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米国で対中戦略新提案「“選別”で経済関係縮小を」中国資本が怒涛の高級ブランド買収、その結末は 日本人が香港デモに無関心のままではいけない理由 中国で次々に捕まる日本人、日中関係正常化は幻想 ハイテク技術で急接近、中国とロシア 「2Q14」以降ロシアとウクライナに何が起きたか
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投稿者 鰤 日時 2019 年 11 月 14 日 08:33:09: CYdJ4nBd/ys76 6dw
 

米国で対中戦略新提案「“選別”で経済関係縮小を」
米国学界最大のアジア研究機関が「部分的な不関与」を提案
2019.11.13(水)
古森 義久
世界情勢?アメリカ?中国

米国・ワシントンで貿易協議に臨んだ中国の劉鶴副首相(左)とスティーブン・ムニューシン米財務長官(2019年10月11日、写真:AP/アフロ)
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(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 米中対立の影響が全世界に広がるなか、米国学界最大のアジア研究機関が、現在の対中関税戦争を一時休戦して“選別的”に中国との関係を縮小していくという「部分的な不関与」を対中新戦略として提案した。

 提案には、米国が日本との貿易協力関係を拡大し、やがては環太平洋パートナーシップ(TPP)に戻るという選択肢も掲げていた。提案者は超党派だが、学者だけでなく大物の元官僚や政治家も含まれており、トランプ政権に影響を及ぼすことも考えられる。

中国に対して「部分的な不関与」戦略を
 米国のアジア研究学会では最大規模の「全米アジア研究部会(NBR)」は11月上旬、「部分的な不関与=中国との経済競争への米国の新戦略」と題する政策提言報告書を発表した。

 この政策提言は、NBRのなかに組織された「米中戦略の経済的側面の変質についての調査班」の合計13人の専門家により、1年ほどの研究と調査を経てまとめられた。

 NBRが新戦略を打ち出した目的は、米国の新たな対中経済政策の形成にある。作業は、13人の同調査班メンバーのうち共和党の元下院議員のチャールズ・ボウスタニ氏とプリンストン大学教授のアーロン・フリードバーグ氏が共同議長となって進めた。両氏とも議会や政府の要職を務め、対中政策形成に長年関与してきた。

 トランプ政権は中国を米国の基本的国益と価値観を侵す有害な存在とみなして、対決していく姿勢を明らかにしている。今回、NBRが発表した報告書は、トランプ政権のそうした中国との対決姿勢に沿うことを前提としている。

4つの具体的な措置とは
 そのうえで、米中の対立が激しい経済や貿易の分野に焦点を絞り、中国に対しては今後「部分的な不関与」という戦略をとっていくことが適切な進路だと強調していた。ただし当面の戦術として、現在の対中関税戦争は一時的に休戦することが望ましいという。

報告書が提案する4つの具体的な措置
 報告書は、米国が今後とるべき対中政策として、4つの具体的な措置を提案していた。その主な内容は以下のとおりである。

(1)現在の対中関税戦争の一時休戦

 米国は、中国側から基本的な譲歩を引き出すまでは、対中圧力を減らすことになる暫定的な合意は避けるべきである。ただしこの基本線を守りながら、米国の消費者や生産者にかかってきた負担を軽減するために、中国との関税をめぐる対立を一時休止して、追加関税の対象となる中国からの輸入品を改めて選別する。

(2)米国の弱点を減らす防御措置の強化

 米国の高度な技術の中国への流出を防ぐ措置を強化する。強化策として中国側勢力の米国内での活動への監視や取り締まりを増やす。同時に中国側の特定製品、資本、要員の米国内への流入を規制する。この種の流入は、米国の官民の高度技術を入手しようとする中国側の目的に寄与してきた。

(3)技術革新と教育への投資

 米国の中国との対決や中国に対する抑止は長期化し、高度技術面での競合が大きな要素となる。その競合に勝つには、米国側が高度技術の発展や革新のための投資を官民ともに増大させなければならない。その投資を増大させるには、米国連邦政府の長年の財政赤字の減少にまでさかのぼって対処する必要がある。

対中対決があくまでも大前提
(4)同盟諸国との貿易や投資の関係の強化

 米国は、緊密な絆を保つ同盟諸国、友好諸国とともに、選別的な貿易システムの強化を推進すべきである。そのために環太平洋パートナーシップ(TPP)のような多国間協定への加盟も考える。同盟諸国とは経済発展のための技術や情報の共有も進めて、中国を抑えるという共通の目標を目指すべきだ。

トランプ政権の対中政策進化を促すことに
 こうした提案の一部は、トランプ政権の対中姿勢を和らげるような内容にもみえる。だが、中国へのこれまでの圧力を弱めず、中国との経済関与を減らすことがあくまでも大前提になっている。その意味でトランプ政権の政策の強化案とも呼べる。

 同報告書の中でとくに注目されるのは、(4)の「選別的な貿易システムの強化」であろう。対中抑止のために日本と経済・貿易面での連携を強め、その連携を通じて、すでに離脱したTPPに復帰することも考慮すべきだと提言した点は、大いに注目に値する。


 同報告書は、米国が超党派で中国への厳しい対決姿勢を強め対中経済関係を縮小する過程で、米国の消費者、生産者側がこうむる損失についても考慮することの必要性を説いている。つまり、米国の対中対決姿勢に多層な要因をインプットすることを説いているわけだ。その点でトランプ政権の対中政策の進化を促したともいえるだろう。

もっと知りたい!続けてお読みください
中国資本が怒涛の高級ブランド買収、その結末は
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58225?page=3


 

 

中国資本が怒涛の高級ブランド買収、その結末は
誰もハッピーにはなっていなかった?
2019.11.12(火)
姫田 小夏
中国

気が付けば、中国資本になっていたというブランドは少なくない
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(姫田 小夏:ジャーナリスト)

 上海の人気百貨店を訪れて驚いた。名だたる高級ファッションブランドがこぞって中国企業に買収されていたのだ。

 100年の歴史を持つ英国の老舗ブランド「Aquascutum(アクアスキュータム)」。日本でも一世を風靡したイタリア生まれの「Roberta di Camerino(ロベルタ ディ カメリーノ)」。売り場の担当者によれば、いずれも「すでに中国企業に買収されています」と言う。

 中国繊維大手の山東如意科技集団がアクアスキュータムを買収したのは2017年3月のこと。同集団はその後、スイスのラグジュアリーブランド「BALLY(バリー)」も買収した。2010年に日本のレナウンを買収して世間を騒がせた企業、と言えば思い出す読者も多いだろう。

「ランバン」も「フィラ」も
 気がつけば、フランスの「LANVIN(ランバン)」も2018年に買収されていた。買収したのは復星国際有限公司だ。復星集団の基幹企業である復星国際は、ギリシャのジュエリーブランド「Folli Follie(フォリフォリ)」やアメリカのファッションブランド「ST.JOHN(セント・ジョン)」、イタリアの紳士服ブランド「Caruso(カルーゾ)」という3つのブランドにも触手を伸ばし、それぞれで第2位の株主になっている。

 また、韓国資本のスポーツウェアブランド「FILA(フィラ)」の中国子会社は、現在、中国のスポーツ用品大手である安踏集団(以下、アンタ)の傘下にある。

中国資本は「救世主」?
 FILAは元々1911年にイタリアで生まれたブランドだ。2003年にアメリカの投資ファンドに所有権が移り、2007年に韓国のフィラ・コリアが4億ドルで本社を買収した。この年、中国の百麗集団が3億7000万元で中国における運営権を手に入れたのだがひどい赤字に悩まされ、2009年に3億3200万元でアンタに転売した。アンタの経営によって中国でFILAブランドの売上は順調に伸び、2018年にはオリジナルブランド「ANTA」を超えてダントツの稼ぎ頭になった。

 この秋、上海では街の至るところで「FILA」のロゴを目にした。特に若者の間ではウエアのみならずリュックやスニーカーもFILA製品があふれ、「ブレイク真っ只中」であることが伺われた。


上海では「FILA」が大ブレイクしている
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中国資本は「救世主」?
 アパレル業界に詳しい日本人の専門家は、中国資本が欧米の一流ブランドを買収する理由をこう説明する。「中国市場では高級ファッションブランドの爆発的消費が今後も見込まれるというのが最大の理由です」。

 加えて、そこには中国企業の「せっかちな性分」が見受けられるという。食うか食われるかの激甚(げきじん)な競争の中、自分たちで時間とコストをかけてブランドを育てる時間はないというわけだ。

