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元国税が論破する「公共事業を増やせば賃金が上がる」の大ウソ https://www.mag2.com/p/news/395014 2019.04.17 大村大次郎『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』 まぐまぐニュース 賛否両論を呼んだ前回掲載の「元国税が暴露『日本の財政赤字は社会保障費が原因』という大ウソ」。SNS上などでも活発な議論が展開されましたが、「公共事業を増やせば日本経済はよくなる」と主張する方も多いようです。これを真っ向から否定するのが、元国税調査官で作家の大村大次郎さん。大村さんは今回も自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で、これまで行われてきたあまりに酷い公共事業の実態とその弊害を、データを明示しながら記しています。 ※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2019年4月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。 プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう) 大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。 “公共事業を増やしさえすれば日本経済はよくなる”という愚論 前回2019年4月1日号のメルマガで、筆者は、「今の日本の財政赤字の原因は、社会保障費の増加ではなく、90年代の狂乱的な公共事業のせいです」と述べました。 ● 元国税が暴露「日本の財政赤字は社会保障費が原因」という大ウソ しかし、昨今の日本では、「公共事業を増やしさえすれば日本経済はよくなる」という「公共事業信者」ともいうべき、愚かな人々がいて、その人たちが非常に反発をしたようなのです。 「公共事業信者」の方々は、「公共事業を行えば経済は活性化し、賃金も上がり、景気はよくなる」と固く信じています。しかし、不思議なことに、「公共事業信者」の方のほとんどは、日本の公共事業の実態をほとんど知らないのです。とにかく、「公共事業をしさえすればいい」と思っておられるのです。 確かに、経済が収縮したときには公共事業を行うことで、経済が活発化することもあります。また国に必要なインフラの整備をすることは、国にとって非常に大事なことでもあります。だから、筆者としても、「公共事業はすべて悪」だと断罪するつもりはありませんし、公共事業は国にとって必ず必要なものだと思っております。 が、問題は公共事業そのものではなく、その「質」と「量」なのです。ネットでご活躍されている「公共事業信者」の方は、公共事業を増やせというばかりで、公共事業の質や量、具体的な方法論とその効果などを論じることはほとんどありません。つまり、日本の公共事業の実態を知らずに、机上の空論として、ただただ「公共事業を増やせば景気がよくなる」と思っているのです。 公共事業の適正な「質」と「量」を検討したとき、90年代の日本の公共事業は、「巨額のお金をドブが埋まるほど捨てる」という愚行だったと言えるのです。 アメリカの要求で行なった630兆円の公共事業 90年代に行われた大規模な公共事業は、90年当時の日本の首相であった海部氏がアメリカに対する公約として、今後10年間で430兆円の公共事業を行うと明言したことから始まりました。当時、アメリカは日本との貿易赤字に苦しんでおり、日本の内需を拡大するために、公共事業を増額させ、アメリカ製品をたくさん買わせようともくろんだのです。 90年代初頭、日本は、歳出を歳入だけで賄える、いわゆる「プライマリー・バランスの均衡」を達成していました。これは、先進国では珍しいことでした。現在の日本は、赤字国債無しではやっていけない財政状況が続いておりますが、90年代初頭はそれとはまったく違っていたのです。 その財政バランスの取れた日本政府に対し、アメリカは、もっと金を使えと要求したわけです。「他国に公共投資を強いる」というアメリカの姿勢にはもちろん問題があります。が、この公共投資に関しては、日本側の対応が最悪だったのです。 その後、村山内閣のときに、この公約は上方修正され630兆円にまで膨らみました。1年に63兆円を10年間、つまりは630兆円です。630兆円というのは明らかに異常な額です。当時の日本の年間GDPをはるかに超える額であり、当時の国家予算の10年分です。当時の社会保障費の50年分以上です。それを丸々公共事業につぎ込んだのです。 いくら当時の日本政府が財政を健全化していたといっても、こんな負担に耐えられるはずがありません。当然のように、あっという間に、巨額の財政赤字を抱える羽目になりました。現在の国の巨額の借金というのは、間違いなくこのときの630兆円の公共事業が原因なのです。 国は、現在の巨額の赤字国債について、「社会保障費の増大で生じた」などと弁明していますが、数理的に、どこからどうみても無理があります。当時の社会保障費は、わずか11兆円ちょっとです。公共事業費は年間60兆円以上でした。だれがみても、どちらが借金の原因かは一目瞭然なのです。 630兆円をドブに捨てた日本 そして、最大の愚行は、その使い道です。実は日本では、公共事業というのは、非常に税金の無駄遣いになりやすいものです。