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(回答先: 毎勤問題、特別監察委「組織的隠蔽は認定できず」 厚労相は自主返納 投稿者 うまき 日時 2019 年 1 月 22 日 20:54:11)
年2000時間残業が現実解?“お医者さま”信仰の恐ろしさ
河合 薫
健康社会学者(Ph.D.)
2019年1月22日
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全6256文字
厚労省は、医師の残業時間上限を、最大で「年間1900〜2000時間とする」という制度案を提示した(写真=shutterstock)
「“お医者さま”が“お医者さま”である以上、長時間労働も減らなきゃ、女性医師も増えない。ましてや孫の顔を見るなんて夢のまた夢」
こう話すのは、医師のお嬢さんを持つ60代の男性である。
先日、女性活躍をテーマにした懇談会があり、「女性医師の4割超が出産と同時に退職を余儀なくされている」と大手新聞が報じたことが話題となった(関連記事)。その理由として、育児休暇を取得しようにも「制度がなかったから」という声が少なからず聞かれたことには、なんとも驚かされた。
「女性の更衣室がなかったので、今作っているんです!」とか、「役員フロアに女性用トイレがなかったので、今作ってるんです!」という話は聞いたことがあるが、法的に取得が認められている育休がないって?いったい何??
「医師が労働者なのかと言われると違和感がある。そもそも医師の雇用を労働基準法で規定するのが妥当なのか」と日本医師会の横倉義武会長が発言し、問題になったことがあったが、“医師=聖職者”は育児をしないということか。
なんてことを私がブツブツ言っていた時に、前述の男性が「うちの娘も……」と切り出し、所詮“お医者さま”と、医師の世界を嘆いたのである。
むろんこの男性は皮肉を込めて“お医者さま ”という言葉を使っていたわけだが、今の時代、この言葉に対して違和感を持つ人が少なくないかもしれない。
なんせ何年も前から患者が“患者さま”になり、一方で、人の命を預かる責任の重さ、過労死ラインを超える長時間労働、深夜勤務、患者や家族とのデリケートな人間関係などなど、過剰なストレスの雨に追い詰められている医師は極めて多い。「人の命は重いというけど、医師の命は別か?」と嘆く人たちもいる。
中でも研修医の労働環境は過酷で、研修開始後に抑うつ症状を訴える割合が20%近くになるとの報告もある(「初期研修における研修医のストレスに関する多施設研究2010-12」)。
その一方で、私の両親の世代にとってはまぎれもなく“お医者さま”。父が入院したときには、普段は結構傲慢な父が(苦笑)、担当医に対してだけは私たち家族が驚くほど敬意を持って接し、その言葉を絶対的に信頼し、驚いた。
いずれにせよ、過去30年間で社会のルールも規範も大きく変わり、“お医者さま”を取り巻く環境も様変わりした。にもかかわらず、「過去の威光や幻影」から逃れられない人がいて、それが「現場の涙」につながっていると男性は憤っていたのである。
とはいえ、これは医師の世界に限ったことではない。一般企業でも現実と乖離した感覚をお持ちの“社長さまや会長さま”はいまだにご健在である。
というわけで、今回は「現場と上を隔てるモノ」についてあれこれ考えてみようと思う。
まずは冒頭の男性のお話からお聞きください。
次ページ医師の残業時間上限は「過労死ライン」の倍
医師の残業時間上限は「過労死ライン」の倍
「下の娘が医師なんです。産婦人科です。本人は産婦人科が激務だってことは承知していたみたいですけど、親からすれば異常な働き方です。私は一般企業に勤めているので、産科の方が女性医師が多いので育児と仕事も両立しやすいのかと勘違いしてました。
とてもじゃないけど、あれじゃあ、育児なんて無理ですよ。
だって、女なのに、あ、こういう言い方したらいけないのかな? でもね、やっぱり女なのに夜勤はしょっちゅうで夜中に呼び出されるのは日常茶飯事だし、そのまま翌日は勤務しているし、すべてが時間外勤務を前提にしている。不満があっても上司に物申すのはキャリアに傷がつくとかで、我慢するしかない。
患者さんからは何かにつけ怒られ、感謝されることは滅多にない。時間外勤務のペイもないですからね。患者さんのこと考える前に、娘には自分の体を考えてくれって言ってます。
そもそも勤務時間を管理するという発想が医師にはないんです。
医師の働き方改革に関わっているのって、偉いお医者さまばかりでしょ? 自分たちは特別な存在だという意識が強いんですよ。だから周りの声が届かない。会社でもそうでしょ? うちの会社も今でこそ残業をタブー視するようになりましたけど、ちょっと前までは『残業するほど仕事があるなんてうれしいじゃないか』とか平気で言ってたし、何かというと『最近の日本人はヤワになった』とか言ってましたからね。
長時間労働やパワハラやセクハラが問題になると、時代が許さなくなったっていうけど、時代が変わったからタブーになったんじゃないですよね?
