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10月 06, 2019 日々雑感(My impressions daily)
<いよいよアメリカと北朝鮮との実務者協議が、ストックホルムで開始する。この地は北朝鮮にとって、「米朝の中間地点」にあり、かつこれまで縁起の良い場所だ。日本との「ストックホルム合意」も、2014年5月にこの地で交わされた(残念ながらいまや雲散霧消してしまったが)。
6月30日にドナルド・トランプ大統領と金正恩委員長が、板門店で3度目の首脳会談を行い、早期対話で合意した約束が、ようやく果たされることになる。アメリカ側代表は、北朝鮮側から一定の信頼を得ているスティーブ・ビーガン北朝鮮政策特別代表、北朝鮮側代表は、アメリカ担当が長かった金明吉前駐ベトナム大使である。
トランプ大統領が9月10日、最側近の一人だったジョン・ボルトン大統領安保担当補佐官を更迭したことが、北朝鮮に対して大きなメッセージになったことは間違いない。2月27日、28日の2回目の米朝首脳会談、いわゆる「ハノイの決裂」は、対北朝鮮最強硬派と言われるボルトン補佐官が主導したものだったからだ。
トランプ大統領としては、イラン問題が暗礁に乗り上げ、先月の国連総会の機会に、ハサン・ロウハニ大統領との歴史的な首脳会談を逃した。さらにその後、民主党からウクライナ問題を巡って、弾劾まで持ち出されて窮地に立っている。そんな中、短期的な外交成果を得たいのである。
今回の米朝協議のポイントは、北朝鮮にしてみれば、ただの一点、すなわち国連の経済制裁が緩和されるかどうかである。寧辺の核処理施設廃棄と引き換えに、最大限の規制緩和を求めてくるだろう。いわゆる核問題の段階的解決である。
北朝鮮に対する国連の経済制裁決議は、これまで11回も出されていて、最後に出された「決議」(2017年11月)がダメ押しとなり、北朝鮮は兵糧攻めのような状態に置かれている。私は今年正月、中国の北朝鮮専門家から話を聞いたが、「このまま行けば北朝鮮がもつのはあと2年くらいだろう」と予測していた。
それを思えば、より窮地に立たされているのは、むしろ金正恩委員長の方と見るべきである。具体的には、食糧問題と朝鮮人民軍の問題が深刻化しているのだ。
まず、食糧問題については、アフリカ豚コレラの感染が、北朝鮮全土に及んでいる模様である。韓国メディアの報道によれば、9月24日、徐薫国家情報院長が、国会の情報委員会でこう証言した。
「平安北道で豚が全滅した。肉のある家はないとの不満が出るほど、北朝鮮全域にアフリカ豚コレラがかなり拡散したとの徴候がある」
6月に朝鮮労働党中央委員会機関紙『労働新聞』が、アフリカ豚コレラへの感染に対する記事を出したが、その後、事態は深刻化した模様だ。農水省の関係者に確認したところ、こう述べた。
「日本で起こった豚コレラはワクチンがあるが、北朝鮮(及び韓国)で起こっているアフリカ産豚コレラは、新種かつ強力なためワクチンがない。そのため、感染を防ぐには殺処分するしかないが、北朝鮮のような衛生状態が悪い地域は、感染が全土に広がるのもやむをえないだろう」
私も以前、北朝鮮で衛生状態の悪い肉を食べて死にかけたことがあるので理解できるが、とにかく想像を超える不衛生ぶりだ。
北朝鮮の食糧問題は、豚に限らず、主食のコメにも及んでいる。北朝鮮の食糧事情というのは一年の中でも一定の周期があって、本来ならいまは、収穫を終えて最も「食糧豊富」な季節のはずだ。
ところが、9月後半の収穫を前に台風13号が北朝鮮を襲った。朝鮮中央通信は9月8日、農地4万6000ヘクタールや住宅460棟などが被害を受けたと報じた。また、金正恩委員長が6日に緊急会議を開き、担当幹部らを叱責したとも報じている。
北朝鮮の報道には針小棒大なものもあるが、その逆もある。同時期に韓国が受けた被害から見ても、北朝鮮全土に甚大な台風被害が出たと見るべきだろう。そうでなければ、「金正恩委員長が叱責した」などという記事が出るわけもない。