当時、公共事業というのは、政治家に食い物にされていました(もちろん今でも変わっていません)。有力な国会議員は、地元に公共事業を誘致することで、その政治手腕を誇示します。それにより政治資金や支持者を集めるというのが、政治家の選挙戦略の有力な手段となっていたのです。 当時の日本では、建設業者が政治家を強力に指示する母体になっていたのです(今でもその傾向はあります)。建設業者は、支持者を集めるだけではなく、政治資金も提供してくれるからです。当時、日本の政治家の半数近くは、建設業者によって食わせてもらっているような状態でした。政治家は公共事業を誘致して建設業者を潤す、建設業者は寄付をして政治家に還元する、こういう食物連鎖が完全に出来上がっていたのです。 つまり、日本で公共投資を増やせば、それは真に国民のためになることには使われず、政治家と建設業者の利権に費消されてしまう、ということです。当時の日本では実際に、その通りのことが起きてしまったのです。日本は630兆円もの巨額のお金を愚にもつかない箱モノをつくったり、無駄な橋や道路をつくるばかりで浪費してしまったのです。 この当時の公共事業がいかに無駄遣いだったか、そのわかりやすい例をしめしましょう。 80年代から後半から2000年代にかけての公共事業で、目玉的に進められていたのが、四国と本州の架橋です。この時期、四国と本州の間には、なんと3本の橋がかけられたのです。もちろん、莫大な費用が生じました。それほど人口が多いとは言えない四国に3本もの橋をかけるのは、明らかに多すぎだったはずです。 その一方で、四国では基本的なインフラ整備が遅れており、下水道普及率が世界的に見ても非常に低いのです。四国の四県のうち、三県で50%を切っています。徳島県に至っては、下水道普及率は17.5%なのです。この数値は先進国はおろか、東南アジアの普及率よりも低いのです。アフリカが、ちょうど約17%なのです。つまり、徳島県の下水道普及率は、未開の原野が広がり、紛争が絶えないアフリカと同じ程度なのです。巨額の金をかけて、橋を三本も架けている一方で、足元の下水処理はまったくおざなりになっているのです。いかに日本の公共事業に無駄が多いかということです。
またこの当時の巨額の公共事業は、少子高齢化を食い止めるようなことには一切使われていません。それどころか、待機児童問題は放置され続け、国公立の大学の授業料は10倍以上挙げられているのです。金の使い方が根本的におかしいのです。 国民の賃金は下がり地方はさびれた それでもこの巨額の公共事業により、国民の賃金が上がったり、公共事業を請け負った地域が活性化したならば、まだ救いがあります。しかし、そういう形跡は一切なく、むしろ、その逆なのです。 630兆円の公共事業計画は、1995年から10年間続けられましたが、国税庁の統計データによると、1998年から日本人の平均賃金が下がり始めたのです。高度成長期前からほぼ一貫して(オイルショックなどの一時期を除いて)日本人の賃金は上がり続けていたのですが、1998年を境に日本人の賃金は下降しはじめ、それから20年近く下がり続けたのです。つまり、巨額の公共事業計画を行っている真っ最中に、日本人の賃金は下がり始めたのです。 公共事業信者の方々は、「公共事業を増やせば賃金が上がる」と信じ込んでいるようですが、それはまったくの机上の空論なのです。それは、日本の90年代から現在までのデータを見れば、誰でもわかることなのです。公共事業信者の方は、このような基本データさえ押さえることなく、机上の暴論を振り回しているのです。 またこの時期に公共事業をたくさん請け負っていた地域は、どんどん寂れていっています。島根県が良い例です。近年の島根県は、失業率も高く、県外の流出も多くなっています。島根県をこういう状態にしたのは、90年代の公共事業のせいです。島根県は、故竹下元首相や青木参議院議員など有力な国会議員を輩出してきた県です。島根県出身の国会議員たちは、こぞって島根県に公共事業を誘致し、そのことで自らの政治権力をアピールしてきました。 このため島根県の経済は、90年代から2000年代にかけて、公共事業にまったく頼りきった体質になってしまったのです。県民一人あたりに使われる公共事業費は、全国で常時5位以内に入り、北海道や沖縄に匹敵するほどの公共事業を受注してきました。それほどの税金を使われながら、島根県は数十年の間、人口流出でワースト10に入るほどの過疎県となってしまったのです。しかも、日本の政府は、90年代の公共事業について何ら反省することもなく、「財政赤字は社会保障費のせい」などとトンデモない嘘をついています。 公共事業信者の方々の描いている「公共事業救世モデル」というのは、公共事業が理想的な形で行われて初めて実現できるものなのです。しかし、今の日本では、公共事業が理想的な形で行われるのは絶対に不可能なのです。その日本の事情をまったく考慮せずに、机上の空論を振りかざし、公共事業さえ増やせば経済はよくなると信じ込んでいる公共事業信者の方々というのは、本当に愚かだと筆者は思います。 「公共事業さえ増やせば経済はよくなる」信者の方、ぜひ、反論をお願いします。その際には、必ず、根拠のあるデータをつけてくださいね。(メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』より一部抜粋) image by: Shutterstock.com
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