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「防衛予算にたかる米軍需産業 国内製造大手の契約額が減少するなか貢ぐ構造
社会2019年3月7日
コマツが軍用車両の開発中止
自衛隊車両製造大手のコマツが、陸上自衛隊向けに生産してきた軍用車両の新規開発を一部中止した。「開発コストに見あう利益を確保できない」ことが理由である。近年、安倍政府は「日本の防衛産業育成のため」と主張して武器輸出禁止三原則を撤廃し、「防衛予算」増額を進めてきた。しかし調達数を増やしたのは米国製兵器であり、その調達方法はアメリカが自由に値段を設定するFMS(有償軍事援助)契約で、国内製造業は疲弊し続けている。コマツ自体も日本の国家予算から莫大な利益を得てきた軍需産業である。だがその頭越しで、国民の税金を米軍需産業へ貢ぐ動きが露骨になるなか、開発中止の動きを見せている。
コマツが開発中止を決めたのはイラク派遣などで使われた軽装甲機動車(LAV)である。LAVは旧防衛庁とコマツが開発した軍用車両で、防弾性能や火器の搭載機能を備え、ヘリなどで運搬しやすいことが特徴だ。戦闘ではなく兵員輸送を主な目的にした車両であるため、戦車ほどの防御機能や破壊力は備えていない。2001年度から本格配備が始まり、自衛隊のイラク派遣など国連平和維持活動(PKO)に投入し、最盛期は年間200両を生産していた。これまで自衛隊に配備した総数は2000両に上る。1両が約3000万〜4000万円であるため、コマツはLAVだけで600億〜800億円規模の売上を得たことになる。
しかし近年は発注数が減少し生産を終えていた。そのため防衛省が数年前から新規開発の打診を続けていたが、コマツ側は調達数の減少によって開発費を上回る売上を見込めないことを理由に「今の状況では新規開発は難しい」と伝える動きとなった。
コマツは日本で初めてブルドーザーを開発した企業として知られる。このブルドーザーは戦時中、陸軍技術研究所が旧満州の湿地帯に戦車を進入させるため、道路建設用車両の製造を命じたことが始まりだという。コマツは農耕用トラクターを改造してブルドーザーを作り、その後も陸軍や海軍の指示に従い、パワーショベルや機能性を高めたブルドーザーを開発した。ほかにも工兵向け装備を多数製造し供給した。そうした経緯を見ても自衛隊や防衛省との依存関係は深い。近年も調達品はLAVだけにとどまらずNBC(核・生物・化学兵器)偵察車や、りゅう弾などの弾薬も製造してきた。しかし防衛省との契約金額を見ると2004年度は338億円だったのが、2012年度は294億円となり、2017年度は280億円になった。ここ十数年で契約額の減少傾向が顕著になっている。
日本国内全体の軍需産業動向を見ると、戦闘機やエンジンなど米国製装備品と競合する高額部品を担当してきた国内トップクラスの企業が、防衛省との契約額を大幅に減らしている。三菱重工を見ると2008年度の年間契約額は護衛艦や潜水艦、戦闘機の改修などを含めて3140億円に上り、2016年の契約額は4532億円に達した。それが2017年度は地対空誘導弾や戦車などに内容が変化し契約額は2457億円(前年比2075億円減)となった。三菱電機の契約額も08年度はレーダー設備などを中心に1556億円を計上し三菱重工につぐ規模だったが、17年度は957億円(599億円減)に落ち込んだ。IHIも08年度の契約額は383億円で全体で6位に位置していたが、17年度は100億円になり、18位に後退した。
全体としては乱高下しており、なかには哨戒機や輸送機製造にかかわる川崎重工(205億円増)、Xバンドレーダー関連備品を作る日本電気(195億円増)、電波監視装置を手がける東芝(315億円増)のように、10年前と比べ契約額を増やした企業もある。しかし年間総契約額は2017年度に1兆5674億円となり、2008年度(1兆3820億円)より1944億円も増加したにもかかわらず、契約額を減らす企業が目立っている。
こうして国内軍需産業の契約額が変動を見せるなかで、近年圧倒的な存在感を示し始めたのが米国政府との直接取引である。
兵器売買の取引相手を示す2017年度の「中央調達における主要調達品目」を見ると、「陸幕(陸上幕僚監部)関係」で最多額だった調達品は「ティルト・ローター機一式」(オスプレイ、契約額は709億円)だが、その契約先は米海軍省だった。「空幕(航空幕僚監部)関係」で最多額の調達品は「F35A戦闘機一式」(940億円)だが、この契約先も米空軍省である。「海幕(海上幕僚監部)関係」でも米海軍省が、イージス装置(83億円)や護衛艦搭載高性能機関砲(43億円)などに食い込んでいる。
FMS急増 開発費は減
防衛装備品の調達を巡っては第二次安倍政府になって以後、米国製兵器のFMS(対外有償軍事援助)調達が急増した。それが国産装備の開発費削減や調達費削減に直結し、コマツの軍用車両開発一部撤退の動きにも関連している。
