(40)が漏らした。5年前、子ども5人を連れて外出中、自宅が爆撃されて妻と兄が即死。がれきの中で妻の「かけら」を見つけ、その場で気を失った。 子どもたちとアデンに来たが、苦しい生活は変わらない。国連の支援物資が届くのは3、4カ月に一度で、後は地元の人が菓子や古着をくれる程度。2日に一度ペットボトルを集め、約5000イエメンリヤル(約590円)を得ている。「一番簡単に稼げるのは兵士になること」と話すが、子どもを置いていけない。子どもを学校に通わすこともできず、枯れ草に覆われたキャンプにとどまっている。
◆若者の念願は国外脱出
7年を超えた内戦は、若い世代の国外流出も招いている。イエメンで2番目に古いアデン大では、学生のほぼ全員が10代前半から内戦を経験してきた。 歯学部1年のオラ・ムハンマドさん(19)は、親の年収以上の学費約2000ドル(約25万円)を払い、歯科医師を目指している。「みんなに美しい笑顔を与えたい」と話すが、本音は「イエメンから出て海外で働くために勉強している」という。 市内では停電が頻発し、インターネットの接続も不安定。大規模な戦闘はないものの、小さな衝突や政府要人を狙った爆弾テロは続き、不安定な状況に変わりはない。治安の悪化で授業が数カ月単位で中断することもあり、卒業までには長い時間がかかる。 歯学部1年のドアー・ジャマルさん(21)は、早口でまくしたてた。「ここには仕事も、安全も、未来もない。ただ、もうこの国から逃れたい」
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