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習近平が大喜びする「日韓・日ロ関係悪化」を全力で回避すべき理由
2019年4月3日 北野幸伯 :国際関係アナリスト
日本とロシアの「平和条約締結交渉」が停滞している中、プーチン大統領の胸の内は...?
日本が4島返還から2島返還へと大譲歩したにもかかわらず、「日米安保破棄が返還の条件」と仰天発言をしたプーチン大統領。到底受け入れられない発言だが、ここでロシアと仲違いすれば習近平の思うツボである Photo:AP/AFLO
日本とロシアの「平和条約締結交渉」が停滞している。安倍総理は2018年11月、「4島一括返還論」を捨て、「2島返還論」にシフトした。これは「大転換」で、日本側の「大きな譲歩」である。にもかかわらずプーチンは、2島返還のために日本は「日米安保を破棄しなければならない」と、ありえない要求をしている。日本国民の感情を逆なでするプーチンの発言。真意はどこにあるのだろうか?(国際関係アナリスト 北野幸伯)
「4島一括返還」から
「2島返還」へ大幅譲歩したのに…
安倍首相は昨年11月、シンガポールでプーチンと会談した後、仰天の発言をした。
<この戦後70年以上残されてきた課題を次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で終止符を打つ、必ずや終止符を打つというその強い意思を完全に大統領と完全に共有いたしました>??
<そして1956(昭和31)年、(日ソ)共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる。本日そのことでプーチン大統領と合意いたしました。>(安倍首相の発言、産経新聞2018年11月14日 太線筆者以下同じ)
「日ソ共同宣言を基礎として、平和条約を加速させる」
なぜ、これが「仰天発言」といえるのか?「日ソ共同宣言」の「骨子」は、「平和条約締結後、歯舞、色丹を引き渡す」だ。国後、択捉には言及していない。一方、日本政府の要求は、これまで長年「4島一括返還」だった。しかし、「日ソ共同宣言を基礎として」ということは、首相が「2島返還論者」になったことを意味する。
数年前まで、「2島返還論者」は、保守派から「国賊」「売国奴」と非難されたものだ。それが、今では首相自身が「2島返還論者」になった。
にもかかわらず、プーチンの姿勢は相変わらず強硬なまま。一体、ロシアは何を考えているのだろうか?
「4島返還」を
夢にも思わないロシア人
筆者は、1990年から2018年まで、28年間ロシアの首都モスクワに住んでいた。この期間、政府の上の人から一般庶民まで、数えきれないロシア人と接してきた。それでわかったのは、ロシア人で「4島返還が必要」と考えている人は、「皆無」ということだった。
まず、ロシア人の「領土観」は日本人とかなり異なる。
ロシアの起源は、882年頃に成立した「キエフ大公国」だ。だからロシア人に「固有の領土はどこですか?」と聞けば、「キエフ周辺だ」となるだろう。ところが、そこは現在、他国ウクライナの首都になっている。
つまり、ロシア発祥の土地は、外国にあるのだ。ロシアはその後、東方をどんどん征服し、19世紀半ば極東にたどりつく。そして、中国から極東を奪うまでになった。
ロシアのほとんどは、「征服した土地」だ。だから、「固有の領土だから返してくれ」と言っても、「意味がわからない」となる。「固有の領土は返さなければならない」とすれば、ロシアの領土の大部分は(征服した土地なので)なくなってしまうだろう。
そんな彼らの「領土観」は、「戦争のたびに変わる」というものだ。ロシアのインテリと話していると、こんなことを言われる。
「1875年の樺太・千島交換条約で、日本とロシアの国境は画定された。にもかかわらず、日本は日ロ戦争後、南樺太を奪った。日本が勝ったときはロシアから領土を奪うが、ロシアが勝ったときは『固有の領土』だから奪ってはいけないという。フェアじゃないよね」
都合の悪い史実は抹消
歪んでいるロシア人の歴史観
こういう主張を聞くと筆者は、「ソ連は、日本がポツダム宣言受諾後に攻めてきたではないか」「ソ連が日ソ中立条約破棄を通告したのは1945年4月。失効は46年4月のはずではないか」などと反論した。
