https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h19pdf/20073913.pdf特別会計の現状における問題点と「特別会計に関する法律」 決算委員会調査室 糸井 良太 1.はじめに 歳出規模が一般会計の4倍以上 にもなる特別会計については、「母屋でおかゆ、離れですき焼き」と例えられた1ように、従来から透明性の欠如や多額の不 用額、剰余金の発生等、多くの問題点が指摘され、その改革は喫緊の課題とさ れている。 平成 18 年5月に成立した「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の 推進に関する法律」(行革推進法)において、特別会計改革についても個別具体 的な進め方が規定され、その改革が実行段階に向けて動き出したことは、本誌 第 27 号「特別会計の聖域無き改革に向けて」においても述べられたところであ るが、19 年3月に成立した「特別会計に関する法律」(以下、「特会法」という) によって、いよいよその流れが具体化されてきた。 一方で、18 年 10 月には会計検査院から参議院の検査要請に基づく報告書「特 別会計の状況に関する会計検査の結果について」が提出され、特別会計の状況 と問題点が鮮明になった。 本稿では、特別会計の現状とその問題点及び特会法に示された改革について 概観する。 2.平成 17 年度特別会計歳入歳出決算の概要 2-1.平成 17 年度特別会計歳入歳出決算の状況と歳出規模の増大 平成 17 年度決算における 31 特別会計 63 勘定の歳入決算額、歳出決算額の単純合計額は、それぞれ 452 兆 1,410 億円(対前年度比 7.8%増)、401 兆 1,835 億円(同 6.7%増)である(図表1)。一般会計の歳出決算総額(支出済歳出額) が 85 兆 5,195 億円であるから、特別会計は一般会計の約 4.7 倍の歳出規模とい うことになる。 この歳出規模は年々拡大傾向にあり、10 年前(8年度)の 245 兆 2,104 億円 に比べ、155 兆 9,731 億円(63.6%)増大している。これは、主として、国債整理基金特別会計において国債及び借入金残高の増大に伴い債務償還費が増加 していること、交付税及び譲与税配付金特別会計において地方財政の財源不足 の拡大により地方交付税交付金が増加していること、財政融資資金特別会計に おいて 13 年度から発行できることになった財投債の発行収入が財政融資資金 に繰り入れられることとなったことなどのためであり、この3会計を除いた支 出済歳出額は、8年度をピークに減少傾向となっている2。 2-2.剰余金の処理状況及び積立金・資金の状況 歳入決算額(収納済歳入額)から歳出 決算額(支出済歳出額)を差し引いた 額(以下、「決算剰余金」という)は 50 兆 9,574 億円で、歳入決算額に占める 割合は 11.3%である。特別会計における剰余金に関しては各特別会計ごとに処 理方法が決められているが、全体では、翌年度の歳入への繰入れが 41 兆 4,661 億円、積立金・資金への繰入れが7兆 7,868 億円、翌年度の一般会計への繰入 れが1兆 6,655 億円などとなっている。 また、17 年度決算組入れ後の積立金・資金の残高は 212 兆 3,208 億円(対前 年度比 1.7%増)である。 2-3.繰越額・不用額の状況 特別会計全体の繰越額は 14 兆 5,752 億円(対前年度比 23.3%増)となって いる。また、特別会計全体の不用額は9兆 2,312 億円(不用率 2.2%)となっ ている。 3.会計検査院の検査結果に基づく特別会計の現状における問題点 前述の報告書「特別会計の状況に関す る会計検査の結果について」では、会 計検査院が参議院からの検査要請に基づき特別会計の状況を検査した結果、1 財政状況の透明性の確保が十分に図られていない、2多額の繰越額・不用額、 決算剰余金が継続して発生している、3積立金等の保有規模に関する基準が具 体的に定められていない、4予算積算と執行実績とがかい離している状態が継 続している、5出資法人において繰越欠損金を抱えたりしているなどの、財政 統制上の課題が見受けられたことが報告されている。 3-1.財政状況の透明性 まず、財源面における透明性に関して 、例えば、各特別会計の歳入合計額に 占める一般会計からの繰入金の割合(一般会計繰入率)について、率という形 で明示した情報は定期的に提供されていないなどの問題がある。 また、 歳出面における透明性に関して、例えば、予算と決算の対比において、 事項別については決算書では区分することとされておらず、予算書・決算書上 でその対比を行うことが困難となっていたり、繰越額・不用額について、年度 ごとの推移が一覧できる形で示されていないなどの問題がある。 