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10〜30代男子、高い安倍政権支持率の“正体”…「男だから」が通用しない社会への焦り
https://biz-journal.jp/2019/08/post_113644.html
2019.08.11 文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授 Business Journal
2019年 参議院選挙(写真:ロイター/アフロ)
7月21日に投開票された第25回参院選は、予想通りの低投票率(過去2番目に低い48.8%)となり、自民・公明の与党が参院全体で安定多数を確保した。改憲、消費増税、年金問題など日々の生活に密接にかかわる争点はあったが、有権者の関心は薄かったようである。フランスに暮らす筆者からすると、なんとも平和で奇妙な国である。まさに、自民党の望む「日本という国の民主主義はかたちだけで良い」という考えが、きちんと機能しているということであろう。
話題になったのは、山本太郎氏率いる「れいわ新選組」と立花孝志氏率いる「NHKから国民を守る党」(N国)が比例区で議席を獲得し、さらに得票率が2%に達したことで公職選挙法や政党助成法が定める「政党要件」を満たして、公認政党になったことであろう。
れいわ新選組は比例で約228万票(得票率4.55%)を得て2議席、N国は約99万票で1議席を獲得した。N国の比例の得票率は1.97%にとどまったが、選挙区候補との合計得票率が約152万票(3.02%)に達した。低い投票率と議席数を考えれば、それほど騒ぐことではないと思うのだが、マスコミはこの二党が政治に改革をもたらすと大騒ぎしている。
■高い自民党支持率
今回の参院選でもう一つ話題になったのは、自民党に対する若者の支持の高さである。朝日新聞の出口調査分析によると、比例区投票で30代以下による自民党への投票率が近年増えている。実際に30代以下で自民党に投票した人が、2010年の20%台から2016年には41%に伸び、今回の選挙でも同レベルを維持している。
一方、高齢者は自民党支持者が多いと思われがちだが、自民党への投票率は2013年から低下し、前回の2016年の選挙では、30%前半に低下し、30代以下と逆転し、今回も同程度の投票率である。
60代以上での自民党への投票率低下は、憲法9条改正や自衛隊派遣の正当化への姿勢を先鋭化した安倍内閣への批判とも捉えられるが、なぜ若者による自民党支持が高まっているのだろうか。
今の若者は保守化・愛国化しており、憲法9条改正や自衛隊の海外派遣に積極的に賛成であるため、自民党と安倍政権を支持しているとも考えられる。実際、日本経済新聞の調査によると、安倍政権の「任期中の憲法改正の国民投票」について、若年層ほど賛成が多い。18〜39歳でみると賛成64%・反対25%、40〜59歳は賛成58%・反対30%、60歳以上は賛成43%・反対40%である。高齢層ほど反対が多いが、全世代で賛成が上回っていることから、安倍政権の長期化を支持する世論がうかがえる。
しかし、筆者は改憲の国民投票への支持は、人々が社会的閉塞感のなかでイベント的な変化を希求していることの表れではないかと感じる。このイベント感、一過性で節操がなくても盛り上がって面白ければそれで良いという感覚に、若者の支持が高いというのは、うなずけなくもない。
実際、日経新聞の調査によれば、安倍首相に期待する政策で「憲法改正」と答えた人は10%と7位で、1位の「社会保障の充実」の46%、2位の「景気回復」の39%とは大きな隔たりがあり、希求度はかなり低い。「やるなら、やれば」という当事者意識のない賛成とも取れよう。
■希望を抱かない若者たち
自民党支持の高さの要因として次に考えられるのは、自民党以外に選択肢がないという消極的支持である。野党の政策を見ても与党より甘言であり、日本の将来を考えて国民の痛みを伴うタフな改革を謳う政党はない。同じ甘言ならば、実績と経験のある自民党を選択するのも、うなずけなくもない。
そもそも有権者は、野党に政策実現能力があるとは思っていない。より正確にいえば、「格差だ、格差だ」とマスコミは言うが、今の若い世代の現実的な望みは現状を維持してもらうことであり、多くを望んではない。とりあえず「私が生きていけているので、それで良い。より良くなる保証もないのに、変化を起こされて今の生活すら守られなくなるなら、今のままがよい」という、希望は抱かないということではないか。
これは、環境の変化に適応できないという諦念ともいえ、それを保守化といえなくもないが、安倍首相の望むナショナリズム的なアイデンティティに基づく政治としての保守化とは、少し違うのではないだろうか。
消極的選択かもしれないが、若い世代の自民党支持の高まりは現実のようである。
■男性中心主義社会の崩壊
それでは、30代以下の自民党支持を男女別でみてみよう。2018年12月21日付ウェブサイト「論座」記事『安倍支持の中心は若年男性層』によれば、2017年に発足した第4次安倍内閣への平均支持率を年代別・性別にみてみると、30代以下の男性の支持率が圧倒的に高いことがわかる。20代男性は57.4%、30代男性は52.8%である。これは、同世代の女性よりもそれぞれ約20%高い。そもそも、全世代平均は男性が44.4%、女性が33.8%で女性が約10%低いという男女差が存在しているが、それを差し引いても、30代以下での男女の支持率の違いはかなり大きい。
では、なぜ30代以下の男性の自民党支持率が突出して高いのか。
考えられる推論としては、社会の組織力学構造において、一般的には劣位におかれている女性のほうが現実的で、冷静に現実をとらえており、無駄な希望は持っていないが、ここにきてさすがに男性も現実に気付き始めたということであろう。
グローバル化・多様化のなかで、日本においても「男だから」で通用する男性中心主義が崩れてきており、それを若い男性がヒシヒシと実感してきているということであろう。ハリウッド映画では女性の躍進は著しい。『スター・ウォーズ』では女性ジェダイが登場し、『アベンジャーズ』ではキャプテン・アメリカに加えて女性のキャプテン・マーベルが現れ、『アイアンマン』の後継者はトニー・スタークの娘だと示唆されている。『007』シリーズ最新作でも、女優ラシャーナ・リンチ演じる新キャラクターがジェームズ・ボンドから「007」のコードネームを受け継ぐ。次期の欧州委員長とECB総裁も女性である。日本の若い男性が焦りを感じるのは当然であろう。
安倍首相は「多様性・女性活躍が重要」と口では言っているが、これらを熱心に推進しているかのような「やってる感」があるだけで、彼の本質は強固な伝統保守主義者(=男性中心主義者)である。選択的であっても夫婦別姓すら認めないダイハードな伝統的家族主義者、つまり男性中心主義者である。
ヒシヒシと「男だから」で通用する男性中心主義社会が崩れてきていることを感じ、「男だから」で通用する社会の解体の被害を被ると感じている若い男性は、安倍首相の本質を嗅ぎ分けているわけである。弱者に転落する不安を感じる者の嗅覚は鋭敏である。安倍首相は若者の高い支持をありがたいと言うが、自民党は、まさに将来が暗く希望のない若者男子のための政党である。「男だから」が通用する社会で守ってほしいという意思表示が、30代以下の男性の高い安倍内閣支持の背景にあるのではないだろうか。
海外で生活して思うのは、日本における男子への教育を見るに、グローバル市場における日本人の男女間の価値の開きはいっそう大きくなっていくのではないか、ということである。“開いた世界”に向かう女子と、“閉じた世界”に引きこもる男子という構図が強まり、着実に日本の若者男子はシーラカンス化に向かっているのではないか。
男子の親はこのことに早く気づいて、我が子を育てるべきであろう。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)
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