 こうして中国企業は高級ブランドを次々に手に入れたが、買収される側の欧米ブランドにとっても抗えない事情がある。

出資先ブランドが粉飾決算
 歴史と伝統ある老舗ブランドといえども、欧米市場でひいきの顧客は高齢化の一途をたどり、消費は先細りしていく。一方、若者が飛びつくのはファストファッションや新興ブランドだ。

 中国資本による買収や資本参加は、中国市場での展開において外資企業が被るさまざまな障害やハンデが取り払われることを意味する。事業の継続を諦めかけていた経営陣にとって、中国資本による買収提案は“渡りに船”どころか“救世主”にも等しい朗報だといっても過言ではないだろう。

出資先ブランドが粉飾決算
 このように双方がウィン・ウィンを見込めるからこそ買収や資本参加の合意に至るわけだが、必ずしも目論見通りに事が運ぶとは限らない。

 1982年にギリシャで誕生したジュエリーブランドのフォリフォリが好例だ。

 フォリフォリは2009年のユーロ危機とギリシャ危機をきっかけに経営体力を失い、株式の一部を2011年に復星国際が取得した(現在も第2位の株主として16.37%の株を保有している)。フォリフォリにとって中国資本が注入されたことは、中国市場での出店が加速することを意味した。実際に中国市場でフォリフォリの店舗数は「2011年には100店舗だったが、2013年には200店舗に倍増した」(中国メディア)。

 ところが近年、米ヘッジファンドのQCMが投資家から依頼を受けて調査したところ、「フォリフォリには粉飾決算の疑いがある」との審査結果が判明した。

 QCMの調査報告によれば、「2016年の財務報告書には、販売店が630店あるとされているが、実際は289店しかない」(中国の「国際金融報」)というのだ。国際会計事務所のPwCも「2017年の実際の売上高は、財務諸表に記載されている数字より10億ユーロも少ない」(中国の「新京報」)としている。

怒涛の買収は曲がり角に
 ギリシャ資本市場委員と検察当局は捜査に乗り出し、2018年にフォリフォリグループを詐欺とマネーロンダリングで告訴、資産を凍結させた。フォリフォリは巨額の債務を抱えて極めて厳しい状況に置かれている。

 中国の「服装新聞」は、「郭広昌(復星集団CEO)氏は、当初、株式取得の理由について『このブランドは妻のお気に入りだから(出資した)』と笑って言っていたが、復星集団にとっては初めて関わった国際ブランドであり、その重要性は言うまでもない」と報じている。郭氏としてはせっかく出資した高級ブランドだが、まさかこれほどずさんな経営が行われているとは思わなかっただろう。

怒涛の買収は曲がり角に
 なんでもかんでも欲しがり、投資を拡大してきた中国企業は、大きな曲がり角を迎えている。

 アクアスキュータムを買収した山東如意も、数多くの企業買収を繰り返した挙句に巨額債務を抱え、2019年10月、格付け機関ムーディーズにB3に格下げされた。

 一方、買収された側も心境は複雑だ。復星集団は老舗バカンス会社であるフランスの「Club Med(クラブメッド)」も2012年に買収している。筆者は2019年2月、買収後の展開についてクラブメッド日本法人から話を聞いた。その際、広報担当者は「復星集団はサイレントインベスターに徹し、関係も良好」と言いながら、復星集団の傘下にあることはあまり公にはしたくない様子だった。

 買収した側も、された側も決してハッピーになっているとは言い難い可能性がある。中国企業が勢いにまかせて繰り広げた買収ラッシュは、この先どんな展開が待っているのだろうか。

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また韓国人がいやがる!実は激しかった中国人の嫌韓
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58187?page=4


 

 
中国で次々に捕まる日本人、日中関係正常化は幻想だ
「人質外交」に走る習近平政権、日本政府は対抗策を
2019.10.24(木)
福島 香織
中国

中国・北京
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(福島 香織:ジャーナリスト)

 またもや中国で日本人がスパイとして捕まった。しかも大学教授、研究者だ。

 中国が反スパイ法を根拠に拘束した日本人13人のほとんどが、たいして機密とも思えない“情報”を盗んだとして逮捕、9人が起訴され8人が判決を受け、その中には12年もの懲役刑を受けた人もいる。今回、14人目の逮捕者が出た。しかも国立大学教授、准公務員が捕まったのは初めてである。

 おりしも日本では天皇陛下の即位礼に中国の王岐山氏が賓客に招かれていた。来年(2020年)春の“桜の咲くころ”、習近平国家主席を国賓として招くことが決定している。安倍晋三首相は日中関係は完全に正常な軌道に戻ったと昨年秋の訪中時に発表し、中国の国家戦略“一帯一路”への支持も鮮明にしている

 だが、日本人が不当にスパイ容疑をかけられ、尖閣諸島接続水域に中国海警船が日常的に侵入している状況が、果たして日中関係の「正常な軌道」なのだろうか。

どんな情報に触れたのか?
 今回捕まったのは北海道大学法学部教授。9月に中国を訪問して以降、消息を絶っていた。

 防衛相防衛研究所戦史研究センターや外務省大臣官房国際文化協力室の主任研究官、外務事務管の勤務がある40歳代の男性で、専門は日中戦争史だった。かつて中国の治安機関史に関する論文を執筆したこともあるという。日本のメディア関係者によれば、今回の訪中は社会科学院の招待を受けていたという話があり、そのついでに研究のための資料集めやフィールドワークも行ったのかもしれない。帰りの空港で逮捕されたという。

 ネット上の公開情報によれば、教授は公募の研究予算をとって2018年から2021年までの期間で、日中戦争の再検討、というテーマの研究に従事していた。研究手法は、各国の文書館や図書館所蔵の多言語アーカイブを利用するものという。北海道大学は中国との研究機関や研究者との交流も深く、未公開の歴史的資料を閲覧したりする機会もあったかもしれない。

日本では野放しの中国のスパイ
古い未公開の戦争資料の中には共産党の秘密文書扱いのものもあるかもしれない。だが、中国には実際は「秘密」「機密」扱いとされ、絶対タブーとされていても、まったく国家の安全と無縁のものも、あるいは関係者、研究者なら常識と言っていいほど知られていることも山ほどある。

 例えば共産党史の抗日英雄譚「狼牙山五壮士」の捏造問題。狼牙山五壮士とは、中国の小学校国語教科書にも載っていたことがある共産党抗日烈士5人のことだ。1941年、河北省の狼牙山で旧日本軍の激しい攻撃に応戦しながら地元農民を守り、最後は日本軍に包囲され軍糧尽きて9月25日、このまま捕虜になるならば、と崖から飛び降りた、と言う美談で知られている。

 だが、これはプロパガンダ用につくられた「お話」で、本当はこの5人は村に逃げ込んだあと、銃で脅して村人の食糧を奪い、村人に暴力を振るって散々の悪行をつくして逃走。あとから来た日本軍に村人は彼らの悪事を訴え、逃げた方向を教えた。日本軍は村人の協力で彼らを追いつめ、3人を討ち取り、2人を捕虜とした。だが2人はのちに逃げ出し八路軍に戻ったあと、自分の悪行を取り繕うために、教科書に載るような美談をでっち上げた、という。この話は歴史研究者の間では結構知られているが、表だって触れてはいけない話だ。

 中国の山岳部の地形などは国家機密扱いなので、中国で登山用GPSの携帯を理由にスパイ容疑で取調べを受けることもある。私の知るケースは、たまたま初犯の観光客だったからGPS没収だけで無罪放免となった。中国では意外なものが、国家機密、タブーだったりする。

 だが歴史分野の「秘密」文書が、たとえ抗日戦争関連であっても現代の国家の安全に関わるとは考えにくい。教授の訪中目的は純粋な学術研究であろう。ただ、教授が過去に防衛研究所勤務であったことや、中国にとって近代戦争史が「プロパンガンダ戦略」上、重視されていることなども考えれば、逮捕拘束して取り調べすることで、中国がほしい情報を手に入れたり、あるいは圧力によって中国に都合のよいコマにしようとしたりする可能性だってゼロではないかもしれない。そういう想像力を働かせてしまうと今後、研究者たちはたとえ社会科学院や中国の大学の招待であっても、怖くて中国に研究やフィールドワーク、資料収集に行けなくなってしまうのではないか。詳細な情報はいまのところ何一つでていないが、今後の展開しだいでは日中の学術交流にも大きな禍根を残す事件になるかもしれない。

日本では野放しの中国のスパイ
 根本的なことをいえば、日本には英米のような本格的インテリジェンス機関はない。

 現在、中国でスパイ容疑で捕まり、有罪判決を受けている日本人の中には、法務省公安調査庁から数万円から十数万程度の薄謝を受け取って情報を提供したことが直接の原因になっているケースもある。彼らは「情報周辺者」などと呼ばれるが、実際は日本にとっても中国にとってもさして重要性のない情報である。

