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籠池刑事裁判、間違った起訴事実で懲役7年求刑…検察が違法な司法取引か、主導者を逮捕せず
https://biz-journal.jp/2019/12/post_134751.html
2019.12.25 文=青木泰/環境ジャーナリスト Business Journal
結審の翌日、日本外国特派員協会での記者会見
10月30日に結審した元森友学園理事長・籠池泰典氏と妻・諄子氏の刑事裁判。唯一刑事裁判として残った籠池氏の刑事裁判の行方が注目されていた。論告で示された検察の求刑は、補助金適正化法の最高刑である懲役5年を超え、懲役7年。しかも会見などで「お父さん素敵」などと発言している諄子氏も同罪という驚くべきものであった。
一方、検察は8月9日、森友問題をめぐり市民団体から出されていた財務省担当者の背任罪、改ざん、公用文書毀棄罪の訴えをすべて却下し、不起訴を決定していた。検察が2013年5月に一度は不起訴にしたものの、市民団体からの訴えを受けて検察審査会が開かれ、今年5月に不起訴不当の決定を行っていた。検察の再度の不起訴決定に、市民団体や大手新聞も、国会での真相解明と追及が不可欠と疑問の声を上げた。検察はこのように森友事件には、まったくやる気がない姿勢を見せながら、籠池氏の裁判では別件逮捕や300日勾留という極めて強権的な手法を展開している。
しかし、当サイトで前回で報告したように、籠池夫妻逮捕の理由は国の「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」の補助金約5600万円を騙し取った等とするものである。この補助金は木を使うことを推奨して地球温暖化の抑制などを図るものだが、籠池夫妻がそのような補助金を詐取することは可能だったのであろうか。
結審にあたっての検察の論告求刑や弁護側の弁論要旨から浮かび上がる事実経過を見ると、森友学園の補助金申請にあたって、実際に申請書を作成した設計事業者、キアラ建築(以下、キアラ)は大学教授の指導を仰いでいるが、受け取る補助金の算定額を間違っていたことがわかる。また、国交省の補助金申請事務を代行した「木を活かす建築推進協議会」から申請の訂正を求めるヒアリングを受け、実施設計の時期を書き換えているが、プロの設計事業者でも申請が難しい補助金の申請をめぐって、学校経営者である籠池氏が詐欺を働くことができたのかは疑問である。
また、森友学園で籠池氏と同じ職務上の権限と役割を担っていたとして、妻の諄子氏にも7年の懲役刑を求刑している。夫が罪を犯せば妻も同罪だというのは、先進国はもちろん、今の世界にそのような野蛮な国はないだろう。
しかも大阪地検特捜部は、起訴状や論告求刑が前提としていた補助金制度を間違って理解し、犯罪立件の基礎的要件である詐取金額を倍以上も間違っていたこともわかった。巨悪に迫る特捜部が、国民を弾圧して恥じない。“首相反逆罪”を勝手につくっている無法の実態に迫りたい。
■検察、起訴事実を間違う
サステナブル建設物先導事業(木造先導型)募集要項 平成27年度第1回
籠池氏の刑事裁判の公判を傍聴し、森友問題を追いかけてきたジャーナリストの佐々木芳郎氏は「今回の補助金は、実施設計に入っていると交付を受けられない」と指摘していた。しかし実施設計に入っていなければ建設工事費の補助金申請額は、不確かなものとなる。サステナブル補助金は、なぜこのような条件を付けているのか筆者は疑問だったが、調べてみると、論告で検察は「事業採択の時点(15年9月4日)で、すでに着手している実施設計は、サステナブル補助金の対象とされない」(注1)と主張していた。
森友学園は小学校の校舎建設の補助金を申請する4カ月前に、すでに実施設計は終わっていた。もし検察の主張通りであれば、森友学園は補助金を一銭も受けることができず、森友学園が受け取った補助金は全額詐取されたということになる。実際に検察の起訴状や論告(求刑書)では、交付された全額である5644万8000円を詐取したとなっていた。
しかし、この補助金の募集要項(15年6月)を見ると、この検察の認識は間違っていた。サステナブル補助金には2種類があり、一つは「調査設計計画費」への補助金であり、独創的な木造・木質の設計事業について出されるもの。もう一つは「建設工事費」への補助金であり、木造や木質化設計を用いた工事費への補助金である。募集要項では「事業採択の時点ですでに着手している実施設計及び建設工事等は、原則として対象にならない」と書かれていた。つまり、もし実施設計に着手していれば「調査設計計画費」への補助金は出ず、建設工事に着手していれば「建設工事費」への補助金は出ないとなっていた。実施設計に着手していて出ないのは、「調査設計計画費」への補助金だけであった。
