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反政府デモの標的はイラン、イラクとレバノン“第二のアラブの春” ラテンアメリカが陥った「資源の罠」 EU拡大拒否というマクロンの大きな過ち
http://www.asyura2.com/19/kokusai27/msg/708.html
投稿者 鰤 日時 2019 年 11 月 12 日 18:37:54: CYdJ4nBd/ys76 6dw
 

反政府デモの標的はイラン、イラクとレバノン“第二のアラブの春”

2019/11/12

佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

 イラクとレバノンで政治・経済改革や腐敗の一掃を叫ぶ反政府デモが拡大、それぞれ国家を揺るがす深刻な事態に陥っている。レバノンではハリリ首相の辞任に発展、イラクではこれまで、デモ隊と治安部隊の衝突で約320人が死亡した。デモの背景には両国に強い影響力を行使するイランへの反発があり、「シーア派諸国の支配」(専門家)というイラン戦略に狂いが生じている。


11日バクダッド市内で行われたデモ(AP/AFLO)
史上初の草の根運動
 両国の抗議行動は期せずして10月から始まった。イラクの首都バグダッドでは、若者らがインターネットやスマホのソシャルメディア(SNS)を通じた呼び掛けで集まり、政治改革や汚職・腐敗の一掃、雇用の拡大などを要求。その運動が電力や水、住宅不足などインフラに対する不満と直結して爆発、抗議デモは瞬く間に拡大した。

 注目されるのは、デモが発生しているのが政治を牛耳る中部以南のシーア派地域に集中している点だ。中西部に集中する少数派のスンニ派地域や北部のクルド人地域ではまだ発生していない。つまりはシーア派支配層に、同じシーア派の若者たちが反乱を起こしている構図であり、「史上初の草の根運動」(アナリスト)と指摘されるように、宗教や政治派閥に関係なく、「社会正義」の実現を目指している点が特徴だ。

 イラクの人口4000万人のうち、米軍侵攻のあった2003年以降に育った若者は60%にも達する。こうした若者は良きにつけ悪しきにつけ米国流の自由と民主主義を身近に感じ、インターネットの発達で世界情勢を目にし、自分たちの置かれた境遇とあまりにも異なる現実にショックを受けた。

 なぜなら若者たちの日常は、米軍の侵攻による内戦や過激派組織「イスラム国」(IS)とのテロとの戦いなど戦火とともにあり、満足に教育も受けられなかった上、大学を卒業しても就職先は見つからず、不満は高まる一方。イラクの豊富な石油資源の売却による国家収入が一部の支配層に詐取され、適正に分配されていない、という怒りもうっ積していた。

 若者たちの攻撃の矛先のもう1つの標的はイランである。イランはシーア派の盟主として、米軍侵攻当時からイラクのシーア派にテコ入れし、昨年の秋には「イランが思うように動かせるアブドルマハディ首相を政権に就けることに成功」(ベイルート筋)、イランによるイラク支配が強まった。

 米ニューヨーク・タイムズによると、イランが影響下に置いている官庁は内務省や労働省、通信省、社会問題省など5つに及ぶという。若者たちが、イランが支援するイラクの民兵組織や国会議員を裏で使い、イラクに汚職を振りまき、富を搾取しいていると非難しているのはそういう事情からだ。イラクにおける民衆の敵は、独立時の「反英」、米軍侵攻時の「反米」、そして現在は「反イラン」に変わった。

謎の将軍がデモ弾圧を指南
 イランへの非難が高まるにつれ、若者たちのデモも暴力的になった。11月3日には、シーア派の聖地、中部カルバラにあるイラン総領事館にデモ隊が殺到。建物に火炎瓶を投げ、イランの国旗を引きずり下ろした。南部でも、イラン支援の民兵組織「アサイブ・アルハク」の本部が襲われ、救急車で運ばれようとした幹部が殺害された。

 バグダッドのデモでは、イランの最高指導者ハメネイ師やイラクの政治を背後で操っているといわれるカセム・ソレイマニ将軍の顔写真に赤いバッテンが付けられて掲げられた。同将軍はイラン革命防衛隊のエリート部隊コッズの司令官。海外戦略を担い、その神出鬼没の行動で謎の将軍として知られる人物だ。