さらに、特別会計全体に関する透明性 について、例えば、一般会計と同様な 「社会保障関係費」「公共事業関係費」のような主要経費別分類を示す科目コー ドが付されておらず、重点施策等への資源配分の状況が把握できないなどの問 題がある。 このように、財政状況の透明性の確保 が必ずしも十分には図られていない状 況となっている。 3-2.繰越額・不用額、決算剰余金 会計検査院の報告によると、14~16 年度の3年間における繰越額・不用額、 決算剰余金は以下のようになっている。 まず、繰越額については、国営土地改良事業特別会計等4特別会計5勘定に おいて、繰越額が3年間連続して 100 億円以上かつ繰越率が 10%以上となって おり、道路整備特別会計を始め公共事業に係る特別会計における繰越しが多額 に上っている(図表2)。 また、不用額については、地震再保険特別会計等8特別会計 10 勘定において、 不用額が3年間連続して 100 億円以上かつ不用率が 10%以上となっている(図 表3)。保険事業に係る特別会計の不用額・不用率が高いのは一概に悪いことと は言えず、注意を要するが、農業経営基盤強化措置特別会計などは、事業自体 のニーズの問題等がうかがえる。 このように繰越額・不用額が多額かつ継続的に発生している特別会計につい ては、繰越しを例外的に認めている制度の趣旨及び決算の予算への的確な反映 という要請からみて財政統制が十分に機能しているとは必ずしもいえない状況 にある。 さらに、決算剰余金については、貿易再保険特別会計等6特別会計7勘定に おいて、決算剰余金が3年間連続して 500 億円以上かつ剰余金率 30%以上とな っている(図表4)。 このように多額の決算剰余金が継続して発生している背景については、前述 の繰越額・不用額の継続的な発生のほか、電源開発促進対策特別会計のように、 歳出規模に連動せず直入される特定財源があることがその要因の一つになって いるものもあり、財政資金の効率的活用を図る上で、財政統制が機能しにくい状況となっている。 3-3.積立金等の保有規模 特別会計に設置されている積立金等の資金は、16 年度末現在で 18 特別会計 30 勘定に 33 資金あり、現在又は将来における事業の財源に充て、あるいは決 算上の不足に備えることなどを目的として設置されている。このうち資金運用 特別会計の「財政融資資金」及び「外国為替資金」を除く 31 資金の 16 年度末 残高は合計で 201 兆 4,740 億円であり、これは元年度末残高の約 2.4 倍となっ ている。 上記 31 資金のうち 16 年度末現在で残高のある 27 資金について、会計検査院 が便宜的に資金保有倍率3という指標を用いてその保有規模をみたところ、10 資金4において過去 10 年間の使用実績がゼロとなっているほか、使用実績のあ る 17 資金のうち3資金5において、資金保有倍率が 100 以上となっている。 無論、保険事業特別会計のように、将来の保険料等の引上げを抑制したり、 異常災害等保険事故の発生に備えたりするための積立金等のほか、財政融資資 金、外国為替資金両特別会計の積立金のように、各年度の決算上の不足に充て ることを目的としながら結果的にそのような事態が発生しなかったものもあり、 使用実績がゼロであることや資金保有倍率が高いことの是非を一概に論ずるこ とはできない。一方で、資金設置以降使用実績がない電源開発促進対策特別会 計の周辺地域整備資金のように、将来発生が予定される財政需要に充てること を目的としているが、今後も原子力発電施設の立地について厳しい状況が続く と使途のめどが立たなくなるおそれのある資金もあり、積立金等の保有規模の 適正水準については慎重に検討する必要がある。 しかし、現状では保有規模に関する具体的な基準を定めている積立金等はほ とんどなく、その規模の適正水準について判断できず、資金の有効活用を図る 上での財政統制が機能しにくい状況となっている。 3-4.予算積算と執行実績との対比 会計検査院は、各特別会計における予算の執行状況について、特に予算積算 との対比に着目して検査を行った。 まず、電源開発促進対策特別会計について、16 年度歳入予算が 10 億円以上 で収納率が 150%以上の「目」の内訳等を対象とし 14~16 年度の歳入を検査し たところ、電源立地勘定の「前年度剰余金受入」(16 年度収納率 155%)、電源 利用勘定の「前年度剰余金受入」(同 259%)について、収納率が 150%を超え ている状況が継続しており、歳入予算積算が過少であった。一方、歳出におい ては、電源立地勘定(16 年度予算積算額 7.6 億円分)及び電源利用勘定(同 28 億円分)について、予算積算をしているものの執行実績がない状況が継続して いたり、電源立地勘定(16 年度支出済額 2.6 億円)について、予算積算がない まま執行されている状況が継続しているなど、予算積算と執行実績とのかい離 が慢性的に生じていた。 