FMS調達は米兵器メーカーと直接取引するのではなく、米国政府を窓口にした取引だ。アメリカ側が「軍事援助をしている」という位置づけで同盟国に武器を売るシステムで、一般的な商取引の常識は通用しない。
米国の武器輸出管理法はFMS調達について、@契約価格も納期もすべて米側の都合で決める、A代金は前払い、B米政府は自国の都合で一方的に契約解除できる、と規定している。値段が高すぎて不服でも、代金を払ったのに長期間納入されないままであっても、買い手側が異論を唱えることを一切認めない制度である。
そのためFMS調達は欠陥装備を高額で売りつけたり、代金を前払いさせておいて武器を納めない「未納入」が常態化している。日本との関係では、2007年から2016年までの10年間で未納入額合計は2481億円にのぼった。さらに金額の変化で過不足が定まっていない未精算金額は4837億円に達している。
このFMS調達の予算額を増やしてきたのが安倍政府である。第二次安倍政府登場前はFMS調達の予算は431億円(2011年度)だった。だがその後は2013年度=1179億円、2015年度=4705億円、2017年度=3596億円、2019年度=6917億円と推移し、8年間で16倍以上に膨張した。
日本の防衛予算も第二次安倍政府発足前は4・71兆円(2012年度)だったが2019年度は5・3兆円(概算要求)となり、約6000億円増えている。
リスク肩代りする日本
そして問題はこのFMS調達の増加が日本企業にどのような影響をもたらすのかである。FMS調達の象徴的存在でもあるF35戦闘機をめぐる開発・製造の経緯に、その一端を見ることができる。
もともとF35戦闘機はアメリカが開発を提唱した。アメリカは当初、最新ステルス機F22を主力戦闘機にすることを検討し、「技術流出を防ぐために他国へは売らない」と豪語していた。ところがイラクやアフガン戦争による軍事費が国家財政を圧迫し、高額なF22戦闘機を米軍の主力機にする計画が頓挫した。そのなかで低価格の戦闘に使える(使い捨て)ステルス機の開発・製造に着手した。
しかし米国一国だけでは新たな戦闘機を開発する財力はない。そのなかで開始したのが九カ国(米国、英国、イタリア、オランダ、トルコ、カナダ、オーストラリア、デンマーク、ノルウェー)を巻きこんだF35戦闘機の共同開発だった。九カ国で財政負担を割り勘にすれば、米国の負担を9分の1に抑えることができるからだ。こうして安価な戦闘機開発の道筋をつけた米国防総省は、まだ開発されていなかったF35戦闘機を米軍の主力機として2456機(米空軍1763機、米海軍・海兵隊680機など)購入すると発表した。日本も米国に同調し、F35戦闘機購入を表明した。
ところがF35の開発費が次第に高騰していった。高額な開発費の負担を各国にかぶせるアメリカの意図が表面化するなか、共同開発国が調達機数削減や共同開発撤退の動きを見せ始めた。英国は当初の138機導入計画を40機以下に削減し、カナダは80機導入計画を65機に削減し、オーストラリアやオランダも調達機数削減の検討に入った。ノルウェーは2年間の購入延期を発表した。アメリカが兵器開発のカモにしていく動きに反発が出るのは当然で、共同開発国9カ国のうち5カ国が調達機数削減を表明した。それは米軍需産業がF35の生産ラインをつくっても、注文機数がガタ減りになり大赤字になる危険をはらんでいた。
このとき、F35戦闘機製造の肩代わり役となったのが防衛省と日本の軍需産業だった。三菱重工、IHI、三菱電機が米軍需産業の下請として最終組み立てラインを担当することを引き受けたのである。そして防衛省が1000億円を投じて三菱重工小牧南工場(愛知県豊山町)に生産ラインを建設し、エンジン部門担当のIHI瑞穂工場(東京都)には426億円を投じて5階建ての組み立て工場を建設した。かつてのライセンス生産では国産部品を使うことも可能だったが、FMS生産はすべて米国製の部品しか使えない。そのうえ、日本でつくった製品でも、すべてアメリカ側に納入し、そこで示された価格で日本側が買いとる仕組みだった。
それは米軍需産業が製造ラインをつくる投資や調達削減にともなうリスクまで日本の軍需産業や防衛省にかぶせ、着実に利益を得ていく体制だった。こうした動きと連動して、これまで国内軍需産業でトップクラスの利益を積み上げてきた三菱重工、三菱電機、IHIなどが防衛装備品の契約額を大幅に減らしている。
