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インタビュー 未来が変わる小さなchange
ハラスメントに声を上げることは、忖度社会を拒否することでもある【東京新聞記者・望月衣塑子】
ミモレ 2019.6.29
6月公開の映画『新聞記者』は、ある内部告発に端を発した疑惑を追う女性ジャーナリストの物語。「医療系大学の新設を巡る利権」「権力の癒着」「官僚のスキャンダル」「内閣情報調査室(内調)の暗躍」……そこで描かれるのは、現実でもどこかで耳にしたことがあるような話ばかり。原案は東京新聞の記者、望月衣塑子(もちづき いそこ)さんによる『新聞記者』。内閣の定例会見での、菅官房長官とのバトルで知られる彼女は、伊藤詩織さんの会見を受け、いち早くご本人にインタビューした記者としても知られています。
映画『新聞記者』には、伊藤詩織さんの事件をもとに描かれた場面があります。自身のレイプ被害を実名と顔を公表して告発した会見、その後の場面はそのまま、望月さん自身が経験したことです。
「特派員協会で行われた詩織さんの会見には、ネットも含めて大手メディアは全社来ていたんです。他社に抜かれたら嫌だから。なのに終わった後、各社が互いに“お前のとこやる?どうする?”と“談合まがい”なことをしてる。本当に、最低だなと。新聞では普段はそういうことは見たことがなかったから驚きました。さらに、加害者とされる人物の不起訴処分が確定し、報道機関に対して名誉棄損訴訟をちらつかせたこと、安倍首相に近い人物だったことで、メディアは完全に及び腰になってしまった。でもBBCもニューヨーク・タイムズも書いているわけですから。
テレビの報道においても、社の上層部からの圧力があったと聞いています。もちろんお上から文句を言われるということは、以前にもちょいちょいあったこと。“また電話がかかってきた”くらいで笑って流す程度のことだったんです。でも今は“官房長官の秘書官から連絡が”と大きな問題になってしまう。上層部が政権となれ合いの関係になっているから、現場の中間管理職たちが目を付けられることを恐れ、及び腰になってしまうんです。モリカケ問題で左遷され退職を余儀なくされたNHKの相沢冬樹記者がいい例ですが、人事権を握る上層部と政権との関係があり、それを現場が肌で実感しているから、委縮してしまっているんですよね。
またテレビ朝日では、安保法制や原発、憲法改正、年金問題などを取り組んできた松原文枝経済部長が、7月の人事異動で新設のイベント事業戦略担当部長に移ることになりました。彼女がディレクターとして企画・制作した、報道ステーションの「ワイマール憲法の教訓」の特集は、2016年のドキュメントの最高位「ギャラクシー大賞」と日本ジャーナリスト協会賞を受賞するなど、実績は十分です。
テレビ朝日の記者達からは「政権を批判する報道を続けてきたことへの明らかな報復・粛正人事だ」と批判の声が聞こえてきます。安倍一強が続く中で、メディアの幹部達が政権に擦り寄るような動きが目立ちますが、これはメディアの自殺行為ではないでしょうか」
■「あの事件」の裏で、常態化していたセクハラ
伊藤詩織さんの事件はまた、日本の女性たちのレイプ被害やセクハラについての様々な考えを浮き彫りにしました。「彼女にも非があったのでは」と考える人たち。本名と顔を出した告発を“売名”かのようにいう人たち。女性がレイプ被害を晒すことを嫌がる人たち。被害者然としていない彼女に腹を立てる人たち。
「マスコミの世界で言えば、テレビ朝日の女性記者が財務省の(当時)福田事務次官を告発したことがありましたよね。あの時に、財務省記者クラブのある女性記者が、“でも、みんな知ってましたよね”と言ったのを覚えています」
「福田さんは財務省のエリート中のエリートで、それまでも数か月に1回は記者クラブの大手経済新聞の男性記者たちが幹事になって『福田さんが女性記者に囲まれる会』というのをやっていたそうです。その飲み会では、福田氏が女性記者に向かって“お前、最近ヤってないだろ”なんてことを平気でいったり、手を握ったり肩を抱いたり。女性記者たちはその場では仕方なく“あははあはは”と付き合って、終わった後に“気持ち悪いよね”と言い合っていたと聞きました。昼間のアポで次官室に行った時ですら隣に座ってくる人だったから、分かっている女性記者たちは「絶対に1対1での夜の取材は危ない」という認識があったといいます。
告発した女性記者は国税庁との兼務で、福田氏のセクハラについてはある程度は知っていたけれど、そこまでの情報を共有しきれていなかった。告発した理由は「どこかで断ち切らなければ、いつまでたっても“女性記者なんて所詮そんなもん”という扱いしかされない」「自分一人の問題ではない、きっちり声を上げるべきだ」と考えたからだそうです。
彼女の告発の裏には、詩織さんの勇気に触発された部分があったと聞いた、と望月さん。録音したのも詩織さんの事件が証拠不十分で不起訴になったから。そして自分が所属するテレビ朝日ではなく新潮社に持ち込んだのは、会社に言えば音源ごと没収されかねないと分かっていたから――つまり彼女はあらゆる「忖度」を拒絶したのだと、言えるかもしれません。
「事務次官になるまでそんなことをやっていた人だから、これまでも嫌な目に遭った女性記者や財務省の女性職員はいたと思う。私たちの世代が戦っていたら、彼女や詩織さんの世代が苦しむことはなかったし、それを許してきた私たちの世代が反省するところだと思う。
詩織さんだって、当初こそサングラスにマスク姿でしたが、“自分が隠れなければいけない理由なんてない”と、途中からは日本に戻っても顔を隠さなくなった。そして本来やりたかったドキュメント番組の製作を次々と手掛け、カルバン・クラインのモデルにもなって、前向きにどんどん発信している。すごい驚きだし、その勇気は若い世代からしか学べない、学ばなきゃいけないと痛感します」
それ以降、様々なセクハラやパワハラの被害、体験について、声を上げて語り始めています。こうした流れをきっかけに、政治や社会に女性たちが参画していけば、世の中の空気は変わるのではないかと、望月さんは考えています。
「議員会館に行くとすごく感じるんですが、キーパーソンと言われるような政治家たちって、歩き方からして心許ないほど年配の男性ばかりなんですよ。そんな人たちが取り仕切っていたら、日本の政治が変わるわけがない。女性がきっちりとものが言える社会になり、いろんな形で関わっていければ。例えば、軍事ばかりにお金を使うのではなく、おざなりにされている教育や福祉にもお金が回るようになると思う。パンプスやハイヒールを女性に仕事で強いるのはおかしいと訴える、「#Ku too」の動きを見ても、女性だからと我慢することは何もない、どんなことでも言っちゃっていい。みんなで声を上げ、みんなで考え動いていけば、世の中は変わっていくと思います」
https://mi-mollet.com/articles/-/18016
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