 イラクからの報道などによると、アブドルマハディ首相は抗議運動の激化で、一時辞任する腹を固めたが、急きょバグダッド入りした将軍が「デモは米国とイスラエルによる陰謀」などとして、首相に辞任しないよう圧力を掛けて撤回させたという。将軍はイランが民主化運動を鎮圧した事例を引き合いに出し、強硬策で当たるようイラク側に要求した。

 将軍のバグダッド入り後、イラク政府はデモ隊との対話路線を転換。治安部隊や民兵組織のスナイパーが屋上からデモ隊指導者を射殺したり、デモ隊の負傷者を手当てしようとしていた医師団を誘拐するなどした。最近では、デモ隊にスパイを送り込んで参加者の写真を撮影、携帯に写真を送って脅すなど切り崩しを図っている。

“聖域”ヒズボラへの非難
 レバノンでは、ハリリ政権が「ワッツアップ」など無料だった通信アプリに課税することを発表したことをきっかけに、若者らが10月中旬から政治改革や腐敗の撲滅、雇用の増大などを叫んで立ち上がり、反政府運動は瞬く間に全土に波及した。デモは首都ベイルートで数十万規模に膨れ上がり、治安部隊とも衝突した。ハリリ首相は課税案の撤回や国会議員や公務員の給料の半減などの改革案を発表したが、抗議行動は収まらなかった。

 デモの背景としては、経済の低迷がある。人口600万人の小国レバノンでは近年、景気が低調で、通貨の下落や失業率の高止まりなどに悩み、世界第3位の借金大国に陥った。金持ち3000人が国家収入の10分の1を稼ぐという貧富の差も拡大した。昨年、117億ドルという国際的な支援がまとまったが、支援は政治・経済改革を見てから履行するとして凍結されたままだ。

 抗議行動が周辺国を驚かせたのは、同国を牛耳り、“聖域”とされてきたシーア派武装組織ヒズボラに対する非難を激化させたからだ。強力な中央政府が存在しないレバノンは中東の柔らかい脇腹といわれ、1975年から始まった内戦下では、武装勢力が群雄割拠し、中でもアラファト議長率いるパレスチナ解放機構(PLO)が事実上支配する状況が続いた。

 しかし、PLOがイスラエルや米国によってレバノンを追われた82年以降は、イランが創設したシーア派武装組織ヒズボラが力を持ち、政治や経済ばかりか、社会全体を仕切るまでに成長した。その結果、ヒズボラがレバノンの利権を抑え、腐敗が一段とまん延した。

 ヒズボラの指導者ナスララ師は「デモは混乱を招く空白を作り出している」と非難している。この非難を受けてか、ベイルートのデモ隊の拠点がヒズボラと見られる一団に襲われる事件が続発したが、こうした行為は逆に若者らの怒りに拍車を掛けた。

 イラクとレバノンというイランの影響下にある両国の反政府行動について、イランの最高指導者ハメネイ師は「米国と西側の情報機関がこれらの国で政情不安を煽っている」と批判した。ハメネイ師自ら、米国の陰謀論を持ち出さざるを得ない現実がイランの危機感を物語っているが、“第二のアラブの春”といわれる両国の騒乱の行方は今後の中東情勢に大きな影響を与えるだろう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/17879

イランが未申告の場所から核物質検出、IAEAが報告書
 IAEA=国際原子力機関は、イランがこれまで申告していなかった場所から核物質の検出が確認されたとする報告書をまとめました。

 IAEAは11日、イラン核合意の検証に関して報告書をまとめ、関係各国に公表しました。

 ロイター通信などによりますと、この中でIAEAは、イランがこれまで申告してこなかった場所から、核物質の天然ウラン粒子を検出したことを確認したとしているということです。イランが秘密裏に核開発を行っていることは、以前からアメリカやイスラエルなどが指摘していましたが、今回、その可能性をIAEAが認めたことは崩壊の危機にある核合意にとって大きな打撃となりそうです。

 また、IAEAのフェルータ事務局長代行は、核合意でウランの濃縮が禁じられているイラン中部のフォルドゥにある地下核施設で、濃縮活動が始まったことを確認したとしています。イランは核合意の段階的な履行停止の第4弾として、この施設でのウラン濃縮活動を再開させたと発表していました。イラン側は「IAEAとの対話は続いていて、他国により導かれた結論は矛盾しており受け入れられない」としています。

