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交渉前から負けていた(C)ロイター 2019年9月26日 日刊ゲンダイ
日米貿易交渉 丸呑みさせられた者がうそぶく「ウィンウィン」
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/13289
2019年9月28日 長周新聞
日米貿易交渉で最終合意したことを確認し、安倍首相とトランプ大統領は25日午後(日本時間26日未明)、共同声明に署名した。今回合意した貿易協定は来年11月のアメリカ大統領選挙向けというトランプ側の事情をおし通すために、日本側が全面的に譲歩するものとなった。さらにトランプは今回の貿易協定を「第一段階」とし、「かなり近い将来最終的な包括協定にしたい」と表明し、日米FTA(自由貿易協定)締結へ意気込みを見せた。安倍首相は8月の日米首脳会談では、これとは別枠で日本にとってはまったく必要のない余剰トウモロコシや小麦の大量購入を約束してトランプを大喜びさせた。アメリカの要求を丸呑みするだけの安倍外交の売国ぶりに拍車がかかっている。
トランプは来年11月の大統領選対策として日米貿易交渉を位置づけ、来年1月1日までの発効を見込み、逆算して9月中の署名をゴリ押しした。そのため交渉が始まってから半年という異例のスピード決着となった。
今回の日米共同声明の内容を見てみると、第一に協定の名称は「日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定」となっている。安倍首相が日本国内向けにデッチ上げてきた「日米物品貿易協定(TAG)」などどこにもない。
第二に、「農産物品および工業品の関税を撤廃または削減する」ことに続いて、「日米デジタル貿易協定は、この分野における高い水準のルールを確立し、日米両国がデジタル貿易に関する世界的なルールづくりにおいて引き続き主導的な役割をはたす」としており、この協定が物品貿易の関税問題に限定されたものではないことを明記している。
第三に、日米貿易協定の発効後、「関税や他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に係わる障壁、その他の課題について交渉を開始する」としており、日米FTA締結の総仕上げに向けたものであることを表明している。
トランプは今回の合意が「アメリカの農家や畜産業者にとってばく大な利益になる」「米国の農家にとって巨大な勝利であり、それが私にとって重要なことだ」と喜んだ。それというのも、米中貿易戦争で中国がアメリカ産農産物の輸入を制限してアメリカの輸出農業に打撃となっており、重要な票田である農業票がトランプ離れを起こしているからだ。
日本は約72億j(約7760億円)相当の農産物市場を開放する。牛肉の関税はTPPと同様に38・5%から9%まで段階的に削減する。豚肉もまたTPPと同様に、従価税部分の関税撤廃、従量税部分は1`c当り50円まで削減する。小麦や大麦もTPPと同様に政府が輸入するさいに徴収している差益(マークアップ)を45%削減する。小麦の米国枠は19年度の12万dから15万dに拡大する。このほか関税撤廃は13億j相当で、アーモンドやブルーベリー、スイートコーンなどが含まれる。
コメについてはTPPでもうけていた年間7万dの無関税枠を先送りした。これについて日本側は「アメリカの譲歩を勝ちとった」と大宣伝しているが、これはコメ主産地のカリフォルニアは民主党の地盤でありトランプに勝ち目はないため、最初からコメについては交渉対象から外したのだ。ちなみにトランプの票田はコーンベルトと呼ばれる地域のアイオワ、ウィスコンシン、ミシガンなどの州だ。そのため中国に売り損なった余剰トウモロコシを安倍に全部買わせることが大統領選に向けて重要だった。
他方で、日本側が要求していた自動車・同部品の関税撤廃については、「さらなる交渉による関税撤廃」とアメリカ側に明記してもらったことで納得して引き下がり、関税削減・撤廃を断念した。
TPPでは乗用車の関税率2・5%は15年目から削減を始め、自動車部品(主には2・5%)は8割以上の品目で即時撤廃することになっていた。
このようにトランプに一方的に譲歩を迫られた合意内容だが、安倍首相は「両国にとってウィンウィンの合意となった」と精神勝利法で対応している。
発効までの手続きは、両国の国内手続き終了後30日で発効するとしている。トランプは貿易促進権限法(TPA)にもとづいて、同協定に署名する意向を議会に通知した。TPAは通商交渉に関する権限を大統領に一時的に付与するもので、議会手続きを簡略化できる。このため、日本が今秋開会予定の臨時国会で協定案を承認すれば発効することになる。
振り返って見ると、2012年12月の衆院選での自民党の政権公約は「TPP絶対反対」だったが、政権与党となった2013年2月に一転して「TPP参加」を表明した。2017年1月にトランプがTPP離脱を表明すると、今度は「TPP11を早期発効すればアメリカの復帰を促し、日米FTAを避けられる」と国民に説明してTPP11を主導した。トランプはTPP11発効を機に日米FTA交渉を強力に進め、TPP以上の譲歩を迫ってきた。2018年の日米首脳会談で日米FTA交渉を開始することで合意し日米共同声明を出したが、安倍首相は国内の反発を抑えるために「日米FTAではない。日米TAGだ」とごまかした。その後今やTAGという言葉も消えてしまい、今年4月に日米FTA交渉の初会合をおこない、9月に日米共同声明に署名という第一段階のスピード決着となった。
トランプは今後4カ月以内に「第二段階」の交渉に入り、日米FTAの総仕上げをはかると表明している。今回合意した以外の分野について関税のみならず、貿易上の制約、サービス貿易や投資に係わる障壁、その他の課題について交渉を開始する。
米国通商代表部(USTR)は18年に「日米貿易協定交渉の目的の要約」と題する文書を公表しており、そこにアメリカ側の狙いが全面的に示されている。「交渉の目的」には、物品貿易、衛生植物検疫措置、良い規制慣行、サービス貿易(通信・金融含む)、デジタル貿易、投資、知的財産、医薬品、国有企業、労働、政府調達、紛争解決、為替など22の分野・項目をあげている。
現段階では政府は合意内容の詳細や交渉の経過について明らかにしていないが、早急に国民に交渉内容を公開し、国民の審判を受けなければならない。
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