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「令」の字と国書から採ったという宣伝文句に感じる違和感 永田町の裏を読む
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/251577
2019/04/11 日刊ゲンダイ 万葉集は国書には違いないが(C)共同通信社 先週に続き、新元号について。もう決まったのだから素直に受け入れればいいじゃないかというご意見もあろうかと思うが、どうもしっくりこない感じがどこから来るのかを考えている。 ひとつには「令」という字そのものの多義性ということがある。普通は「令嬢」「令息」など「よい」「立派な」の意味で用いられ、だから外務省もこれにビューティフルと英訳をつけた。 しかしそれにしては「令色」(他人の気に入るように顔色をうかがう)といういやらしい使われ方があるのが気になるし、「令見」と書いて「みせしめ」と読ませることもある。「令状」「令書」「令達」など上から下に向かって命令するというニュアンスの場合も多く、もともとは神官がひざまずいて神意を聴く姿から象形された文字なので、上から目線は当然なのかもしれない。そうだとすると、英BBCが最初にオーダーと訳したのは的確だったことになる。 もうひとつには、初めて国書から採ったという宣伝文句への違和感である。万葉集は国書には違いないが、「初春令月、気淑風和」という部分は漢文で書かれた序言の一部で、しかも何百年も前の後漢の人である張衡の「帰田賦」にある「仲春令月、時和気清」をもじったものだというから、要するに中国中心の漢字文化圏の手のひらの上の出来事なのである。 さらに言えば、平成は「地平天成」(書経)、「内平外成」(史記)の四字熟語的な表現から2字を採っているので、文字同士につながりというか緊張感があるのに対して、今度の場合はその1行の中の文字を適当に(?)ピックアップしているようなので、2字の間に意味的な緊迫感が乏しい。 そうはいっても、本文の和歌で使われているのは万葉仮名で、漢字の意味とは無関係の音声記号として並べられているだけなので、その一句から漢字2字の取り合わせを選ぶというのは全く意味がない。だから漢文の部分から選んだのだが、それを国威発揚的に言い立てるのは見当が狂っている。 余談。張衡は皇帝を囲む宦官や儒家の腐敗に腹を立て、官職を辞して故郷に帰り田を耕したいとうたった。中西進氏は、安倍政権の安保法制と9条改憲に反対する「総がかり行動」の賛同人に名を連ねているほどのリベラル派なので、新元号に政府批判のメタファーを埋め込んだと言う人もあるが、それはいくら何でもうがち過ぎというものであろう。 高野孟 ジャーナリスト 1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。
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