イラン軍が無人機撃墜、外国が領空侵犯と主張
9日 2時57分
イランで“未申告”核物質検出か、IAEA特別理事会
8日 3時59分
イラン、中部の施設でウラン濃縮再開
7日 10時50分
イランのさらなるウラン濃縮を非難
6日 11時18分
イラン“禁止施設”で核濃縮再開へ
6日 0時00分
米 イラン最高指導者の息子らに制裁、大使館占拠から40年
5日 18時43分

https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3828201.html


 
ラテンアメリカが陥った「資源の罠」

2019/11/12

花田吉隆 (元防衛大学校教授)


チリの首都サンチアゴ
 何やらラテンアメリカがきな臭い。10月31日、チリのセバスティアン・ピニェーラ大統領は高まる国内の不穏な空気の中、ついにAPECとCOP25(国連気候変動枠組条約締結国会議)開催を断念した。米国のトランプ大統領は、急遽APECの際行うことを予定していた米中首脳会談を、どこか他で行うべく調整中とされる。APECの開催断念はこれまでなかった事態だ。

 チリでは、政府が地下鉄運賃値上げを決めたことに国民が反発、この3週間余り連日デモが続いている。ピニェーラ大統領は燃え上がる抗議の嵐を前に、18日、戒厳令を布告、更にその後、夜間外出令を出したが、抗議は収まるどころか逆に燃え上がった。大統領はやむなくこれらを解除、閣僚の8名を交代させるとともに、年金最低支給額の2割引上げ、最低賃金の引上げ、貧困層の医療負担削減等、融和策を明らかにした。しかし、既に死者20人に上り、なお混乱が収まる気配はない。

 ところで値上げされた地下鉄運賃は30ペソ、日本円にして4円ほどだ。どうして国民は少額の値上げにこれだけ怒りを露わにするのか。

 否、不穏な空気はチリだけでない。ボリビアについては拙稿「ボリビア大統領選の裏の構図」で述べた。エクアドルでは、政府が燃料補助金を廃止したことに国民が反発、デモのあまりの激しさに、大統領は首都を一時移転した。ハイチ、ホンデュラス、ベネズエラ、ペルー等、ラテンアメリカで国民の抗議は燃え盛るばかりで沈静化の気配は一向にない。一体、ラテンアメリカはどうしてしまったのか。これらは互いに脈絡なく起きているのか、あるいは、そこに共通原因があるのか。

中間層はラテンアメリカを変えるとまで言われた
 時計の針を20年ほど巻き戻してみる。ラテンアメリカが一次産品ブームに沸き、アジア共々、21世紀を担う期待の星と騒がれたのは今世紀初頭のことだ。一次産品ブームは主として中国による買い付けが背景にあった。ラテンアメリカはどこも、急速に発展する中国の需要を受け、かつてないブームに沸いた。2003年から2013年の10年間、ラテンアメリカの一人当たり成長率は3.5%を記録する。好調な経済は、それまで貧困に苦しんでいた人々を救い出し、新たな中間層が形成された。その数、約1億人という。当時、この新しい中間層はラテンアメリカを変えるとまで言われた。

 ラテンアメリカは所得格差が最も大きい所だ。一握りの富裕層が国の政治経済を牛耳り、多くの国民が貧困に泣く。社会は分断状態にあり、国民の間に連帯感がない。ここが日本などと大きく違うところだ。「総中流社会」は過去のものとはいえ、世界の中で見れば日本に極端な金持ちも、極端な貧乏人もいない。しかし、ラテンアメリカは違う。過去の植民地制度が影を落とし、今も白人が大土地所有制を維持する。貧困層から見れば、富裕層は富を私物化し、不当に貧困層を苦しめる搾取者に過ぎない。実際、ラテンアメリカは世界で最も汚職が横行するところとされる。国のトップに対する国民の信頼度は低い。こういうところに社会の連帯は生まれない

 そういうラテンアメリカが抱える宿痾ともいうべき「社会の分断」は、この一次産品ブームがもたらした新たな中間層の出現により克服されたといわれた。中間層は民主主義の根幹だ。そこがしっかりしていると社会の安定度が増す。金持ちでも貧乏でもない、社会の中間に位置する人々が増えれば、社会の分断は克服され社会は安定していく。

一次産品ブームが去り、「社会の分断」が露わに
 しかし、事実はそうでなかった。一次産品ブームが去り、経済が下降線をたどるにつれ、ラテンアメリカが根底に抱える「社会の分断」が露わになった。社会の分断は単に一次産品ブームにより隠されていたに過ぎなかった。