海外メディアが「人質外交」と批判
 北京で敏感な情報に業務上触れる立場にある日本人の「情報周辺者」と、東京で日本の政治上、治安上、技術上、研究上の重要秘密を知りうる中国人の数を比べると、人口比的にも後者の方が100倍くらい多いと言われている。

 また、在日中国人は中国政府に命じられたら、知りえた重要情報をすべて提供せねばならない法律上の義務を負っている。つまり中国の法律を基準にして考えれば、在日中国人の情報周辺者は全員がスパイ、となる。

 日本政府が民間の情報周辺者に薄謝で協力を仰ぐなら、先に日本国内にいる中国のための情報周辺者を管理し、取り締まる法律をつくるべきだろう。日本にはそういう法律がない。そうした法的整備がないまま、リスクをさほど意識していない民間人を通じて安価に情報を集めようとするから、日本の情報周辺者リストが中国にばれたりするのではないだろうか。

「人質」を取り戻そうとしない日本政府
「ボイス・オブ・アメリカ」など海外メディアは、習近平政権になって中国当局が外国人をスパイ容疑やでっち上げ罪状で逮捕するケースが急増したことを指して、はっきり「人質外交」だと批判している。

 たとえば昨年12月、中国のファーウェイのナンバー2、孟晩舟を米国に頼まれて逮捕したカナダは、自国民2人をスパイ容疑などで中国に“報復”のように逮捕された。今年9月には、FBIが中国の「千人計画」(海外で先端技術研究に従事する研究者を呼び戻す戦略的政策)の責任者であった柳忠三・中国国際人材交流協会ニューヨーク事務所主席代表を逮捕し取り調べを受けたことへの報復のように、中国で17年間続いてきた英語学習企業を創設、運営してきた2人の米国人男女を「違法越境」容疑で逮捕した。これはでっち上げの罪とみられている。違法越境は最悪無期懲役もある重罪だ。中国は外交交渉を有利に運ぶように相手国民をスパイ罪や冤罪で逮捕するのが常套手段だ。

 では、明らかに先鋭的な対立要因を抱えているカナダや米国に比べて、関係改善が喧伝されている日本の国民がなぜ14人も捕まってしまうのか。日本はそんなに対外スパイ工作が盛んなお国柄であったのか。

「邦人を返せ」と圧力を
私がここで腹立たしく思うのは、2015年に中国が反スパイ法(2014年)に続いて国家安全法を施行し、中国国内で外国人を「スパイ容疑」で捕まえ始めて以降、日本人だけですでに13人捕まり、9人が起訴され8人が有罪判決を受けているのに、日本政府は中国でスパイ扱いされている日本人を取り戻す交渉を中国政府相手にやった形跡がないことだ。

 交渉というのは、こちらの要求を聞かねば制裁を行うと圧力をかけ、要求を聞き入れられれば相手にとっての利益を考慮する、というものだ。米トランプ大統領がやっているように、恫喝と甘言を交えてゆさぶりをかけて、相手からの譲歩を引き出すやり方だ。中国にとって日本との関係正常化や経済支援、一帯一路への支持などが、米中関係で苦戦中の中国にとっての大いなる救済になるのだから、その見返りに、日本人を取り戻すことがなぜできなかったのか。さらに逮捕者が増えるとは、日本外交が中国に完全にみくびられている、とは言えないだろうか。

 中国外交部の華春瑩報道官は10月21日の記者会見で、記者の質問に答えるかたちで「中国の法律に違反した外国人は法に従って処理する。中日領事協定の関連規定に従い、日本側領事職務に必要な協力を提供する」と事実確認をした。また、この事件は日中関係には全く影響がない、とした。それは中国の言い分だ。日本は、日中関係に大いに影響ある問題として、日本人全員を取り返すまで、習近平氏の国賓訪問を延期してもらったらどうだろう。

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米国の方針と真逆、安倍政権の中国への接近は危険だ
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58030?page=4


 

日本人が香港デモに無関心のままではいけない理由
一線を越えた警察の暴力、香港は戦場になった
2019.11.14(木)
福島 香織
世界情勢?中国

警察に催涙ガスを浴びせられて逃げ惑うデモ参加者(2019年11月11日、写真:ロイター/アフロ)
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(福島 香織:ジャーナリスト)

 2019年11月9日はベルリンの壁崩壊から30年目。あの東西の激しいイデオロギー対決が終焉するまでの困難と多くの犠牲に世界が思いを馳せていたころ、極東で新たなイデオロギー対立の炎が燃え盛っていた。香港デモである。

 11月8日、初めてデモの参加の最中に犠牲者が出たことが公式に確認された。デモ参加者の間で警察の暴力に対する怒りが渦巻き、翌9日は犠牲者の追悼のためにより大規模なデモに発展した。

 犠牲者は香港科技大学の22歳の男子学生だった。5日、軍澳の近くで警官隊の催涙ガス弾に追われて駐車場の3階から2階に転落。脳内出血、骨盤骨折で重体となり搬送先の病院で死亡した。警察は警察側に責任はないとしているが、救急車の到着が警察の妨害で少なくとも20分遅れており、香港科技大学の学長は第三者による死因調査と情報公開を求め、警察の責任を問うている。

一線を超えた中国&香港当局の対応
 11月11日にはゼネストが呼びかけられ、デモ隊は交通をマヒさせるためにあらゆる所で交通妨害活動を行った。これに対し、出動した警官の暴力は常軌を逸していた。金融街のあるセントラルでは通勤客を巻き込む形で、高温で毒性の強い中国製の催涙弾を容赦なく打ち込んだ。香港島東部の西湾河では、道路にバリケードを作っていたデモ参加者に向けて、交通警察が実弾を3発発砲。1発が柴湾大学生(21歳)の腹部に当たり腎臓と肝臓を損傷して学生は重体だ。九龍半島側のバス通りで、交通妨害をしていたデモ隊を白バイが轢き殺そうとでもするかのように追い回す映像もネットに上がっていた。

 12日深夜、香港中文大学構内で警官が催涙弾とゴム弾を発射し、60人以上の学生が負傷。デモ隊も火を放って応戦し、キャンパスが戦場となった。

警察の暴力に屈した学問の砦
 大学は本来、警察の介入を拒否できる強い自治権を持つ。副学長、学長らが自ら学生と警察の間に立って交渉にあたり警察の学内侵入を防ごうとしたが、警察は交渉に応じず、大学に突入した。これは香港デモ始まって以来、警察が初めて大学の自治権を犯したということであり、香港の学問の砦が警察の暴力に屈したと国際社会は衝撃を受けた。

 香港中文大学には香港インターネットのエクスチェンジポイント(HKIX)が置かれているという。警察が中文大学を攻撃したのは、こうしたインターネットの拠点を潰すのが狙いか、という見方もでている。

 あらゆる角度からみて、11月に入ってから香港デモに対する中国、香港当局の対応は一線を越えた感がある。

 それは11月4日に林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が習近平国家主席と直接会談し、習近平から「高い信頼」を寄せているとの表明を受けたことと関係があろう。この会談前、一部米国メディアから「林鄭は辞任させられるのではないか」という予想が発せられていたが、どうやら林鄭は行政長官を続投するようである。ただし習近平が内心、林鄭の行政手腕のまずさにイラついていることは仄聞(そくぶん)している。彼女に対する習近平の高評価表明の理由を、四中全会のコミュニケなどからも想像するに、習近平政権は林鄭に全香港市民から末代まで恨まれるような汚れ仕事をさせるつもりではないか。その汚れ仕事というのは、たとえば国家安全条例の施行かもしれないし、あるいは香港基本法18条に基づく人民解放軍介入要請かもしれない、と私は最近本気で不安に思っている。

一般市民にも容赦がない警察の暴力
 そういう瀕死の香港に対して、もう1つ辛い事実は、日本人の誤解と関心のなさである。

 私もたまに日本の民放地上波の番組にゲストコメンテーターとして呼ばれることがあるのだが、日本を代表するコメンテーターたちが香港の現状について「生活に心配のない学生が暴れて、市民の多くが迷惑をこうむっている」といった解釈していたのに愕然とした。そんな単純な話ではない。

警察署内、拘置所でレイプや虐待も
 もちろん、迷惑に思っている市民は多くいるし、デモ隊を批判する市民もいる。デモ隊側の暴力性が日に日にエスカレートしているのも事実だ。デモを批判するだけで、リンチを受ける場面もある。だが、それ以上に、今の香港警察は完全に中国公安化しており、事実を隠蔽した虚偽の情報を平気で公式発表したりもしていて、警察や司法権力に対する不信感がものすごい。この不信感が、過剰な自衛意識につながり、異見者を見付けると袋叩きにしかねない攻撃性となる。