今も昔も人間は人間でしょ? 昔だって過労死していた人はいたし、過労自殺した人だっていたはずです。そうですよね?
“お医者さま”幻想を捨ててもらわないと、若い命が潰されます。うちの娘も他人事じゃないです」
……“お医者さま”。なんと罪深い言葉なのだろう。
真剣に医療に取り組んでいる“お医者さま”には申し訳ないけれど、職業意識が高ければ高いほど、社会的地位が高ければ高いほど、「僕たちのルール」は強固になる。「人の命を預かる特別な仕事なのだから、身を削って働いて当たり前」「いい医者になるなら、寝食を忘れて働くことも大事」「自分たちの仕事を、一般の人たちと同じルールで考えてもらっては困る」――。
先日、医師の残業時間上限を「年間1900〜2000時間とする」という驚愕の制度案を厚生労働省が提示したが、これも、“僕たち”のルールを重んじた結果だ。
一応「地域医療に欠かせない病院に勤務する医師に限って」という条件付きだし、2035年度までという期限付きだし、終業から次の始業まで最低9時間休息させ、連続勤務を28時間までに制限する健康確保措置を義務づけるとされているけど、年2000時間がどういう数字なのかよく考えてほしい。
月に換算すると167時間、週に38時間の残業が許されるってこと。いわゆる過労死ラインの倍。実際の世界で、過重労働により若い医師の命が奪われているという現実が軽んじられているようで、釈然としないのだ。
次ページ「極めて現実的な数字」と理解を示す“お医者さま”たち
「極めて現実的な数字」と理解を示す“お医者さま”たち
ところが、“お医者さま”たちは「極めて現実的な数字」と、厚労省案に一定の理解を示した。
医療従事者向けサイトm3の報道によれば、今から 1年前の厚労省検討会でも、同省が示した残業の削減や規制に対する基本的な考え方に対して、以下のような意見が相次いだとされている。
「一貫して“医師は被害者”という論調になっている。長時間労働でも、生きがいを持って仕事をしている医師たちは山ほどおり、そうした医師のことが考えられていない」(日本医師会副会長の中川俊男氏)
「労働時間とストレスの関係を調べた調査では、医師については、両者が相関していない。医師の仕事の特殊性を認識してもらいたい」(日本医療法人協会会長の加納繁照氏)
「自分自身の仕事に誇りを持ち、それに満足している医師がいる一方、過労死する人もいる。リスクがある人をいかに見出すかを考えていかないと、労働時間の規制という外形的な仕組みだけを作ってもうまくいかない」(国立病院機構理事長の楠岡英雄氏)
おそらく私のような「医師の世界の外」の人間が意見を言おうものなら、「アンタは何もわかっていない。目の前で助けてくれと言う患者を見捨てろと言うのか!」「今、働き方改革を強引に進めれば地域医療は崩壊する」と怒鳴られるに違いない。確かに、マンパワー不足が極めて深刻な医療機関も少なからずあるのだろう。だが、「生きがいを持って」仕事をしようとも、どれだけ「誇りを持って」いようとも、長時間労働をすれば心臓や脳はダメージを受ける。前向きな気持ちとは裏腹に、心身は確実に蝕まれる。
先々週の同省検討会では「(月160時間以上残業をしている)勤務医2万人をなくすことに意味がある。段階を踏んで一般の労働者と同じような働き方ができるよう目指していくことが大事だ」という見解だったそうだが、その過程での悲劇は仕方がないということなのだろうか。
これまでの議論では「医師の場合、労働量とストレスの間には相関がない」と主張もあったようだが、これってどこぞの大学病院の「女子の方がコミュ力が高い」を彷彿とさせるトンデモ見解である(関連記事:男らしい!順大不正入試「女子コミュ力高い」論)。
そして、何よりも医師の健康状態は、そのまま患者に跳ね返るとする以下の調査結果をどう説明するのか、是非とも教えてほしい。“お医者さま信仰”が医療ミスを誘発するという意見にはなんと答える?