この補助金は、本件の場合、図表1の経過に見るように15年7月17日に申請が締め切られ、同年9月4日に採択されると補助金の限度額が示され、同年12月以降に建設工事に入ったのちに実績報告を届けると、補助金が交付される流れとなっていた。したがって、森友学園は申請時に実施設計を終えていたため、「調査設計計画費」は受け取ることはできなかったが、建設工事費はその申請が正しければ受け取ることができたのである。
補助金申請の実務を行ったキアラは、補助金申請書(15年7月)に「実施設計未了」と虚偽の事実を記載していた。そのため「調査設計計画費」を全額詐取したことになる。しかし、工事の着手は15年12月のため、設計工事費は受け取れることが可能だったが、キアラはこの設計工事費の補助金についても、建設工事費を過大に報告し偽っていた。実際は14億4000万円だったところ、22億800万円とした。調査設計の補助金は、建設工事費の3.75%として計算する方法をとっていたため、過大に報告したことによって、不当に高額な補助金を詐取することとなっていた。
籠池氏の弁護団の計算によると、実際に詐取されたのは合計5644万8000円でなく、2323万4000円であった。検察はサステナブル補助金の仕組みを間違って理解し、起訴事実の被害額を約2.5倍にするという間違いを犯していた。籠池夫妻を300日も勾留するには、5000万円を超える金額が詐取されたという見せかけが必要だったのであろうか。
しかも検察の主張通りであれば、申請時に実施設計が終了していたのに、それを欺いて申請したことが詐取犯罪立件の上ですべてであり、過大に補助金を申請や契約書を提出した点は問題にならなくなる。詐取の犯罪は、虚偽申請したキアラが主導者になる。特捜部は、この矛盾をどのように説明するのであろうか。
では、なぜ検察は起訴事実を間違ってしまったのか。本件のような建設事業に関する補助金の申請では、プロの設計事業者や建設事業者が主導的な働きをしなければ、審査に必要な設計図書の作成や建設工事費用の算出をすることはできない。補助金の申請から交付決定の手続きまですべて行ったキアラや、建設事業者である藤原工業株式会社(以下、藤原工業)について、起訴状では共謀者として名指ししながら、捜査も逮捕もせず見逃していたのである。
■違法な司法取引による起訴
検察の問題は、詐取被害額を誤ったという点だけではなかった。籠池氏の弁護団は、違法な司法取引が行われたことについても、弁論の中で次のように指摘している。
「なぜキアラ関係者は、当初から任意捜査の対象にとどまり、籠池夫妻のみが逮捕・勾留され、公判請求の対象になったのであろうか」
「キアラのA証人、B証人の両名は、実施設計未了の嘘報告、藤原工業への虚偽契約書作成の協力要請という本件の主要部分で、事前に(籠池)泰典氏に電話で報告し、了承を得たかの供述がなされた」
キアラの申請実務を担った担当者は、「申請前に着手していなかったことにしようという話は、籠池さんには一旦伏せておこういう話になりました」と公判で証言しており、籠池氏が指示を出したというのは成り立たない。籠池氏の弁護団は、次のように指摘する。
「なぜそのような不自然な供述がなされるに至ったのか。これらの事実から合理的に推察されるのは、検察官はあくまで籠池夫妻をターゲットとする訴追を行いたいということであり、その訴追にキアラ関係者が協力したという構図である。自らの訴追は免れつつ、他人の訴追に協力するというのは、司法取引にほかならない。キアラ関係者と検察官の間で司法取引がなされた合理的な疑いは残る。違法な司法取引によるものと公訴棄却されるべきである。キアラ関係者の供述は違法に収集され、籠池夫妻とも無罪が言い渡されなければならない」
この点について、元検察官の小川敏夫参議院議員もこう指摘する。
「違法な司法取引で得ることができた検察の証拠は使えない。その結果、キアラが提出した録音の内容も使えないため、有罪の証拠がない」
森友事件は、今も社会に暗い影を落としている。国権を私物化し、国有財産を85%値引きで払い下げ、官僚がそれを隠すために契約文書を改ざんし、交渉記録等の公文書を廃棄し、国会で嘘をつく。長期政権による腐敗が広まっている。検察特捜部は森友事件において、違法行為に協力した官僚たちを誰一人立件していない。一方、当初は安倍首相を評価していた籠池氏は、違法な払い下げであったことに気づき、安倍首相からの100万円の寄付を公表したのである。
■キアラと藤原工業、捜査の対象から外れる
では、なぜ事業者は一度は共謀者として名指しされながら免罪されたのか。
籠池氏の刑事裁判では、キアラや藤原工業は補助金詐欺を行った理由として、小学校建設の施主である森友学園の指示・命令に従う立場であったと供述している。そして、公判では検察側の証人として出廷したキアラと藤原工業は、籠池氏の指示命令に従って補助金詐欺を行ったと証言している。
