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SNS化、YouTube化した参院選2019 解禁から6年、インターネット選挙運動は日本の選挙をどのように変えたか(イミダス・集英社)
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投稿者 肝話窮題 日時 2019 年 8 月 31 日 10:32:22: PfxDcIHABfKGo isyYYouHkeg
 

NS化、YouTube化した参院選2019
解禁から6年、インターネット選挙運動は日本の選挙をどのように変えたか

2019/08/30
宮原ジェフリー(選挙ライター、キュレーター)


 2013年の参議院議員選挙からインターネットを使った選挙運動が解禁となり、6年が経過した。この間、スマートフォンやSNSの普及率は右肩上がりに伸び続け、世代を問わず日常的にこれらを用いて情報を収集し、発信することが一般的になった。

 インターネット選挙運動の解禁により、選挙はどのような進化を遂げたのだろうか。2019年7月に行われた第25回参議院議員通常選挙の取材を通じて見えてきた動向を紹介したい。

●インターネット選挙運動でできること
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■インターネットを使ったドブ板選挙

 今回の選挙で最も注目された候補者の一人が鈴木宗男氏(「日本維新の会」、以下「維新」)だった。2010年に受託収賄罪などの罪で実刑判決が確定し、17年まで公民権停止となっていた彼にとって久しぶりの挑戦となった今回。鈴木氏は、全国比例区からの立候補を選択した。

 鈴木氏は衆議院議員選挙が中選挙区制度で行われていた時代、同じく自民党の故中川昭一氏や武部勤氏らと北海道で激しく議席を争いながら、選挙区内をくまなく回って有権者と直接対話を重ねることで支持を拡げてゆく、いわゆる「ドブ板選挙」を得意として地盤を固めてきた。

 そんな鈴木氏にとって、日本全国が選挙区となる参院選比例区での闘い方は相性が悪いのではないかと見られていた。ところが、いざ選挙が始まるとムネオ選対は有権者の度胆を抜く戦略を次々と繰り出していったのだった。

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撮影:宮原ジェフリー

 まずは参院選公示の前日にTwitterアカウントを取得。一方的な情報発信にとどまらず、積極的に他のTwitterユーザーのツイートにユーモアに富んだコメントをしてゆくスタイルで話題を集め、「#むねおったー」を用いた情報の拡散にも成功していった。

 インターネット空間上だけでなく、自身の遊説そのものも全国比例区と「SNS映え」に最適化された戦略が練られていた。立候補届出後の第一声の場所に、北海道最東端の納沙布岬を選んだのだ。注目度の高い候補者である鈴木氏の第一声ということで当然メディアの取材陣を引き寄せて耳目を集めつつ、自身が長く取り組んできた北方領土問題を訴えることができた。

 さらにその翌日には日本最西端の与那国島に、選挙戦3日目には東京を経由して日本最北端の宗谷岬に足を運んだ。それぞれは人口の多い場所ではなくとも、その驚異的な移動距離を示すことでメディアを通じてインパクトを与え、北海道・沖縄開発庁長官を歴任した経験をアピール。また、歌手の松山千春氏や俳優のスティーブン・セガール氏、元秘書のジョン・ムウェテ・ムルアカ氏といった個性的な応援弁士と遊説することで、テレビやSNSでさらなる話題を集める。これらの巧妙な手法が功を奏し、最終的に維新から比例代表で出馬した候補者の中でダントツの22万票超を獲得。開票と同時の午後8時に当選確実を決めた。

■YouTuber化する選挙運動

 今回の参院選で改選された124議席のうち、最後に確定した議席に滑り込んだのが「NHKから国民を守る党」(以下「N国」)代表(現在は党首)の立花孝志氏だった。政党要件を満たさない政治団体は、一般にマスメディアでは「諸派」として扱われる。2001年、参議院議員選挙に非拘束名簿式の比例代表制が導入されて以来、参議院比例区で諸派が議席と政党要件を獲得した例は、今回のN国と山本太郎代表率いる「れいわ新選組」(以下「れいわ」)がそれぞれ当選者を出すまで一度もなかった。

 N国はインターネットでの活動を出発点としている。立花氏自身は元NHKの職員として、不正経理を内部告発し、同社を退職した。その後YouTuberとしてNHKの受信料徴収者を追い払うテクニックを指南しつつ、自身の携帯電話番号を公開し、一般市民が徴収者とのトラブルについて日本全国から直接相談できる窓口を自分自身で担ってきた。さらに、玄関先に貼ることのできる、立花氏の電話番号とN国の党名を前面に押し出した「NHK撃退シール」を、インターネットを通じて無料配布し知名度を向上させていった。現在、N国は相談者向けのコールセンターを設置している。

 2013年の結党以来、YouTubeやニコニコ生放送のユーザーを中心に支持者を獲得。
地方議会で少しずつ議席を確保して、19年の統一地方選挙では26人の当選者を出し、インターネット上の支持だけでなく、政治組織としての地盤固めを着実に進めてきたのだ。