● 長時間勤務になると、針刺し事故が統計的に有意に増加
(Ayas NT, Bager LK, et.al .Extended work duration and the risk of self-reported percutaneous injuries in interns. JAMA ,2006)
● 3日に1回 24 時間以上の長時間連続勤務をした場合と長時間連続勤務の上限を16時間、週当たりの勤務時間を60時間に制限した場合を比較すると、24時間以上の連続勤務の「処方ミスと診断ミス」が明らかに多い
(Landriga CP, Rotheschild JM, et al. Effect of reducing interns’ work hours on serious medical errors in intensive care units. N Engl J Med,2004 )
● 前日に当直であった医師が執刀した手術後 の患者においては、合併症が45%多かった
(Haynes DF, Schewedler M, et al. Are postoperative complications related of resident sleep deprivation? South Med J, 1995) ……etc.,etc.
次ページ「ムリ!」な制限から生まれる解決策もある
「ムリ!」な制限から生まれる解決策もある
そもそも、ルールを現実に合わせることが必ずしも正しいとは限らない。
むしろ「ムリ!」というような制限を設けるからこそ、現実の問題が解決されることの方が多い。それだけの知能を人は身につけている。同じ医療現場でも、子育てもしながら生き生きと働く女性医師の多い病院だってある。
とどのつまり「患者さんのため」という美しい言葉で医師の世界を美化し、「あとは現場でよろしく!」と高みの見物をしているとしか思えないのである。
東京都内の公的医療機関の産婦人科に勤務していた男性医師(30代半ば)が2015年7月に自死したのは、時間外労働が月170時間を超えるなど長時間労働が原因だった。これは、残業の実態を以下のように記した方が、その異常さがはっきりと「見える」かもしれない。
1カ月前(6月12日−7月11日) 173時間20分
2カ月前(5月13日−6月11日) 165時間56分
3カ月前(4月13日−5月12日) 143時間24分
4カ月前(3月14日−4月12日) 148時間19分
5カ月前(2月12日−3月13日) 208時間52分
6カ月前(1月13日−2月11日) 179時間40分
死亡前の6カ月間の休日は5日のみ。それでも男性医師は気丈に振る舞った。ボロボロになりながらも周りから気づかれないように、患者さんのために命を削ったのだ。
もし、上司に「時間を管理する」という当たり前の認識があれば、彼を救うことができたんじゃないのか?
2016年1月には、新潟市民病院で後期研修医として働いていた女性医師(死亡時37歳)が命を絶ったときも、時間外労働は異常さを極めていた。
電子カルテの操作時間やセキュリティカードの入退室時間、車での通勤に使っていたETC記録、手術記録などから残業時間を算出したところ、最長で月251時間にも達していたのだ。
が、自己申告の残業記録では月20-30時間程度。この誤差は何に起因しているのか。組織の上階を陣取る“お医者さま”は、ほんの一瞬でも想いを巡らせたことがあるのだろうか。医師の仕事の中には看護師さんに任せられるのにそれを任せないケースや、「36協定」すら理解していない医師も多いと聞くけど、そのことももっと問題にすべきではないのか。
どれだけ「生きがいを持って」仕事をしようとも、「誇りを持って」いようとも、長時間労働をすれば心身はダメージを受ける
次ページ「医師が足りない」は本当なのか?
