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軽量≠フ「即位礼」米代表団、冷戦終結30年、同盟の脆い土台
2019/10/29
樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)
天皇陛下が即位を宣明される「即位礼正殿の儀」は先週、滞りなく終了した。華やかな祝賀外交≠燗W開された。
サプライズ≠ヘ、なんといっても米国の参列特使だった。各国の国王、元首クラスが顔をそろえる中、米国は、大統領でも副大統領でもなく、運輸長官を派遣したにとどめた。 「世界で最も重要な2国間関係」の相手の、国をあげての慶事に対してだ。
冷戦終結30年≠ニいう節目の年にあって、重みを増している日米の同盟関係が盤石かといえば、必ずしもそうとはいえまい。これまでの両国関係を顧みれば、脆弱さを暗示する大小の問題が、起きては消え、消えては起こるーいわば摩擦の繰り返しだった。今回の即位の礼代表団問題は、その典型的な例だろう。
この機会に、両国の間に見えない形で横たわる根源的な相違を再認識し、日米関係の在り方を内省するのも悪くない試みだろう。
(bee32/gettyimages)
当初はペンス副大統領派遣を検討
米国代表、イレーン・チャオ運輸長官は、大統領職継承順位13位、日本でいえばヒラ大臣≠セ。
お祝いに駆けつけてくれた海外の特使について、あれこれいうのは非礼極まりないことは承知のうえだが、前回、上皇さまの即位の礼の際は、当時のクエール副大統領が参列した。
今回も当初、ペンス副大統領が出席する方向で検討されていたが、ウクライナ疑惑への同氏の関与も指摘されるなど政治情勢が考慮され見送られた。
米国以外の主要国からの顔ぶれを見ると、チャールズ英皇太子、アレクサンダー・オランダ国王夫妻、フィリップ・ベルギー国王夫妻、アウン・サン・スー・チー・ミャンマー国家顧問兼外相、サルコジ前フランス大統領ら絢爛たる顔ぶれ。関係が改善しつつある中国は王岐山・国家副主席、いわゆる徴用工問題で関係が極度に悪化している韓国も李洛淵首相を派遣した。
これらに比べると、米国代表団の存在は率直に言って見劣り≠フ印象を否定できない。
儀式への参列者が誰だったとか、いわば感情論で日米の同盟関係を論じる愚を犯すつもりはないが、些細に見えるものの、実はそれが、文化、習慣、互いに相手を敬うという基本的な価値観にかかわる深刻な問題であったということは、過去、現在少なからず見られる。
いまさらながらの「安保ただ乗り論」
いくつか具体的な例をあげよう。
ことし6月、米ブルームバーグ通信の記事に驚いた人も多かったろう。
トランプ大統領が側近らに対して、日米安保条約に関して、日本が支援された場合だけ米国が助けることを「一方的で米国に不公平だ」と強い不満を漏らした。条約の破棄にまで言及したという。同じ時期、大統領はホルムズ海峡での船舶航行に関して、日本、中国などを名指し、「米国はなぜ無報酬で航路を守っているのか。自身で防衛すべきだ」と厳しく注文をつけた。
1980、90年代に米国内でやかましかった「安保ただ乗り論」そのままであり、日本が多額の経費負担をしている今ごろになって蒸し返されるとは驚きだった。
日本政府は安保廃棄について、「ホワイトハウスかららは、条約の見直しは考えていないという話だった」(当時の河野外相)と否定、ホルムズ海峡の防衛については「中東の緊張緩和と安定に向けて努力を続ける」(菅官房長官)と述べるにとどまったが、当惑は隠せなかった。
トランプ氏は2016年の大統領選の期間中も、防衛費問題や貿易不均衡で日本非難を展開した。安保破棄やホルムズ海峡に関する発言もこうした持論を持ち出しただけなのだろう。
北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射実験についても、トランプ大統領は容認姿勢に転じ、脅威に直接さらされる日本を一顧だにしない姿勢を見せている。ことし10月2日、北朝鮮が海上構造物からミサイルを発射した際も、安倍首相が強く非難したのを知ってか知らずか、「様子を見てみよう」とやはり寛容な発言ぶりだった。
「日本嫌い」を公言する国務長官