 一次産品に依存する経済は脆い。一次産品の国際価格は常に変動する。高値の時はいいが下落すれば目も当てられない。だから、いい時に余剰資金を使い、新たに出現した中間層を中心に産業の多角化を図るべきだった、といわれる。正論である。当の一次産品産出国自身がそれを十二分に自覚する。しかし、これは言うは易く行うは難し、である。

 チリはそれでもラテンアメリカの中では産業化の優等生だ。それにもかかわらず「銅」という資源に依存する体質から抜け出ることができない。他のラテンアメリカ諸国は推して知るべしだ。世界を見渡しても、資源国が産業化の離陸を果たせずにいるところはいくらでもある。ロシアがまさにそうだし、中東は言うに及ばずアジアでもブルネイ、東ティモール等、皆、「分かっていながらできない」。

 一つには、産業化と一口に言っても様々な要因が絡む。安価な労働力や豊富な余剰資金の存在(あるいは、調達可能性)、技術導入の意欲、それを消化できる人的資源の存在、乃至、教育による育成、政府による積極的振興政策等だ。どの国もがこれらの要因を満たし、容易に離陸できるというわけではない。それより何より、「資源の罠」といわれるものの存在がある。

「資源の罠」
 資源があることがかえって資源国に災いをもたらすということだ。資源の存在は、その争奪を巡り絶え間ない争いをもたらすし、外国の介入も招きやすい。何より、国民が安易に資源の恩恵に胡坐をかく。逆に、資源がない所は、生き残りをかけ、必死の思いで産業化を図り成功する。 

 日本がまさにそうだし、シンガポールなどもいい例だ。資源の存在がかえって産業化への離陸を阻害するとの例は決して少なくない。そしてもう一つ、ラテンアメリカの一次産品依存は植民地体制に端を発する。一次産品依存から脱し、産業を多角化するとは、植民地体制を清算するということでもある。しかし、これは一朝一夕にできることではない。新たな中間層を軸に社会全体を作り変えていくこと、即ち、社会の分断を克服していくことと密接に絡む一大作業である。ラテンアメリカは結局この作業を完遂することができなかった。

 経済が曲がり角を迎えたのが、ちょうど2010年代半ばごろだ。一次産品ブームが終わり、ラテンアメリカ経済が一様に低成長の時代に入る。成長率は2011年、4.6%あったのが2019年には0.2%まで落ちた。2019年、世界の新興国全体の成長率が3.9%とされる時にだ。今や貧困率は30%になった。ラテンアメリカの3人に1人が一日1.9ドル以下で暮らす。ラテンアメリカ諸国の政府は、国庫収入の不足を対外借入に頼った結果、対外債務の対GDP比が27.4%(2011年)から48.9%(2019年)にまで膨らんだ。

 これまで人々は年々増え続ける所得により、将来に対する明るい希望を持っていた。もともと国の中には一握りの富裕層の贅沢三昧の暮らしがある。人々はそれを見ても、やがて自分もそういう暮らしができるのだと信じむしろ憧れを抱いた。しかし、経済が下降線をたどりつつある今、そういう富裕層の生活は怨嗟の対象でしかない。所詮、彼らの贅沢は汚職でためた金だ。国民に均霑されなければならなかったものだ。元々「社会が分断」されたラテンアメリカだ。国民の間に信頼感がない。一般国民と富裕層との間に新たな溝が生まれるのに時間はかからなかった。

 これはチリだけの話でない。ラテンアメリカ全体の通弊だ。例えばブラジルでは、2003年、左派のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領が政権を握った。同大統領は「ボルサ・ファミリア」という名のもと、貧困層に対する補助金支給政策を進め、多くの国民を貧困層から中間層にかさ上げした。2011年、ルーラ氏を継いだジルマ・ルセフ氏もその政策を引継いだが、経済が暗転、かつて高成長に踊ったブラジル経済は一転してどん底をたどっていく。

 それと共にルーラ氏、ルセフ氏の汚職疑惑が表面化、何のことはない、貧困層の味方といって華々しく労働党から大統領に上り詰めたリーダーだったが、やはり彼らも富を懐に入れていた。2018年、ジャイール・ボルソナロ氏が新たに大統領に就任した裏にはこういう事情がある(拙稿『ブラジルにも「極右政権」が誕生か』参照)。

