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けじめつけぬ文化の蔓延
https://www.chosyu-journal.jp/column/13080
2019年9月11日 コラム狙撃兵 長周新聞
日韓関係が冷え込むなか、先日、読者でもある在日朝鮮人2世のSさんに「ホルモンでも食べに来ないか」と声をかけていただき、少しでもその心情に近づくことができればとの思いで20代の記者たち幾人かと繰り出した。日が落ち辺りがすっかり暗くなった頃に訪ねると、ホルモン専門店を経営するSさん夫妻は温かく迎えてくれた。奥にある小部屋で一同ギュウギュウ詰めになりながら小さな卓を囲んだ。ホルモン焼き専用のガス鉄板にどっさりと豪快に乗っけられていくホルモンをひっくり返し、口に頬張り、箸休めにはお手製のキムチを頂き、甘く香ばしい煙がくゆる室内で忌憚のない話を聞かせてもらったのだった。
なぜ日本国内にこれほど多くの在日朝鮮人がいるのか? 意識して考え始めたのは小学校4年生くらいだったろうか。同じクラスに通名ではあったが在日朝鮮人の友人がおり、年下にも年上にもいた。ある日、父親が会社を経営している1歳下の女の子の自宅に、右翼団体が「朝鮮人は朝鮮に帰れ!」と街宣をしかけていたことがあった。授業中の教室にも「○○は朝鮮に帰れ!」のけたたましいコールが響き、その日の子どもたちは心がざわついてとても勉強どころではなかった。通学路にも面していたため、「黒い車がいるので気をつけて帰るように」と教室で先生から聞かされたものの、誰が何のために「朝鮮に帰れ!」と叫んでいるのか尋ねても口を濁すような感じで要領を得ない。1つ下の女の子の心情やいかばかりかと心配もしながら、友人たちと帰路についたのだった。
子どもたちのなかでは友だちは友だちであり、日本人であろうが朝鮮人であろうが、国境を意識して関係を切り結ぶことなど基本的になかった。「あの子は在日だぞ」「あの子も在日だぞ」「“あっちの人”っていうんだぞ」などと蔑視するような会話の元は大概が親からの受け売りであり、「だから何なのだろうか?」と受け入れがたい差別意識に反発もしつつ、なぜ日本国内にこれほど多くの在日朝鮮人がいるのか? とくに下関の街に多いのか? なぜ日本人は同じ人間でありながら上から目線で在日朝鮮人を見下しているのか? そのことについて在日の人人はどう思っているのか? 在日の人人は日本でどのような思いをして生きているのか? なぜ? なぜ? を考え始めるとキリがないものでもあった。
徴用工問題は三菱重工業を訴えたものだが、近場を見ても麻生財閥が8000人近い朝鮮人徴用工を働かせていた筑豊の麻生炭鉱しかり、山口県では宇部市の長生炭鉱(水没事故で137人の朝鮮人労働者が犠牲になった。遺骨収集すらされていない)しかり、収容所のような劣悪なたこ部屋に朝鮮人労働者を囲い込み、「人権」という言葉など入り込む余地すらないような環境で奴隷的労働に従事させていた事実はかき消すことなどできない。三菱重工業に限らず、麻生のような地方財閥に至るまでが朝鮮人労働者をこき使って戦争経済の受益者となり、今につながる資本の原始的蓄積を遂げたのである。
「国を奪い、家族を奪い、生命を奪い、言葉を奪い、名前を奪い、すべてを奪っていった。日本の帝国主義ほど野蛮なものはない」−−。時折豪快な笑いも交えつつ語るSさんの言葉は重いものがあった。そして同時に、決して屈服などしていない在日朝鮮人として誇りや強さを目の奥の鋭い眼差しに感じたのだった。私たちのような20〜30代の記者たちが、日本人として知らなければならない歴史の真実を丹念に掘り起こし、嫌韓ブームなるものは「いい加減にせい!」と声を大にして指摘しなければならないのだと強く思った。朝鮮人を虐げた為政者の側の意識に染められて一緒になって対立を煽ったり、「お爺ちゃんは悪くない」の安倍晋三や麻生太郎と精神世界を共有し、彼らのルーツを正当化するのに加担するわけにはいかないのである。
あの大戦で侵略をおこなった軍国主義の為政者どもが、近隣諸国に対して74年前のけじめをつけぬまま今日に至っている。戦後もシレっと息を吹き返して責任をとることなく、今度は原爆を投げつけたアメリカに絶対服従しながら、旧植民地に対しては占領者意識丸出しのまま今日に至っているのである。統治機構しかり、メディアしかり、ドイツのように徹底的に打倒されて然るべき連中が、戦後のアメリカによる占領統治の都合から再登用され、現在につながる屈折した隷属国家をつくりあげてきた。
そして、けじめをつけない文化はいまやあちこちで開花し、例えば福島爆発事故についても東電の幹部は誰一人として逮捕されず、原発を推進した自民党政治家たちも誰一人として責任を問われず、逃げ切りをはかる。モリカケしかり。睡眠障害の甘利明しかり。小汚い斡旋利得罪疑惑の政務官しかり。「桜の国の腹切り文化」はどこへやら。けじめもなく、ろくでもない政治状況、経済状況が蔓延している。アベノミクスが弾けた後も、おそらくけじめなどつける気はさらさらないのだろう。どの世界にあっても、「戦犯」にはきっちりと責任を負わせることがいかに重要であるか、そのことを深く考えさせる。反省がない者が開き直るのだ。
武蔵坊五郎
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