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2019年5月4日
月が変わるまでは「平成最後の○○」ばかりを連呼し、月が変われば「令和最初の○○」をメディアが延々と騒いでいる。少々鬱陶しいと感じるのは、こぞって饅頭や食い物に「令和」の刻印を入れたり、年越しそばならぬ「年号越しそば」を食べてみたり、商売繁盛のために便乗していたり、「めでたい、めでたい」の垂れ流しが軽薄極まりないからだろう。天皇制とは何か、元号とは何かといった思慮や深掘りは放棄して、もっぱら劇場型で世の中の空気を「天皇陛下万歳」で統一し、メディアの腕力によって祝賀ムード一色に染め上げているのである。「天皇陛下のおかげで平成は平和な時代だった」「天皇陛下に感謝いたします」等等、アナウンサーやコメンテーターたちは競うように人柄を讃えて感謝感激の思いを重ねている。2019年はいったい何時代なのだろうか? と思うほど宗教的である。というより、もともと国家神道の頂点に君臨する天皇及び天皇制はそれ自体が宗教である。
明治以後に絶対的権威として祭り上げ、その後徹底した軍国主義教育によって国民に叩き込んだそれは、320万人の国民の生命を奪った第二次大戦を経て、象徴へと切り替わった。国家としての独立をアメリカに明け渡すことによって戦争犯罪の責を免れ、「昭和」の継続を許されたのが2代前の昭和天皇だった。フセインやカダフィが惨殺されたのとは違い、その絶対的権威を「100万の軍隊に匹敵する」(マッカーサー)と見なして戦後支配に利用したのがアメリカだった。日本の単独占領がモデルとされるのは、それら統治の構造を丸ごと傀儡として従え、武装解除から占領までをやり遂げたことにある。世界で唯一、無抵抗による占領が可能となったのは、天皇制の継続とその利用抜きには考えられないことであり、国民に塗炭の苦しみを強いた支配者の屈服と隷属によって成し遂げられたのである。
そして、74年が経って絶対主義天皇制の時代から国民主権に変わっているのに、なお天子様のもとに国民を統合し、異論を挟むものは非国民扱いされそうな勢いすら見せているのが今日の改元騒動である。天子様のおかげで下々の赤子たちが存在するという考えは、絶対主義天皇制の時代から尾を引いたものであり、「天皇陛下のために死んでこい!」と言われたら、「天皇陛下万歳!」と叫んで死ににいきそうな熱量とでも言おうか、その残渣を感じさせるものがある。天皇の性格や人柄の善し悪しなどとは関係なく、引き戻す力が強力かつ意図的に働いているのである。
戦争を知らない子どもたちの世代から孫やひ孫たちの時代になり、天皇制とは何か、元号制とは何かを深く考えたりすることなく、染め上げられた祝賀ムードのなかで、ポップでカジュアルなノリで同化したり、あるいはどう反応して良いかわからないという戸惑いみたいなものも漂っている。そして、安倍晋三の選挙区でもある下関市長の前田晋太郎あたりになると、日頃は議場でも寝てばかりいるのに、日付けが変わった0時5分に張り切って「天皇陛下万歳」とツイートしたものだから有権者を驚かせた。その時間まで起きていたことへではなく、かつて戦場にかり出された兵士たちが死んでいく時に叫べと叩き込まれていた言葉を、実に軽いノリでツイートする時代になったことへの驚きである。そして、少子化で軍人が足りない折、下関市は街の子どもたちの個人情報を名簿にして自衛隊に差し出すのだという。その軍隊は昔天皇、今アメリカで、今度はアメリカの身代わりになって戦場にかり出される運命にある。天皇制や独立国家としての体裁をどのように欺瞞しようと本質は属国であり、情けないものである。天皇制もまた飾り物にすぎず、植民地支配のための一ピースとして利用され、キリスト色に染まりながら今日に引き継がれているのである。
ところで、天皇陛下万歳騒動を見ていてふと思ったのは、北の将軍様に「マンセー(万歳)」といって感涙している人々に見せたら、恐らく「日本もワシらと一緒じゃないか」と思うのではないか? という点だった。元号の由来は中国の皇帝が時を支配するために用いたことにあるが、そうした王政の名残や特定の一族を神のように崇め奉る文化が東アジアの片隅で灯を点していることについて、宗教的な部分も含めて興味深く考察する価値があるように思う。吉田充春
https://www.chosyu-journal.jp/column/11624
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