 また、中国からの公安警察が相当数香港に送り込まれ、香港警察や新聞記者、市民の姿をして香港世論や国際世論をデモ批判に誘導しようとし、過剰にデモの暴力を演出したり、市民の不安を煽って過剰な攻撃性を引き出したりしている可能性は確かにある。私自身、親中派市民が香港市民に“リンチ”に遭い昏倒していたのに、救急車が駆け付けると、とたん立ち上がって警察車両に乗り込み、そそくさと立ち去るのを目のあたりにし、友人から「あれが金で雇われた“プロ市民”だ。容赦する必要はない」と教えられてびっくりしたことがある。

 また、警察の暴力行使が、いわゆる“勇武派”の最前線にいるデモ隊に対してだけでなく、女性や子供、すでに無力化された抵抗の意思がないことを示しているデモ隊や一般市民、買い物客らに対しても容赦なく、警察署内や拘置所などでのレイプや虐待がえげつないことも、多くの証言や映像などで判明している。

 デモを迷惑だと思う市民がいること、デモの暴力を批判することと、香港の中国化を容認すること、警察の暴力を正当化することは同列には論じられない。最近の世論調査では半分以上の市民が警察に対する信用をゼロと評価し、7割以上の市民が今の警察の大幅な組織改革が必要だと考えている。暴力に対して、より暴力的な応酬しか方法がないという負のスパイラルに陥っている根本原因は、香港警察の中国化であり、その信用の欠落である。そこを飛ばしてデモの暴力化のみを批判したりすることはできない。


警察に囲まれて袋叩きに遭うデモ参加者(2019年11月13日、写真:ロイター/アフロ)
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韓国KBSが報じた香港警察・内部関係者の告発
 最近、香港警察の内部関係者が韓国メディアKBSの匿名取材に応じて、興味深い告発をしている。

 1つ目は、香港警察に逮捕されたデモ参加者が、拘留中にレイプされたという噂に関する証言だ。過去5カ月の香港デモに対する取り締まりの中で、4人の警官が関わった、デモ参加者に対するレイプ事件が少なくとも2件あり、署内で医学的証明も行われているという。この警官によれば、実際のデモ参加者の拘留中のレイプ事件はもっと多いとのことだ

 2つ目は、7月21日の元朗駅で起きた「白シャツ集団襲撃事件」に警察上層部が関与していたという証言である。上層部から地区の警察に、白シャツ襲撃事件の通報があっても現場に急行する必要はない、との指示があったというのだ。

日本は無関心のままでいいのか
3つ目には、9月にデビルズピーク沿岸の海で発見された全裸の女性の遺体が、行方不明のデモ参加者の少女、陳彦霖であったことが10月になって判明した件だ。警察はこれを“自殺”として処理したが、遺体が発見されたとき、警察上層部から調査指針について「他殺の方向で捜査してはならない」「単なる遺体発見で処理せよ」との指示があったという。彼女は“自殺”させられた、本当は警察に殺害された、と信じているデモ参加者、市民は少なくない。

 4つ目に、警官によるデモ参加者に対する虐待、拷問事件は世間で明らかになっているよりはるかに数多くある、という証言。

 香港警察はこうしたKBSの報道を、警察に対する悪意ある中傷だと批判している。だが、警察発表に対して不信感が募っていることは確かだ。たとえば、11月11日、香港デモに批判的な男性が口論の末、正体不明の黒服の男に液体をかけられ火をつけられて火だるまになる映像がネット上でアップされた。この事件はCNNなど海外大手メディアも、デモを批判する男性がデモ隊に液体をかけられて火をつけられた、と報じた。香港警察もこの男性が「病院に搬送され、深度2の火傷を体の28%に負い、意識不明の重体」「犯人に関する情報提供を望む」と発表した。だが、不思議なことに、火をつけられた男性は、火のついたシャツをサッと脱いで、上半身裸のまま歩いて立ち去っていく様子の写真もある。

 ネット上では、その男性が中国のスタントマンであるという業界関係者の発言や、香港デモの残虐行為を印象づけるために5000香港ドルで雇われて火だるまショーをやった、といった言い出す人もでている。もちろん、この情報はデマかもしれない。直後に歩いて立ち去ったからといって、後に重体にならないとは限らない。だが今や、市民は、警察発表と、このネット上の噂とどちらが正しいか、判断がつかないという。そのくらい今の香港警察は信用されていない。

日本は無関心のままでいいのか
 林鄭は11月11日の会見で、デモ隊について「人民の敵」と非難した。これに対して、「人民の敵はお前だ」という突っ込みがネット上で一斉にあがった。

 だが、真の「人民の敵」は、中国共産党政権ではないか。なぜなら中共政権自身が、自分たちにとっての最大の敵は人民であるという認識だからだ。だから、軍事防衛費よりも治安維持費に予算をさき、全市民を管理監視するシステムの構築や世論誘導のために膨大な投資を行っている。香港市民も同じやり方で管理・監視し、世論誘導しようとしたら、香港人たちは命がけで抵抗した。中国人民は長きにわたる共産党支配に慣れ、抵抗することを忘れているが、香港人は自由と法治は命がけで守るに値すると考えたのだ。

香港で起きている対立の本質
 誤解なきように。私は暴力を絶対肯定しない。だが政権トップの言うことも警察発表も信じられない世界で、若者が命や未来を犠牲にして性急に要求を訴えることを「デモ隊の暴力が問題だ」と一蹴しては、民主主義が未完成の地域で専制に抵抗する手法として、それこそ抗議の自殺しかない、ということになってしまう。香港はすでに戦場になった。この段階に来て、「暴力反対、話し合いを」というセリフは何の説得力も持たないのだ。

 もし本気で解決の道を模索するとすれば、先に譲歩すべきは強者のほうだ。国際世論の圧力で、圧倒的強者である中国に譲歩を迫るしかない。せめて、デモ隊が要求する5大訴求のうち、警察に対する外部調査委員会を設置させ警察組織を浄化し、香港の法治を取り戻すことがまず必要だ。このまま“紛争状態”がエスカレートすれば、話し合いどころか解放軍出動の可能性が高まる一方だ。

 米国は「香港人権・民主主義法」という立法をもって中国に圧力をかける方針のようだが、日本はこのまま無関心を貫いていいものだろうか。

 ここで注意すべきは、来年春に予定されている習近平主席の国賓としての訪日の影響だ。今の予定では、習近平主席は天皇陛下との特別会見が設定される。中国共産党の歴代政権が、日本の天皇陛下との会見を国内に向けての権威強化に利用してきた経緯は今さら繰り返す必要はないだろう。だが、考えてほしい。香港情勢がこのまま悪化し、万が一、解放軍を出動するようなことになれば、天安門事件後の天皇陛下訪中と同様に、軍によって学生デモを鎮圧した専制政治に対して日本の天皇陛下が権威付けを行ったと、国際社会から受け取られるような場面も想定されるのではないか。

 香港の状況は偶発的なものではない。今がおそらく100年に一度の時代の変わり目であり、世界の価値観、秩序再構築期に入っているからこそ起きている現象だ。それは大きく言えば、これまでルールメーカーであった米国と、新たなルールメーカーになろうとする中国の価値観・秩序の衝突だ。言い方を変えるならば「開かれた自由主義社会」と「管理された全体主義社会」の対立である。この対立は世界各地で起きているが、香港で激化して、解決が一層難しそうに見えるのは、「自由と民主」を尊びながらも名目上は中国“国内”の“漢族社会”における対立だからだ。

 香港問題を極東アジアにおける自由と専制の対立と見れば、香港がこのまま中国化されてしまうと、東シナ海から南シナ海における自由主義陣営のプレゼンスにも影響してくる。逆に言えば、香港の自由主義的価値観が守られれば、それは中国の閉じられた全体主義世界の中で、唯一西側世界とつながる玄関になり、世界の完全な分断を防ぐ役割を担うことになるかもしれない。その存在が日本にとってどれほど価値あるものかは、地政学やパワーポリティクスを少し勉強した者なら想像できるのではないだろうか。

 別に政治的に介入しろといっているのではない。そんな外交実力が日本にないことは十分承知している。だが、日本人一人ひとりが香港問題に関心を持つこと、香港問題の本質が自由主義と全体主義の衝突という時代の行方を左右する戦いかもしれないと俯瞰して見ることは、日本が過去に犯した過ちを繰り返さないためにも必要かもしれない。

もっと知りたい!続けてお読みください
弾劾追及、ついに強気大統領の目に涙
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58241?page=5

 


 

