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安倍政権のネット戦略は国民の弱みを突いてうまい
政治リテラシーの欠如から生まれる権威への接近
勝部元気 コラムニスト・社会起業家
論座 07月04日 より無料公開部分を転載。
https://image.chess443.net/S2010/upload/2019070400009_2.jpeg
安倍政権が東京・秋葉原で支持を集めるのはなぜか?
安倍首相が芸能人との会食を重ね、その様子をSNSにアップしていることについて、前回の記事『芸能人と安倍首相の仲良し演出会食は何が問題か』では、首相の側と芸能人(および芸能事務所)の側から、それぞれ蜜月を演じることのメリットを探りました。
https://webronza.asahi.com/culture/articles/2019070300009.html
芸能人と安倍首相の仲良し演出会食は何が問題か
■混沌とした時代で芸能人も権威を欲している
今回は、さらにマクロの視点で社会全体を捉えたいと思います。とりわけ、注目したいのが、権威主義の広まりです。多様化が進み、社会の流動性が高まる中で、自身の存在にお墨付きを与えてもらえるような分かりやすい権威を欲する権威主義が近年強まっています。この傾向は芸能人も決して例外ではないようです。
たとえば、昨今のジャニーズ事務所のタレントがこぞって有名大学に進学するのも、大学という一種の権威を獲得することで、今後見通しの効かない時代に対する備えにしているとも考えられます。
この傾向はネット上のインフルエンサーも同様です。彼らは一見新しい価値観を持っている人々のように思うかもしれませんが、彼らのSNS投稿には、先輩成功者の権威を自分の評価に利用している場面が少なくありません。昨今流行りのオンラインサロンでも、イベントゲストの権威を利用して自身のブランド構築に利用している例が非常に多くあります。
先日、カリスマ編集者として人気を誇るインフルエンサーが、「権力者飲み!!権力こそ自由!」とTwitterでつぶやいていたのが典型例だと思います。多様で混沌とした時代だからこそ、自身の成功を分かりやすく“枠づけ”してもらえる権威が少しでも欲しいのでしょう。
■オタク層の「2匹目のドジョウ」を狙っている?
それに加えて、市民の側も政治的権威を強く欲しているのではないでしょうか? その典型例がオタク層です。2008年に麻生太郎元総理が漫画『ローゼンメイデン』を羽田空港で読んでいたという「目撃談」がインターネット上で話題となり、麻生氏はオタク界隈で「ローゼン麻生」「ローゼン閣下」と呼ばれるようになりました。
これを機にオタクの自民党支持は広がったと言われています。株式会社ドワンゴ(麻生氏の甥で株式会社麻生の代表取締役社長である麻生巌氏が2005年から取締役を務めている)が運営する動画サイト「ニコニコ動画」はオタク層をメインターゲットとしています。ここは、内閣支持率の世論調査も行っており、他の媒体に比べて支持率が概ね高い位置にあり、かつモリカケ問題等で他の調査が下落した際にも、下落せず一定の高さを保っています。
安倍首相は、国政選挙の際に、大きく喝采を受けられる東京・秋葉原での演説を好み、一部メディアからは「聖地」と呼ばれていますが、秋葉原が「自民党支持の街」となったのも、このローゼン麻生の件以来ではないでしょうか。
確かに麻生氏は漫画を読むのは好きだと公言しているものの、「ローゼンメイデン」は「立ち読みしただけ」と言っていますし、そもそも自民党政権はオタク層にとって都合の良い政策を並べているわけでは決してありません。
それなのに、「自分たち(が好む文化)を、権威ある人が受け入れてくれた!」という親近感から、これを機にオタク層の一部がごそっと自民党を支持率するようになりました。特に「今まで社会の中で陰の存在だった」という自意識が強い彼らには、有力政治家が立ち読みしたというだけでもとても嬉しかったに違いありません。
もちろん、自民党はこれを狙ったわけではないと思いますし、他にも要因は様々あると思うのですが、結果的に「麻生氏とローゼンメイデンの“会食”的接近」の効果は絶大だったと言えるでしょう。
ここから分かるのは、「エンタメを好むファンの側も権威との接近を求めているのではないか?」ということです。自分の好きな芸能人やコンテンツに権威付けしてもらうと、自分自身も認められたと感じ、権威を与えてくれた人に対して好感を持つのではないでしょうか。
そのような中で、安倍政権が「2匹目のドジョウ」として芸能やお笑いファンにターゲットを定め、政策を消したうえで、ただ「権威」との距離が近いイメージを提供するのは、安倍首相自身、著名人、そのファンにとって「三方よし」で、実に効果的な戦略と言えます。
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「権威」に寄りかかるネット上のインフルエンサーも少なくない Photo: garagestock/Shutterstock.com
■国民の政治リテラシー向上しか道はない
このように表に出る人間もそれを支える側も権威を欲する時代の流れの中で、会食した個別の芸能人に対して、「権力者の犬になった!」と批判をしても、あまり意味がないように感じます。
芸能人にとっては、批判の声に従っておとなしくするよりも、それを気にせず権威に寄り添ったほうが自身の仕事のプラスになる面が大きいのですから、残念ながら権威主義的な政治と芸能の癒着は今後も続くどころか、ますます広がっていくことでしょう。
では、どうすれば、この権威主義的な傾向を変えられるのでしょうか? 確かに権力を分散させて、「一強」という強い権威が生じないようにすることは理論上最も効果的です。選挙であれば、より幅広い政党の議席獲得が重要です。
ですが、2019年7月1日から3日にわたって連載された朝日新聞の『「安倍政権支持」の空気』を見ても分かるように、既に権威主義に深く陥って、政権与党を支持する国民が、新たな選択をするのは難しいように感じます。
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