 ボリビアでも、先住民代表として初めて大統領に就任したモラレス氏は、先住民の権利拡大等を推し進め高い支持率を誇っていたが、今回の選挙は違った。国民は、モラレス氏は結局、権力に執着しているだけでないのか、と思い始め、同氏は打って変わって低い得票率に泣く。背景に、2010年代半ばに終焉を迎えた一次産品ブームがあった。

 チリは、南米の優等生だ。1970年代、ピノチェット軍事政権の時、他に先駆けて国家主導経済から開放型自由経済に移行した。1980年代、ラテンアメリカは累積債務危機に襲われたがチリはこれも難なく乗り切った。1990年の民政移管後は一次産品ブームに乗り、高成長を続けた。しかし、その陰で所得格差が確実に広がっていく。

 民政移管後、中道左派政権が4代続き、その後、中道左派、中道右派が交互に政権を担ったが、チリでは右派、左派を問わず、経済は新自由主義が維持された。チリは国土が狭小だ、貿易にかけるしかない、国を開き、経済を自由化することが繁栄の基だ。どの政権もそう考えた。

競争至上主義の新自由主義経済は格差拡大を生む
 しかし、競争至上主義の新自由主義経済は格差拡大を生む。経済は優等生だったが、社会のひずみは拡大するだけだった。格差の指標であるジニ係数は0.46にまで上昇。ジニ係数は1に行くほど格差が広がり、0.4以上は危険とされる。チリはOECD諸国中、格差が最も大きい国となった。それでも経済が良好なうちは問題は表面化しない。経済が傾いた時、国内の矛盾が一気に吹き出してくる。チリもボリビア等他のラテンアメリカ諸国と同様、経済低迷が今の社会不安の原因となった。

 ラテンアメリカが期待の星ともてはやされたのは一次産品ブームゆえだった。ブームが過ぎ去れば社会が抱える矛盾が表に出る。新たな中間層の形成により、その矛盾は克服されたやに見えたがそうではなかった。結局、ラテンアメリカは、そこを解決しない限り発展は望めない。そことは、「社会の分断」だ。分断された社会を如何にまとめあげるか。一次産品ブームがあろうと、なかろうと、社会が一致団結して発展に向かっていけるような社会が創られない限り、ラテンアメリカの繁栄はいつになっても砂上の楼閣なのだろう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/17868


ブラジルにも「極右政権」が誕生か?

暴漢に襲われた「ブラジルのトランプ」
2018/09/29

花田吉隆 (元防衛大学校教授)

ブラジルで、国民の怒りがかつてない高まりを見せている。その怒りは「ブラジルのトランプ」こと極右、ジャイール・ボルソナロ候補支持に向かっている。その結果、10月7日の大統領選挙は混戦模様となり誰が勝利するか見通し難い。


9月6日、遊説中に暴漢に襲われたものの一命を取り留めたジャイール・ボルソナロ候補。現在、支持率トップに躍り出ている。(写真:ロイター/アフロ)
「経済の低迷」が怒りの原因
 ブラジル国民は怒っている。1985年の民政復帰以来、ブラジル政治はうまく機能していなかったのではないか。この国の政治家は統治能力を欠くのではないか。

 1964年に軍がクーデターを起こし、以来20年にわたり軍事独裁制を敷いた。クーデターの際、軍は「政治家に任せてはおけない、エリート集団の軍が混乱した国を立て直すしかない」と血気にはやり政治刷新を断行した。しかし、当初こそよかったものの結局経済は行き詰まり、20年の軍政の後、ブラジルは民政に移行した。

 その後、国民は3000%に及ぶハイパーインフレで塗炭の苦しみを味わったものの、1994年からのエンリケ・カルドーゾ大統領の下で行われた「ドラリザソン(通貨のドルリンク政策)」により、奇跡的にインフレを克服。2003年からは、それまで万年野党だった労働党(PT)が政権に就き、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ(通称ルーラ)大統領の下、「ボルサ・ファミリア」と称する貧困対策により多くの中間層を創出、経済成長の期待が一気に高まることとなった。

 時あたかも新興国経済台頭の頃、ブラジルはBRICSの一角として一躍世界の注目を集めた。当時、世界のGDP成長率の大きな部分を新興国が占め、最早、先進国が世界経済をけん引する時代は終わったとさえ言われた。2000年代半ばのことである。その後のリーマンショックで先進国経済が大きく後退したこともあり、ブラジル、中国等の存在は更に脚光を浴びていく。

