http://www.asyura2.com/19/senkyo265/msg/886.html
Tweet |
あいちトリエンナーレ補助金不交付の支離滅裂
法的根拠も合理性もなし。法の支配を歪め、行政運営の根本も揺るがす過った決定
米山隆一 前新潟県知事。弁護士・医学博士
論座 2019年09月28日
https://image.chess443.net/S2010/upload/2019092700007_1.jpg
文化庁の前で、「表現の自由を守れ」「検閲反対」などと抗議する人たち=2019年9月26日、東京都千代田区
「あいちトリエンナーレ2019」に対して、審査され採択を決まっていた約7800万円の補助金について、文化庁がこれを覆して全額を不交付にしたことが議論を呼んでいます。
そもそも「表現の自由を損なう」という点で大きな問題だと思いますが、私はそれと同等かそれ以上に、「法の支配を歪める」「行政の安定的運営を損なう」という点においても極めて問題が多いと思っています。日本の行政が危機に瀕しているといっても過言ではありません。
■■表現の自由を大きく損ねる決定■■
まず「表現の自由」についてですが、不交付決定に関して文化庁が示している“公式な理由”はさておいて、その実質的理由が、「あいちトリエンナーレ2019」の一部である「表現の不自由展・その後」で議論を呼ぶ展示がなされ、その展示に対して反対派から多数の抗議がなされると同時に、観客に危害を及ぼす旨の脅迫があり、安全上の理由から「表現の不自由展」が中止されるに至った事であるのは明白です。
すでに多くの方々が指摘している通り、いったん公的支援を決めた展示について、その表現の内容や、それに対する抗議を理由に、後付けで補助金を交付しないという極めて不利益な決定を行政が行うことは、行政が実質的に、表現内容を理由に表現者及び関係者に不当な不利益を与えることになり、「表現の自由」への行政の不当な介入だと考えられます。
このような行政の不当な介入が正当化されるなら、当然ながら表現は委縮します。文化庁は、事業採択の審査に当たって、必要な情報が事前に申告されなかった事を問題視していますが、表現に対する抗議などを事前に予想することはほとんど不可能です。そうした理屈が通るなら、議論を呼ぶような冒険的な展示については、事後の介入が怖くて公的補助は受けられなくなってしまいます。
今回の文化庁の決定は、行政から見て、問題なく当たり障りのない表現だけを保護することにつながり、日本の表現の自由を大きく損ね、極めて不適当だと私は思います。
ただ、それと同等、いやそれ以上に、私はこの不交付決定は冒頭で挙げた「法の支配を歪める」「行政の安定的運営を損なう」という点において、ゆゆしき問題をはらんでいると思います。以下、詳しく論じさせていただきます。
https://image.chess443.net/S2010/upload/2019092700007_4.jpg
展示が中止された「表現の不自由展・その後」=2019年7月31日、名古屋市東区の愛知芸術文化センター
■■あいちトリエンナーレへの補助金採択の経緯■■
最初に今回の手続きを整理しましょう。
「あいちトリエンナーレ2019」は文化庁の「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創生事業 文化資源活用推進事業」という、いかにも安倍晋三内閣が好きそうな補助制度を活用しています。この事業の申請期間は平成31年3月1日〜11日と極めて短く、おそら予算成立間際にドタバタと作られた補助制度で、応募する側も審査する側も慌てて対応せざるを得なかったことがうかがわれます(ただし、この点はあくまで推測です)。
愛知県は「あいちトリエンナーレ2019」でこの一次募集に応募し、遅くとも4月26日には無事採択されて通知の交付・発表がなされ(2019年度「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業(文化資源活用推進事業)」採択一覧)、募集要項の定めに従って補助金交付申請書を提出し、交付決定を待っていました。ところが、標準的期間である30日どころか開催期間である8月1日を超えても交付の決定がなされず、問題が表面化した今になって、やっと(?)不交付決定がなされたという経緯だと思われます。
ここで、文化庁が不交付決定の根拠としている「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」通称「補助金適正化法」第6条は、次のように定めています。
◇補助金適正化法
第6条
(1)各省各庁の長は、補助金等の交付の申請があったときは、当該申請
に係る書類等の審査及び必要に応じて行う現地調査等により、当該申請に
係る補助金等の交付が法令及び予算で定めるところに違反しないかどうか、
補助事業等の目的及び内容が適正であるかどうか、金額の算定に誤りがな
いかどうか等を調査し、補助金等を交付すべきものと認めたときは、すみ
やかに補助金等の交付の決定(契約の承諾の決定を含む。以下同じ。)をし
なければならない。
