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安倍政権の迷い込んだ「長期停滞」の罠
問題は「一国ケインズ主義」では解決できない
2019.2.8(金) 池田 信夫
グローバル化した経済では一国ケインズ主義は無力である(写真はイメージ)
国会では野党が「毎月賃金統計調査の不正はアベノミクスの成果を偽装する陰謀だ」と騒いでいる。政治家が統計に介入することは不可能だが、安倍政権の弱点が賃金にあることは確かだ。「実感なき景気回復」といわれるのも、賃金が上がっていないことが原因だろう。
こういう「長期停滞」は日本だけの現象ではなく、低成長・低インフレ・低金利の状態は先進国では2010年代にずっと続いている。当初これは世界金融危機からの回復にともなう一時的な現象と考えられていたが、最近はこれが「ニューノーマル」だという人も増えてきた。何が変わったのだろうか。
グローバル化が長期停滞を生む
長期停滞の原因としてよく挙げられるのは、潜在成長率や生産性の低下だ。人口減少と高齢化の進む日本ではこれは当然だが、今の長期停滞はこういう供給不足だけでは説明できない。
総需要と総供給の一致する水準で物価が決まるとすると、供給が減ったら物価は上がるはずだが、日本はここ20年、物価上昇率も金利もゼロに近い状態が続いてきた。この原因は需要不足と考えるしかないが、それを示す需給ギャップはゼロに近い。こういう状態で財政出動や金融緩和をやっても効果がない。
それがアベノミクスの失敗だったが、教科書的なマクロ経済学では、今の日本のように完全雇用に近い状態で景気を刺激すると、景気が過熱してインフレになると想定している。ところが安倍政権が増税を延期し、日銀が大規模な量的緩和をやってもインフレが起こらない。
それはなぜかというのは難しい問題だが、日銀の実験はそのヒントを提供している。次の図は第2次安倍政権になってからのコアCPI(日銀の指標とする物価指数)とエネルギー価格の上昇率をみたものだが、2014年以降ほぼパラレルに動いている。日本の物価指数を動かしたのはマネタリーベースではなく、原油価格だったのだ。
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/6/d/600/img_6defb2748b6baeb1942042fa602068fd43190.png
コアCPIとエネルギー価格(右軸)の前年比上昇率(%)、総務省調べ
原油と同じようにグローバルな価格が国内価格を決める現象は製造業全体に起こっているが、それは原油価格の低下のように悪いこととは限らない。日銀はグローバルな金利も物価も決めることができないので、金融政策は無効になる。
日本の賃金は中国に近づく
世界的にみると新興国の供給過剰(貯蓄過剰)は世界のGDPの1%近く、これが世界的な低金利を生み出している大きな原因だ。このような貯蓄と投資の不均衡は金利で調節されるが、国際資本移動の自由になった今は、国内より先にグローバルな実質金利(長期金利−物価上昇率)が均等化する傾向が強い。
同じことは物価にも起こり、たとえば中国で100円でつくれるTシャツを、日本で500円でつくる企業は成り立たないので、日本国内のTシャツの価格は中国に近づいてゆく。これが「デフレ」の正体である。
こういうグローバルな価格均等化は理論的には予想できるが、現実にはそれほど進まなかった。しかし1990年代から新興国が世界市場に参入して、グローバルな市場が一体化し、世界全体で物価の下落が始まった。実質金利の低下もその一環である。
2000年代に新興国(特に中国)が先進国に安い製品を輸出し、供給過剰と資金過剰が世界に広がり、2010年代には世界的にほぼ実質金利ゼロになった。これは世界史上にも前例のない現象である。
ゼロ金利の原因が先進国と新興国の「グローバル・インバランス」だとすると、各国の中央銀行が是正することはできない。同様に日本の労働者(特に非正社員)の賃金が中国に近づくことも避けられない。それが日本の低賃金の根本的な原因である。
「一国ケインズ主義」の終わり
政府が財政支出を増やして需要不足を補うケインズ政策は、1930年代の大恐慌では有効だったが、70年代には先進国でスタグフレーション(不況とインフレの併存)が起こり、ケインズ政策では対応できないことがわかった。
長い論争の末に、景気循環の対策は財政政策ではなく金融政策でやるという政策が先進国のコンセンサスになったが、21世紀の状況は違う。2008年の金融危機のあとの主役は財政政策だった。金融危機のあともゼロ金利の「流動性の罠」が続いたため、金融政策のきかない状況が出現したのだ。
日本は1980年代に世界史上まれな過剰債務を経験し、その反動で90年代以降は大幅な債務解消(デレバレッジ)を経験し、企業の貯蓄過剰(投資不足)が起こった。
これは1998年の金融危機から始まったもので、初期には過剰債務を削減して企業を防衛するために行われたが、20年たった今も企業(非金融法人)が純貯蓄部門で、その貯蓄を政府部門の赤字が埋めるいびつな構造は変わらない。
つまり企業が金を貸して政府が借りる状況なので、金融緩和しても企業の投資を高める効果はなく、財政ファイナンスになるしかない。長期停滞の構造は、1990年代の日本から始まったのだ。
これは2010年代の欧米と似ているが、不幸なことに日本の過剰債務が終わらないうちに先進国が過剰債務に陥ったので、ゼロ金利が終わらない。
世界的な資金過剰が低金利の原因だという見方は多くのエコノミストに共有されつつあるが、将来の見通しは一致していない。これが今後も続くという人と、債務解消が終わったら正常化するという人がいるが、日本では異常な状況が20年も続いている。
どっちにしても、各国政府や中央銀行が世界全体の需給ギャップを調整することはできない。グローバル化した経済では一国ケインズ主義は無力であり、物価や金利を政府がコントロールしようとするのは無駄だ、というのがアベノミクスの挫折の教訓である。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55436
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