 事態が急展開したのはルーラ大統領の後を継いだディルマ・ルセフ大統領の時からだ。ルセフ大統領はルーラ大統領の官房長官として手腕を発揮、国民はルセフ大統領の下でもルーラ氏の路線が継承され繁栄が継続するものと期待した。しかし、ルセフ大統領はやがて政治家として力量が劣ることを露呈していく。ブラジル経済は2014年から16年にかけ大きく後退、ブラジルはかつてないほどのリセッションに見舞われた。政府は、ルーラ大統領の目玉だった貧困層対策どころでなくなり、国民のルセフ大統領への信頼が一気に低下していく。同大統領は2016年ついに弾劾され、副大統領だったミシェル・テメル氏が大統領に就任した。

「汚職」が蔓延するブラジル社会
 国民の怒りの根底にあるのは経済の混迷である。しかし、ブラジルの混迷はそれだけにとどまらなかった。今度は大規模な汚職疑惑が発覚する。汚職はこの国では日常茶飯事だ。政府上層部から社会の底辺層に至るまで、汚職はブラジル文化の一部ですらある。根底にあるのは、社会の一体性の欠如である。他人のことなど構っていられない、獲れるものは他人のものをくすねてでも懐に入れる、そういう空気が社会を覆う。

 汚職は誰もが行う普通のこと。いちいち目くじらを立てる方がおかしい。そういうブラジルにあって2016年、あのルーラ氏が汚職で逮捕された。建設業者から海辺の瀟洒な別荘をもらった。司法はルーラ氏に12年の刑を言い渡しクリチバの刑務所に収監した。

 しかし事はこれだけでは済まない。現在も捜査中のブラジル国営石油会社ペトロブラス社を巡る「ラヴァ・ジャト」疑獄事件では、ルーラ氏のPTだけでなく、かつてのカルドーゾ大統領のブラジル社会民主党(PSDB)や、そのほか主だった政党の有力政治家に軒並み汚職嫌疑がかかった。実にブラジル史上最大の疑獄事件である。

 テメル大統領でさえ、ワイロを要求するテープの存在が明るみに出た。しかし議会決議により何とか訴追を免れる始末。さすがのブラジル国民もあきれ果てた。国民が経済の低迷に苦しんでいる。それに有効な手を打つわけでもなく、政治家は私腹を肥やしている。

 そのとばっちりは至るところに見られる。9月2日、国立博物館が火災に見舞われた。2000万点に及ぶとされる国の重要文化財が失われた。実に国家的損失である。原因は博物館の老朽化。メンテナンスの必要性が叫ばれながら、国は経費削減を言い訳にとるべき手を打ってこなかった。

 ブラジルの治安の悪さは有名である。特に大都市がひどく、リオデジャネイロは犯罪の巣窟として有名。リオのコパカバーナ海岸の美しさは類を見ないが、そこに半ズボン、Tシャツ、サンダル姿以外で立ち入るのはご法度である。腕時計をしていれば直ちにはぎとられるし、少しでも金がありそうだと見られればすぐに襲われる。ブラジルの2016年の殺人件数は6万3千人だが、これは世界でも最悪の部類に属する。

 この国で行政サービスが機能不全に陥っているのは周知の事実である。治安も社会インフラも教育も、すべてが大きく機能低下をきたしているにもかかわらず、政治家は私腹を肥やすことに余念がない。「現在の政府に満足しているのは13%」という数字は中南米で最悪。有権者の3分の1が「投票には行かない」、もしくは「行っても白票を投じて帰ってくる」と言っている。

混迷の大統領選
 今回の大統領選挙は、当初PSDBが優勢と見られていた。ルセフ弾劾直後に行われた全国の市長選挙で5500のポストの内、803をPSDBが占めた。一方のPTは638から254へと大きく減らした。このままの流れでいけば2018年の大統領選挙はPSDBの楽勝だ。さらに今回、PSDBは中道勢力を糾合し一つにまとめ上げることに成功した。それもあって、候補者が無料で利用できる公共放送枠の44%をPSDBが占めることになった。