 満を持しての国政初進出となった今回の参院選では、全45選挙区のうち37選挙区に候補者を擁立。比例でも立花氏を含めて4名を擁立した。「供託金の300万円を用意できれば誰でも構わない」という姿勢で、候補者の中にはNHK問題を全く訴えない人や、逆に「NHKから国民を守る党には絶対に投票しないでください」と訴える人までいた。候補者には立花氏と同じYouTuberも多く、政見放送では歌ったり叫んだり、被り物をして登場する候補まで現れ、放送後すぐさまYouTubeに転載され、決めゼリフの「NHKをぶっ壊す!」が広く浸透していった。

 選挙区での議席確保は当初から目標にしておらず、選挙区全体で2%以上を得票して、政党要件を獲得することに主眼を置いていた立花氏としては、立候補者名簿や街のポスター掲示板に「NHKから国民を守る党」の名前があることが重要であって、有権者に対して「選択肢」を提供することさえできればそれが叶う、という見積もりだったと考えられる。

 実際にはその通りの結果となるばかりか、自身も難しいと感じていた比例区での議席まで獲得してしまったのだ。

 YouTuberの立候補があった一方で、今回の選挙では候補者のYouTuber化とも言える現象も目立った。東京都選挙区から立候補した音喜多駿氏(維新)は、同じく維新の全国比例で立候補していた柳ヶ瀬裕文氏とセットで選挙戦を展開していた。

「おとやなチャレンジ」と題して、バラエティ番組を模した様々な「チャレンジ」を行い、インターネットで配信して注目を集めた。例えば公示翌日の7月5日には「鉄人&耐久編」として、音喜多氏は地元の北区から蒲田駅までの約35kmを徒歩遊説、一方の柳ヶ瀬氏は蒲田駅で早朝から12時間演説をし続けて音喜多氏を待つ、という企画であったり、市販されている超大盛りのカップ焼きそばを食べきる動画をアップしたりと、従来は見られなかった新しい選挙運動を、有権者の反応を見ながら手探りで進めてゆく様子が見て取れた。

 特に、街宣車の上から音喜多・柳ヶ瀬両氏がマイクを握り、漫才コンビのように調子を合わせて演説をする自称「掛け合い演説」は聴衆に強いインパクトを与えた。

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撮影:宮原ジェフリー

 音喜多・柳ヶ瀬両氏は当落ラインギリギリでありながらも議席獲得を果たすことができたが、YouTuber候補は失敗例も少なくない。「国民民主党」は、スリランカ出身で羽衣国際大学の教授を務め、ビジネスの世界で成功し、タレントとしても活動している、にしゃんた氏を大阪選挙区から擁立した。にしゃんた陣営は猫の着ぐるみ「にゃん太」をマスコットキャラクターに据え、YouTubeでは「大阪100のええやん活動」と称して、にしゃんた氏がラップ、滝行、大喜利、落語など様々なことに挑戦しながら政策を訴えてゆく「にしゃんたチャレンジ」をアップしたが、再生数は2000回前後にとどまり、お世辞にも成功とは言えない結果となった。にしゃんた氏に限らず国民民主党はJAXA職員である水野素子氏(東京選挙区から立候補)に「宇宙かあさん」というキャッチフレーズをつけ、玉木雄一郎代表とともに人気アニメ「機動戦士ガンダム」のコスプレで街頭演説会に登場させた。大塚耕平氏(党代表代行・愛知県選挙区から立候補し当選)は着ぐるみの「民主主義怪獣デモクラシー」と特撮ヒーロー風の「国民戦隊コクミンジャー」を率いて選挙を戦ったりした。いずれもインターネットやテレビで触れられることはあったものの、これらの旧くからある広告代理店的な戦略は、N国やれいわのような新しい動きと比較すると、冷笑的に捉えられていた印象だった。

■オタク族議員の誕生

 インターネット上に強力な支持基盤を構築して国会に議席を獲得したほとんど初めての例と言えるのが、山田太郎氏(自民)だろう。マンガ、ゲーム、アニメといったいわゆる「オタク」向けコンテンツの表現規制に反対する政策を強く打ち出し、インターネットを通じて多くの支援者・支持者を獲得していった。自身の政治団体「表現の自由を守る会」を立ち上げて臨んだ3年前の参院選では個人票で29万票余りを獲得するも、所属していた「新党改革」全体で議席獲得が叶わず落選。今回は自民党の比例名簿に掲載されると、3年前に自民党の比例候補が獲得した最大得票数52万票を超える53万票を目標とし、大ヒットマンガ『ドラゴンボールZ』のセリフを借用して「『私の戦闘力は53万です』と言わせてください!」と訴え、支持を拡げていった(実際には54万票を獲得)。