いずれも、日米安保体制の根幹を揺るがしかねない重大な発言だが、トランプ大統領の言葉だけに、あきらめムードも日本国内にはあるだろう。しかし、こうした言動は、実のところトランプ氏に限ったことではない。
1993(平成5)年から2期8年間続いたクリントン政権(民主党)で、女性初の国務長官を務めたマデレン・オルブライト女史。回想録のなかで日本についてこう書いている。「日本に滞在すれば歓迎されるし、(指導者たちと)幅広い知的な会話を交わすことができるだろう。しかし、笑顔でお土産を、そしてポケットにはフォークを忍ばせておいたほうがいい」―。日本人は退屈だから、フォークで体をついて痛い思いをしなければ居眠りしてしまうーということらしい。
その2代後、息子ブッシュ政権(共和党)でやはり国務長官を務めたコンドリーザ・ライス女史の対日観は、もっとひどかった。
回想録の中で「小泉首相の退任後、日本は合意政治に逆戻りした。国を前進させるとは思えないような、誰とでも取り替え可能な首相が何人も続いた。日本を訪問するのがどんどん憂鬱になっていった。日本は停滞、老化しているだけでなく、周辺諸国からの憎悪に呪縛されているようにみえた。個人的に日本人と相性がいいとは言えなかった」―。
両国務長官をご記憶の方が少なくないだろうが、これほどまでの嫌日≠ニは知らなかった。こうなればもう、個人的な好き嫌いの次元であり、理性でどうこうすることはできまい。こういう人たちと同盟関係の発展を話し合うことなど、どだい無理な話だろう。トランプ氏といい、オルブライト、ライス女史といい、「グローバル・パートナーシップ」などという言葉とは全く異なる、別な感情を日本に抱いているように思える。
メディアの報道ぶりでも同様なことがみられる。
今回の「即位礼正殿の儀」について、ニューヨーク・タイムズ紙は、 5月に御代替わりがあったにもかかわらず、今回、あらた儀式が行われたことについて、「もう済んでいたのではなかったのか」という見出しで、5月の剣璽等継承の儀は「序曲」にすぎなかったと皮肉まじりに報じた。万歳三唱や礼砲が憲法違反の疑いがあるという批判的な一部見解も伝えた。
20年以上も古い話で恐縮だが、1997(平成9)年、日本で橋本龍太郎首相(当時)が、中国人女性通訳と不適切≠ネ関係を持っていたのではないかーという疑惑が指摘されてことがあった。
ワシントン・ポスト紙は、東京特派員発でこれを報じたが、「首相と同年配の多くの日本人男性は愛人をもっており、妻はそれを簡単に受け入れている」というくだりがあった。日本の中年、初老男の多く≠ヘそれほどふしだらとは思えないし、それほどもてるとも思えない。愛人を持つ財力もないだろう。多くの妻が簡単に℃け入れることもありえない。日本の夫を中傷し、妻の名誉を傷つける意図しか感じられなかったが、わずか20年前まで米の大新聞は日本に対して平気でこういう記事を掲載していた。
真の同盟関係への認識不足
米国の驚くべき対日観、日本への理解不足については、まだまだ書くべきことが山ほどあるが、一方で、日本における同様な問題も考えてみなければならない。
もう40年近くも前の1981(昭和56)年、鈴木善幸首相(当時)が「同盟に軍事的側面はない」と発言して日米両国で大騒ぎになった事件があったが、さすがにいまはもう、そんなことをいう政治家はいない。
だが、本当に大丈夫かと疑念を抱かせたのが、2015(平成27)年の安保法制をめぐる騒ぎだ。
集団的自衛権の行使を容認し、日米の安保協力を高めようとした安倍政権の方針に対して、一部野党は「戦争法」という驚くべき表現で強く反発。1960(昭和35)年の安保反対闘争以来ともいえる国論を2分する対立に発展した。
米国は「同盟での協力関係に対する日本社会の亀裂は米議会の期待とは異なるものだった」(外交評議会の知日派、シーラ・スミス研究員)として、日本の安保への認識に失望を示し、安保体制の円滑な運営に懸念を隠さなかった。
日米同盟に反対する勢力が対立をあおるならともかく、認めている政党が反対するというのだから、米国も苦々しく感じたろう。
大物大使≠ヨのはしゃぎぶり
米国の駐日大使が交代するたびに、くりかえされる日本国内の反応も米国を呆れさせている。