さらにFMS調達の装備品は価格が際限なくはね上がることが常態化している。防衛省が自衛隊に導入すると決めたF35戦闘機の値段も、2012年契約当初は1機96億円だったのが、翌13年になると「開発費の増加」を理由に140億円になり、14年になると159億円になった。その後も値上げは続き、16年には181億円に達した。機体購入費値上げに加え「整備費」も上乗せした。F35戦闘機は軍事機密の塊であるため、修繕作業や整備もすぐとりかかることはできない。アメリカから部品をとり寄せ、技術者もみなアメリカから呼び寄せる。この部品費や部品輸送費、技術者の渡航費や滞在費がみな日本側の負担になる。これらを合計して算出したF35戦闘機42機の総額経費は、購入費=5965億円と維持整備費=1兆2877億円(30年間)で合計11兆8842億円に達した。1機当りの経費は約449億円にまで膨れあがっている。
このようなFMS調達が増え続けるなか、国内企業の調達額や支払いにも変化が出ている。昨年11月には、防衛省が国内軍事関連企業62社に装備品代金の支払延期を求める動きが表面化した。「追加発注をするかわりに、2〜4年後に今年度の代金も含めて一括払いする」という内容だったが、資金繰りに困る企業側が強く反発した。この「支払延期」を招いた原因は、戦闘機やミサイルなど高額兵器を買い込む場合に適用する「兵器ローン」(後年度負担=複数年度に分けて装備代を払う)が増えすぎ、毎年の支払いにあてる資金が不足したからである。この「兵器ローン」は第二次安倍政府発足前の2012年は3・2兆円だった。それが19年度概算要求では5・3兆円になり、2兆円以上拡大した。米国の「米国製兵器を買え」という要求に唯唯諾諾と従ってFMS調達を増やし続けるのみで、「防衛産業の育成」や「国防」などは二の次だったことを示している。
日本企業駆り出す意図
もともと日本の軍需産業を低コストの技術開発や兵器製造に総動員することを目指してきたのは米国である。2000年に発表した第一次アーミテージレポートで、軍事情報を共有するための秘密保護法制定を求め、2012年に発表した第三次アーミテージレポートの対日要求では武器輸出三原則の撤廃も明記している。
この要求に沿って、「武器輸出の解禁」を強力に主張したのが、軍需産業の役員が牛耳る経団連など財界であり、歴代の日本政府だった。消費購買力が落ち込み「民需」が縮小するなか、「軍需」に活路を見出そうとした。そして「武器販売の取引先が防衛省のみに限られた状態を変える」「あらゆる国や軍需企業を対象に武器や関連部品の受注・販売を可能にする」と主張し、世界の武器市場に参入する動きを本格化させた。国民向けには「武器の販売先がなければ防衛産業の経営が行き詰まり、技術低下を招く」「防衛産業の育成や国の防衛力を維持するために武器輸出解禁は必要だ」と宣伝した。
そして2014年4月には基本的に武器輸出を禁じていた「武器輸出禁止三原則」を「防衛装備移転三原則」に作りかえ、武器輸出解禁に舵を切った。武器輸出解禁後、三菱重工は地対空誘導弾ミサイルの追尾装置をレイセオンに提供することを決め、米国防総省が要求したイージス艦装備品(三菱重工と富士通が製造)の輸出を開始した。オーストラリアの潜水艦製造に三菱重工と川崎重工が名乗りを上げるなど、他国の装備受注合戦にも参入した。隔年開催である世界最大の武器見本市「ユーロサトリ」、アジア地域を中心にした「海上防衛技術国際会議」でも装備品売り込みを強めた。こうした武器売り込みを全面バックアップするため、約2兆円の年間予算を握る防衛装備庁(1800人体制)も発足させ、国を挙げた武器ビジネス支援に乗り出した。
安倍首相は外遊のたびに「支援」と称するバラマキを続けてきたが、これも「他国軍の支援は禁じる」と規定したODA大綱を見直す(2015年2月)ことで、ODA資金を現地政府が武器購入に使えるようにし、最終的には米兵器メーカーの懐に流れ込む仕組みも作った。
これと同時進行で2013年12月に、「国家機密」を漏らせば公務員や民間労働者にも厳罰を加える「特定秘密保護法」を成立させ、2017年には共謀罪法も成立させた。それは人に役立つ製品を作るという労働現場の責任を抑圧する労務管理を強め、米国の望む殺人兵器製造に日本の若者を駆り立てる布石だった。
そして先月、その延長線上でトランプ政府が日本をアジア太平洋地域に配備したF35戦闘機の整備拠点にすると発表した。三菱重工など日本の製造業を動員して低コスト兵器を生産させ、それをFMS調達で日本政府に高値で売りつけて、日本の防衛予算食いつぶしを狙う米軍需産業の意図はより見えやすくなっている。
また、コマツの軍用車両開発の一部中止は、世界の流れが緊張緩和・対話へ動き出しており、米国の戦争策動が各地で破綻していることとも連動している。破壊や殺人を目的とする兵器製造・開発が国際的にも時代遅れになりつつある変化も色濃く反映している。」
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/11105
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