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軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が、「金正恩重篤説」というデマが流れて国際社会もそれなりに反応したいきさつについてあれこれ論じている。
黒井文太郎氏には一言、事実の裏取りは難しいけど、ウソを見抜くのはそれほど難しくないと。
[関連参照投稿]
「手術の金正恩氏“非常に危険な状態”真相は:突然の不調ならいざ知らず、太陽節の直前に心臓手術の予定は入れないはず」
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「「金正恩重篤」説はトランプと金正恩が共謀のデマ!:トランプと金正恩は“最近”連絡を取り合ったとオブライエン補佐官」
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ガセネタだった金正恩氏「重体説」 錯綜した情報はどう流れたか?
5/2(土) 18:11配信
[写真]北朝鮮の金正恩委員長。約20日間鋼の場から姿を消し「重体説」などが流れたが、5月2日になって朝鮮中央通信が動静を報じた。写真は2019年4月撮影(代表撮影/ロイター/アフロ)
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の動静が20日ぶりに報じられました。4月11日の党中央委員会政治局会議への出席以降、公の場に姿を現さず動静が確認されていなかった正恩氏をめぐっては「健康不安説」などさまざまな憶測が広がっていました。今回は結果的にそうした情報は“誤報”だったわけですが、こうした錯綜した情報はどのように流れたのか。インテリジェンス分野に詳しい軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏に寄稿してもらいました。
発端は2つのメディアの報道
5月2日早朝、北朝鮮の公式メディア「朝鮮中央通信」が、金正恩委員長が前日に順川の肥料工場を訪れていたと報じました。これで、4月11日の党政治局会合への出席を最後に、動静が不明だった金正恩委員長の“健在”が証明されました。
その間、金正恩氏には重体説から植物人間説、死亡説までさまざまな憶測が報じられていましたが、それらはすべて“誤報”だったことになります。
では、なぜそのような誤報が大量に流れたのでしょうか?
この騒動の流れを遡ると、2つのメディア報道が決定的な役割を果たしていたことがわかります。1つは4月20日の韓国メディア「デイリーNK」で、もうひとつは同21日の米テレビ局「CNN」です。
デイリーNKの記事は「金正恩氏が心血管疾患で手術……。12日、国内の専用病院で」という記事で、内容は、金正恩委員長は同12日に心血管疾患の手術と受けたものの、術後の経過は良好だというものでした。
同情報の情報源は「北朝鮮内部のデイリーNK情報筋」とありました。しかし、韓国政府筋からは、特にそうした情報は流れませんでした。韓国メディアの匿名の情報源からの情報では、確認のしようがなく、信憑性は担保されません。同記事はそれほど注目を浴びませんでした。
米情報筋に強いCNN記者の報道で一転
ところが、その翌日の21日午前(日本時間)、CNNが速報で「重体説」を流したことで、状況が一変します。CNNの報道では「米当局が、金正恩委員長は心疾患の手術後に合併症を起こして重体に陥ったらしい(筆者注:断定せず)とみている」という、かなり具体的なものでした。CNNの電子版記事では「そういう情報があり、米政府が状況を注視している」と若干引いた記述になっていましたが、CNNの本放送では、「米政府はそうみている」とのニュアンスで報じられていました。
これは、韓国メディアの匿名の独自情報源情報とは違い、注目すべき情報でした。なぜなら、CNNの報道は、米情報機関筋の取材に強いと定評のある同局のジム・シュート主席国家安全保障担当記者が「この情報を直接知る立場にある米当局者」から入手した情報として報じたからです。米情報機関幹部あるいは情報機関からの報告を入手できる立場の高官が、CNNに本当にそう言ったのであれば、何かしかの具体的な根拠情報を米情報機関が察知している可能性があります。