ハイテク技術で急接近、中国とロシア
ただし同盟の設立は困難、その理由とは
2019.11.8(金)
渡部 悦和
アメリカ?中国?ロシア?IT・デジタル?安全保障

2019年6月5日、習近平国家主席がロシアを訪問、華為技術がMTSと5G通信網開発で合意した(写真:AP/アフロ)
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 最近、中国とロシアの急接近が話題になっていて、「中ロ同盟の成立か?」と先走るメディアも出てきた。

 この中ロ急接近の背景には米国の国家安全保障戦略などで主張された「米国と中国やロシアとの大国間競争」がある。

 特に米中貿易戦争により米国の付加関税や中国のハイテク企業・華為技術(ファーウェイ)に対する制裁措置などの攻勢を受けている中国のロシアへの接近は、単独で米国と対峙するよりもロシアと連携してこれに対処しようとする意図が読み取れる。

 結論的に言えば、「中国とロシアの同盟の成立」は困難であると思うが、ハイテクを中心とした中ロのパートナーシップの深化は予想以上に急速に進んでいる。

 本稿では、ロシアの専門家サムエル・ベンデット(Samuel Bendetto)と中国人民解放軍の専門家エルサ・カニア(Elsa Kania)両氏による共同の論考“A new Sino-Russian high-tech partnership”を参考にしながら、中ロ間の技術協力の軌跡を追い、その技術協力から生じるリスク及び影響を評価する。

大国間競争でパートナーシップ深化
 中ロ関係は、「新時代のための包括的な戦略的協調パートナーシップ」と表現され、世界的な大国間競争が激化するにつれて存在感を増している。

 特に、中ロのハイテク・パートナーシップは、両国がハイテク開発を推進させるために互いの能力を活用しようとしていることから、今後数年間は進展し続ける可能性がある。

 中国は、ロシアのSTEM(科学、技術、工学、数学)分野の研究開発能力や科学技術力を求めてロシアに接近していることは明らかであり、ロシアは中国のハイテク能力の活用を望んでいるようである。

 このような二国間協力で支配的なプレーヤーとなっているのは中国であり、ロシアは相対的に不利な立場に置かれる傾向にある。

 ロシアには、中国のバイドゥ(Baidu)、テンセント(Tencent)、アリババ(Alibaba)のような巨大企業は存在せず、これらの企業はロシア市場を含めてグローバルに拡大し始めている。

 それにもかかわらず、ロシア政府が自国のイノベーションを活性化させようとする中で、中国を目的達成の手段と見なしているが、中国もロシアを目的達成の手段と見なしているとも言える。

 今後、中国とロシアの間のハイテク協力は、短期的に深まり加速する可能性が高い。

 中国とロシアは今まで、生命科学から情報技術、AIなどの最先端技術に至るまで、自由で開かれたSTEMの発展を活用し、その成果を独自の技術エコシステム(生態系)に適用することができた。

中ロ技術協力の背景: 冷戦時代の軍事技術…
 しかし、今日では、そのような自由なアクセスを制限する新たな政策や対抗策が米国を中心として導入されている。

 中国とロシアは、技術革新における独立性を追求し、外国特に米国の専門知識や技術への依存度を低下させようとしている。

 中国とロシアは、デュアル・ユース(軍民両用)技術の開発における協力効果を認識している。両国は軍事協力を拡大しているだけではなく、第5世代通信(5G)、人工知能(AI)、バイオテクノロジー、デジタル経済など広範な技術協力を行っている。

 中国とロシアの技術協力の深化は、米国からの圧力の高まりに対応している。

 米国は、制裁や輸出規制などを通じて、世界の技術エコシステムに対する中国とロシアの関与を制限しようとしてきた。

 これに対し、中国とロシアの指導者は、半導体チップからオペレーティング・システム(OS)に至るまで、外国、特に米国の技術に代わる技術を自国で開発しようと決意した。

 この決意が中ロ協力へのさらなる動機づけとなっている。

中ロ技術協力の背景:
冷戦時代の軍事技術協力
 中ロの技術協力の歴史は、冷戦初期の1950年にさかのぼる。

 当初、中国の国防産業はソ連の技術と兵器の利用から大きな利益を得ていたが、後にリバースエンジニアリングによる技術の窃取による兵器の国産化が進められた。

 しかし、1950年末から1970年まで続いた中ソの対立は軍事協力を中断させ、冷戦終結後まで大規模には再開されなかった。

 その後、ロシアの対中武器輸出は回復し、中国はロシアの軍事技術にかなり依存する状態になった。

 中国は伝統的に、ロシアから航空エンジンを入手してきたし、中国が最新の「S-400」防空システムを取得したことでも明らかだ。

 ロシアによるS-400の中国への提供は、中国のミサイル防衛に大きな貢献をすることであり、中ロの軍事協力の大きな象徴になった。

 2019年10月、ウラジーミル・プーチン大統領は次のように発言した。

技術進歩への戦略的パートナーシップ…
「ロシアは中国のミサイル防衛システムの開発を支援する計画である。現時点でこの技術が完全に実用化されているのは米国とロシアだけであり、ロシアはこの技術を中国と共有することで中国の防衛能力を大幅に向上させることができるであろう」

 今日、中国の技術部門と国防産業は特定の部門と技術においてロシアを上回っている。例えば、中国は現在ロシアの無人航空機(UAV)よりもはるかに優秀なUAVを開発している。

 しかし、ロシア軍は中国製のUAVを入手することに消極的で、代わりに中距離で重量のある国産の無人戦闘機を開発しようとしている。

 一方、ロシアにとって、中国の特定の製品、サービス、ノウハウの取得は、ロシアの産業、政府、軍が必要とするまさに生命線となるかもしれない。

技術進歩への戦略的パートナーシップ
 中国とロシアの戦略的パートナーシップは、ますます技術とイノベーションに集中している。

 特に、2015年の習近平国家主席のモスクワ公式訪問を皮切りに、中国とロシアの両政府は、デジタル経済を含む新たな協力分野に焦点を当てた協定に署名した。

 中国とロシア政府は、企業間の共同プロジェクトやパートナーシップの促進を含む、より深い協力を目的とした新たなフォーラムやメカニズムを数多く立ち上げた。

 時が経つにつれて、中ロのパートナーシップはますます制度化されている。

●対話・交流

 中国とロシアの政府や省庁の間で交流やパートナーシップを促進しようとする対話が増加しており、こうした取り組みは2016年以降特に顕著になっている。

 これらの新たなメカニズムは、STEMの協力ネットワークを構成しており、両国がそれぞれの科学界に関与し、今後拡大していく可能性がある。

 2016年から、中国ロシア・ハイテク・フォーラムが毎年開催されている。2017年のフォーラムでは、ロシア及び中国の技術投資家の間での直接的かつ開かれた対話の創設、並びにイノベーション及びハイテク分野における協力の拡大・多様化に取り組んだ。

 特定のプロジェクトには、中国のロシアのシンクロトロン加速器プロジェクトへの参加が含まれる。

 北京での最初の対話には、生物医学、ナノテクノロジー、新材料、ロボット工学、無人機、人工知能などの産業から100以上の中国とロシアの企業が参加し、革新的な技術を披露し、協力のための新しい協定を締結した。

●科学技術パーク…
科学技術パーク

 中ロ間の科学技術パークの数が増加していることは、協力関係が拡大していることを如実に表している。モスクワと中国政府は、科学技術パークは、持続的な二国間協力に不可欠な基盤とインフラを構築できると考えている。

 2016年6月、中ロイノベーションパーク計画が開始された。このパークは2018年に完成し、情報技術、生物医学、人工知能の企業が参加している。

 また同時期に、中ロ投資基金とスコルコボ財団は、中国に医療用ロボットセンターを建設し、医療用ロボットを製造する契約に調印した。

 2010年に立ち上げられたスコルコボ・イニシアティブは、ロシアを代表する技術革新の場である。この財団は、ディープ・マシン・ラーニングやニューラルネットワーク技術を含む多くのハイテク・プロジェクトを管理している。

 2017年12月、中ロ両国の科学技術パークは、スコルコボに中露ハイテクセンターを建設することで合意した。このセンターは、ロシアのシリコンバレーになることを目指している。

●コンテストと競争

 2018年9月、最初の 「中ロ産業革新コンペティション」 が西安新区で開催された。ビッグデータ、AI、ハイエンド製造に焦点を当てた。

 競い合ったプロジェクトには、北京航空宇宙大学の飛行ロボットプロジェクトや、仮想現実と機能的電気刺激に基づく脳制御リハビリテーションロボットが含まれた。

 中国科学アカデミーは6万7900人以上の科学者を研究活動に従事させており、ロシア科学アカデミーは5万5000人以上の科学者を雇用する国内の550の科学機関と研究センターを含んでいる。