「医師が足りない」は本当なのか?
過労自殺に関わってきた弁護士は「医師が足りない」と口をそろえる。
一方、医師たちに意見を聞くと「足りない」との声の一方で、「いやいや、問題は労働時間が少ない開業医の多さだ」「長期的に見れば余るくらいだ」「最大の原因は医師の遍在化だ」といった意見も少なからず聞かれる。
医師は足りているのか? 足りていないのか?
厚労省は2016年、「2040年時点では医師の供給が需要を1.8万〜4.1万人上回る」との推計を示しているけど、元になっている医師数のデータか未来予測のどちらかに大きな問題があるんじゃないのか。予測が難しいのは理解できるが、次々と明るみになる同省の「データ偽造問題」を鑑みると、何が現実的で何が現実的じゃないのかすらわからなくなる。
いずれにせよ、「現実を鑑み、患者さまの不利益にならぬよう進めていくことが肝心」という意見はごもっともだが、一番の問題は、現実の「異常さを知覚できていない」こと。“お医者さま”の当たり前は本当に当たり前なのか?と考え、ズレを知覚する努力から始めない限り、若い命がないがしろにされる事態は続いていく。
実に残念なことだけど、人間の「知覚」とは実にやっかいな代物なのだ。心理学における「知覚」とは、「外界からの刺激に意味づけをするまでの過程」のこと。このメカニズムを理解するのによく使われるのが、ジェローム・セイモア・ブルナー博士の「カードの心理実験」である。
博士はカードの中に、「赤のスペード」と「黒のハート」を交ぜ、ほんの数秒だけ見せて「なんのカードだったか?」を答えてもらう実験をした。その結果、ほとんどの人が「黒のハート」を「スペード」、「赤のスペード」を「ハート」と認識した。黒のハートの4を「スペードの4」と、赤のスペードの7を「ハートの7」と答えたのだ。
なぜ、「黒のハートがスペード」に見え、「赤のスペードがハート」に見えるのか?
答えはシンプル。“当たり前”に囚われているから。つまり、「知覚とは習慣(=文化)による解釈」であり、職場にはびこる数々の「意味不明」は、心が習慣で動かされていることが深く関係している。「医者の世界の常識が世間の非常識」なのは“お医者さま文化”に適応した結果なのだ。
残念なのは、最初は異常さに気づいていた若手でさえ、仕方なく周りに合わせていくうちに、「おかしいことをおかしい」と知覚できなくなり、「アレはアレで意味あること」という信仰に変化するってこと。
で、このやっかいな「知覚」を変化させるもっとも有効な策が、「声」を聞くことだ。ひたすら聴覚を駆使し、相手の言葉を聞き続ける。知覚を変えるには「他者の力」が必要不可欠だ。目・耳・鼻・舌・皮膚の感覚器官からインプットされる情報のうち、耳だけは他者の力なくして機能しない。
私が知る限り、働く人が生き生きとしている職場のトップは、例外なく現場を歩きまわり、現場の声に耳を傾けている。“お医者さまの耳に念仏”では、救える命も救えません。
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Bleacher
なし
河合氏お得意のいつものきれい事。
そう言うからには、自分や自分の家族が急病で病院を訪れても、医師不足を理由に診察を断られても文句を言わない覚悟があるのでしょうね。
絶対ないよこの人。そういう目に遭ったら遭ったで、絶対叩くから。
2019/01/22 16:12:065返信いいね!
河合 薫
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士
いつもご批判ありがとうございます!
2019/01/22 16:24:173いいね!
kaijin
↑
河合さんご本人が返信している!?
2019/01/22 17:17:48返信いいね!
R
Ph.D.