次に、朝鮮人民軍に関してだが、朝鮮中央通信は10月3日、前日に元山(ウォンサン)湾の水域で、新型の潜水艦発射弾道ミサイル「北極星」の試射に成功したと報じた。の発射は2016年8月以来だが、新型の「北極星」は初めてである。ロフテッド軌道で約450キロメートル飛び、日本のEEZ(排他的経済水域)に落下したことで、日本が騒然となったことは周知の通りだ。
日本では、アメリカにプレッシャーをかけるために、米朝協議の直前にあえて発射に踏み切ったという分析がなされた。私は、それもあるだろうが、一番大きな理由は、朝鮮人民軍の不満が爆発寸前なのだと見ている。
金正恩委員長は昨年、対米対抗から対米協調へと、大胆に舵を切り替えたが、これに強く異を唱えたのが120万朝鮮人民軍だった。金委員長は、対米協調によって経済発展をもたらそうと考え、その象徴として元山葛麻(カルマ)半島に、「元山葛麻海岸観光地区」を建設するとブチ上げた。いわゆる「北朝鮮のハワイ」計画である。
だが、勇ましい核ミサイル建設を放棄し、観光地の土木工事に回された軍人たちは、当然ながら不満たらたらである。実際、この観光地の完成予定日は何度か延びて、現在は2020年の「太陽節」(4月15日の金日成主席誕生日)としている。昨秋には、金委員長がこの地域を視察した際、暗殺未遂に遭ったという確度の高い情報ももたらされている。
こうした中、「安易な軍縮はしない」という金委員長の軍に対するメッセージが、10月2日の「北極星」の試射だったのではないか。だからこそ、同じ元山で試射に臨んだ。
北朝鮮と、最大の貿易相手国である中国との関係もまた、不透明である。中朝国交正常化70周年を10月6日に控える中、4日になっても何も発表されていないからだ。
10年前の60周年の際には、温家宝首相が訪朝し、金正日総書記との首脳会談で、新鴨緑江大橋の建設を決めた。中国側の丹東と北朝鮮側の新義州を結ぶ鴨緑江の中朝国境には、これまで鴨緑江大橋がただ一本かかっているだけだったため、もう一本通して、中朝間の物流を増やそうとしたのだ。実際、1億5000万ドルの建設費用を中国側が全面的に負担する形で、新鴨緑江大橋は2016年に完成した。
70周年を前にしても、9月2日から4日まで、中国の王毅国務委員兼外相が訪朝し、北朝鮮の李容浩外相と70周年記念行事について話し合った。王外相の帰国後には、北京の外交筋の間で、10月に李克強首相が訪朝するとか、いや金正恩委員長が訪中するのではといった話が飛び交ったものだ。
だが北朝鮮側は今回、あえて中朝70周年の大事な日に、米朝協議をぶつけてきた。これは、北朝鮮側の中国に対する不満の表れと見てよいのかもしれない。金正恩外交は、常に米中両大国を天秤にかけながら進めているからだ。
さて、そのような窮地に立つ金正恩委員長を「利用」しようとしている国が2カ国ある。その一方は、韓国である。
韓国は、文在寅大統領が9月9日に、「タマネギ男」こと曹国(チョ・グク)法務長官を任命したことで、左派と右派が国を二分する争いを続けている。そんな中、文在寅大統領は、故郷の釜山で11月25日と26日、韓国(東南アジア諸国連合)サミットを開催する。
これは故郷に錦を飾り、来年4月の総選挙の追い風にしようという思惑だが、私が得た情報によれば、青瓦台(韓国大統領府)は、このサミットに金正恩委員長を参加させるべく、北朝鮮側に強力な働きかけを行っているという。米朝協議が妥結し、国連の経済制裁が緩和されれば、北朝鮮との経済交流を図れるというわけだ。
北朝鮮に熱い視線を向けているもう一つの国は、日本である。安倍晋三首相は、一日も早く平壌へ行って金正恩委員長との日朝首脳会談に臨みたい。そのためには、何らかの見返りが必要だ。国連の経済制裁が緩和できれば、与えられる「見返り」の範囲も広がるというわけだ。
日本は、2002年の小泉純一郎首相の訪朝時に、25万トンの食糧援助を約束していて、いまだに果たしていない。それを渡そうとしているが、北朝鮮からすれば、それはあくまでも2002年の約束であって、今回の会談実現にはさらなる援助が必要だと主張する。例えば、安倍首相がトランプ大統領から買うと約束した275万トンのアメリカ産大豆の一部などが、その対象になるのではないかと思える。