 プロジェクトにはAIの要素を含む脳機能への集中が含まれている。ロシア側は、中国の脳プロジェクトの立ち上げを含め、中国が神経科学分野で世界をリードする地位を占めているという事実に動機づけられている。

 脳の研究は、遺伝学から心理・物理学的機能に至るまで、様々な分野の研究である。これには、神経変性疾患の研究と、神経形態学的知能に基づく人工知能システムの開発が含まれる。

 このプロジェクトへの参加はロシアにとって非常に重要である。中国はこれに多額の投資をしており、いくつかの分野で世界のリーダーになっている。

パートナーシップの優先事項…
パートナーシップの優先事項
 中ロ関係が 「新時代」 に入っていく中で、特に重視されてきた分野としては、通信が挙げられるが、これに限定されない。ロボット工学とAI、バイオテクノロジー、ニューメディア、そしてデジタル経済だ。

●次世代通信におけるファーウェイの戦い

 ファーウェイをめぐる米国と中国の覇権争いは、中ロの急速な協力関係の深化に貢献した。

 事実、プーチン大統領は、中国企業に対する米国の圧力を 「来るべきデジタル時代の最初の技術戦争」 と呼んだ。

 世界的な圧力の増大に直面しているファーウェイは、今年、ロシアの学界と連携しSTEMの専門知識を活用するためにロシアへの関与を拡大した。

 ファーウェイは2019年、ロシアの国家技術イニシアティブと人工知能に関する協力契約を結んだ。そして、ファーウェイのロシアにおける研究開発人員を4倍に増やす計画を発表した。

 2019年にはロシアで 「ファーウェイ・イノベーション・リサーチ・プログラム」 が発足し、ロシアの研究機関に対しファーウェイから様々な分野で140件の技術協力の要請があった。

 2019年末までに500人を採用し、今後5年間で1000人以上の専門家を採用する予定だ。

 現在、ファーウェイはモスクワとサンクトペテルブルクに2つの研究開発センターを持ち、それぞれ400人と150人が働いている。

 今後、さらに3つの研究開発センターを開設する計画で、ロシアは欧州と北米に次ぐ「ファーウェイ研究開発センター」の上位第3位にランクされる。同社は、ロシアの科学コミュニティ、大学、その他の研究センターと緊密に協力することを計画している。

 ファーウェイはロシア連邦での5Gテストを積極的に拡大しており、ロシアのヴィムプレコム(Vimplecom)と提携してモスクワでの5Gテストを8月から開始している。

 ファーウェイに対する米国の圧力が続く中、グーグルのOSであるアンドロイドを完全に捨て、ロシアのアブローラ(Avrora) OSに置き換える可能性さえある。

●人工知能、ビッグデータ、ロボット工学…
人工知能、ビッグデータ、ロボット工学

 中国とロシアにとって、人工知能は技術協力における最優先事項となっている。

 例えば、ビッグデータの共有を拡大するために、中ロの「ビッグデータ本部基地プロジェクト」が進められているほか、AI技術特に自然言語処理を活用して、中国とロシアの企業向けに国境を越えた商業活動を促進するプロジェクトも開始されている。

 ロシアは、技術革新において独自の強みを有しており、多くの科学技術分野において顕著な革新を達成している。中国とロシアは独自の経済的潜在力を持ち、多くの分野で協力の豊富な経験を有している。

 ロシアのAI市場における世界シェアは小さいが、その市場は成長し成熟しつつある。ロシアの科学者と中国のロボット企業が協力して、ロボット工学と人工知能の分野でさらなる飛躍を遂げることができる。

 ロボット工学の分野で中国と協力するには、医学が最も有望かもしれない。

 AIの進歩は、大規模なコンピューティング能力、機械学習するのに十分なデータ、そしてそれらのシステムを操作する人間の才能にかかっている。

 今日、中国はコネクテッド・カーや顔・音声認識技術などのAIのサブカテゴリで世界をリードしている。

 ロシアは産業の自動化、防衛・安全保障アプリケーション、監視において強みを持っている。人工知能における中ロの協力関係は、拡大することが期待される優先課題である。

●デジタル経済

 中国の巨大IT企業は、ロシアで生まれつつあるデジタル経済にビジネスチャンスを見出している。中国企業がこの市場に参入するにつれて、ロシアのデータ・センターの能力は向上している。

 例えば、この1年間で、600以上のテンセント・ラック(サーバーの置き棚)がモスクワに設置され、同社の最大のプロジェクトとなった。

 テンセントのインフラは、クラウドサービスとゲームの開発に使用される。このプロジェクトは、ヨーロッパでインターネットユーザ数が最も多いロシア・テンセント(ユーザー数約1億人:75%の浸透率)に新しい可能性を切り開くものである。

 アリババは、ロシアの億万長者アリシャー・ウスマノフ(Alisher Usmanov)のインターネットサービス会社メイル(Mail)と20億米ドルのジョイント・ベンチャーを設立した。

 1億4600万人が住むロシアで、両社のオンライン市場を統合するという。この取引はロシア政府がロシア直接投資基金を通じて支援しており、現地の投資家が共同で新事業を管理することになっている。

中ロパートナーシップの難しさ…
中ロパートナーシップの難しさ
 中ロの科学技術協力はいくつかの問題に直面している。

 例えば、ロシアは依然として西側の技術に依存し、ロシアは中国のハイテク技術を受け入れることに熱心ではない。

 中国のパートナー企業によるロシアの知的財産の盗用と偽造品の生産は広く行われていて、ロシアの学術・大学の科学センターや企業における信頼感が大幅に低下している。これは、両国間の革新的な協力を制限する大きな要因である。

 またロシアは、中国が最も優秀な科学者をヘッドハンティングするのではないかと懸念している。

 ロシア科学アカデミーのトップは、「中国がロシアのSTEM(科学・技術・工学・数学)の優秀な人材をより良い賃金と労働条件で引きつけ始めているようだ」と懸念を表明している。

 この問題は、中国とロシアの双方にとって頭の痛い問題である。

 両国の有望な若い科学者は、米国で働くことを好む。ロシアで最高の教育を受けた若者、特にすでに国際的に活躍できる職業上の地位が確立されている人々には、米国移住への強い欲求がある。

 これは特にロシアに当てはまり、カリフォルニアの快適さ、太陽、ワイン、山、海にあこがれる人たちがすでにロシアを去ってしまっている。

 また、中国では政府がSTEMに優れた人々に中国にとどまるよう多くのインセンティブを与えているが、多くの研究者が海外特に米国で働くことを選んでいる。

 中国のハイテク企業に対する情報保全上の不信感もある。

 例えば、テンセントは2017年に、同社のソーシャルメディアアプリ「WeChat」の使用が禁止された。

 安全保障上の理由で、ロシアの通信監視機関ロスコムナザール(Roskomnadzor)は、禁止されたウエブサイトの登録簿にWeChatを登録したのだ。

おわりに…
おわりに
 現在メディアなどにおいて話題になっている「中国とロシアの同盟の成立」は難しいと思う。なぜなら、同盟には相互防衛の義務が伴うが、ロシアは中国が絡む紛争に関与したくないし、中国もロシアが絡む紛争に関与したくないからだ。

 一方で、大国間競争の時代におけるハイテク分野における中ロの協調は現在進行中であり、世界に大きなインパクトを与えるであろう。

 中国やロシアが普通の民主主義国家であれば問題がないが、中国は共産党一党独裁体制を強化し、ロシアではプーチン大統領が中央集権体制を強化している。

 このような権威主義国家同士の密接な協力関係の進展は、安全保障、世界経済、人権、各国の競争力という観点で民主主義諸国において大きな懸念となっている。

 特に、中国とロシアは、検閲と監視を強化する技術についても協力しており、中国のデジタル監視社会を支えている監視技術やシステムのグローバルな拡散は望ましいことではない。

 また、知的財産窃盗、不適切な技術移転にも適切な対処が必要だ。そして、両国は国家の「サイバー主権」と「インターネット管理」において、自国にとって望ましい考えを正当化し促進し、国際基準にしようとしている。

 日本と米国は、志を同じくする民主主義国家と連携して、中ロからの技術的な奇襲のリスクを軽減し、将来の脅威を早期に回避する努力が急務になるであろう。

もっと知りたい!続けてお読みください
クルド人見殺し「次は台湾」が現実味

一帯一路からデジタル覇権へ舵切った中国の野望
世界中の独裁政権が渇望するデジタル監視技術で世界制覇狙う
渡部 悦和

中国建国70周年軍事パレードが示す本音と虚構
人民解放軍の狙いと弱点が見えた!
渡部 悦和

中国が狙う台湾侵攻の手順と方法
日本の安全保障に欠かせない台湾防衛
渡部 悦和

嘘に満ちた中国国防白書を読み解く
米国を厳しく批判する一方、消えた名指しの日本批判
渡部 悦和
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58175