米情報機関は、韓国情報機関ほどは対北朝鮮スパイの能力はありませんが、軍事衛星からの偵察、あるいは通信傍受やハッキングなどの高い情報収集の技術と能力があります。それに、こうした最高指導者の健康問題となれば、北朝鮮当局は中国やフランスの医師団と接触する可能性が高く、そうしたルートも情報収集の標的になり得ます。
したがって、米当局からのリーク情報は、無視できません。こうした出方のリーク報道に対し、最初から「どうせガセだろう」と軽視するのは間違っています。
「裏取り」で注目すべき2つの反応
仮に米情報機関の独自情報だったとした場合、いわゆる「裏取り」としては2つの情報に注目する必要があります。
1つは韓国当局の反応です。仮に米情報機関の独自情報だったとしても、米情報機関とすれば、これだけの機密情報であればおそらく、韓国情報当局に関連の情報を照会する可能性が高いでしょう。韓国情報機関が何かしらの特異情報を察知していたら、そうした情報とつき合わせることで、確証を得られる可能性があるからです。そして、その場合、米国側の本気の情報照会を受けた韓国側は、この情報の扱いにかなり慎重になるはずです。
ところが、韓国当局は今回、早い段階から否定の見解を出していました。これは、韓国当局が独自の情報分析で否定的な結論を得ていた可能性もありますが、少なくとも米国から確度の高い情報を得ていなかった可能性が高いことを意味します。
さらに、それより重要な注目点は、米国の他の主要メディアの報道でした。これほど重大な情報を米当局がCNNにリークしたならば、米国のライバル各社が黙って指をくわえて見ているわけがありません。ワシントンポスト紙やニューヨークタイムズ紙など、米情報当局に強い大手メディアの敏腕記者たちが猛烈な取材をかけ、必ず続報を出します。
しかし、今回、そうした他社の報道がありませんでした。また、言い出しっぺのCNNも、翌22日の続報では具体的な補強情報が取れず、かなりトーンダウンさせていました。こうした状況をみれば、最初のCNNの報道は、さほど確証が高い情報ではなかったと判断できます。
さらに翌日の23日には、トランプ大統領がCNNの報道について「不正確だ」と明言しました。トランプ大統領にとってCNNは天敵なようなものではありますが、そこまで言うからには不正確であることを情報当局から知らされていた可能性が高いと言えます。つまりこれは、もともと米情報機関が間違えていたという話ではなく、米当局者とCNNの間の情報伝達の問題あるいはCNNの先走りということになりそうです。
こうして火付け役だったCNN報道の信憑性が「甘い」となれば、金正恩重体説そのものが信憑性の低い情報になります。
その後も、中国から医師団が北朝鮮に派遣されたとか、「金正恩」専用列車や専用船舶の動向など、各メディアからさまざまな報道が出ましたが、重体説を裏付ける核心的な情報はありませんでした。正体不明の伝聞情報との形式で、植物状態説や死亡説なども流れましたが、その多くは作り話のレベルでした。
正恩氏が姿を消したこと自体は事実
こうして金正恩重体説は数日中の早い段階で、さほど信憑性のある情報ではなくなりましたが、かといって「まったくあり得ない話」と断定することもできませんでした。金正恩委員長が姿を消したことは、事実だからです。
特に、北朝鮮指導部では最重要とみなされる4月15日の故・金日成(キム・イルソン)主席生誕の日の祝賀に現れなかったことは、極めて奇異なことでした。金正恩委員長に「何かがあった」可能性そのものは、非常に高いと言えます。
その理由は、ようやく姿を現した後も、不明です。重体でなくとも、何かしらの深刻な健康被害に遭ったのではないかとの推測もありましたが、少なくとも今回公開された写真では一見、とても元気そうに見えます。
姿を隠していた約20日間、金正恩委員長の身に何かあったのか、あるいは何もなかったのか、その真相はまだ分かりません。
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■黒井文太郎(くろい・ぶんたろう) 1963年生まれ。月刊『軍事研究』記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長等を経て軍事ジャーナリスト。著書・編書に『イスラム国の正体』(KKベストセラーズ)『イスラムのテロリスト』『日本の情報機関』『北朝鮮に備える軍事学』(いずれも講談社)『アルカイダの全貌』(三修社)『ビンラディン抹殺指令』(洋泉社)などがある
最終更新:5/2(土) 22:06
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