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朝鮮半島の緊張を高めている原因は米国の政策
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2020.06.18 櫻井ジャーナル
韓国と朝鮮との関係が悪化している。開城にある共同連絡事務所を北側が爆破したのは象徴的な出来事だが、こうした情況を生み出した原因を両国だけに求めることは間違っているだろう。朝鮮半島に限らず、東アジア情勢はアメリカの中国との関係に大きく影響される。
朝鮮半島で和平の動きが顕在化したのは2018年4月27日のこと。韓国の文在寅大統領と金正恩委員長が板門店で会談したのだ。その直前、3月26日に金委員長は特別列車で北京へ入り、釣魚台国賓館で中国の習近平国家主席と会談している。
アメリカ政府はCIA長官だったマイク・ポンペオが金正恩委員長と握手している様子を撮影、4月26日に公開しているが、撮影日は中朝首脳会談の直後だった。アメリカ側は朝鮮半島の問題で自分たちが主導権を握っていることを宣伝したかったのだろう。
ミハイル・ゴルバチョフ時代のソ連に見捨てられた朝鮮だが、ウラジミル・プーチンがロシアの大統領になると情況が替わる。2011年にロシアのドミトリ・メドベージェフ首相は朝鮮の最高指導者だった金正日とシベリアで会い、110億ドル近くあったソ連時代の負債の90%を棒引きにし、鉱物資源の開発などに10億ドルを投資すると提案したのだ。その後、ソ連のプロジェクトは中国の一帯一路とリンクする。
ロシアは天然ガスのパイプラインや鉄道をシベリアから朝鮮半島の南端まで延ばす一方、朝鮮の地下に眠る資源を開発しようと考えていた。そのプロジェクトに金正日は同意するのだが、2011年12月17日に急死してしまう。
列車で移動中に車内で急性心筋梗塞を起こしたと朝鮮の国営メディアは19日に伝えているが、韓国の情報機関であるNIS(国家情報院)の元世勲院長(2009年〜13年)は暗殺説を唱えていた。元院長によると、金正日が乗った列車はそのとき、平壌の竜城駅に停車していたという。
その後、朝鮮はミサイル発射や核兵器の爆破実験を盛んに行うようになり、アメリカは制裁を科すことに成功、ロシアのプロジェクトにとって大きな障害になる。朝鮮の好戦的な行動はアメリカの支配層にとって願ってもないことだった。
そうした情況が大きく変化したのが2018年4月だが、その13日前、アメリカ軍、イギリス軍、フランス軍はシリアに向けて100機以上の巡航ミサイル(トマホーク)を発射している。シリア政府軍の航空兵力を破壊し、地上のアル・カイダ系武装集団にダマスカスを攻撃させようとしたのだろうが、ミサイルの7割がロシア製の防空システムで無力化されてしまったと言われている。
つまり攻撃は失敗だったのだが、その1年前、2017年4月7日にもミサイル攻撃は思惑通りの結果を出せていない。その時はアメリカ海軍が地中海に配備していた2隻の駆逐艦、ポーターとロスから59機の巡航ミサイルをシリアのシャイラット空軍基地に向けて発射、その6割が無力化されたのだ。そこで1年後に発射するミサイルの数を倍増させ、その場所も分散させたのだが、結果はさらに悪くなったということである。
2017年の攻撃はトランプ大統領と中国の習近平国家主席がフロリダ州でチョコレート・ケーキを食べている最中に実行された。アメリカ側としては中国を恫喝するつもりだったのだろうが、逆効果だったわけだ。
バラク・オバマ政権もミサイルをシリアへ撃ち込もうとしたと考えられている。2013年にオバマ政権は化学兵器をシリア政府軍が使ったという偽情報を広めていたが、シリアへの本格的な軍事攻撃を始めると噂されていた。
そうした中、9月3日に地中海からシリアへ向かって2発のミサイルが発射されるのだが、そのミサイルは途中で海中へ落下してしまった。後にイスラエル国防省はアメリカと合同で行ったミサイル発射実験だったと主張したが、実際は攻撃を始めたのだと見られている。周辺国に対する事前の通告はなく、発射実験だとする主張に説得力がないからだ。ジャミングなどECM(電子対抗手段)が使われたと推測する人も少なくない。この経験から2017年には60機近いミサイルを発射したのだろう。