いずれにしても、今回の米朝協議は、東アジアの地政学を再び変える可能性を秘めているのは間違いない>(以上「JBpress」より引用)
上記記事を引用して米朝実務者協議の推移を見守るつもりだったが、つい先ほど米朝実務者協議は決裂したようだ。北朝鮮は「旧態依然とした米国の姿勢が決裂を招いた」としている。
北朝鮮は上記記事にある通り、早期に国連制裁を解除してもらって食糧支援を得たい考えだったが、米国の「核査察」要求が強く、到底呑める条件でなかったと思われる。金正恩氏といえども万全な独裁体制ではないようだ。
北朝鮮の唯一無二の金独裁政権を支えているのは軍だ。軍の同意なくしては金正恩氏といえども何も出来ない。金正恩氏に不満を漏らす軍幹部を何人も粛清して来たが、軍全体を粛正することは出来ない。
それかといって豚コレラの蔓延や台風によるコメなどへの甚大な被害は不足している食糧をさらに深刻な事態に陥らせるだろう。現在の収穫期に北朝鮮国民がこの冬を餓死しないで越せられるか否かは目の前の収穫量で敏感に感じ取っているだろう。
北朝鮮の「実務者」が米朝実務者協議を決裂させたが、決裂指令は金正恩氏から出たものだろう。次回は年内に実務者協議を再開するようだが、それが金正恩氏が実務者協議を延ばせる最大期限だろう。それ以後も決裂状態で冬を乗り越えることは出来ないだろう。
軍部も国民の飢餓状態は兵隊の飢餓でもあるという北朝鮮の事情から背に腹は代えられない。ある程度米国に譲歩しても軍部が拒否反応を示すことはない、との読みではないか。
ただ韓国の文大統領は南北統一のファンタジーを文政権支持マターの一つにしているため、次回の米朝実務者協議結果がどうであれ必ず支持すると思われるが、日本は米朝実務者協議が決裂しなかったとしても、すべてを受け容れられるわけではない。
なぜなら米国も北朝鮮も「軍産共同体」の意向を無視した「妥協」は決してあり得ないからだ。米国は国際社会に対して北朝鮮の「核兵器とミサイル開発は許し難い」と拳を振り上げて見せているが、決して北朝鮮の脅威をすべて取り除きたいわけではない。極東に「危機」の香りを温存して、韓国と日本に引き続き米国製のポンコツ兵器を押し売りしたい。
金正恩氏も米国の脅威が依然として存在していて、巨大な北朝鮮軍が必要な状況が続く方が金独裁政権維持に好都合だ。すべての北朝鮮に対する「脅威」が無くなっては、巨大な群を維持する理由が失われ、北朝鮮の金独裁政権は国内から崩壊するかも知れないからだ。
日本は米朝実煙者協議の成り行きを見守るしかない。極東の安全に関して完全に「蚊帳の外」状態に置き去りにされ、ポンコツ兵器の爆買いと空母保有論の高まりに防衛構造を「積極的な防衛」と銘打つものに変貌させようとしている。
完全なる「核兵器とミサイル開発」の放棄がない限り、日本から北朝鮮に食糧や経済などの援助をしてはならない。他の国が食糧支援や経済援助をしたらおなじことではないか、との反論があるかも知れないが、一体どの国が食糧や経済援助を行う国力があるというのか。米国ですら家畜用トウモロコシをタダではなく、日本に買い取れと要求しているではないか。
習近平氏の中国はバブル崩壊がいよいよ誤魔化せない段階に到っている。そこに香港デモの激化だ。それが中国本土に飛び火したら中共政府は瓦解するしかない。中国は伝統的に民衆蜂起で王朝交代が起きている。民衆蜂起が全土で起きると、人民解放軍が銃口を中南海へ向けない保証はない。
トランプ氏も強硬派のボルトン氏を更迭して対北外交の選択肢が広がったとはいえども、安易な妥協は政権の命取りになる。イランの核合意を勝手に破棄したレベルで、北朝鮮の核兵器開発に対処しなければダブルスタンダードとして国際的な批判を浴びるだけでなく、来年の大統領再選も危うくなる。いよいよ米朝実務者協議に関係諸国の利害の札が揃ったことになる。さて、協議は「丁か半か」。
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