一見すると、条文からは、文化庁は「内容が適正であるかどうか」等を判断して、任意に補助金の交付/不交付を決定できるように見えますし、一般に補助金は、これを交付する省庁が任意に交付/不交付を定めてよいかの様に思われています。
しかし、補助金は本来、法の支配に基づく公平・公正な行政、および法の下の平等という観点から、補助の趣旨にかなうものであれば平等に交付されるべきものです。とはいえ、現実には予算総額は限られ、一定の選別は必要です。そこで、運用として、まずは事前に「申請→審査」して、正式に補助金交付申請を出せる(受理してもらえる)適正な事業を採択したうえで、正式に補助金交付申請が出されたものについては、「法令及び予算に違反しないか」「補助事業等の目的及び内容が適正か」「金額の算定に誤りがないか」等を審査し、違反、不適正、誤りがなければ、「交付の決定(契約の承諾の決定を含む。以下同じ。)をしなければならない。」とされているものと私は理解しています。
つまり同条は、文化庁が恣意(しい)的に補助金の交付/不交付を決定することを認めるものではなく、むしろ条件を満たす適正な申請がなされたら、補助金の交付を決定しなければならないとしているものと解されるのです。
■■文化庁が不交付を決定した理由■■
https://image.chess443.net/S2010/upload/2019092700007_5.jpg
東京芸術大学前で開かれた集会。教員や学生、卒業生らが、文化庁があいちトリエンナーレへの補助金を不交付にしたことへ反対の声を上げた。文化庁の宮田 長官頑張れという看板も=2019年9月27日、東京芸術大
文化庁は、今般の不交付決定の理由を、愛知県が「来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず、それらの事実を申告することなく採択の決定通知を受領した上、補助金交付申請書を提出し、その後の審査段階においても,文化庁から問合せを受けるまでそれらの事実を申告しなかった」ため、その事業が@実現可能な内容になっているか、A事業の継続が見込まれるか、の2点において、「文化庁として適正な審査を行うことができなかった」とし、「補助事業の申請手続きにおいて、不適当な行為であった」事としています(文化庁のHP参照)
そこで前掲の「文化資源活用推進事業 募集案内」を見てみましょう。そこには、「審査の視点」として、
●実現可能な内容・事業規模になっているか。
●計画期間終了後も地方公共団体独自で取り組めるなど事業の継続が見込まれるか。
が挙げられています。
つまり、文化庁は「あいちトリエンナーレ2019」は、@実現不可能な内容・事業であった A事業の継続が見込まれなかった、にもかかわらず、それについて申告せず、それゆえ適正な審査がなされなかったという手続き上の違反があったから、正式な補助金交付申請にも関わらず、補助金を不交付決定したとしているのです。
はたして、この文化庁の説明は、補助金適正化法第6条に基づき、不交付決定をするに値する合理的なものでしょうか?
■■不交付決定に合理性なし■■
まずもってなのですが、補助金適正化法第6条は、「手続き違反」による不交付決定を定めていません。
仮に、「あいちトリエンナーレ」の実現性、継続性に疑問があったにもかかわらず、申請・審査時にそれが申告されなかったというのであれば、文化庁は「当該申請に係る書類等の審査及び必要に応じて行う現地調査」を行い、「補助事業等の目的及び内容が適正であるかどうか」等を調査したえで、補助金を交付すべきか否かを決定しなければならないのです。
従って、「申請の手続き違反により(内容を見ることなく)不交付を決定した。」という文化庁の説明は、それ自体法的根拠を欠くものだと言えます。
そうではない、手続き違反ではなく、調査のうえで決定したということだとすると、次は「あいちトリエンナーレ」は本当に実現性、継続性を欠くといえるか否かが問題になります。
https://image.chess443.net/S2010/upload/2019092700007_2.jpg
「あいちトリエンナーレ2019」メイン会場の愛知芸術文化センター。多くの来場者が訪れていた=2019年9月14日、名古屋市東区
前述の通り、今回の企画の一部である「表現の不自由展」が、展示内容についての抗議と、観客に危害を加える旨の脅迫によって中止されたことは周知の事実です。しかしながら、「あいちトリエンナーレ」自体は、現在も実施されており、実現はもちろん可能です。2010年から3年ごと実施され、すでに4回を数えていて、継続性にもなんら問題はありません。「あいちトリエンナーレ2019」は、どう見ても、実現可能で継続性のある事業だとしか評価しようがありません。
仮に、文化庁が「あいちトリエンナーレ」全体についてではなく、「表現の不自由展」という一部の@実現可能性A継続性について論じているとしても、それはあくまで展示そのものが評価対象です。「表現の不自由展」自体は現実に開かれ、継続の意思もあった以上、当然ですが「実現可能で継続性のある展示」だったとしか評価しようがありません。その「実現可能で継続性のある展示」が外部の妨害で中止となった場合、「展示そのものが最初から実現不可能で継続性が無かった」とするのは、明らかに評価すべき対象を誤っています。