 


「2Q14」以降ロシアとウクライナに何が起きたか
ロシア専門家「小泉悠×真野森作トークイベント」から
2019.11.14(木)
新潮社フォーサイト
ロシア

小泉悠氏と真野森作氏によるトークイベントの模様
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(文:フォーサイト編集部)

 株式会社ゲンロン(東京・五反田)主催のもと9月18日に行われた、小泉悠氏と真野森作氏によるトークイベント「ロシアにとって国境とはなにか:ウクライナから北方領土まで」から一部を再録してお届けする。

 ウクライナ危機の勃発から5年、政府と親露派の対立が続く東部ドネツク、ルガンスク両州で、再び「停戦」に向けた動きが見えてきた。

 10月1日、双方の代表者が、停戦とともに親露派の地域に「特別な地位」を付与することで基本合意。29日に兵力の引き離しが始まった。もっとも、たとえ停戦合意が結ばれたとしても、前回と同様、有名無実化する可能性もゼロとは言えない。

 2013年11月、当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ政権が欧州連合(EU)との連合協定を見送ったことに端を発したウクライナ危機は、政権崩壊、クリミア編入、東部2州の「独立宣言」、マレーシア航空機撃墜事件を経て泥沼化。東部2州では2015年2月に停戦合意が結ばれたものの、すぐに戦闘が再燃し、今に至っている。

 今年5月、「和平」を公約に掲げるウォロディミル・ゼレンスキー氏がペトロ・ポロシェンコ氏から大統領の任を引き継いだが、その道のりは険しい。

 一体、ウクライナ危機とは何だったのか。この問題を2つの方向から解き明かしてくれるのが、ロシア軍事の専門家・小泉悠氏の近著『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)と毎日新聞元モスクワ特派員・真野森作氏の『ルポ プーチンの戦争』(筑摩書房)だ。

 ロシアにとってのウクライナという存在を「勢力圏」や「大国志向」という概念から分析する理論的アプローチを取るのが前者なら、実際にクリミアや東部2州の現場で「生のウクライナ」を捉えたのが後者である。

覆面の民兵が銃口を・・・
真野 私はウクライナにおける2014年を、村上春樹さんの『1Q84』になぞらえて「2Q14」と表現しています。

『1Q84』は1984年から月が2つある世界に行ってしまうお話ですが、ウクライナとロシアも2014年で世界がガラッと変わってしまった。普通の2014年ではなくなってしまい、クリミアで終わらずウクライナ東部紛争、さらにマレーシア機撃墜事件と続き、大きな転機、それも不可逆的な転機となった。

何が怖かったかと言うと、民兵

 ちょうど2013年秋から2017年春までモスクワ支局に赴任していたので、17回ウクライナに入りました。

 よく「現場に行くとどんな怖いことがあるのですか?」と聞かれるのですが、特殊部隊などの統制の取れた兵士は怖くありません。


本コラムは新潮社の会員制国際情報サイト「新潮社フォーサイト」の提供記事です。フォーサイトの会員登録はこちら
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小泉 クリミアには、アメリカの「ネイビーシールズ」のようなロシア軍の最精鋭中の最精鋭が送り込まれました。「クリミア・ナウ」みたいな自撮りをネットに上げるなど、日本の特殊作戦部隊なら絶対にやらない自由な振る舞いをしちゃうところがロシア人っぽい。

真野 でも、記者がロシア語で話しかけても一切無視するくらいの統制は取れていた。じゃあ何が怖かったかと言うと、民兵です。

 ウクライナ大統領選が行われた2014年5月25日、親露派に反対の立場を取るドネツクの大富豪の豪邸の周りに、親露派の人々が集まって抗議をしていました。その時、望遠レンズで写真を撮っていたら、覆面をした民兵と目が合ってしまい、銃口を向けられた。謝ったら許してくれましたが、非常に怖かったです。


覆面の民兵(真野氏提供)
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小泉 覆面の向こうで凄い目をしている(笑)。

真野 大統領選の翌日、ウクライナ側がドネツク国際空港を初めて空爆して戦闘が本格化していきました。私はその時、市の中心部にいたのですが、空爆が始まったと聞いて地元記者と空港に向かった。すると、後ろから親露派武装勢力の乗ったトラックがやって来て、私たちのすぐ目の前で銃撃戦が始まった。急いで逃げました。

小泉 真野さんの本を読んで、そのシーンが凄く印象的だった。内乱みたいなものが本当の戦争に変わった瞬間ですよね。

 2014年7月くらいの段階で、ウクライナが躍進するんですよね。航空戦力、火力を持った統制の取れたウクライナ正規軍が寄せ集めの親露派武装勢力を蹴散らした。

 でも、8月にロシア軍が入ってきたら、あっという間に逆転されて、ウクライナは勝てなくなってしまった。

見事だった「クリミア制圧」
真野 クリミアの時は、ウクライナ軍も政変直後なので統制が取れておらず、動かないし動けないという状況の中で、何もできなかった。何もしなかったから血も流れなかった。

小泉 ロシア軍の動きが素早くて、ウクライナとしてはどうしようもありませんでした。

当時のロシア軍の動きが分かっている
 実はクリミア制圧については、どの部隊が何日にどこに上がったか、というレベルで研究が存在していて、相当詳細に当時のロシア軍の動きが分かっていますが、まあ見事ですね。

真野 まずあっという間にクリミアの自治共和国議会を制圧し、シンフェロポリ国際空港を制圧し、各ウクライナ軍基地を取り囲んで動けなくしたうえで、海は海で艦隊が出られないようにした。相当練り上げられていたのでしょうか。

小泉 おそらく2013年11月にキエフで騒乱が起こった段階でプランとしてはあったと思います。ロシアの参謀本部がつくったはずです。

 ただ、それを実行に移すかどうかは政治の判断。ロシア軍も本当にやることになってびっくりしたのではないかと思いますよ。

 やれと言われればやるわけですが、ロシア軍は2008年頃から大規模な改革を行い、贅肉を落としてかなり優れた軍隊に生まれ変わったので、2014年当時には相当、能力が上がっていました。その成果をまさに実証してみせた。

 ウクライナ軍の兵隊を見ると、着けている装備がいかにも古めかしい。革のベルトをしていますが、今ロシア軍はこんな格好していません。

シナリオ作りにSF作家を雇ったフランス軍
真野 最近、ウクライナ危機前に出版されたトム・クランシーの『米露開戦』(新潮文庫)を勧められたのですが、この小説の中でロシアがウクライナに侵攻する発端も、クリミアであり、ドンバス(ドネツクやルガンスクなど東部3州とロシアにまたがる広大な炭田地帯)なんですよね。ここがウクライナの弱い場所であるというのが、アメリカから見てもあった。

小泉 ソ連崩壊直後からクリミアの帰属問題がありました。そもそもクリミアのセバストーポリにいたソ連の黒海艦隊は、ロシアのものなのか、ウクライナのものなのか、という議論もあった。トム・クランシーも、ここが戦争のきっかけになると思ったのでしょうね。

 小説家の一見、荒唐無稽な思い付きが、割と現実になっちゃったりする。

 最近、フランスの国防省がSF作家を4、5人雇ったというニュースがありましたね。将軍たちからは絶対に出てこないような作戦や脅威のシナリオを彼らにつくってもらうらしい。クリエイターの想像力が軍隊にとっても必要みたいですね。

真野 常識に囚われない。

ドネツク市の警察庁舎が占拠される場面
小泉 我々がクリミア併合を予測できなかったように、プロの軍人さんがつくると「いやいや、それはさすがにないでしょ」みたいな専門家であるが故のバイアスがかかる。それを外したいのでしょう。

明らかにプロフェッショナルな人たちがいた
真野 かたやドンバスでは、ドネツク市の警察庁舎が占拠される場面に出くわしたのですが、親露派が集まっている中に、明らかにプロフェッショナルな人たちがいた。地元の記者によれば、言葉のアクセントが違っていたり、街のことを知らなかったりした。

 ですから、地元の人たちが危機感を持って立ち上がった面もゼロではありませんが、ロシア側が焚きつけてうまくやっていた面もあった。

 たとえば、イーゴリ・ストレルコフという親露派のリーダー格の1人(独立宣言とともに国防相兼安全保障会議書記に就任)は、かつてチェチェンで活動していました。そういう実戦経験を積んでいる人たちが投入されたのだろうと思っています。