 ブラジル国民は、ほとんどがテレビで選挙キャンペーンの模様を知る。通常であれば同党大統領候補のヘラルド・アルキミン氏の優勢は揺るがないはずだ。しかし同氏の人気は一向に盛り上がらない。支持率は10%を切っている。同氏のあだ名は「シュシュのアイスキャンデー」。シュシュとは味のしない野菜を指す。しかし、既存政治に愛想を尽かしたブラジル国民にとって、既存政治を代表するPSDB候補は「シュシュのアイスキャンデー」でなくても支持が伸びなかったに違いない。

 一方、ルーラ氏の人気は今もって健在である。8月の調査では31%がルーラ氏を支持していた。貧困層にとってルーラ氏は英雄である。「バラマキ財政」のおかげで、貧困から脱出することができた。その記憶が今も冷めやらない。PTの下で再びバラマキをやってもらいたい、貧困層はそう願っている。無論、成長が落ち込んだ今のブラジル政府にそれだけの財政余力があるかどうかは別である。さらに、現在の混迷はルセフ大統領の失政に端を発するわけで、汚職はルーラ氏を始めとするPTの有力議員にも及んでいる。

 国民も「PTは別」と思っているわけではない。ルセフ氏を弾劾に持ち込み政権から追い出したのは怒れる国民だった。しかし、それと貧困から救ってくれたルーラ氏の人気は別。「ルーラ氏は政治的に嵌められた」「12年の刑は重すぎる」とする声は少なくない。

 ルーラ氏自身は、司法が同氏の候補者としての請求を棄却した結果、今回出馬できないことになり、代わってPTから副大統領候補だったフェルナンド・ハダジ氏が大統領候補として出馬することになった。ハダジ氏がルーラ氏の人気をどれだけ引継ぐことができるかがポイントである。

暴漢に襲われた極右候補
 しかし、注目すべきは極右のジャイール・ボルソナロ氏である。国民の怒りが泡沫候補ボルソナロ氏を一気に有力候補に押し上げており、現在、支持率は28%とトップに躍り出ている(9月24日現在)。

 もっとも、軍司令官出身のボルソナロ氏は27年間議員だった。だから既存政治家ではあるが、その言動が既存政治の枠を超えている。一言でいえば、「弱者差別」と「軍政支持」である。「ゲイの息子を持つくらいなら死んだ子供を持つ方がまし」「あの女は醜いから寝る気がしない」「あいつは逃亡奴隷の出身だ」「責任能力を14歳に引き下げ少年犯罪を防止せよ」「犯人を射殺しない警官は警官の名に値しない」。副大統領候補のアナ・アメリア氏は「どうしてもだめなら軍政に戻すしかない」と言ってはばからない。

 こういうボルソナロ氏には無論、敵も多い。9月6日、キャンペーン中に暴漢に襲われ危うく一命を取り留めた。有権者の60%はボルソナロ氏には絶対に投票しないと言っており、暴漢に襲われたとのニュースが流れるや、通貨レアルは対ドルで2%も跳ね上がった。

ブラジルもポピュリズムの波に飲まれるのか
 世界中で、社会に溜まった不満が既存の政治システムをことごとく打ち破っている。ボルソナロ氏は「ブラジルのトランプ」「ブラジルのドゥテルテ」と言われるが、米国や、フィリピンだけでなく、ハンガリー、ポーランド、オーストリア、ドイツ、イタリア、スウェーデンと、ポピュリズム勢力の躍進はとどまるところを知らない。溢れ出た不満は既存の政治システムを壊し、新たな指導者に期待する。それが社会の分断を増幅し、自由貿易を阻害し、国際協調を蔑ろにしようとも。

 先が見通せなくなったブラジル大統領選挙は、10月7日に決着がつかなければ10月28日の決選投票に移る。大統領だけでなく、下院のすべて、上院の3分の2、全国の知事、地方議会議員も併せて行われる今回の選挙が、ブラジルと世界にとって重要な意味を持つことは言うまでもない。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/14092


 
EU拡大拒否というマクロンの大きな過ち

2019/11/12

岡崎研究所

 アルバニアと北マケドニアのEU加盟が頓挫しつつある。10月17、18日に開催されたEU首脳会議は、マクロン大統領の反対によってアルバニアと北マケドニアとのEU加盟交渉の開始を拒否することになった。首脳会議の結論文書には「2020年5月のザグレブにおけるEU・西バルカン首脳会議の前に拡大の問題を再度取り上げる」と書かれているだけである。去る6月にEUは決定を持ち越していたが、再度先送りした。先送りというよりも、拒絶である。2020年5月までに情勢が変化する見通しにはない。