海外に行くといつも思いますが、大抵の大都市には、「超巨大病院」があります。病床数の規模だけでなく、スタッフの数や併設する研究機関の保有する高額な研究設備も含めての話です。
地域の病院は、自分たちの手に負えない患者を、そういった大病院に紹介し、自分のところではすぐに対処できるような患者のみを診ることにより、効果的に医療リソースを振り分けています。
また、大病院の方も、本当に重要な治療を終えたら、積極的に患者を退院させ、必要以上にベッドを埋めないようにしています。
ところが日本では、「中病院」ぐらいの中途半端な規模の病院が林立していて、中途半端な数の医師やコメディカルが、中途半端な重症度の患者を診ることになります。
これでは効率の良い医療など、期待できるはずもありません。
思い切って、大都市に1つ、東京でさえ3つ程度の「超巨大病院」を作って、医療リソースを潤沢に集積させ、そのかわりその他の病院の機能を可能な限りシンプルにすれば、医師の働き方を含めて、日本の医療の抱える問題がかなりの割合で解決できると思うのですが、いかがでしょうか。
2019/01/22 19:24:33返信いいね!
nametogi
娘が医師でした。病院勤めをやめて今は自分の道を切り開こうと努力しています。医師だった頃、たまに顔を合わせると疲れているのか顔つきが暗くて病気かと心配になるほどでした。上司から可愛がられ、看護師さんからも「女医さんでも先生とはうまくやって行けそう」と言われてたそうで、職場の人間関係に問題はなし。仕事にもやりがいを感じていました。なのにちっとも幸せそうに見えません。
病院をやめて飛びこんだ世界も甘くなくて大変なことが多そうですが、明るい表情がもどってきて安心しています。
2019/01/22 19:32:56返信いいね!
EDV9000
ITストラテジスト
20年ほど前、総合病院の電子カルテ導入作業の院内側のプロジェクトマネージャーをしたことがあります。
電子カルテ導入の目的として、医療情報を標準化すること、共有を簡単にすることで、医師個人毎に属人化している医療行為をグループ医療に切り替えて、医師個人の負担を減らしたり医療行為を一定水準するというのもありました。
現在では電子カルテは当たり前の装備になっています。それでも状況が大きく改善されていないのは、医療関係者の意識が古いままのためという感じがします。
確かに仕事を覚えるために熱心に働く必要があるのはわかりますが、医師も人間らしい生活が必要だと思います。それに慎重な判断が必要な仕事なのに、いつもヘトヘト、寝不足状態だったら、受診する側の安全も確保できないでしょう。
自分の利便性のためには、他人の人生がどうなろうと構わないというのは、回り回って自分のクビを絞めることになると思いますよ。
僻地とかで医師が足りていない病院は、労働条件と研究条件を大幅に改善してみたらどうでしょうね。治療と同時に、自分の研究も進めたいという医師は多かったです。それと必ず複数の医師を同時に雇い、孤立化させないといった工夫も必要だと思います。
2019/01/22 19:55:21返信いいね!
河合薫の新・社会の輪 上司と部下の力学
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2019.01.22(閲覧中)
年2000時間残業が現実解?“お医者さま”信仰の恐ろしさ
2019.01.14
日本の大病「報われてない感」への特効薬
2019.01.01
ドレスを脱ぎ普段着のパンツを履いた、その先に
2018.12.25
気づけば、「弱者切り捨て」が一層進んだ2018年
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00004/
医者はなぜ忙しい?残業年2000時間の衝撃 医師の視点
中山祐次郎 | 一介の外科医
1/12(土) 14:29
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医師の労働時間は過労死レベルをはるかに超え、過労死する医師のニュースは続いている(写真:アフロ)
厚生労働省は先日、医師の残業時間の上限を「年1900〜2000時間」とする制度案を示した。
年2000時間とは、月に167時間、週に38時間だ。
一週間に38時間の残業時間は、想像がつくだろうか。月曜〜金曜までの週5日勤務とすると、1日7時間36分の残業となる。勤務時間ではなく、残業だ。
9時〜17時の勤務の場合、朝7時〜夜22時36分まで働くということだ(上限いっぱいの場合)。
ここまで考えて、外科医である筆者は「ああ、とてもリアルな数字だ」と感じた。
病院勤務医で、内科や外科など忙しい科では7時〜22時36分はとても自然だからだ。
なぜ医者はこれほど忙しいのだろうか。
そもそもなぜ医者は忙しいのか?