 警察もあれだけの民間人がいると何もできない。あっという間にウクライナ保安庁(SBU)の庁舎も占拠されてしまった。

小泉 SBUは要するに元KGB(ソ連国家保安委員会)。それが武装解除するというのは、もの凄い話ですよ。

真野 なので地元の人も、SBUを簡単に武装解除させるなんておかしいでしょ、親露派と通じていたんだよね、と言う。

 小泉さんの『「帝国」ロシアの地政学』に「ロシアの浸透膜」というお話が出てきます。ロシアと他の旧ソ連諸国との間に国境はあるんだけど、それは浸透膜のようなもので、じわーっとロシアの汁みたいなものが滲み出ている。

小泉 「プーチンの出汁」みたいな(笑)。ウクライナの方だと薄味。

真野 お出汁が好きな人もいれば嫌いな人もいるのですが、膜のこっちと向こうを行き来している。

 その観点から言うと、プーチンの出汁がじわじわと時間をかけて浸透していた面があります。

小泉 SBUも立ち回りがうまい人たちなので、徹底抗戦はしないで適当なところで手を打ったという感じはしますよね。

「ウクライナ軍機落としたぜ」
荒廃していったドネツク
真野 その後、5月の空爆以降、ウクライナの航空戦力が出てきたのですが、ウクライナ軍機がだんだん落とされるようになったのが2014年7月頃。その中で起きたのがマレーシア機撃墜事件でした。

 最初は親露派も「ウクライナ軍機落としたぜ」などとSNSで書いていましたが、さすがにこれだけの事件になると、すぐに消した。

小泉 この事件の翌日だったか、プーチンが1日中教会にいましたよね。

 彼がいい人か悪い人か分かりませんが、一応、倫理観はあるのだろうと思うので、プーチンなりに責任を感じていたのではないかと思います。

真野 だんだんドネツクの方は荒廃していきました。子供たちが流れ弾に当たったり、クラスター爆弾をつい手に取っちゃって爆発し、何人か亡くなったりもした。

小泉 スクールバスに弾が直撃してしまった事件もありましたよね。

真野 難しいのは、前線になると、親露派とウクライナ政府側のどちらがやったのか分からないこと。どちらも相手がやったと言いますし、親露派の子供たちはウクライナ政府がやったに違いないと思っているので、「将来は僕も兵隊になって倒すんだ」と言う。

 街外れの炭鉱では、ソ連時代の地下核シェルターに住んでいる人もいました。

小泉 僕がモスクワ留学時代に住んでいた団地の地下にもありました。核シェルターというより防空壕。ちょっと地下に潜って入れる避難所があって、めちゃくちゃ臭い。旧ソ連の仲間の攻撃によってそこに潜らないといけないというのは、皮肉な話ですよね。

名前のない墓はなぜ?
真野 戦死したウクライナ兵のお母さんにもインタビューしたのですが、彼女の息子はドネツク空港からの撤退時に仲間を助けようとして捕虜になり、射殺されたそうです。

小泉 ロシア兵が東部戦線で戦死したウクライナ軍の兵士の携帯電話を取ってお母さんにかけ、「息子さんが戦死されました」と伝える動画がネットに出回っています。ロシア軍兵士も母親を傷つけないように言葉を選んで、感情を抑制しながら話している。

 携帯電話で言葉が通じる関係なのに、ここまでしなきゃダメなの?と思いますよね。

おそらくロシア軍人または
真野 ドネツク市郊外の墓地に行くと名前のない墓があります。おそらくロシア軍人またはロシア人義勇兵のものです。悲惨なのは、このウクライナ紛争に送られて亡くなったロシア軍兵士は、「戦死」という扱いにならないこと。そもそも何人亡くなっているかも分かりません。

小泉 第2次世界大戦でソ連兵はめちゃくちゃ悲惨な戦いを繰り広げたわけですが、あの時はパルチザンでさえ全員恩給の対象になりました。名誉が与えられ、社会的な尊敬を集めている。

 でもウクライナ紛争で亡くなった彼らは、ロシアが後ろ暗い戦争をしたせいで、命を投げ出して国家に奉仕したのに、栄光もなければ手当てもない。そこはプーチンさん、それでいいんですか?という気がします。

真野 あくまでも「戦争」ではないし、一切、侵略もしていなければロシア軍兵士も出していないよ、ということになっている。

ソ連崩壊はまだ終わっていない
真野 私の1つの結論は、ソ連の崩壊が終わっていないのではないかということです。

 ロシアはソ連みたいなものと思っている人たちが旧ソ連圏各国にたくさんいる。ロシアはソ連崩壊で15カ国のうちの1つになった。広いけれども、ウクライナなど大事なところがなくなってしまった。

 小泉さんは本の中で「巨人の見る夢」に見立てていましたが、私のイメージでは幻肢痛。切られてしまったのに、まだ「ある」と感じる足みたいなものなのではないかと思います。それが続いている限りソ連崩壊はまだ終わっていないのかなという気もします。

 すぐに何かあるとは思わないですが、カザフスタンも北部にはロシア系の人たちが結構住んでいる。

小泉 カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ氏が大統領の勇退という珍しい決断をした。ウズベキスタンのイスラム・カリモフ元大統領を見る限り、死ぬまで権力を握ったら残された娘たちが悲惨なので、私は生きているうちに引退すると言って辞めたわけです。おそらく娘に継がせる気があるのでしょう。

 あからさまな世襲をする気で、一旦はカシムジョマルト・トカエフ氏に大統領を任せたけども、いずれナザルバエフ氏の娘に権力を移すとなった時に、果たしてうまくできるのか。そうならずに、カザフスタン北部にまた「礼儀正しい人たち」が「夏休み」でやってくる可能性もある。あるいはロシアの冬は寒いので避寒でやってくるかもしれませんが。

 バルト三国も、ラトビアとエストニアは国民の4分の1がロシア系住民です。彼らは結構、厳しい扱いを受けているので、ロシアがうまいこと焚きつけて・・・ということはなくはない。ただ、バルト三国はNATO(北大西洋条約機構)に入っているので、さすがにないとは思います。

後継者を見つけるという非常に難しい作業
神輿からおりつつ後継者を見つける
真野 内政についても触れておいた方がいいのかなと思うのですが、プーチン大統領の支持率の推移を見ると、2005年に一気に下がる。原因は政府の年金改革でした。そこから盛り返して、2011年12月には下院選で不正があったということでモスクワとサンクトペテルブルクを中心に反政府デモが起き、また下がりました。

 その後、大統領に再選し、ずっと60%台できていたのが、クリミア編入で9割近くに一気に上がった。しかし、やはり年金改革を行うとなって2019年に60%台に下がった。

 社会保障のインパクトが強い。「冷蔵庫」(経済)と「テレビ」(愛国プロパガンダ)の戦い。どうも冷蔵庫の方が強いのかなという感覚です。

 そのあたり小泉さんの義理のお母さん(ロシア人)の感覚はいかがですか。

小泉 めちゃくちゃ怒っていますよ、年金の話。

真野 また9月の統一地方選はつくり上げた勝利でした。モスクワ市議選では有力な無所属候補は出させないようにし、与党の「統一ロシア」の候補は無所属として出した。

 特にモスクワ、ペテルブルクでは不満がじわじわ溜まっています。

小泉 これまでプーチン政権下では「冷蔵庫」が充実してきたけれども、こうなるとみんなついてこない。昔からプーチンは「原油バブルは続かないから産業構造を変えないとダメだ」と言ってきましたが、周りの権力者との折り合いがつかない。そこが神輿の辛いところです。

 プーチンは今、軍、情報機関、ガス産業、ロシア正教会といった各利益団体が担ぐ神輿に乗っています。本人も振り落とされないように必死。振り落とされないようにしながら、うまいこと神輿からおりつつ、後継者を見つけるという非常に難しい作業に取り組んでいる最中です。

 それが果たしてうまくいくのか。そういう転機に来ているのかなと思います。

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コメント
1. 2019年11月15日 01:24:08 : LY52bYZiZQ : aXZHNXJYTVV4YVE=[3621] 報告
トランプ大統領がついにSNSで公式宣言!アメリカの真の敵は中国共産党とFRB!!
.
新国際政経
2019/11/14 に公開
https://www.youtube.com/watch?v=h-2b-bnKwXI
2. 2019年11月15日 11:55:55 : WBLR85rxFg : ZzhJWXh6ckNBTlk=[235] 報告
>関係改善が喧伝されている日本の国民

世界が以前と異なってギスギスしてきた以上、そもそも対中・対韓などに対して日本政府が抱いている感覚にあってどうして関係改善なりうるか。冷静な評価が求められる。どうしても必要ならば、政府と異なって民間での信頼関係を強く創造することが大事であろう。

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