 ツイッターで支援者は山田氏のトレードマークとなっている蝶ネクタイに似た記号「⋈」をアカウント名に入れて連帯を呼びかけた。#MeToo運動などから着想を得たと思われる、このようなインターネット文化を上手に選挙運動に活かしていった。

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撮影:宮原ジェフリー

■デモとしての街頭演説会

 これまで街頭演説は、選挙区内のターミナル駅やショッピングモールの近くなど人が多く集まる場所で行うのが定石で、それ以上の意味が問われることはあまりなかったが、インターネット選挙運動の解禁後は新たな動きが見え始めている。

 元セブン-イレブンのフランチャイズオーナーで、本部から搾取される制度に耐えかね、コンビニ加盟店ユニオンに加入して労働問題として訴えた三井義文氏(れいわ)は、選挙期間中の7月11日(セブン−イレブンの日)、午前11時から午後7時までの長時間にわたって、東京・四谷のセブン−イレブン・ジャパン本社前で街頭演説会を行った。

 また、非正規労働者として働いていた職場で雇い止め解雇をされた経験を持つ大椿裕子氏(社民)も、比例候補として日本全国を回る中で特に注目を集めたのが、人材派遣会社最大手で、元金融担当大臣の竹中平蔵氏が会長を務めるパソナ本社前での街頭演説だ。多様なゲストスピーカーを招きながら、自身と同じいわゆる「ロスジェネ」世代を中心に、労働者が使い捨てられている現状の変革を訴え、小泉(純一郎)-竹中路線での労働規制改革を批判していた。

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撮影:宮原ジェフリー

 セブン-イレブン・ジャパン本社もパソナ本社も都心に位置してはいるものの、目立って人通りが多い場所というわけではない。しかし、場所の持つ意味合いが強く、SNS等で話題となりやすい。それぞれの演説をしっかり聞かなくとも、ツイッターのタイムラインに「派遣労働の問題を訴える候補者がパソナ本社前で演説をしている」といった情報が回るだけで強い印象をもたらすことを狙ったものだと考えられる。

 ただし、こういった「デモを兼ねた街頭演説」の効果は現時点で限定的なようで、三井氏、大椿氏とも個人票は党内で一番少なく、議席獲得には至らなかった。

■選挙運動と選挙制度のこれから

 この10年間で、選挙運動や選挙制度には様々な変化があった。例えば、選挙公報を各選挙管理員会のWebページからpdfでダウンロードできるのが一般的になった。沖縄県那覇市の選挙管理委員会では、候補者用のポスター掲示板にQRコードを掲載し、各候補者の選挙公報に簡単にアクセスできるようにするなど、様々な取り組みがなされている。

 加えて、今回の参院選では、文章や写真を使ったSNSで、有権者と直接的なコミュニケーションを取れるようになったのみならず、リアルタイムで動画を配信できるサービスなど、インターネットで選挙を闘うツールが簡単に使用できるようになったことで、どの陣営も工夫次第で大きく票につなげることができるようになったことが特徴としてあげられる。一方で、少しでも法的・倫理的に正しくない部分が見えてしまうと、それが一気に拡散して悪いイメージが定着してしまうリスクもあるのがインターネット選挙運動の恐ろしい部分である。

 有権者にとっても、自宅のパソコンやスマートフォンを用いてより簡単に候補者の政策にアクセスできるようになり、政治家に親しみをもちやすくなったが、その分、一面的な情報ばかりを収集してしまうリスクも少なくない。有権者も同様にリテラシーを試される機会となるのが選挙なのかもしれない。

 今後も有権者の生活スタイルに合わせて、より効率的で簡便なものとして変革してゆくことが求められている。

 現在、政見放送はNHKと民法で選挙期間中数回ずつテレビとラジオで放送されるが、録画、録音しない限り放送時間以外に視聴・聴取できない。これも、選挙管理委員会の責任においてインターネットを通じていつでも見られるようにすることが検討されるのも遠い未来ではなさそうだ。

 一方で公職選挙法においては、いまだにポスターを各陣営が手で貼らなくてはいけなかったり、選挙カーでは、有権者から迷惑だという声が絶えない「連呼行為」しかしてはならないと定められていたりと、旧態依然としたところが指摘されている。しかしこの法律を改正することができるのは現行の法制度で議席を獲得した国会議員なのだ。当然のことながら、自分が勝った制度を変えようという力はなかなか働きにくい。

 ただし、議員たちにとって、投票期間中、有権者に支持する人物の名前を投票用紙に書いて投票箱に入れてもらい、その数を競う、という選挙の本質は今後も変わらない。

 選挙はもちろんだが、その機会に限らず、有権者一人一人が制度の矛盾に気づき、政治を担っている議員たちに対して訴えかけることで意識を変えてゆくほかない。

https://imidas.jp/jijikaitai/c-40-137-19-08-g786  

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