するとロシアのインテリは、「あれは、1945年2月のヤルタ会談で米英とも合意していたこと」とか、「戦争はそんなものだ。日本はロシア(ソ連)を責めるが、日本だって真珠湾を奇襲したではないか」などと反論してくる。
一般庶民についていえば、「日ソ中立条約破棄」「ポツダム宣言受諾後に日本を攻めた」など、ロシアにとって「都合の悪い真実」は知らない。もちろん「シベリア抑留」の話も知らない。
ロシア国民は、「ソ連は絶対善」「ナチスドイツは、ソ連人を2000万人以上殺した絶対悪」「日本は、絶対悪ナチスドイツの同盟国」と教えられて育った。その「神話」の中では、ソ連のダークサイドは消されている。
そういえば、「最も都合の悪い真実」は、第2次大戦を率いたソ連の指導者スターリンが、ヒトラーに匹敵するほど「極悪独裁者」だったことだろう。だから、ソ連崩壊後の戦勝記念日では、スターリンの存在が見事に消されている。「あれは私たちのおじいちゃん、おばあちゃんの勝利だ!」と言って祝うのだ。
ロシアのガルージン駐日大使は、3月20日の講演で以下のように語っている。
<ガルージン氏は第2次世界大戦の結果、北方領土が合法的にロシア領になったとの主張が「ロシアの世論の受け止め方だ」とも主張。>(朝日新聞デジタル 2019年3月21日)
これは、日本人には受け入れがたい主張である。しかし、戦後70年以上にわたって「神話」を刷り込まれてきたロシア国民が「普通に考えている」のは、まさに「これ」なのだ。
「2島返還」も難しい現実
「日本は米国の支配下にある」
このように、ロシアではインテリから一般市民まで、4島返還は「したくない」のではなく、「する必要がない」と捉えられている。私の28年間のロシア生活の中で、北方領土を返してもいいと言ったのは小さな子ども1人だけ。「ロシアは大きな国だから、小さな日本に島をプレゼントしてもいいんじゃない?」というのが、その理由であった。
4島返還は大変難しいが、2島返還なら少しは可能性がある。なぜなら、日ソ共同宣言は両国議会が批准し、法的効力があるからだ。しかし、ロシア側は「歯舞、色丹を返したら、そこに米軍が来るではないか」(=だから返せない)と主張している。
これは、「返したくないための詭弁」に思えるが、そうともいえない。ロシアには、米国を絶対信用できない理由が存在するのだ。
1990年10月、西ドイツが東ドイツを編入した。ソ連のゴルバチョフは、ドイツ再統一を認める条件として、米国に「(反ソ連軍事ブロックである)NATOをドイツより東に拡大させないこと」を要求。米国は「拡大しない」と確約した。
しかし、その約束は、あっさり破られる。1999年、2004年の大幅拡大で、東欧諸国のほとんどだけでなく、旧ソ連のバルト3国もNATOに加盟した。それでロシアは、29ヵ国からなる「超巨大反ロシア軍事ブロック」と対峙する羽目になったのだ。
このトラウマがあるため、ロシアは、決して米国のことを信用しない。では、安倍首相が「返還された島には米軍基地は置かない」と発言していることについては、どうなのだろうか?
これも、「まったく信用されていない」といっていい。
なぜか?ロシアから見ると、日本は米国の支配下にあり、完全な独立国家と見なされていないのだ。ロシア政府は、米国が「基地を置く」と決めれば「日本は抵抗できない」と確信している。
ロシアとの関係悪化で
喜ぶのは習近平である
プーチンは最近、こんな発言をした。
<プーチン氏はこれまでの交渉の経緯を振り返った。?その上で、日本がまず、アメリカが日本のどこにでも軍事基地を置くことができるという安全保障条約を破棄しなければならないと指摘した。?安倍晋三首相はこれまでの会談でプーチン氏に対し、北方領土が日本に引き渡された場合、アメリカの軍事基地をそこに置かないことを保証したとされる。?だが、プーチン氏はこの日の対話の中で、「基地の設置を認めない手段は現実的にはない」と語ったという。>(ハフィントンポスト 2019年3月16日)
日本が島を返してほしければ、「日米安保を破棄しなければならない」そうだ。非常に過激で、日本人の感情を悪化させる発言だ。しかし、背景を知ってみれば、気分はかなり悪いが理解はできる。
こんな理不尽なロシアと、日本はどう付き合うべきなのか?