医者が忙しい理由はなんだろうか。なぜ超長時間労働なのだろうか。
一般的なイメージでは、白衣を着て椅子に座り、「今日はどうしましたか」と話しているのが医師だろう。
しかしそれは開業医で、多くの医師は病院の勤務医として働いている。
開業医の場合、個人でやっていることが多いので労働時間はある程度コントロール可能だ。
しかし病院勤務医は一般に超長時間労働をしている。
その理由は、主にこの3点に集約される。
1, 人間相手であり予測がつかないが、交代制ではない
2, 当直という業務
3, 医師でなければならない仕事以外が多い
少し長くなるが、順に説明したい。
1, 人間相手であり予測がつかないが、交代制ではない
医師の仕事は、病気で困っている人を相手としている。どんな病気なのか、どれほど重いのかを明らかにする「診断」と、痛みや苦痛を取り日常生活を送れるようにする「治療」の2つのパートがある。
「診断」はある程度の検査手順(アルゴリズム)が決まっている病気が増えてきた。だから、医師としては仕事量はそれほど予測不可能ではない。例えば胃が痛い人には、問診で詳しくどんな時に痛いかを聞き、胃がんや胃潰瘍を疑ったら採血と胃カメラとCT検査をする、という具合だ。
しかし、「治療」は実に人それぞれだ。
筆者は大腸癌などの手術を専門とする外科医で、これまで2000件以上の手術に携わってきた。これだけの数になると、似た背景で、しかも似た病気の進行具合の患者さんの手術を多く行っている。
例えば60代前半で仕事引退間近の、中肉中背の男性が、ステージ2の直腸癌で手術を受ける。同じ検査をし、手術の方針とする。
腹腔鏡手術で、5mmの小さい傷を4ヶ所とへそに4cmの傷を一つで2時間で終わる。出血はほぼゼロだ。
多くの患者さんは翌日歩くことができる。尿の管を外す。そして手術後数日して、食事を始める。
この辺りから、少しずつ人によって違ってくる。
ある人はなんとなく食欲がない。ある人はお腹がパンパンに張ってしまう。ある人は高熱を出し腹痛がある。ある人は食事を全量ぺろりと食べる。
稀には、痛み止めが合わず全身にブツブツができる。手術後ずっと声がかすれる。
これらは合併症(がっぺいしょう)と呼ばれる。そっくりな患者さんにほぼ同じ手術をしても、患者さんによって合併症が起きたり起きなかったりするのだ。
もちろん外科医は合併症が起きないよう日々研究をしているが、それでも一定の割合で起きる。
手術ならまだ予測はつきやすい方で、抗がん剤治療や他の病気の治療だともっと予測はつきにくい。
このように、治療の結果を正確に予測することはとても難しい。しかし患者さんにとっては、一生に一度の治療で、大切な自分の体だ。「あなたの前の人まで100人上手く行っていましたが、あなたで途絶えましたね」と言われてハイそうですかと言える人はいない。筆者だって怒るだろう。
しかし、医師の実感として感じること、それは「医療とはとんでもなく不確実である」ということだ。時々、筆者は「絶対に外してはいけない天気予報」をしている気になる。不謹慎を承知で言えば、天気予報が外れても人は死なないし訴訟にならないが、医者が外すと極めて重大なことになるし訴えられることもある。
だから、医師の勤務時間は極めて難しい。普通の医師は、責任感から土日や休日であっても病院に顔を出し、患者さんに予測外のトラブルが起きていないかをチェックする。入院したことがある人なら、休日に医師がちらっと来た経験がある人も多いだろう。筆者も原則、出張などがなければ、休日と定められていても100%患者さんを見に1日1回は病院へ行く。
そして、医師は交代制のところが非常に少ない。「主治医制」といって、一人の患者さんには一人の主治医がいる。主治医は担当患者さんに全責任を持つ。24時間365日だ。ところで人間の体は休日も稼働しており、もちろん患者さんは土日でも大晦日でも元旦でも熱が出る。すると主治医はすっ飛んでいって治療をするのだ。