仮に、外部の妨害も考慮した実現可能性、継続性を評価するというのであれば、そもそも申請事項に「予想される外部からの妨害」等の項目を入れておくべきですが、公表されている申請用紙にその様な項目はありません。
■■歪められた審査基準と「法の支配」の原則■■
つまり文化庁は、当初は「それ自体が実現可能で継続性のある事業」という審査基準だったものを、後付けで「外部からの妨害があっても尚、追加の対策を講じる必要なく、申請した『すべて』の内容(展示)が実現可能で継続性のある事業」にかえて、本来は実現可能性にも継続性にもなんの問題もない「あいちトリエンナーレ2019」全体について、決して大きくない一部である「表現の不自由展」が外部からの妨害によって中止された一事をもって、不交付決定をしたことになります。
仮に、この不交付決定が手続き違反ではなく、調査のうえのものだとしても、その決定自体が後付けの基準による、事実に反する、非論理的で不合理なものだとしか言いようがないのです。
法的根拠がないにもかかわらず、この様な不合理な決定により、事前の審査では「適正」と判断されて採択された事業への正式な補助金の交付申請に対して、「不交付決定」をなすことは、実質的に補助金を交付する省庁が、その裁量で恣意的に交付/不交付を決定できるようにするものであり、可能な限りで平等・公平な補助金の交付を旨としてきた従前の補助金行政の趣旨を損ない、法の支配の原則を大きく歪めるものだと、私は思います。
■■信頼関係に基づく行政の安定的運営も損なう■■
さらにこの決定は、県と国という行政機関同士の信頼関係に基づく安定的な行政運営という観点からも、考えられないものです。
文化庁の補助金不交付の決定を巡り、記者団の取材に応じる愛知県の大村秀章知事=2019年9月26日、愛知県庁
先に示した通り、今回使われた「文化資源活用推進事業」補助金の申請書は比較的簡単なものですが、通常こういった補助金を申請し、採択されるには、申請する自治体(この場合は愛知県)と申請された省庁(この場合は文化庁)の担当者は、正式な申請前に何度も打ち合わせをし、不明な点があれば説明を求められ、不足な書類があれば補完を促され、省庁側が求める情報を一式そろえて申請します。
今回の補助金の申請書は、個別の展示内容の記載欄も小さく、「安全上の問題」を記載する項目はありません。審査に当たった文化庁担当者、文化庁自身がそもそも、個別の展示内容についても、安全上の問題についても、審査することは念頭になく、打ち合わせの際にも愛知県の担当者にまったくその説明・申告を求めずに申請を認め、審査し、採択したというのが実態でしょう。
申請の結果、採択となれば、申請した県はそれを前提として予算案を作成し、議会の議決を経て、事業の現場で多数の関係者を相手に、予算を執行します。
その一つひとつのプロセスに、県と省庁の双方が多大な人的・物的リソースを割いているのにもかかわらず、法的根拠もなく、完全に後付けでちゃぶ台返しをされてしまったら、申請する側としては、一体何のための打ち合わせであり、何のための審査だったのかと言いたくなります。
この不交付決定は、申請する県の側から見ると、中央省庁担当者、中央省庁がいうことの何が信じられて、何が信じられないのかが、まったく分からなくしかねないものです。それは、行政機関同士の信頼関係に基づく日本の行政の安定的運営を、大きく損なうものでもあるのです。
■■過ちを改めざる、これ過ちという■■
それ自体残念なことですが、事実として、地方自治をはじめとして日本の行政は、中央省庁からの補助金が多数設定され、補助金に依存した運営がなされています。また補助金以外でも、行政運営上、中央省庁との折衝を要することは極めて多岐にわたります。
その日本の行政運営の実質的根幹の一つである補助金制度において、この様な恣意的で不安定な決定がなされ、法の支配が脅かされ、中央省庁に対する信頼が破壊されてしまったら、大げさでもなんでもなく、日本の行政運営が根本から揺るぎかねないと私は思います。
――過ちて改めざる、これ過ちという
文化庁長官、文部科学大臣をはじめとする担当者は、ぜひ勇気をもって、職を賭してでも、この決定を撤回していただきたいと思いますし、芸術祭実行委員会の会長である大村秀章・愛知県知事はこの決定に対し、国地方係争処理委員会に申し出て徹底的に争うべきだと、私は思います。
https://webronza.asahi.com/politics/articles/2019092700007.html
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK265掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK265掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。