「付き合う必要なし!」
「経済協力は、いますぐやめろ!」
「無礼な韓国と断交しろ!次はロシアと断交だ!」
こんな言葉が、ネット上にあふれる光景が目に浮かぶ。だが、それで一番喜ぶのは、習近平だろう。
これまで本連載で何度も触れてきたが、中国は2012年11月、ロシアと韓国に「反日統一共同戦線戦略」を提案した。証拠はこちらで見られるので、ぜひ全文を読んでいただきたい。
この戦略の骨子は以下の5つである。
(1) 中国、ロシア、韓国で、「反日統一共同戦線」を作る
(2) 目的は、日本の領土要求を断念させることである
(3)断念させるべき領土とは、北方4島、竹島、尖閣・沖縄である
(4)日本に沖縄の領有権はない!
(5)反日統一共同戦線には、米国も引き入れなければならない
中国が望むのは日本と
米ロ韓の関係悪化である
要するに、中国は、日米関係、日ロ関係、日韓関係を破壊することで、日本を孤立させ、破滅させようとしているのだ。
だから、日本がまず韓国とケンカし、次にロシアと対立すれば、我々は「習近平のプラン通りに動いている」ことになる。中国1国だけでも大変だが、中ロを同時に敵に回して、日本に勝ち目はあるのか冷静に考えてみる必要がある。
日本が中国に勝つためには、中国の戦略と逆の動きをする必要がある。つまり、日米関係をさらに強固にすること。だから、プーチンの言う「日米安保破棄」は、完全スルーするべきだ。
次に、日ロ関係を良好に保つこと。さらに、(難しいかもしれないが)日韓関係を決定的に悪化させないことだ。
しかし、仲良くしなければならないロシアは、「島を返してほしければ、日米安保を破棄せよ」と無茶を言う存在である。どうすればいいのだろうか?これは簡単なことで、「北方領土の話を減らし、金儲けの話を増やす」だけでいい。
思い出してみよう。安倍総理は2013年、日ロ関係改善に大変努力していた。ところが2014年のロシアによるクリミア併合後、米国主導の「対ロシア経済制裁」に参加したことで、日ロ関係は悪化。その後、日本政府は、ロシアと金儲けの話をしなくなり、ただひたすら北方領土の話をするようになった。それで、両国関係は、ますます悪化したのだ。
しかし、安倍総理は2016年5月、ソチでプーチンに「8項目の協力計画」を提示。ようやく「島返せ!」のトーンを下げ、ロシアが喜ぶ「金儲け」の話をはじめた。
それが2016年12月のプーチン訪日につながり、2国関係は劇的に改善されたのだ。ところが、2018年11月、安倍総理は、再び「島返せ」を前面に出すようになる。結果、再び日ロ関係が悪化している。
日本のサバイバルは
ロシアにかかっている
こう見ると、日ロ関係の法則は単純だ。
「平和条約」(=島返せ)の話をはじめると、日ロ関係は悪化する。
「金儲け」(=経済協力)の話をはじめると、日ロ関係は改善される。
だから、日本は「金儲け」の話を増やし、「平和条約」の話は減らすべきなのだ。
この件で、2つ強調しておきたい。「金儲け」の話は、「ロシアだけに儲けさせろ」と言っているのではない。「日本もロシアも儲かる話をしよう」ということだ。
また、「平和条約の話を減らす」というのは、「返還を断念しろ」と主張しているのではない。今すぐ返還が実現しなくても、今はロシアとの関係を良好に保つ方が国益にかなっているのだ。
それでも、「対中国でロシアが必要とは思えない」という人のために、世界一の戦略家エドワード・ルトワックの言葉を引用しておこう。彼は、日本がサバイバルできるかどうかは、「ロシアにかかっている」と断言している。
<もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、むしろそれが決定的なものになる可能性がある。>(自滅する中国 p.188)
??「日本、米国、ロシアが組めば、世界覇権を目指す中国の野望を阻止することができる」。これが、世界のリアリストの常識である。
https://diamond.jp/articles/-/198645
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