そのような体制だと、医師は「今日はあの患者さんが心配だから遅くまでいる・病院に泊まる」ということがある。
だから医師の勤務時間は必然的に超長時間になるのである。
2, 当直という業務
医師には「当直(とうちょく)」という業務がある。これは、法律で決まっている。ある大きさ以上の病院は、必ず夜間も休日も医師が病院内にいなければならない。これを当直という。
当直中の仕事は、病院によって様々だが、「救急外来で急患を診察する」場合と「病院内に入院している患者さんの不測の事態に対応する」場合がある。前者は徹夜で働くこともある。後者でも、前述のように人間の体は時を選ばず悪くなるから、結構色々な仕事が発生する。
これが、医師の仕事の特殊性だ。
そして信じてもらえないとは思うが、当直で一晩働いた後でも医師はそのまま翌日の勤務に入る。殆どの場合休憩時間はない。
ちなみに、多くの病院は労働基準法に違反した状態で働かせているが、これは昔からなのであまり誰も声を上げない。
労働基準法は、
・常態としてほとんど労働する必要のない勤務
・原則として、通常の労働の継続は許可しない
を規定している(医師の宿日直勤務と労働基準法より引用)。
だいたい40時間くらい連続で勤務するのだが、「眠くないの?」という声が聞こえてきそうだ。
ハッキリ言うが、眠い。当たり前だ。そしてこの当たり前を証明した研究もある。
激務の人の場合、アルコールを飲んでいないのに、同じくらい反応が遅れていました。ほろ酔い状態と同じくらい、脳のパフォーマンスが落ちていたのです。
出典:市川衛 「酒酔いの医師が、手術室に入ってきたらどう思う?医師の働き方問題は、私たちの安全問題でもある」
当直を含む1回の勤務で、看護師が5, 6人交代することは普通だ。看護師ももちろん激務だが、それでも「ゼロ交代」の職としては時々羨ましくなる。
3, 医師でなければならない仕事以外が多い
最後は、医師が超長時間勤務でやっている仕事は、実は 医師でなければならない仕事以外が多い点を述べておく。
医師には、実は書類仕事や単純作業が多い。筆者が研修医のころは、勤務病院では点滴の針を刺すのは医師でなければならないとされていた。しかし法的にもそんな根拠はなく、途中から看護師の業務となり、医師の仕事に集中できると喜んだのを覚えている。
しかし、おそらく今でも医師の業務とされている病院はあるだろう。不思議なことに、病院ごとに全くルールが異なるのが医療界だ。
書類仕事は、わずかな医療知識と電子カルテの操作法がわかれば医師でなくても出来るものが多い。これはかなり事務員などに置き換わってきたが、これを更に進めること(タスク・シフティングという)を厚生労働省は推進している。
この点は改善の見込みがあると言えるだろう。
本気で解決するには?
では、医師の超長時間労働を解決するにはどうすればよいだろうか。筆者は医師だが、現場の医師の立場のみならず、日本の医療全体の視点で考える。
その答えは、「医師数を増やすこと」「病院を統合して数を減らし、医師を一ヶ所に多く集めて交代制にすること」である。
医療費は増え続けている中で、医師数を増やすことは容易でない。
こちらは医師の給与単価を下げ、医師数を増やすことで解決できる。給与単価を下げると質が下がるという意見があるが、医師過労死が続く状態を放置できない。また、医師たちが「ほろ酔い」レベルで行っている医療と、どちらの質が高いだろうか。
また、病院統合はステークホルダーが多すぎて調整不可能だ、と厚労省の意見が聞こえてきそうだ。ならば、診療報酬点数に傾斜をつけるなどして、お得意の政策誘導で行えば良いのではないか。
手を打たないとどうなる?