また、財政融資資金特別会計について、歳出のうち特に合理化が求められる 「事務費」(16 年度予算額 64 億 5,962 億円、決算額 58 億 381 億円)を対象と し 16 年度を中心に検査したところ、予算積算がないまま執行を継続している経 費が計 778 万円(16 年度支出済額)、予算積算をしているものの未執行が継続 している経費が計 3,093 万円(同予算積算額)あり、こちらも予算積算と執行 実績のかい離が慢性的に生じていた。なお、同特会においては、複数の事項内訳のものを一体として執行しているなどのため、決算額と事項内訳の対応関係 が明確になっていなかったものが計4億 7,506 万円(同支出済額)あった。 このように予算積算と執行実績とがかい離している状態が継続することや、 予算積算と執行実績とが対比できない事態が継続することは、財政統制が働き にくくなるおそれがある。 3-5.出資法人が抱える繰越欠損金 産業投資特別会計の出資先である研究開発法人では、ほとんどの勘定が繰越 欠損金を抱えており、その 17 年度末の合計額は 2,641 億円(同特別会計出資相 当分 2,416 億円)に上っている。また、電源開発促進対策特別会計の出資先で ある核燃料サイクル開発機構では、解散時の欠損金が2兆 5,657 億円(特別会 計出資金等に係る会計分1兆 1,868 億円)に上っている。 4.特会法に示された改革 現在、31 の特別会計法に基づき 31 の特別会計が設置されているが、特会法 において、現行の全 31 特別会計法等6を 18 年度限りで廃止し、新たに 17 の特 別会計7を設置するとともに、各特別会計に共通する規定が定められた。 同法第1章(総則)では、企業会計の 慣行を参考とした書類(省庁別財務書 類)の作成及び財務大臣への送付を、各特別会計の所管大臣に対し義務付ける とともに、内閣に対し、本書類を会計検査院の検査を経て国会に提出しなけれ ばならないとされた8。さらに、所管大臣はこうした財務情報をインターネット の利用その他適切な方法により開示しなければならないとされた9。 また、特別会計の剰余金の処理につい て、共通のルールとして、合理的な見 積りに基づき積み立てる金額や翌年度の歳出財源に充てるため翌年度の歳入に 繰り入れる金額を除き、予算で定めるところにより、一般会計に繰り入れるこ ととされた10。 さらに、特別会計の積立金については 、その必要性、必要な水準等を各特別 会計予算の積立金明細表において公表することとされた11。 総則では他に、余裕金の預託や借入金 等及び繰越しなどについて各特別会計 共通の規定が定められた。 なお、同法第2章(各特別会計の目的、管理及び経理)においては、新設さ れる 17 の各特別会計ごとに目的、所管大臣、勘定区分、歳入及び歳出、一般会 計からの繰入対象経費、積立金、借入金対象経費及び繰越しなどについての規 定が定められた。 5.まとめ 特別会計の見直しについては、参議院として、16 年度決算において内閣に対 する警告を行い、各特別会計の事務事業の見直しに加え、余剰資金の縮減、一 般会計への繰入れ・繰戻し、事業の実態に即した適切な予算計上など、透明化 のための目に見える改善を求めた。これに対し政府が提出した「平成 16 年度決 算に関する参議院の議決について講じた措置」には、特会法を 19 年通常国会に 提出し、19 年度特別会計予算において事務事業の徹底した見直しを行ったこと 及び同法に基づき7特別会計12の剰余金約 1.8 兆円を一般会計に繰り入れ、財 政健全化に寄与することとしたと記されている。 しかし、参議院の警告に対し政府が講じた措置が、特会法の提出と 19 年度予 算への反映のみで十分なのであろうか。 特別会計の現状について会計検査院が示した問題点等に対し、特会法におい て改善が図られた部分として、各特別会計共通ルールとしての財務情報の開示、 剰余金の一般会計への繰入れの共通化、積立金の必要水準の公表などが挙げら れる。しかし、国会審議の中では、剰余金の処理13に関して、剰余金が発生し たら原則として一般会計に繰り入れるべきとの意見や、積立金の適正保有規模に関して、積立基準を法で定めるべきで、特会法では不十分との意見も出て いる15。 19 年度予算への反映については、7特別会計から約 1.8 兆円の剰余金等が一般会計に繰り入れられたが、その大半(約 1.6 兆円)が外国為替資金特別会計 からの繰入れで、その他の特別会計からの繰入れに対する検討・努力が不足し ているとの声もある。 このように、特別会計の見直しについて、国民が納得できる十分な措置が採 られたとは言い切れない。政府は特会法施行後も引き続き特別会計改革の手綱 を緩めてはならず、国会もその動向を注視していく必要があろう。
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