こうした出来事からロシアの防空システムが優秀だということが広く知られるようになった。朝鮮の指導部へも少なからぬ影響を及ぼしたはず。そして2018年4月、朝鮮はアメリカに気兼ねすることなく韓国の文在寅大統領と会談することになる。文大統領と金委員長はその年の9月18日と19日に平壌で会談、年内に鉄道と道路を連結する工事の着工式を行うことで同意したという。
そしてアメリカと朝鮮の首脳は2019年2月27日から28日にかけてベトナムのハノイで会談するが、合意に至らなかった。原因は国家安全保障補佐官だったジョン・ボルトンやマイク・ポンペオ国務長官にあると言われている。
その前年に韓国駐在アメリカ大使に就任したハリー・ハリスも朝鮮を敵視する考え方の持ち主。ミネソタ州のミネアポリスでジョージ・フロイドが数名の警官に取り押さえられ、死亡してから抗議活動、あるいはそれを利用した破壊活動がアメリカでは続いているが、この活動を支持する意思を韓国のアメリカ大使館は示してトランプ大統領を刺激していた。
朝鮮側の説明によると、朝鮮が制裁を部分解除する条件として核施設の廃棄を提示したところ、アメリカはそれを拒否して核プログラムの完全的な廃棄を要求、さらに生物化学兵器も含めるように求めたのだとされている。全面降伏の要求であり、朝鮮側が受け入れるはずはない。
アメリカ軍は2019年8月に韓国軍と合同軍事演習を実施、朝鮮は反発して韓国との和平交渉の継続を拒否、ミサイル発射実験を実施した。その直後に朝鮮人民軍総政治局の金秀吉局長を団長とする代表団が北京を訪問、中国と朝鮮の軍事的なつながりは一層強化されると伝えらている。その8月に期限が来るGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の延長をしないと韓国の国家安全保障会議は決め、大統領に報告したという。
軍事と経済両面で中国に圧力を加えているアメリカ政府は韓国を自分たちの陣営へ引き戻そうとしてきた。日本政府が慰安婦などの問題で韓国側を刺激することをアメリカは望んでいなかった。GSOMIAの問題を引き起こした安倍晋三政権に対する評価は低下しただろう。
そして9月9日、韓国では大統領に近い゙国が法務部長官に就任するのだが、検事総長だった尹錫悦に率いられたソウル東部地検刑事6部ばを起訴、゙は10月14日に辞任を表明した。゙が大統領府民情首席秘書官を務めていた2017年、当時の金融委員会金融政策局長に対する監察を中断した疑いだが、゙本人は容疑を否定、「結論ありきの捜査」だと批判している。ちなみに、尹は自他共に認める保守派で、ミルトン・フリードマンの新自由主義を信奉している。つまりアメリカの支配層にとって好ましい人物だ。次の大統領選挙に出馬するつもりかもしれない。
その一方、アメリカ海軍は11月12日、巡洋艦チャンセラーズビルに台湾海峡を航行させ、対抗して中国海軍は17日に空母艦隊を台湾海峡へ派遣。アメリカは20日に沿海域戦闘艦のガブリエル・ギフォーズを南沙諸島の近くへ、また21日には駆逐艦のウェイン・E・メイヤーを西沙諸島の近くへ派遣して中国を挑発。韓国大統領府はGSOMIAを終了するという決定を停止すると11月22日に発表した。
その後、新型コロナウイルスの伝染拡大が問題になり、その責任をアメリカ政府が中国に押しつけたこともあって両国の関係はさらに悪化している。ポンペオは6月14日にアメリカ・ユダヤ人委員会で、中国はアメリカとイスラエルにとって脅威だと発言した。
アメリカとイスラエルが中国を巡って対立していることは本ブログでも紹介した。5月13日にイスラエルを訪れたポンペオ国務長官はベンヤミン・ネタニヤフ首相に対し、イスラエルと中国が経済的に結びつきを強めることは安全保障上のリスクであり、アメリカとの関係を危険にさらすと警告している。
それに対して中国大使館は15日に「ユダヤ人の友人を我々は信頼している」と語るのだが、16日にイスラエル駐在の中国大使だった杜偉がヘルツリーヤの公邸で心臓発作のために死亡している。中国政府は調査チームを派遣するとしていたが、その死に不審な点があると感じているのだろう。
アメリカは中国包囲網を強化し、ユーラシア大陸東部の軍事的な緊張を高めようとしている。そうした中、朝鮮は外交や安全保障に関する政策を大きく変更しているように見える。金正恩はプーチンほど忍耐力はないようだが、それでも朝鮮半島の緊張を生み出している原因を朝鮮に求めるべきではない。真の原因はアメリカにある。
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