(GlobalP/jurisam/ Getty Images Plus)
 アルバニアには北マケドニアと比較すると、政治の安定度、腐敗、組織犯罪、法の支配において問題が多いようである。加うるに、北マケドニアは国名の変更を決断してギリシャとの関係を正常化し、EUとの加盟交渉の大きな障害を解消したという実績がある。従って、アルバニアとの加盟交渉に反対したデンマークとオランダも北マケドニアとの加盟交渉は容認する立場であったが、フランスは北マケドニアとの加盟交渉にも唯一反対した。

 マクロンは批判に晒されている。すなわち、両国に対する裏切りであり、歴史的間違いだというものである。

 マクロンの反対の論拠は、第一に、拡大の前にEU自体の改革が必要だというものである。EUは意思決定方式の合理化、ユーロ圏の強化など、やるべきことは多い。EUの強化のための改革が必要との議論は正論であろうが、それが両国との加盟交渉を認め得ない理由だというのは「ためにする議論」としか思えない。メルケルは両国との加盟交渉を後押しする立場であったが、マクロンは自身のEU改革提案に気乗り薄のドイツに対する当て付けを試みたという訳でもないであろう。

 第二に、マクロンは、拡大プロセス自体に欠陥があるとも言っている。これは、それなりに正当な議論だと思われるが、マクロンはどう是正すべきかについては何も言っていない。ルーマニアやブルガリアに見られる加盟後における法の支配の逸脱や腐敗の問題が念頭にあるのであろう。一種の「EU拡大疲れ」であろう。新たな欧州委員会が発足するので、拡大プロセスを見直し、法の支配の貫徹と腐敗の根絶の審査により重きを置くことが考えられよう。しかし、両国との加盟交渉の開始がその妨げになることは工夫次第で回避出来よう。加盟交渉はいずれにせよ長丁場である。

 マクロンが拡大に反対する真の理由は、国内的なものではないかと思われる。彼の国内の支持率には危ういものがある状況で、EU拡大はフランス国民に不評のようである。少々古いが、昨年5月の調査によると、フランス国民はEUの中で拡大に最も否定的(反対:61%、賛成:31%、不明:8%)の由である。EU首脳会議でマクロンはフランスに亡命を求める人間の中でアルバニア人が2番目に多い(それも迫害ではなく経済的な理由による)ことに言及して、そのような現状では加盟交渉を国民に正当化出来ないと遠回しに述べたともいう。ムスリムが多数を占めるアルバニアだけを標的にしていると見られることを嫌って、キリスト教多数の北マケドニアとの加盟交渉にも反対することになったらしい。そうであれば、マクロンが2022年の大統領選挙の前に方針を変えるとは想像し難い。

 国名変更まで行ってEUへの加盟を目指した北マケドニアのザエフ首相は、EUに裏切られたことを理由に議会を解散し、来年4月に総選挙を行うことを表明した。その結果次第で、EUはバルカンの貴重な友人を失うかも知れない。ザエフが国名変更に反対し大アルバニア主義を煽る強硬なナショナリストに取って代られるのであれば、バルカンは再び暗黒の日々に向かい得る。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/17821
 

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コメント
1. 2019年11月12日 18:56:30 : OO6Zlan35k : L3FGSWVCZWxFS3c=[267] 報告

危機感が薄く、教育への熱意もない国民

利権を独占する腐敗した特権階級

資源の罠は、さらに、これを拡大し、国家の発展を阻害する

格差の拡大は、放置すれば、いずれ国家の分断を招き、

いかなる強国といえども、いずれは滅びることになる

一方で、国民の人的資本の質が、国力を左右する

資源の乏しい国家では、そうした事態は起きにくいし

周辺を競合する敵国に囲まれていて逃げ場がない場合、

さらに危機感は高まる

とは言え、あくまでも比較に過ぎず

人間の質自体は、そう変わらないから

そうした国では、社会保障が充実してくると

一部の厳しい競争に晒される人々に、負担が集中し

ろくに子育てもできずに、少子化が進む一方で、

負担に見合わない高額な年金や生活保護に依存する世帯も増えてきて

いずれは崩壊する


2. 2019年11月13日 20:56:05 : 6nRcL5HbW2 : MENLU1NzU2FtdFE=[225] 報告
草の根を 名乗って隠す 振付師

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