ところが、キアラが実際に取っていた対応は180度違っていた。キアラは森友学園との話し合いの全内容を、籠池夫妻には内緒で録音しており、そこでの籠池夫妻の発言内容が「指示・命令」に該当するとして、検察はその音声を逮捕理由としていた。では、「施主の指示・命令がすべて」というキアラは、なぜ隠れて録音していたのか。キアラが録音した音声をつなぎ合わせて、森友学園の指示・命令に従い補助金詐欺を行ったように装おうとしたのではないか。もしそうであれば、施主の意思とは関係なくキアラが補助金詐欺を進めたことになり、検察の主張と矛盾する。
補助金詐欺の申請から実績報告、交付の手続きの一切を執り行ったのは、キアラである。なぜ実行者が逮捕されず、その実行者の供述だけで籠池夫妻が逮捕されたのか。国有地払い下げにおける値引きの根拠なったのは、地中深くから新たに掘り出されたとされた約2万トンの埋設ごみである。それを実証する試掘写真資料の作成にあたり、当時賃借していた学園用地を試掘し、山のようなごみがあるように見せかけたのが藤原工業であり、キアラはその試掘写真を元に資料作成した事業者として国交省から紹介されていた。すでにこの試掘写真資料は偽装されたものであり、2万トンの計算根拠とされた国交省の試掘写真No.1の解析からも、埋設ごみは3m以上の深さにはなかったことがわかっている。この試掘作業と写真撮影、資料作成に協力したのがキアラと藤原工業である。
そうした経過があったために、補助金詐欺に関与したとされるキアラと藤原工業が捜査の対象から外されたとしたら、検察は森友事件の真相を隠したことになる。存在しないごみを理由にして、国有財産を値引きして売り払うことは、国有財産を損なう犯罪・背任行為である。その事実をすべて知っているのがキアラと藤原工業であるがゆえに、たとえ詐取事件に関与していたとしても逮捕することはできなかったということであろうか。
■籠池氏弾圧の酷さを示す、夫婦共に懲役7年の求刑
籠池夫妻の別件逮捕が問題になった時、元特捜部検事の郷原信郎氏は自らのブログで「検察は籠池氏を詐欺罪で起訴してはならない」「補助金適正化法違反で立件すべき」と指摘していた。ところが、検察は詐欺罪で立件し、求刑は夫婦とも懲役7年であり、補助金適正化法の最高刑である懲役5年を超えている。郷原氏は次のように主張している。
・(適正化法制定の経過を見ると)詐欺罪と補助金適正化法は、一般法と特別法との関係にあり、補助金適正化法による不正受給に該当する場合は、同法を適用するのが当然である。
・補助金の不正な受給は、個人的利益を得ようとするものではなく、「詐欺罪として処罰する」ものではないとして、実質処罰は行われず、野放し状態であった。そうしたなかで実態に沿った制裁を科し、刑法犯としての処罰ではなく、法定刑を軽くした特別の罰則を設け、補助金交付の適正化を図る目的で制定されたのが補助金適正化法である。
・本件は容疑事実をとっても、国の補助金約5640万円、正当な金額との差額の不正受給は約2000万円。しかも全額返済済みである。
そして郷原氏は、籠池氏の事件は補助金適正化法の処罰に値しない程度の事案であり、容疑が検察の言うような事実であったとしても「適正化法違反で罰金刑ないし執行猶予」が適正処分であると語っていた。また大阪府・市に関係した補助金詐欺事件については、本来は検察特捜部の範疇ではなく、県警が所管する問題だと指摘している。実際に、刑事事件で問う前に行政処分がまず検討されるべきだったという声が強い。
検察の論告のなかには、籠池夫妻を同罪とする理由として、重要な相談には諄子氏も立ち会っていたため泰典氏と同じ役割を担っていたとしているが、まったく議論の飛躍である。たとえば、国会議員秘書は議員の重要な打ち合わせに立ち会うが、秘書に決定権があるわけではない。むしろ、かかわったすべての人の容疑を調べるということであれば、検察は元森友学園名誉校長だった安倍首相夫人の昭恵氏をなぜ取り調べないのか。釈明が必要であろう。
諄子氏起訴における検察側の唯一の物証は、森友学園が税理士宛に提出した文書(FAX)であり、そこに法人を代表して諄子氏の署名が書かれていたというものであった。ところが、その署名は、公判廷では泰典氏が書いたものであったことも確認されている。なお、最終陳述書で諄子氏は「私は無実です。口封じのために拘置所に300日も入れたのでしたら、それはあまりにもむごいことです。この国は冤罪だらけだと思いました。冤罪はなくしてください。私は無実です」と主張した。そして泰典氏は、次の俳句を詠っている。
「黄金の 夫婦(めおと)道中 日本晴」
「秋錦 令和の武士(もののふ) ここにあり」
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)
注1:検察の論告、第1総論 3「平成29年8月21日付起訴状公訴事実」の(1)サステナブル補助金の概要及び交付手続き等 ウ「なお 事業採択の時点(15年9月4日)で、既に着手している実施設計は、サステナブル補助金の対象とされていなかった。
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