手を打たないとどうなるか。
現状では、医師は医師免許取得後、まず病院で研修を行う。数年してから開業するもの、そのまま病院勤務医を続けるものと分かれる。
近年では第三の道として、医師でない仕事をするものが増えてきた。
医療知識を生かして起業したり、製薬企業など医療関連企業に勤めるという方法だ。
私の予測では、第四の道として、海外へ活路を見出す医師が出始めると考えている。その国在住の日本人向けの診療をする、あるいは高度な技術によりその国の医師免許を得て、現地の医師として働くという道だ。日本よりはるかに短時間勤務で、はるかに高い質の生活が可能になる。
海外に医師を紹介するエージェントもあると聞く。
以上、医師の残業時間のニュースから、医師が忙しい理由と、これからの医師についてまとめた。
(追記 2019.1.12 21時)
なお、今回の厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」では、医師の超長時間労働を和らげる案が出ていることも注目に値する。
ポイントは、「36時間連続勤務」のような命の危険がある過酷な勤務はやめさせ、必ず当直明けには休めるようにしている点だ。例えば9時から24時間勤務した場合は、翌日の13時には帰り、必ずその日は休ませるとしている。
さらに、その当直が本当に「泊まるだけ」(宿日直許可)の時かどうかを病院にチェックさせるという点も重要である。
詳細は以下をご参照下さい。
「当直及び当直明けの日を除き、24 時間の中で、通常の日勤(9時間程度の 連続勤務)後の次の勤務までに9時間のインターバル(休息)を確保。当直明けの連続勤務は、宿日直許可を受けている「労働密度がまばら」の 場合を除き、前日の勤務開始から 28 時間までとすること。この後の勤務 間インターバルは 18 時間とすること。長時間の手術や急患の対応などやむをえない事情で必要な休息時間が確保できない場合は、その分を積み立て、別途休暇を取得させる「代償休暇」 とすること。」
(第16回医師の働き方改革に関する検討会 資料より抜粋)
(追記ここまで)
※本文中の「医師」は、おおむね病院勤務医を指しています。
※厚生労働省の議論の詳細は、この厚生労働省のページから見ることができます。
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中山祐次郎
一介の外科医
1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、同院大腸外科医師(非常勤)として10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、現在福島県郡山市の総合南東北病院外科医長として、手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと」(2014年幻冬舎)、「医者の本音」(SBクリエイティブ 2018年)。Yahoo!ニュース個人では2015年12月、2016年8月、2017年6月、2018年6月のMVA賞を受賞。
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https://news.yahoo.co.jp/byline/nakayamayujiro/20190112-00110967/
2019年1月12日(土)
医師の残業 年2000時間上限
厚労省案 過労死ラインの2倍
厚生労働省は11日、医師の働き方改革に関する検討会に、地域医療に従事する医師らの残業時間の上限について「年1900〜2000時間」などとする案を示しました。
月平均で160時間となり、過労死ラインに匹敵するとして問題になっている一般労働者の残業上限・年960時間(来年4月から順次実施)の2倍にもなる異常なものです。
同省が示した残業時間の上限案は、一般的な医療機関の医師▽地域医療に従事する医師▽技能の向上が必要な医師―の三つに区分して設定します。
一般的な医師は、一般労働者並みの「年960時間」とする一方、地域医療を担う医師の場合は、医療提供に支障が出る恐れがあるとして特例時間を設ける考えを示しました。
ただし、次の勤務まで一定の休息時間を保障する「勤務間インターバル」を9時間以上、連続勤務時間を28時間までとするよう義務付けるとしています。
医師の残業上限規制は2024年度から適用し、特例については、医師の「偏在」解消の目標時期に合わせて35年度末までとする考えを示しました。
同省は、現状でも年間1920時間を超える勤務医は全体の約1割にものぼると説明。医師の抜本的な増員を置き去りにしたまま、すでに広がっている長時間労働を容認する考えを示しました。
委員からは「2000時間まで働かせていいという誤ったメッセージになってはいけない」「上限より引き下げていくものでなければならない」などの意見が出されました。
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2019-01-12/2019011204_04_1.html
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