このポストは1970年代末から、大物が次々に派遣されてきた。1977(昭和52)年、日本でもよくその名を知られたマイク・マンスフィールド元民主党上院院内総務の着任をはじめ、ウォルター・モンデール元副大統領、トム・フォーリー元下院議長、最近ではケネディ元大統領の長女、キャロライン・ケネディ女史らだ。これだけ大物が送り込まれる国はほかにあるまい。
こうした人事が決まるたびに日本のメディアは「日本重視の表れ」などと報じる。ブランド≠好む日本政府、国民の心情を米国はよく知っている。
重要なことは適材かどうかということであって、有名人であるかどうかではない。フォリー氏の大使起用が決まった時、国務省幹部が筆者に対して「日本人はハッピーだろう」とからかい半分で語りかけてきた。「日本には名の知れた人物を派遣しておけばいい」と米国が考えているとしたら、日本に責任があるというべきだろう。
異常なトランプ厚遇が物議
安倍首相はトランプ大統領との良好な関係を誇っているが、喜んでばかりでいいというものではない。
2016(平成28)年11月の米大統領選でトランプ氏が当選を決めたわずか9日後、安倍首相はわざわざニューヨークのトランプタワーに駆けつけ、会談した。人種差別、性差別ともいえる発言を繰り返すトランプ氏の当選に各国首脳が当惑、様子を見ているときだっただけに、氏にとってはうれしいことだったろう。
その後の両者のかたい友情♀ヨ係は周知のとおり。今年5月、トランプ大統領が国賓訪問した際の厚遇ぶりは日本国内で物議をかもした。
大相撲観戦の際、ほかの観客の迷惑を顧みず、土俵近くに椅子を持ち込んで升席をとりはらってしまったことなどは異常だった。
ニューヨーク・タイムズは「トランプ訪日に安倍、へつらいを重ねる」という見出しで「報われるのか疑問視されている」と報じた。
たしかにトランプ氏の発言など見る限り、本当に信頼できるのかという疑念を抱かざるをえない。いざというとき不本意な結果をまねくことになれば、うわべだけの親しい関係に幻惑された結果として深刻な事態になるだろうだろう。
各国から、日本の首相は、トランプ大統領と同じ価値観を持っているようだという憶測をも生むという恐れもあろう。
「カゲの部分」無視で同盟深化ありえぬ
筆者は心ならずも、日米関係のネガティブな側面ばかり論じてきた。日米同盟関係に対する米国の思惑と本音については、これまでもすでに『仮面の日米関係』(春名幹夫著)などすぐれた著作で分析されてきた。それだけに、「いまさら、そんなこといちいちあげつらって論じる意味があるのか」「他国との間に認識の違いがあるのは当然ではないか」「日米関係はそんなことに拘泥されないくらい深化・進化している」といわれるかもしれない。
筆者が指摘したいのは、米国の政策上の打算だとか、条約上の不備、在日米軍への日本側負担が大きすぎるとか、そういう政治的、政策的な問題ではなく、2国間に横たわる根の深い疑問だ。
こうした問題は、「グローバル・パートナーシップ」などという響きのいい言葉や、安全保障上の必要性という差し迫った事情から、いつの間にかどこかに埋没≠オてしまったのではないか。根本的な問題を放置して同盟関係の実際だけが進展していってしまえば、いつの日か同盟関係を揺るがす事態にも発展しかねない。ちょうど脆い土台の上に建設されたビルにいつか亀裂が入るようにだ。
もっとも、土台が脆いからといって、手を加えることは危険を伴う。そのうえに建つビルを傷つけるかもしれない。
しかし、同盟が高度に成熟した今だからこそ、あえて問題提起する意味があるだろう。国家の命運を共にする同盟関係に身を置きながら、相手がどういう思考方法の人間なのか、何をどう感じているのかーわかっていないというのでは情けないし、本当の意味での関係深化にはつながらないだろう。
日本でも令和という新しい時代が到来した今、一歩引いて冷静に日米関係のカゲの部分に恐れずにみつめ、真の同盟深化には何が必要か、じっくり考える機会にしてはどうだろう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/17748
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